ラブライブ!~夕陽に咲く花~
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第6話 僕が招いた....
「希〜っ!お待たせ〜!少し生徒会室で資料まとめてたら遅れちゃったわ!」
石段の方から澄んだ綺麗な声が聞こえた。
僕と凛は声の持ち主の方へ顔を向ける。
そこには......金髪碧眼の美しい女性が東條先輩に向けて、手を振りながらやってくる姿があった。
東條先輩の同級生...だろう。東條先輩はすごく可愛らしくて女の子っぽい雰囲気。対してやって来た金髪の女性は綺麗で大人の女性といった雰囲気を纏っている。
僕の後ろの二人もやって来た女性の見た目に釘付けで、特に凛ちゃんが目をキラキラさせて羨ましがっている。
「やっぱり、綺麗、だにゃ~」
凛は誰に言うでもなくポツリとつぶやく。花陽は何故か僕をチラリと見た後、こくりと凛の意見に同意する。
─────絢瀬絵里。
巫女姿の東條先輩は、走ってくる金髪の女性を見ながら僕に聞こえるくらいの声量でそう教えてくれた。
さっきも金髪女性───絢瀬先輩も”希”と呼んでいたし、かなり仲が良いのかもしれない。
改めて絢瀬さんをじっと見る。
白をベースにしたスキッパーに水色のボレロ、黒のホットパンツに二―ソックスという大人っぽく、それでいて可愛さを感じさせる服装だった。
そして、何より目立つのはその綺麗な金色の髪。普通の日本人が染めたとは思えないくらい自然体の髪でとても魅力的だと思う。
(ハーフ...なのかな?)
ハーフの正しい知識を持っていない僕は適当なことを考え、気が付けば絢瀬さんは僕たちの前を通り過ぎて東條先輩の前で立ち止まる。
「えりちこんにちは〜。そんなに走ってこなくても大丈夫やで?」
「だ、だって歩いて来たら間に合うか不安だったから〜。」
「それよりまず汗ふいて?もう少しで終わりやから。」
絢瀬さんはハンカチを取り出して隣のベンチに座って一息つく。
......どうしてだろうか。絢瀬さんの一つ一つの行動が妙に僕の目を釘付けにしているような気がする。そして、後から来る鼓動の高まり。発汗、何か話そうと思ってもいい具合に呂律が回らない。脳内に残るむず痒さが僕の平常心をかき乱しているような気がする。
...今日の僕は、なんか変だ
「...?春人くん、どうしたの?」
僕はどうしたのだろうか。今までこんな気分になったことが無いから今の動揺が理解できない。改めて絢瀬さんを見る。
大人っぽい服装、水色のシンプルなハンカチで額の汗を拭う姿、乱れた髪をかき上げる仕草、足を組み直す仕草。その細かい仕草が僕の心を乱してくる。
「春人くん?大丈夫?」
一体どうしたんだい僕は...
自分の事なのに理解ができずに頭を傾げながらも、それでも座ってる金髪女性への視線を逸らすことは無い。
不思議だ......。モヤモヤうねうね心がざわついているのに彼女の姿を見ているだけですっきりした気持ちに早変わりしている。
...今日の僕はなんか変だ
「ねぇ春人くんってば!!」
「ふもっ!?」
そこでやっと、思考の回線から解放される。びっくりした拍子に後ろを見ると、花陽がぷくりと頬を膨らませていた。だけど表情は心配している。
「な、なにかな花陽ちゃん」
「どうしたの?すごく顔が赤いよ?」
「っ!?」
花陽に指摘されてようやく僕は自分の頬が熱くなってることに気づく。
わからない。風邪でも引いたかな?確かにそうだったら納得できるかもしれない。けど、気怠さはかんじないし、頭痛とか吐き気も、咳も鼻水もない。あるのは熱っぽいだけ。風邪の予兆だ。
...今日の僕はなんか変だ。
「風邪でも引いたのかもね。家に帰ったらうがいと薬でも飲んでおくよ」
「...そう、なら、いいんだけどね」
僕は無理やり肯定して、その場をやり過ごそうとする。だけど、それでも......
