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英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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第6話

~港湾区~



「……お疲れ様でした。また何かあればいつでもいらっしゃって下さいとの支社長からの伝言です。」

「……どうもご親切に。」

ロイド達に伝言をした男は建物の中に入り、扉に鍵をかけた。

「ルバーチェに続いてこちらもだったか………」

「ま、あっちよりは遥かに友好的だったが………逆に舐められてたのかもな。」

「その可能性は否定できないかと……」

「まあ、元からクロスベル警察は舐められているものねぇ。」

ロイドとランディは溜息を吐き、ティオは静かな表情で呟き、レンは呆れた表情で呟いた。

「………………」

一方エリィは”黒月貿易公司”の建物を見つめて考え込んでいた。



「エリィ……?」

「ひょっとして……具合が悪いんですか?」

「ううん、大丈夫。……それよりも、”(イン)”という凄腕の刺客がクロスベルに潜入している………その情報は確かみたいね。」

「ああ……あの調子だと間違いないだろう。ただ、あの支社長がアルカンシェルやイリアさんを脅迫したとは思えないんだよな。」

「ああ、そんな感じはしたな。もしそうだったら、そもそも”銀”との関係を仄めかしたりはしねぇだろ。」

「……という事は……”銀”という暗殺者が、雇い主である”黒月”に関係なく勝手にやった事なのでしょうか?」

「そうだとしたら……正直、手詰まりになりそうだ。さっきの話が本当なら……あの支社長も”銀”の素性を知ってるわけじゃないんだろう。」

「となると、本人を捕まえるしか聞き出す方法が無いってわけか?」

「まあ、普通に考えればそうなっちゃうわねぇ。」

「そうね……もし、その”銀”という刺客がイリアさんを狙っているなら………これはもう、私達の仕事では無いかもしれない……」

「え………」

自分達が話し合っている中呟いたエリィの言葉を聞いたロイドは驚いて仲間達と共にエリィを見つめた。



「どうやら相当な凄腕みたいだし、私達で捕まえられる保証もない。だったら今回は、警察本部に任せた方がいいんじゃないかしら?」

「それは………」

「また旧市街の時のように知らぬ顔をされるのでは………?」

エリィの提案を聞いたロイドは驚き、ティオは疑問に思った事を口にして尋ねた。

「ううん、アルカンシェルやイリア・プラティエという存在はクロスベル市にとって非常に重要よ。その身に危険が迫っているなら警察本部だって絶対に動くはず………それこそ警察の威信にかけてね。」

ティオの疑問にエリィが答えたその時

「―――その通りだ。」

聞き覚えのある声が聞こえた後、声が聞こえた方向に振り向くと眼鏡をかけた刑事がロイド達に近づいてきた。



「あ、あなたは……!」

「たしか捜査一課の……」

「―――アレックス・ダドリー。捜査一課所属のエリート刑事ね。」

刑事を見たロイドとエリィは驚き、レンは静かな表情で呟いた後意味ありげな笑みを浮かべて刑事を見つめた。

「一課のダドリーだ。来い。」

そして刑事―――ダドリーは名乗った後、ロイド達を促した。

「へ……」

「……こんな場所で悠長に話をする馬鹿がどこにいる。いいから付いてこい。」

「わ、わかりました。」

「おいおい、何だってんだ………」

その後ロイド達はダドリーと共に”黒月貿易公司”の建物から離れ、公園の傍に駐車してある車の近くまで移動した。



「……お前達は阿呆か。何のつもりかは知らんがノコノコと乗り込んで……挙句の果てにあんな場所で悠長に相談事をするとはな。」

「す、すみません………」

「……確かに少々、配慮が足りませんでした。」

ダドリーに注意されたロイドとエリィはそれぞれ謝罪した。

「フン……まあいい。―――で?」

「で……とは?」

「アルカンシェルがどうとか口走っていただろう。それと、お前達が”黒月”を訪れたことに何の関係があるか……洗いざらい話せと言っている。」

「なっ………!?」

「おいおい……いきなり何言ってんだ?」

「唐突に現れたわりには図々しい要求ですね………」

「幾ら捜査一課と言えど、他の課が関わっている事件にレン達の上司であるセルゲイおじさんに断りもなく情報提供を強いるなんて、厚かましいと思うのだけど?」

ダドリーの要求にロイドは驚き、ランディは目を細め、ティオはジト目で指摘し、レンは呆れた表情で指摘した。



「フン………図々しくて厚かましいのはどちらだ。我々一課は、一月以上前から”黒月”をマークしている……いきなり何の断りもなく割って入ったのはお前達だぞ。」

「そ、そうなんですか……?」

「もしかして………一課の方でも”(イン)”を?」

「フン……その名前を知っていたか。とにかく、知っていることを包み隠さず話してもらおう。従わなかった場合………こちらの捜査妨害を行ったとしてセルゲイさんに厳重抗議する。」

