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ラブライブ!~夕陽に咲く花~

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第7話 キヅキ

    









 朝日がまぶしい。
凛ちゃんと彼───春人くんの関係に歪が入ってから二日が過ぎてしまった。
今でも凛ちゃんは春人くんに連絡をしてないらしく、私自身寂しい思いをしていた。
 



「大丈夫かなぁ、凛ちゃん」



 今日は月曜日。高校生初めての授業が行われる日で、大半の高校生はワクワクしていたり、または憂鬱な気分になっている人もいたりするのかな。
 でも私はそのどちらでも無い。
凛ちゃんは元気に学校に来てくれるかな?春人くんもちゃんと集合場所に来てくれるかな?仲直りしていつも通りの日常を送ることができるかな?
 それだけが頭の中を駆け巡ってるの。だから正直、高校生活が始まる、という実感があまりないの。




 私はそんなことを考えながら朝食を食べて身支度を整え、三人で約束を交わした集合場所へいち早く向かうことにした。









.....今日の真っ白なご飯は、あまり味を感じなかったなぁ












───第7話 キヅキ───










 私の前には長い坂がある。この坂を登れば桜の花びらが舞う通学路。
私が学校へ行くまでの道で一番好きな道。小学校、中学校、そしてこれからもきっと三人で歩いていきたい私の思い出の道。
 四月は特に坂道の両脇に咲き誇る桜並木がとってもきれいで、毎年三人でお花見をしていた。去年は春人くんが作った手料理を食べながら春を満喫し、その前は凛ちゃんがお母さんと一緒に作ったお弁当とともに桜並木の向こう側の小川で遊んだ。
 きっと今回も三人で過ごせる。遊びたい。
まだまだ一緒にいたいと私はそう思うの。




坂道を超えた先の小さな桜の木。とっても小さな桜の木。
 そこが私たち三人の集合場所。
その大切な場所に一人、まだぶかぶかの学生服を身に纏い、慣れないワックスで髪形を軽く整えて私と凛ちゃんの到着を待つ大切な男の子がいた。
春人くんだ。
 まだ私に気づかない春人くんはふと桜の木を見上げてなんだか暖かい横顔を見せている。




 春人くんの背中を追い越すついでに私は「おはよう♪」っていつも声をかけていた。
そうすると春人くんは必ずその優しいお顔で「おはよう♪」って返してくれる。
その笑顔が、私は昔から大好き。私と幼稚園の頃からずっと一緒に過ごしてきて、私がやりたいと、こうしたいと言ったことを真摯に受け止めて背中を押してくれる。
 前から引っ張ることはしないで後ろからそっと背中を押す春人くんの優しさは私は大好きなんだぁ。
 そんな春人くんはやっぱり沢山の女の子の注目の的で、私は春人くんが他の女の子から告白されているのを何度も見たことがある。その時の春人くんはいつも真剣に答えようと必死で、だけどいつも決まってこう答える。



───僕には、大切な人がいるから。だから、君とは付き合えない




 春人くんの言う”大切な人”。間違いなく私と凛ちゃんのことを指している。凛ちゃんも私も春人くんにそう思ってもらえて嬉しいし、私たちも春人くんのことは”大切な人”だって思っているの。だけど、春人くんの言う”大切”と私たちの言う”大切”の意味は違う。
 その些細なズレが今回の喧嘩を生み出したんだと思うの。



 誰よりも優しくて、誰よりも私たちのことを理解できていて、大切に想っている春人くん。
私たちが大好きな人はそういう(・・・・・)人だから......
 私は春人くんに告白はできない。もし、もしも私が春人くんに告白したら今度は凛ちゃんの事を心配すると思うから。そして、凛ちゃんのが春人くんに告白しても、今度は私の事を心配する。


辛い思いをさせるのではないか?
悲しむのではないか?
今までの関係でいることが出来るのか?



 こう考えるのは春人くんが優しすぎるから。
だから私はこう思うの。
────告白できなくても、『好き』でありたいなぁ。




小さいあの頃と同じ道、そこで春人くんは漸く、私がやって来ていることに気が付いた。





「あ、おはよう花陽ちゃん♪」
「おはよう春人くん♪.......凛ちゃん、は?」
「........まだ、来てないよ」




春人くんは申し訳なさそうに弱い声を発する。
その姿が痛々しくて私は何も声をかけることができない。2人きりの通学路で今はいないはずの凛ちゃんを探してしまう。
 集合時間を過ぎてもまだ凛ちゃんの姿は見えない。
もう、2人きりは物足りないと感じている私がいた。
凛ちゃんに会いたいよ......