「.........」
「......あら、君どうしたの?」
「...いえ、なんでもないです」
───僕の眼下には金髪の彼女しか映らない。
これはきっと病気だ。
───第6話 僕が招いた....───
「じゃあえりち、少しそこのお兄さん達とお喋りしててなぁ〜。ウチは着替えてくるから」
「うん、わかったわ」
そう絢瀬先輩に言い残して東條先輩はカウンターの奥へ消えていった。ここに残されたのは僕と花陽と、凛と絢瀬先輩の四人。気まずい雰囲気の中、最初に口を開いたのは、
「りん、この人知ってるよ?音ノ木坂の生徒会長、絢瀬絵里先輩。」
凛はポツリと僕の耳に聞こえるギリギリの大きさでそう呟いた。さっき東條先輩から名前は聞いてはいたが、他の情報は一切知らない。凛ですら知っているということは絢瀬先輩はかなり人気のある生徒会長らしい。
「初め...まして」
「初めまして、君は希の友達かしら?」
「えっと...東條先輩とはさっき知り合ったばかりです」
我ながら、ガチガチに緊張してるなぁと思う。生徒会長の絢瀬先輩は明るくニコニコとほほ笑む。その姿は本当に美しくて流石の僕も思わず見とれてしまうほどだった。
何度も言おう。
...今日の僕はなんか変だ。
ここは僕が何か話題を出すべきなのだろうか。絢瀬先輩は身嗜みを整え終え、東條先輩と女子高生らしく、きゃいきゃいと、時折笑顔を見せながらトークを楽しんでいる。
いつもの僕ならここで出しゃばる事なく、その場を離れるだろう。少し関わった相手でも、むやみに接触せずに、ある程度の距離を保っていく。向こうから近づいてくるなら拒みはしない。だけど、僕からは近づかない。花陽や凛はまた別の話だけど、それが僕の人との距離の保ち方だ。
だけど、今の”僕”は”僕”ではない。どうしてか...東條先輩と絢瀬先輩の話に混ざって話をしたいと考えている僕がいる。
そんな僕を見かねてなのか、東條先輩は僕の隣にやって来てこう言った。
「あ、えりち紹介するね。こっちの背の高い子は高橋春人くんっていうんよ♪なんと!春人くんは高校一年生なのだー!!」
「え?そうなの?それにしては本当に背が高いわねぇ...180センチあるんじゃないの?」
「えっと...はい、あります」
東條先輩はオーバーリアクションで僕の紹介をする。やっぱり絢瀬先輩は僕の事を同級生かそれ以上として見ていたらしい。わからなくもないけど、彼女が僕の事をマジマジと見てくるため体中がムズムズとしてくる。
「高橋...春人です。よろしくおねがいします」
「よろしく高橋くん。私は絢瀬絵里、音ノ木坂の生徒会長を務めているわ」
いちいち笑顔が眩しくて......
そうして絢瀬先輩の視線は僕から僕の後ろにいる花陽と凛へ......
「彼女たちは?もしかして彼女さん達かしら?ふふ、モテモテね、君は」
「え!?あ、あの花陽ちゃん達は僕の幼馴染です。”彼女とかそんなのではない”ですよ!」
僕は首を左右に振りながら否定する。花陽ちゃん凛ちゃんが彼女...あまり想像できないけど、きっと楽しいに違いない。
だけど、それはあくまで僕たちが”幼馴染じゃなかったら”の話。きっと僕たちが”幼馴染”から”恋人”に関係が変わっても何も変わらないと思う。
僕は実際”幼馴染”の方が居心地はいいしこれからも続くことを願っている。
だから僕は否定する。
「二人は...小泉花陽ちゃんと星空凛ちゃんです。貴女の...絢瀬先輩と同じ高校の後輩ですよ」
「あらそうなの?...確かに”小泉”と”星空”っていう苗字は見たことあるかもしれないわ」
「ウチは覚えとるよ。よろしくなぁお二人さん」
「よろしくおねがいします」とペコリ、お辞儀を一つ。
「星空さんと小泉さんはもう高校生活に慣れたかしら?」
「はい........すごく、楽しいです。」
「凛は音ノ木坂の学食がおいしいと思いますにゃ!特にラーメン系が!!」
「ふふ、そう。それは良かったわ。」
凛が慣れない敬語を使っているあたり、一応先輩への配慮はしているらしい。凛はあの性格上、先輩後輩分け隔てなく接し、敬語を使わなくても何も言われないし、むしろそっちの方が良いと言う先輩もいるらしい。
絢瀬先輩は少し凛の違和感のある敬語になにも追及せずになんだか嬉しそうに笑う。
この先輩はすごく音ノ木坂学院が好きなんだなぁ、と言うのが僕が彼女に抱いた第一印象だ。そりゃそうだ。
自分が生徒会長やっている高校に後輩が入学し、高校の良いところを褒められて嬉しく思わない生徒会長がいないわけがない。
「ところで....高橋君の高校はどこかしら?」
「ここから一番近い男子校です。」
「あ〜、なるほどね。駅前の男子校ね。」
これだけ言ってどこの高校を指しているのか理解できるとは...やっぱりこの生徒会長は容量がいいのかもしれない。
.....そういえば昨日も高坂先輩に同じようなことを聞かれたけどあの先輩はわかっていたのかな?なんか頭上に疑問符を浮かべていそうな表情をしていた気がする。
「僕、勉強が苦手なんです。」
話をなんとか続けまいと、勉強が苦手なことを話すもなんだかぎこちなくなり、声も震えた。
先輩方に変に思われないだろうか....