「くっ……わかりました。ただし……あくまで支援課で受けた話です。他言は無用にお願いしますよ?」

「それは私が判断する。いいから話せ――――これは命令だ。」

そしてロイド達はダドリーに事情を説明した。



「―――ふむ、なるほどな。手掛かりがないと思ったが………ようやく尻尾を出したというわけか。」

「それは……”(イン)”のことですよね?」

事情を聞き、頷いたダドリーにエリィは尋ねた。

「……そうだ。”ルバーチェ”に対抗するため”黒月(ヘイユエ)”が切り札として雇ったという凄腕の刺客にして暗殺者。ある筋から情報を入手して以来、我々一課は”黒月”を監視してきた。だが………まさかお前達のような仔犬どもに首を突っ込まれる隙を作るとはな。」

「ヘッ……言ってくれるじゃねえか。」

「クスクス、特務支援課が発足されていなかったら遊撃士協会に持っていかれていた事件である事がわかっていて言っているのかしら?」

ダドリーの言葉にランディは鼻を鳴らし、レンは小悪魔な笑みを浮かべながらダドリーを見つめた。

「ですが……どうして”黒月”だけ監視を?”ルバーチェ”の方は放置しているようですが………」

「フン、何を言っている?”ルバーチェ”についても大体の動きは把握しているぞ。旧市街の一件や、軍用犬の使用……お前達が関わった一連の事件もある程度のことは事前に掴んでいた。」

そしてティオの疑問を聞いたダドリーは嘲笑しながら答え

「な……!?」

「だったらどうして……」

ダドリーの話を聞いたロイドは驚き、ティオは真剣な表情でダドリーを睨んだ。



「フン……あの程度で動いていてはキリが無いというだけだ。殺人が起こったわけでもないし、ただの小さなイザコザにすぎん。どうして他の重要案件を後回しにして限りある人員を割かなくてはならん?」

「そ、そうは言っても……!」

「そんな態度を取り続けているから、市民達は警察を信用せず、遊撃士を信用している事が理解できないのかしら?」

ダドリーの説明を聞いたロイドは怒りの表情でダドリーを睨み、レンは呆れた表情でダドリーを見つめて指摘した。

「―――我々捜査一課はお前達のようなボンクラとは違う。この正義が守り切れない街で一定以上の秩序を保ち続けること……殺人などの重犯罪を抑止し、犯罪組織や外国の諜報機関から可能な限り人と社会を守る事………その苦労がお前達にわかるのか?」

「!?」

「やはり……そうなんですね。クロスベルの平和と繁栄は………薄皮一枚の上で成り立っている。」

しかしダドリーの話を聞いたロイドは驚き、エリィは溜息を吐いた後複雑そうな表情をした。



「フン、市民の大半はその事実に気付いていないがな。”ルバーチェ”が帝国派議員と結びついている話は有名だが………あの”黒月”にしたところで共和国派議員と関係を深めている。その時点で、直接手を出すのはどれも不可能になってしまっている。それだけではない………スパイを取り締まれる法律がないから外国の諜報員なども入りたい放題だ。」

「……そんな………」

「……信じられません。」

「なんつーか………末期状態かもしれねぇな。」

「なるほどね。だからこそクロスベルの遊撃士協会支部は高ランクであるB級以上でないと所属できない訳ね。」

ダドリーの説明を聞いたロイドとティオは信じられない表情をし、ランディとレンは溜息を吐き

「……………………」

一方エリィは複雑そうな表情で黙って考え込んでいた。



「だが、そんな絶望的な状況でも我々はやれることをやるだけだ。全ての案件の危険度を査定し、たとえ根本的に解決できなくても抑止できるように働きかける………”銀”の問題もその一環にすぎん。」