 会いたいと、会いたいと心が呼んでる。
凛ちゃんがいて、春人くんがいて、私がいる。三人一緒じゃないとダメなんだよ?誰かが欠けるなんて、私には我慢出来ない。




「ごめんね花陽ちゃん。僕のせいで───」
「一昨日からそればっかりだね春人くん。でも凛ちゃんだってわかってくれるよ。悪気があって凛ちゃんを怒らせたわけじゃないと思うから。」
「...うん」



 それでもやっぱり春人くんは落ち込んでるみたいで、まともに応対ができていない。
あまり自分から話を振らない春人くんだけど、私たちが話しかけると笑顔で話し出す。どんな話でも嫌な顔一つせずに話を聞いて、頷いて、質問してくれたり様々な事を受け入れてくれる春人くんが『うん』とか、『あぁ』という心ここに非ずの反応に大きくショックを受ける。
 それくらい、今回凛ちゃんを傷付けてしまったこと自分自身が許せないみたい......
 



 突如、私のスマートフォンが通知の音楽を鳴らす。
ブレザーのポケットから取り出して確認すると案の定凛ちゃんからの連絡が入ってた。
 内容を確認して私は肩を落とす。



「凛ちゃん...寝坊したから先に行ってて、って連絡が入ったよ」
「そ......っか。そう、だよね。流石に都合が良すぎるもんね。凛ちゃんが来たら謝ろうだなんて」
「そんなことないよ!春人くんは————」



......春人くんは、なに?
そこまで言いかけた私の言葉が止まる。これ以上は言えない気がしたから。



「...いこ?春人くん」
「わかった。あとで、凛ちゃんに話ができると、いいな」
「大丈夫だよ春人くん。きっと仲直りできるよ」





 私と、春人くん。
一人足りない”私たち”は、いつもの通学路をいつものように歩き出す。






 毎日一緒に喋りながら登校することがなんとなく当たり前のようになっていたの。
ワイワイ盛り上がりながら登校する日もあれば、一言、二言話すだけの日もあった。それだけの会話をしていたのがついこの前のように思い出されて懐かしく思う。
 春人くんの右隣をチラリと横目で見る。
そこは凛ちゃんの定位置。
いつものような凛ちゃんの姿は無く、静かで会話一つない登校だった。







~☆~





しばらく歩いたところで春人くんと別れ、私一人音ノ木坂へ足を運んだ。
自分の机にカバンを置いてようやく落ち着いて一息つく。そのついでにぐるりと教室内を見渡すもやっぱり凛ちゃんの姿は見当たらない。
教室の片隅で既に2,3人のグループや中央で4,5人のグループを見かけるようになった。妙にバタバタ慌ただしい雰囲気だけど......

「もう......クラスに友達つくったんだなぁ」

と、私は小さく呟いた。羨ましくは思うけど私から話しかけるなんてできないし、きっといつかはできる......かな?いつも元気に話しかける凛ちゃんも今はいないし、とりあえず教科書を取り出そうとカバンの中を開ける。



その時、視界の隅に一人のクラスメートが映り込んだ。その子は私の左後ろの席の持ち主で、赤くてカールのかかった綺麗な女の子だった。
その子は誰かに話しかけるは勿論のこと、挨拶も交わさないで悠々と席に座り、授業の準備を始める。
綺麗な女の子だなぁ〜っと、思った瞬間




「......っ!?」
「......?」


あわわわわ......め、目が合っちゃったよぉ!思わず顔を伏せて誤魔化すけど赤い髪の女の子はじっと私を見ている。睨んでいるのかな?や、やっぱり知らない子からジロジロ見られたら嫌がるに決まってるよね......
どうしよう?謝るべきだよね




「ねぇ貴女」
「ふ、ふぇぇ!?な、なに......かな?」
「......いつも貴女の傍にいるオレンジの髪の子はどうしたのよ」
「え、あ、うん。ちょっと......遅刻......かな?」



「そう......」とだけ反応してまたその子は黙ってしまった。よ、よかった......怒られるんじゃないかってビクビクしてたよ。とにかく早く準備を終わらせて凛ちゃんが来るのを待ってようかな。

 確か彼女の名前は西木野(にしきの)真姫(まき)ちゃん。
えっとぉ....この近くで一番大きい『西木野総合病院』の一人娘で頭がいい。
っというのを入学式でクラスメートが呟いていたのを偶然聞いちゃった。


ふと、私は黒板を何気なく眺める。
そこには1枚のプリントが磁石で貼り付けられ、クラスメートがぞろぞろと集まっていた。


────なんだろう......