と、
「ふふっ。」
絢瀬先輩がくすりと笑った....ような気がした。
「ふふっ...♪君はどうしてそんなにビクビクした感じで話すのかしら?私ってそんなに怖い?」
「い...いえ、そんなことはないです。綺麗だし、優しそうだなっていうのが絢瀬先輩のイメージです。」
「あら、それはナンパかしら?」
そんなつもりはないです!と、思わず声を荒げながら抗議する。いくら先輩とはいえドギツイ弄り方をしてくるなぁ、と思った。そして妙に後ろから殺気を感じるような.....。
ゆっくり後ろを振り返る。
...猫みたいに犬歯をぎらつかせた凛が僕に噛みつこうと今か今かと待っていた。
そんな凛はこう言った。
「春くんいつまでデレる気でいるのかにゃ?」
「えっと....そんなつもりは」
「はぁ〜。もういいにゃ。春くんのソレは今始まったことじゃないし」
そう言う凛のとなりの花陽もうんうんと頷く。
二人の僕の扱いが厳しい気がする.....
凛はずっとそっぽ向いて頬を膨らませているし、花陽はちょっと寂しそうな顔を時折見せている。
理由はわからない。けど、なんとなく悪いことをしている気がしてきたので、
「さて、そろそろ移動しようか?花陽ちゃん、凛ちゃん」
「べつにいいにゃ。春くんはずっとその生徒会長さんといちゃいちゃしてるといいにゃ!!」
「あ、いやだから....」
弁解しようとするも、凛は僕の言葉を聞かずにスタスタと鳥居前に行ってしまった。
難しいな、人付き合いというものは.....絢瀬先輩と世間的な会話をしていただけで、別に先輩に恋愛感情とか深い仲を築こうとしていたわけじゃないのに.....。
凛だけじゃない。たまに花陽もムスッと不機嫌な表情をするから困り者だ。
凛の後ろ姿をぼんやり眺めながら『はぁ......』とため息をつく。
「もう、忙しいなぁ凛ちゃんは。ゴメンね花陽ちゃん、凛ちゃんのことお願いできる?」
「....うん、わかったよ。でも春人くん、あまり迷惑かけたらダメなんだよ?いくら春人くんでも....寂しいから」
「え?寂しい」
なにが寂しいのか問いただそうとしたところで、花陽はくるりと身を翻して凛の後を追ってしまった。一人取り残された僕を絢瀬先輩は「高橋君」と声をかけてきた。
「はい、なんでしょうか?」
「君は.....彼女たちの事を大切に思っているのね」
「はい♪それは勿論僕の大切な幼馴染ですから」
「ふふ、なら早く彼女たちのところにいってあげなさい。君の言動で彼女たち不機嫌よ?」
先輩から見ても彼女たちが不機嫌になっていることがわかるらしい。
もうすこし先輩と話がしたい。だけど.....