「え………」

「アルカンシェルの一件についてはこちらの目が行き届いていなかった。情報提供に感謝する。あとは一課が引き継ぐからお前達は通常業務に戻るがいい。」

「な………!?」

「フーン……”そう来る”のね。」

「おいおい、なんでそうなる!?」

ダドリーの話を聞いたロイドは驚き、レンは真剣な表情でランディと共にダドリーを睨んだ。



「どうやら状況を判断する限り”銀”が実在するのは確かだろう。”黒月”の動向にも気を配りつつ姿無き謎の暗殺者の手からイリア・プラティエを守りきる………そんな真似がお前達にできるのか?」

「くっ………」

「……人手がなければ難しいかもしれませんね。」

ダドリーに嘲笑されたロイドが悔しそうな表情で唸り、ティオが複雑そうな表情で呟いた。

「アルカンシェルへの連絡だけはせめてお前達に任せてやる。脅迫事件の対策が捜査一課に引き継がれる事……きちんと説明しておけよ。」

ロイド達に指示をしたダドリーは車に乗り込んでその場から去って行った。



「クソ、言うだけ言ってとっとと行きやがったな………」

「しかも専用車でというのがさらにムカつく感じです……」

「…………………」

「……でも、彼の言う事も納得できないわけじゃない。」

去って行ったダドリーに対してランディとティオが悪態をついている中エリィは疲れた表情で黙り込み、ロイドは複雑そうな表情で呟いた。

「え………」

「実際、こちらで処理できる範疇を超えてきている気がする。リーシャとイリアさんには事情を説明して謝るしかないな………」

「ふう、それしかねぇか……」

「仕方……ありませんね。」

「………ま、ロイドお兄さんが決めたのなら仕方ないわね。」

「ちょ、ちょっと待って!」

ロイドの説明を聞いたランディ達がそれぞれ諦めている中エリィが真剣な表情で声をあげて制止した。



「え………」

「ロイド……あなたがそんな事を言うの!?”壁”を乗り越えるって……みんなでなら乗り越えられるって言ってくれたじゃない……!なのに、どうして……っ!」

「エ、エリィ……?」

「おいおい、どうしたんだ?お嬢だってさっきは、警察本部に任せるべきだって言ってただろうが?」

必死の様子のエリィにロイドが戸惑っている中ランディは真剣な表情でエリィに指摘した。

「あ………そう、そうよね………」

「エリィさん………」

(さて……どうしようかしらね……”銀”本人に連絡して事情を聞くことは簡単だけど、それをしたらロイドお兄さん達が成長できないしね。)

辛そうな表情で肩を落としているエリィをティオが心配そうな表情で見つめている中レンは複雑そうな表情で考え込んでいた。

「えっと……その、俺だって悔しいし、何とかしたいと思ってるさ。エリィがそう言うなら何とか別の手を考えて……」

「ううん、いいの………ごめんなさい。ちょっと疲れているみたい。」

「エリィ……」

「ま、今日は色々とやっかいな連中とばかり顔を合わせたからな。アルカンシェルに行ってイリアさんたちに報告したら戻って一休みしようぜ。」

「そうですね……それがいいかと思います。」

「そうね。一旦頭を休めて考え直せば、新たな一面が見えてくるかもしれないしね。」

「……そうだな。エリィ、それでいいかい?」

「ええ……みんなありがとう。それじゃあ、アルカンシェルに行きましょう。

その後ロイド達は”銀”の情報と捜査一課が警備に付く事を説明する為にアルカンシェルに向かい、ロイド達がアルカンシェルの近くまで来ると、劇場の入口が開き、スーツ姿の老紳士と青年が出て来た。



~歓楽街~



「あ……」

老紳士達を見たエリィは驚き

「おお……!?」

「エリィお嬢さん……!」

「!…………」

老紳士達もエリィを見て驚いた後、エリィ達に近づき、老紳士の傍にいる青年に気づいたレンは目を見開いた後真剣な表情で青年を見つめていた。

「おじいさま……アーネストさん。」

(え……)

(エリィさんのお祖父さん……?)