クラスメートの表情が不安だとか疑問だとか、いい感じのように見えなくて、なにか問題あったのかな?と不安が過ぎる。
いつも付けているメガネをかけ直して私はプリントの前に立つ。




「なに......これ?」



見出しからいきなり信じられず、私は呆然としてしまった。入学してまだ2日目、まさかこんなこと(・・・・・)を知らされるなんて思わなかった......





───音ノ木坂学院、廃校(・・・)のお知らせ


 

さっきからクラスメートが妙に慌しかったのはコレ(・・・)が理由だったのかぁ。
紙にはまだ続きが書いてあって、どうやら8時半から講堂で理事長さんからの話があるみたい。でも、どうして今になってこの話題が持ち上がったのかな?確定......なの?
頭の中が真っ白になって何も考えられない。考えようとしても正当に動かない。
......凛ちゃんに連絡しなきゃ!!


私はスマホを取り出して履歴から凛ちゃんの名を───





「あ!かよちん!おはよー!!!」
「ふぇ?り、凛ちゃん!!おはよう!!心配したんだよぉ!」
「にゃはは、ごめんにゃ。寝坊しちゃって」




 電話をかける前に教室のドアの方から凛ちゃん本人の声が聞こえた。
その姿はいつもの凛ちゃんで私は少し安堵した。だけど、目の下に隈があることに気づき、やっぱり土曜日のことを気にしていることがわかっちゃう......。


「あれ?どうしたのかにゃこの騒ぎは?」
「え?えっとぉ.....」



凛ちゃんの質問に指を指して黒板に張り付けられたプリントを指し示す。
 そのまま黒板の方へ行ってクラスメートに巻き込まれながら隠れてしまった。しばらくして凛ちゃんの叫び声が聞こえ、とたとたと戻ってきた。


「にゃ、にゃあ......この学校なくなっちゃうのかにゃ?」
「うん....多分、この後の臨時全校集会で理事長からお話があると思うの....」
「そう、なんだ...」



 まるで猫耳がしょぼんとしているように肩を落とし、その中で私の視界にちらりと何かが映り込む。
───それは先日私と凛ちゃん、そして春人くんの三人でゲームセンターで撮ったプリクラの一枚だった。スマホのカバーケースに大事そうに張られている。
 それを見た私は少し安心しきった気持ちになった。


(やっぱり凛ちゃんは凛ちゃんだね....)

 凛ちゃんは春人くんのことを嫌いになっているわけではないんだね。嫌いになってたらプリクラの写真を大事そうに持ってるわけない。
 








あのね、凛ちゃん









私はね、そんな凛ちゃんが大好きだよ。
 優しくて明るく元気にみんなを引っ張ってくれる。喧嘩しても心から人を嫌いになれなくて、みんなのことが大好きで。そんな優しさがたくさん人を引き付けて好かれていく。
 
 私にはそんなことはできなくていつも羨ましいなって思ってるんだよ?
すごいなぁって。輝いてるなぁって。


 凛ちゃんと初めて出会ったのは小学三年生の時、初めてクラス替えして私の隣に来たのがきっかけだったよね。まだその時の私は寂しがり屋の恥ずかしがり屋で、春人くんとしかお喋りできなかったから凛ちゃんの周りに男の子女の子関係なく集まっている光景がいつも羨ましかったんだ。
 私には、一生できないって思ってた。




『ねぇねぇ!すごくおえかきじょうずなんだね!かわいいにゃ~!!」


 初めて話したのは凛ちゃんが先で、私が当時夢中になってた『お絵かき』をしていた時だったね。見られるのが嫌で教室の隅で小さく丸まって絵を描いていて、凛ちゃんはそう話しかけてくれた。
 恥ずかしかったけど、絵を褒められるのが嬉しくてつい舞い上がっちゃった。