もういちど、彼女たちに視線を向ける。
「......」
ツンっとそっぽを向いて明らかに怒っている凛を花陽が懸命に宥めている姿が、遠目でもよく理解できた。
────そうだね、僕が凛ちゃんのことをほったらかしにして絢瀬先輩と話してたから君は怒ってるんだね。三人で遊びに来たのに僕が現を抜かしたから。
なんとなくだけど、凛が怒っている理由がわかったような気がした。肩の力を抜き、金髪の先輩に向き直ってから僕は軽く頭を下げる。
「すみません絢瀬先輩、これからも彼女たちのことをよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくね♪」
絢瀬先輩のサファイアの瞳から離れることなく僕はしっかりお辞儀をし、背を向けて僕は彼女たちの後を追う。もう少し話をしていたい気がするけど、僕はひとまず............
〜☆〜
「春くんなんか知らないにゃ!!ふんっ!!!」
「そ、そんなに怒らなくても......」
神田明神を出てから数分、さっきの僕の言動にすっかりしびれを切らした凛は僕たちの前を不機嫌そうに、ズンズンと音を鳴らしながら歩いている。
こんなに怒っている彼女を見るのは久しぶりで、僕は花陽に視線を向ける。が、彼女もおとなしく僕の隣を歩いていて、僕の顔を見向きもしない。
そこまで僕が絢瀬先輩と会話しているのが嫌だったのかな?そうだとしたらそれだけで機嫌を損なわれるのは理不尽のような気がする。
「ねぇ凛ちゃん、どうしてそこまで怒るの?」
「うるさいにゃ!いつもいつも他の女の子を連れ回して!その時のりんやかよちんの気持ち考えたことあるの!?りん達が春くんのその様子を見てどう思ってたのか!!」
「え?.....」
いつになく凛の顔から『怒り』が感じ取られ、一歩僕は退く。その瞳から一滴の涙が零れ落ち、僕はこの瞬間『やってしまった』と後悔した。
小さな頃から心の中で決めていた”二人を絶対泣かせない”。それがたった今破られた。紛れもない僕自身の言葉で。
「か、考えていたよ。でも僕は───」
「僕は、なに?他の女の子には興味がないけど嫌われるのが嫌だから愛想よく振る舞っているって言いたいのかにゃ!!そんなの許せないよ!”自己満足”だよ!!」
図星を言われ、思わず目を逸らす。
「もしかして春くん、『りん達を一番に大切に想っている』って昔言ってた言葉は全部嘘だったのかにゃ?」
「っ!?そ、そんなことないよ!僕はいつだって凛ちゃんや花陽ちゃんのことを───」
そこまで言って僕は押し黙る。そして思い出した。
......僕がさっき絢瀬先輩に対して考えたことを。今思えば確かに自分らしくなかった。絢瀬先輩の一つ一つの仕草や言葉に完全に魅入り、二人のことを間違いなく蚊帳の外に出していた。凛は多分それに対して怒っているんだろう。
だから凛は僕を信用できないんだ。
「今の春くんは信用できない!!今の春くんは大っ嫌い!!!!!」
「ちょ、ちょっと凛ちゃん。それは言い過ぎだよ。春人くん可哀想だよ!」
「かよちんはなんで春くんのことを庇うの!!かよちんは嫌じゃないの!?あんな春くんを見せられて、辛くないの?!」
「そ、それは.....」
凛の問いに答えられない花陽。花陽も、凛と同じ考えを持っていたのだろうか。俯きながらも何か言いたそうに凛を見て、でも僕のことを気にしているのかチラリと目を合わせた後やっぱり口を閉じたまま何も喋らない。
僕たちの関係に亀裂が入ったように感じた。
僕たちにも喧嘩、というものはある。それは決まって大事になるような喧嘩ではない。ラーメンが至高か、それともご飯が至高か。そしてその喧嘩は小一時間過ぎれば丸く収まる。その程度の喧嘩がいつものことだった。
だけど、今日はいつもと違う。それは凛の目つきを見ただけでわかる。今の凛の目つきは小学生の時に起こった”あの出来事”を受けた時の凛のソレそのものだった。
それだけ、彼女は今怒っているんだ。
僕が、そうさせたんだ。
「ごめんねかよちん。今日はもう帰るよ。明後日また学校でね」
「あ、凛ちゃん.....」
花陽が弱弱しげに声を絞り出すも、凛はそのまま背を向けて僕たちのもとから離れていった。
取り残された僕たちはしばらく凛の後姿を眺め、その姿が見えなくなったところで僕は盛大に溜息をつく。
どうしよう、どうやって凛に謝るべきなんだ。
「凛ちゃん、怒ってたね」
「.....僕は、”なにをやっているんだろう”」
「春人くん、凛ちゃんの気持ちをもっとわかってあげて?」
「わかってる、つもりだったんだね。今となっては凛ちゃんの気持ちがわからないよ」
ムズムズした感覚が僕の体の中を駆け巡る。それが僕にとって良いものなのか、悪いものなのか。
僕には理解できない。僕は......