エリィが呟いた言葉を聞き、目の前の老紳士がエリィの祖父である事にロイドとティオはそれぞれ驚いた。



「フフ、なかなか会えないが元気でやっているようだね。仕事の方は頑張っているかな?」

「は、はい………まだまだ新人なので至らないところもありますが……マクダエル家の名に恥じぬよう精一杯、頑張らせてもらっています。」

「はは……前にも言ったが家のことは気にすることはない。そちらの諸君は、同僚の方々かな?」

「は、はい。」

そしてロイド達に視線を向けて尋ねた老紳士の言葉にエリィは頷き

「―――初めまして。クロスベル警察・特務支援課、ロイド・バニングスといいます。」

「ティオ・プラトーです。」

「どーも。ランディ・オルランドっス。」

「レン・ブライトと申します。以後お見知りおきを。」

ロイド達がそれぞれ名乗っている中最後に名乗ったレンは普段の子供らしい態度は見せず、上品な仕草と口調で自己紹介をした。



「ふむ、私の名前はヘンリー・マクダエルという。………どうやら孫娘が色々と世話になっているようだね。」

「いえ、そんな。世話になっているのはむしろこちらの方で――――」

「ま、確かにお嬢には報告書とかの書類作りでもだいぶ助けられちまってるよな。」

「少しはランディさんも手伝うべきかと思いますが………」

「え、えっと……」

「ふふっ、お孫さんが所属している部署は新人ばかりの部署の上、上司は放任主義ですから上司や先輩達にこき使われる事もなく、伸び伸びと自分達のペースで成長できる素晴らしい部署ですよ?」

いつもの調子の会話をしているランディとティオの様子にエリィは冷や汗をかいて苦笑し、レンは微笑みながらエリィをフォローする言葉を口にした。



「フフ……充実した職場で何よりだ。」

「しかし、お嬢さん……たまにはご実家の方にもお顔を出された方が……」

ヘンリーが微笑ましそうにロイド達を見つめている中青年―――アーネストは真剣な表情でエリィを見つめて言った。

「……す、すみません。その、せっかく自立したのに頼るのもどうかと思いまして……」

「ですが―――」

エリィの答えを聞いたアーネストは話を続けようとしたが

「いいんだ、アーネスト君。それだけエリィの決意も固いということだろう。お前が選んだ道……納得のいくまでやってみなさい。公私混同はできないが、できるだけ協力させてもらうよ。

「……はい。ありがとうございます。」

「―――それでは行こうか。アーネスト君。次は商工会との会合だったな。」

「はい。5時からになります。」

そしてヘンリーとアーネストは近くに駐車してある豪華な車に乗って、去って行った。



「ヒューッ!すんげえ車だな、オイ。やっぱりお嬢の実家ってもんのすごい金持ちなのか?」

「え、えーと……その。」

「ああああっ!?」

車が去った後口笛を吹き、呟いたランディの言葉を聞いたエリィが言葉を濁したその時ロイドが驚きの表情で声を上げた。

「うおっ……」

「ロイドさん……?」

「ヘンリー・マクダエル………!このクロスベル市の市長さんの名前じゃないか!」

「な、なにィ……!?」

「ほ、本当ですか……?―――あ。確かにデータベースでもそう記録されていたような。」

「あら、ようやく気づいたのね。」

ロイドの話を聞いたティオはランディと共に驚いた後、ある情報を思い出し、レンは苦笑しながらロイド達を見つめた。



「ふう……―――今まで気付かれなかったのが不思議なくらいだと思うけど。」

一方エリィは溜息を吐いた後、苦笑しながらロイド達を見つめた。

「い、いや……最初に苗字を聞いた時に引っかかってはいたんだけど。何だか色々あったからすっかり流してたっていうか。いや―――でも確かに面目ないな。」

「まあ、別に気にする事ないわ。祖父が何者であろうと、私には関係のないことだから……」

「え………」

しかしエリィが呟いた言葉を聞いたロイドは呆けた。

「……それより早くイリアさんたちに報告しましょう。面目ないけれど……きちんと引継ぎのことを伝えないと。」

「あ、ああ……そうだな。」

「ところで、そのお嬢のじーさまが何でアルカンシェルに来てたんだ?」

「ああ、そうね……今回の新作は、市の創立記念祭と合わせて公開されるそうだから……その関係の打ち合わせていらっしゃったのかもしれないわね。」

「………………」

ランディの疑問にエリィが答えている中何かが気になっていたレンは真剣な表情で考え込んでいた。その後仲間達と共に劇場に入ったロイド達は受付からイリア達は舞台で練習している事を聞いたので、舞台に向かうと、踊り子のような衣装を着たイリアとリーシャが息を合わせて踊っていた。