『そ、そうかな.....ありがとう』
『おなまえおしえてよ!』
『ふぇ?え、えっと...こいずみ...はなよ..です』
『じゃあ.....きょうからりん”かよちん”ってよぶにゃ。りんのことは”りん”ってよんでほしいにゃ!』
『ふぇ!?ちょ、ちょっと────』
『いつもきょうしつでひとりであそぶなんてつまらない!おそといっくにゃーーーー!!』



 いきなり話しかけられて、自己紹介して、あだ名をつけられてあっという間に手を引っ張られて外へ連れていかれる。
 すごく強引だったけど、きっとあれが無かったら凛ちゃんとこうして今みたいに仲良しでいられなかったと思うんだぁ。


 だからこそ、私は知っているんだよ?もちろん春人くんも知っている。

 得意なことは陸上だってこと、苦手なことはじっとしていること。

 ラーメンが大好きだったり、お魚が大嫌いだったり。
 
 女の子らしくいたいけど、それをあきらめてしまったことを。

凛ちゃんの悲しんでることも、辛いことも.....コンプレックス(・・・・・・・・・・)も私は知ってる。


そして。



────春人くんが大好きなんだって事も



 知ってるけど、凛ちゃんはそのことを私たちに相談しないでずっと一人で抱え込んでるっていうことも実はわかるんだ。言いたくなくて胸の内にしまって、逃避を続けている凛ちゃんの弱くて脆い部分。
 



 凛ちゃん。
凛ちゃんは可愛い女の子なの。私なんかよりずっと、ずっと可愛い女の子。だからね....私は凛ちゃんに思ってほしいの。
 その悩みはいつか解決できる日がくるんじゃないかって。それはきっと私ではなく、春人くん。今は無理して克服して欲しいとは思わない。今の凛ちゃんも”凛ちゃん”だって思うから。
 でも、もしその時が来たら私は凛ちゃんに変わってほしいな。私も傍で見守りながらその姿を見届けたいな。



 






 私の中に仄かに灯る、淡く煌びやかな期待。




「ねぇ、凛ちゃん」
「なに?」
「......仲直り、しよ?春人くんと」
「..........」
「いつまでもこのままじゃ、ダメだと思うんだ」




 すっと。顔を背ける。
私はそのまま話を続ける。



「私は三人一緒じゃなきゃ嫌なんだ。凛ちゃんが欠けても、春人くんが欠けてもダメなの。寂しいし不安で....それくらい、私の中で二人の事は大きな友達なんだ」
「りん....だって、三人じゃなきゃつまらないにゃ。りんにとって.....これからもずっと三人でいっぱい遊んだり思い出作ることが、りんの”夢”だから」
「夢?」



 凛ちゃんの口からあまり聞かない言葉が出てきて私は聞き直す。
教室はまだ”廃校”という一つの話題が持ち上がっていてざわめきが止む気配がない。凛ちゃんはそれを気にしているみたいで途端に周りを警戒し始める。
 だけど、すぐに凛ちゃんは私と距離を縮めて、少し頬を朱色に染めて言う。













「凛の”夢”はね。高校でも、成人を迎えてそれぞれの進路に向かうことになっても.....仲良しでいて、いつか三人で暮らすこと(・・・・・・・・・・)なんだにゃ~」













「.........ふぇ?」
「え?な、なにかにゃ?」
「く、暮らすって.......ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!?」












 凛ちゃんの爆弾発言に私は場を考えずに叫んでしまった。普段の私なら叫ぶことは勿論空気を読んでみんなに謝るけど、全然そっちの方まで気を回すことができなくて、そのまま凛ちゃんを教室の隅へ連れていく。
 クラスメートの子たちは私の声に驚いてチラチラ見ているけどすぐに話題はプリントのほうへ




「か、かよちんいきなり叫んでどうしたの?びっくりしたよ~」
「だだだだって!凛ちゃん今言ったことの意味わかってるのぉ?」
「”三人で暮らす”ってところ?もちろん!」
「ふわぁ....」




 凛ちゃんは可愛くて女の子らしくて、純粋な女の子。純粋な心を持っていることは全然いいことだと思うし、それが凛ちゃんの可愛い魅力の一つでもあるの。
 だけどたまに、凛ちゃんは私たちに向けて爆弾発言をする時があってびっくりさせられちゃう。そう、今のように......