「もちろん、私のことも、だよ」
「やっぱり花陽ちゃんも、怒ってる?」
「うん.....ちょっぴりね。でも怒ってるっていうか、悔しいかな」
「悔しい?なんで?」
「....なんでだろうね」
花陽は両手の人差し指をちょんと合わせながらごまかす。
だけど僕は知ってる。花陽が人差し指を合わせる時は決まって嘘をつく時か誤魔化す時の癖だということを。
花陽教えて?君は一体何を隠しているんだい?僕は何を知らなければならないの?
ムズムズムズムズムズムズ.......
奥底がずっと歯がゆい感じがしてそれが僕の罪悪感を煽っている。
「春人くんにとって...」
「え?なに」
「春人くんにとって、凛ちゃんっていう女の子はどういう存在なの?」
「どういうって...」
どうして花陽はそんな質問をしてくるのだろうか。言い方が悪くなるけど、その問いは『愚問』でしかないのに...
気が付けば僕たちはいつもの公園前に佇んでいた。僕はふと腕時計を見る。
神田明神から出て、まだ数十分しか経っていないことに気づき、その数十分で僕たちの”関係”は壊れかけてしまった。
「当然、僕の幼馴染で親友の...大切な人だよ」
嘘偽りは言ったつもりはない。
花陽や凛もそのことはわかってる。わかっているはず。
────だからこそ、花陽の今の表情が理解できない。
「それだけなの?」
「それだけって...うん。花陽ちゃんも凛ちゃんも僕にとって一番大切だから」
「────────これじゃあ、私たちの気持ちわかってもらえるわけないよ」
最後はポツリと花陽が呟いたように聞こえた。
本当は聞きだしたいところだけど、無意識の呟きごとは基本聞かれたくないことが多い。それ故に僕はその先の事を聞き出すことができんなかった。
「とりあえず春人くん。今日はもう帰ろ?ゴメンねこっちから誘ったのに」
「いやいいんだよ。僕の方こそ...ゴメン。凛ちゃんを怒らせたばっかりに大切な休日をダメにしちゃったよ」
「しょうがないよ。そういうところが春人くんらしいから。でも...」
「でも?」
花陽は一息置いてこう告げた。
「今回は......なんとなく、春人くんらしくなかったかな。私でもそう思うもん。生徒会長と話をしている時の春人くんは、特に...」
......こう花陽に言われたとき、一体僕はどんな表情をしていただろうか。
きっと驚きとか作り笑いとか、そういう表情はしていないはずだ。いや、できなかったはずだ。
凛に言われて。花陽にも同じことを指摘されて......僕が二人を悲しませるようなことをしてその挙句、その原因が絢瀬先輩との会話にあったと。僕が、僕の幼馴染に対する気持ちが揺らいでしまったと。
だから凛は、花陽は怒ってるんだ。花陽なんて本当は僕の事を許せないんだ。
でも彼女は優しいから。凛のことも僕の事も大切だと心底思ってくれているからそうはできないんだ。
────春人くんらしくない
今さっき花陽に言われた一言が頭の中をグルグルと駆け巡る。
そう言われたのは初めてだった。でもわかる。
僕も、さっきの自分は変だったと自覚はしているから。
───僕にもわからないんだよ花陽ちゃん
どうして絢瀬先輩があんなにもキラキラ輝いているように見えたのか僕にもわからない。
「私も今日は帰るね。凛ちゃんには私から言っておくよ」
「う、うん。ありがとう...」
花陽はそうして僕に手を振って別れを告げる。
こうして訪れた関係の悪化。
僕が招いた............結果
だけど、現実は厳しくも僕たちに容赦なく牙を向ける。
月曜日
更なるアクシデントが......幕を開けることになる
後書き
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@wallwriter0421
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