~アルカンシェル~



「ふう………」

「はあ………」

踊っていた2人が一端踊りを止めて溜息を吐くと拍手が聞こえて来た。

「あら……」

「皆さん……」

「うおおお、最高ッスよ!!」

「す、凄かった……!」

「……じんときました……」

「うふふ、レンも凄く見入ってしまったわ。」

「ふふ、このまま詰めていけば中々のシーンにはなりそうよね。リーシャ、月の姫のターンだけどほんの少しタメを作りましょ。太陽の姫もそれを受けて虚を突かれる演技を入れるから。」

「はいっ……」

興奮している様子のランディたちを見たイリアは微笑んだ後、演技の指導をリーシャにした。



「凄いですね……一つの舞台を作り上げる……それだけのためにここまで………」

「ま、せっかく良くできるんならとことんやるのが筋ってもんでしょ。それよりも……どうしたの、何か進展でもあった?」

「………はい。」

「少々、残念な報告もしなくてはいけませんが……」

「え……」

「ふむ………いいわ。劇団長も呼んで来るからここで話を聞かせてちょうだい。」

疲れた表情で呟いたロイドの話を聞いたリーシャは呆け、イリアは頷いた後、劇団長を呼んできて、ロイド達から報告を受けた。



「”(イン)”………まさかそんな危険なヤツが……」

「そ、そんな……本当にそんな人がこの街に……?」

報告を聞いた劇団長は考え込み、リーシャは信じられない表情をした。

「へえ、面白いじゃない。東方人街に伝説と謳われた影のごとき不死の暗殺者か………うーん、いいわね~!舞台向けのキャラだわ!そうだ!第3幕の白装束のイメージに使えるんじゃないかしら!?」

一方イリアは感心した後、嬉しそうな表情で提案し、その場にいる全員を脱力させた。

「ふう、イリア君……」

「そんな呑気なことを言ってる場合じゃないですよ………」

「………”黒月”という勢力が”銀”という犯罪者を雇っているのは確かなようです。その”銀”がどうしてイリアさんに脅迫状を送ったのかそこまではわかりませんでしたが……」

「どうも、ただの悪戯であるという可能性は低くなってきたみたいです。その、公演を中止するというのは――――」

イリアの呑気な様子に劇団長とリーシャは呆れ、エリィの説明を続けたロイドは提案したが

「あり得ないわね。たとえ劇場の爆破予告があったとしてもあたしたちは舞台から降りたりしない。そうでしょう、劇団長?」

「まあ……そうだね。イリア君ほどではないにせよ、私達は多かれ少なかれ、舞台という魔物に魅入られた人種だ。おそらく、ただの一人としてウチのアーティストたちが出場を辞退することは無いだろう。」

「そ、その……私も新米ですけど同感です。」

イリア達は否定の意思を示した。



「やれやれ……素晴らしきは舞台の亡者たちか。」

「遊撃士や警察にそれぞれ自分達が”プロ”という気持ちがあるようにアーティストにもアーティストの”プロ”としての気持ちがあるのでしょうね。」

イリア達の意思を知ったランディは溜息を吐き、レンは静かな表情で呟いた。

「となると、他の部署に警備などを引き継ぐ形になっても構わないと……?」

「ま、正直うっとうしいけど背に腹は代えられないわね。捜査一課だっけ……どういう人なの、その担当者って。」

「え、えっと……見るからに有能そうというか、エリートといった感じで……」

「実際、相当優秀だとは思います。捜査一課というのは警察でも名実共にエリート集団ですから。あくまで目立たない形で完璧に警備をするかと。」

イリアに尋ねられたロイドは苦笑しながら言葉を選んでいる中、エリィが続きを説明した。



「うげ……勘弁して欲しいわね。でもまあ、客の安全を持ち出されたら、我慢するしかないわね~。」

警備をする人物達の事を知ったイリアは嫌そうな表情をしたがすぐに気を取り直して溜息を吐いた。

「まあ、我慢してくれたまえ。どうせ君のことだ。舞台に集中し始めたら他のことは一切どうでもよくなるんだろう?」

「失礼ね、客には気を配っているわよ。舞台は観客とも響き合うことで初めて真の意味で完成する………劇団長がいつも言ってることじゃない。」

「うーん、君の場合はとてもそう思えないんだがねぇ。響き合うというより、無理矢理自分のリズムに引きずり込むというか。」

(な、なんて言うか……)

(つくづく本当に舞台バカなんですね………)