「だってかよちんもその方がいいでしょ?」
「そ、それは.....」


 つまり、私と凛ちゃんが春人くんのお嫁さん(ハーレム要員)になると。
凛ちゃんはそう言いたいみたい。確かにそういう事を考えないわけじゃないよ。いつかは春人くんのお嫁さんになってみたいなぁ~って。
 朝、夫になった春人くんを起こしに行って、私の作った朝食を食べてもらって玄関で春人くんにお弁当渡してお見送りして、仕事から帰ってきた春人くんをお迎えして夕飯一緒に食べてお風呂で.....その、背中流してあげてそれからそれから..........



「か、かよちん?顔赤いけど大丈夫かにゃ?」
「........」
「かよちん?」
「はっ!!ご、ごめんね凛ちゃんちょっと考え事してたよ」


 どうしよう.....私、凛ちゃんよりはそういう事に興味はあるとはいえ...ううん、そこまでではないけど、でも私ってばなんて恥ずかしいことを考えてしまったのかなぁ~
 赤くなった顔を冷まそうと少し手で仰ぎながら凛ちゃんの話を催促する。



「え、えっと。それで、凛ちゃんはどうしたいの?」
「仲直りしたい」




 凛ちゃんは間髪入れずにそう答えた。
「でも...」と、その後に付け加えて


「やっぱり春くんが他の女の子といちゃいちゃ会話している姿をいつも見ているとイライラするし、話さないでって思ったり、りんとかよちんだけを見てほしいって思うようになったの。いつからだかわからないけど、そんな気持ちを持つことが嫌になって、つい春くんに当たっちゃったんだにゃ。春くんは悪くないのに....でも、凛はどうして春くんにそんな気持ちを持つようになったのかわかんないんだにゃ」
「そうなんだね」
「だから....そんな身勝手なりん自身が許せなくて、でもそんな自分が生まれちゃう理由も分かんなくて、どうしようもなくなって春くんに会いたくないって思った」

凛ちゃんの吐き出した不揃いで拙い言葉たち。
それでも私には確かに伝わった。
 凛ちゃんははそこまでほとんど息継ぎ一つせずに一気に吐き出し、深く深呼吸した後にこう質問してくる



「かよちんは凛のこの気持ち...わかる?」



 そうなんだね.....。凛ちゃん、凛ちゃんの抱えている気持ちは私にはわかるよ。私もそう考えちゃう時もあって。





でもそれが、『恋』なんて言葉で表現される気持ちなんだと思うの。




「わかるよ。凛ちゃんの抱えている気持ちが。多分それはね”自分勝手な気持ち”なんだよね」
「そうなのかにゃ?」


 私にもわからないことだってある。
私の傍で笑っていてほしい。
私だけを見ていてほしい。
私だけを考えて欲しい。



きっと凛ちゃんの心の中で渦巻いていて、苦しめているのはきっとそんな身勝手な気持ち。
 多分凛ちゃんはずっと前から春人くんをそんな風に想っていたのかもしれない。そして先日の土曜日に生徒会長の前で笑みを浮かべていて、自分たちを見てくれない春人くんに嫉妬したんだよね。



 だから、あの出来事のおかげで、凛ちゃんは初めて自分の中に潜む別の気持ちに気づいてしまったんだよね。
 小さなときから抱えてこんでいる”コンプレックス”は春人くんが相手だと全然”コンプレックス”がそうでなくなって、自分らしく凛ちゃんは、女の子らしくキラキラしていた。
 自覚は無くても私にはそう見える。








「でもゴメンね凛ちゃん、私の口からは教えられないの」
「え?なんで?」
「それは......その答えは自分で見つけなきゃいけないし───」


それに、私の中にも隠れている気持ち(・・・・・・・・・・・・・)だから。














 これは、誰にも教えたり、バレたりしてはいけない気持ち。
凛ちゃんにも、春人くんにも。
この気持ちはずっと隠したまま、これからも過ごしていくつもり。
だから私は願うの。








────────春人くんと凛ちゃんが、どうか恋人同士として仲良くなれますように











だって。










私は、春人くんに恋をしてはいけないから(・・・・・・・・・・・)














 
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