イリアと劇団長の会話を聞いていたロイドは苦笑し、ティオは静かな表情で呟いた。



「あ、あの、それじゃあ……ロイドさん達はこれで捜査の方は……?」

一方ある事が気になったいたリーシャは真剣な表情でロイド達を見つめた。

「ああ……申し訳ないけど。まあ、後は一課が引き継ぐし、心配することはないと思うよ。」

「そ、そうですか……」

「ま、弟君に担当してもらえないのはちょっと残念だけど……色々と調べてくれたり、警備も手配してくれて感謝するわ。お礼にチケット、全員分贈るから暇な時にでも見に来てちょうだい。」

「ふむ、そうだね。記念祭中の分は無理だが……来月分のチケットでよければプレゼントさせてもらうよ。」

ロイド達がこれ以上脅迫状の事件に関わらない事にリーシャと共に残念がったイリアは意外な申し出をし、その申し出に劇団長は頷いた。



「マ、マジっすか!?いや~、再来月分になるって諦めかけてたんだけどな~!」

「……太っ腹です。」

「うふふ、今から楽しみね♪(最もレンはパパたちやお兄様たちへのプレゼントとして”クロスベル創立記念祭”初日のS席のチケットをレンを含めた人数分既に確保してあるけどね♪)」

「………………………」

(エリィ……?」

イリアたちの申し出に仲間達がそれぞれ喜んでいる中複雑そうな表情で黙り込んでいるエリィが気になったロイドは不思議そうな表情をした。その後ロイド達が劇場を出ると夕方になっており、そしてリーシャに劇場の前で見送られようとしていた。



~歓楽街~



「その……何だか迷惑ばかりおかけしてしまったみたいで………」

「いや、気にしないでよ。元々警察の仕事なんてのは地道な無駄骨の繰り返しだしね。」

「防犯とか、そんな感じですよね。」

「そうそう、リーシャちゃん!俺達のことは気にしないでプレ公演、頑張ってくれよな!」

申し訳なさそうな表情で謝罪するリーシャにロイド達はそれぞれ励ましの言葉をかけた。

「プレ公演?」

「なんだ、知らないのか?アルカンシェルは毎回、新作の本公演の前に一度だけ、お披露目の舞台をやるんだよな?」

「は、はい。私も今回が始めてですけど………国内外の関係者やマスコミの方々が招待されるんだそうです。公演を後押ししてくださっている偉い方々も見に来るらしくて………」

「そうなのか……」

「ひょっとして……マクダエル市長も招待を?」

リーシャ達の会話を聞いていたエリィはある事に気付いて尋ねた。



「あ、はい。主賓としてお迎えするそうです。記念祭と合わせて、今回の公演を後押しして下さっているらしくて。今日も、お忙しい所にわざわざ陣中見舞いに来て下さいました。

「そうですか………」

リーシャの話を聞いたエリィは頷いた後考え込み

「……リーシャお姉さん、一つ聞きたい事があるのだけど、いいかしら?」

「ええ、いいわよ。何が聞きたいのかしら?」

「マクダエル市長をプレ公演の主賓として迎えるという事は、当然客席も凄くいい所を用意しているのよね?」

「ええ、貴賓席を用意したわ。」

「ちなみに貴賓席の位置は?」

「え?一番高くて見やすい場所だけど………」

レンの質問を聞いたリーシャは首を傾げて答え

「それと貴賓席というからには一般の人達の席から独立した場所にあるのよね?」

「ええ、そうだけど……それがどうかしたのかしら?」

「ううん、ちょっと気になっただけだから気にしないで。」

「……………?」

レンの質問が気になったロイドは不思議そうな表情でレンを見つめていた。



「―――リーシャさん。プレ公演、頑張ってください。リーシャさんなら初めてでもきっと大丈夫だと思いますから。」

一方考え込んでいたエリィはリーシャに微笑んで応援の言葉を贈った。

「あ……」

「そうだな、練習を見る限り何の心配もいらなさそうだったし。」

「おお、絶対にいい舞台になるって!」

「うふふ、あんなに凄い練習をし続けていたのだから、成功以外ありえないわよ♪」

「あ、ありがとうございます。その……とっても心強いです。それでは私、稽古に戻りますね。皆さん、ありがとうございました。……それでは失礼します。」

ロイド達の励ましの言葉を聞いたリーシャは微笑んだ後、ロイド達に頭を下げ、そして劇場の中へと入って行った。その後ロイド達はセルゲイへの報告等をする為に支援課のビルに向かっていると支援課のビルへの帰り道の途中にあるアンティーク屋からユウナが出てきた。


 
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