IS~夢を追い求める者~
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第2章:異分子の排除
第25話「事件後」
前書き
襲撃が解決し、その後の話です。
=out side=
「っ....。」
IS学園の保健室にて、一人の少女がベッドの上で目を覚ます。
「...ここは....。」
「保健室だ。」
「っ!」
ふと呟いた言葉に返事が返され、少女...鈴は飛び起きて声の方を見る。
「あんたは....。」
「事情聴取の方は俺以外でもできるからと、俺はお前の様子見だ。」
そこには、桜が適当にリンゴを剥きながら座っていた。
「.......。」
「...お望みの人物が看てくれなくて残念だったな。」
「ちょ、そういう訳じゃ...!」
何故か沈黙した鈴に桜はそう指摘する。
否定しようとする鈴だが、どもっていては説得力がない。
「...て、あ、あれ...?」
「...あー、まだ無理するな。後遺症があるかもしれないしな。」
「あ、そういえばあたし....。」
鈴はふらつき、そこで自分がどうしてここにいるのか、思い出した。
「じゃ、適当に検査するぞ。五感とか体を動かせるか一通りな。」
「...あんたがするの?」
「俺の責任だからな。」
桜の言葉に鈴は首を傾げる。
なぜ桜の責任なのか分かっていないようだ。
ちなみに、この検査は桜個人...つまり本来は必要ないもので、教師からは特に指示を出された訳ではない。
「....これは?」
「三本。」
しばらくして、最後に視力を簡易的に検査する。
所謂、指の本数を示してちゃんと見えるかとかだ。
「じゃあ、これは?」
「二本ね。」
「篠ノ之束に見える?」
「見える...って、関係ないでしょ!?」
いつのまにか束っぽい恰好をしていた桜に、鈴は思わず突っ込む。
「...よし、正常と。」
「...最後の必要?」
「いや、特に?」
「......。」
さも当然かのようにそう言う桜に、鈴は少しばかりイラッときた。
「じゃあ、最後に....記憶の方はどうだ?」
「記憶....っ!」
記憶を言われて、鈴はかつての記憶を思い出した。
「あ、あたし...!秋十に...恩人に対して、なにを...!?」
「...正常、と。」
淡々と、だが頭を抱える鈴を心配そうに見ながら、桜は全ての項目にチェックし終える。
「これで晴れて精神は自由になった訳だが....気分はよさそうじゃないな。」
「当たり前よ!なによ...!なによこの記憶!?」
記憶が書き換えられ、本来の恩人を蔑み、大して好きでもない奴を好いた状態にさせられていた。...確かに、憤慨するだろう。
「っ、ぐっ...!?」
「...興奮すると頭痛になるみたいだな。まだ安静にしておけ。」
洗脳を解くタイミングが遅かった弊害で、鈴は頭を痛めていた。
「...あんたは、これが分かっていたの...?」
「ああ。...俺の幼馴染、束と千冬も洗脳されていたからな。」
頭が痛いのを抑えながら、鈴は桜に聞く。
そして、“あの”篠ノ之束と織斑千冬も洗脳されていた事に少しばかり驚く。
「だが、もう織斑は洗脳する事などできん。...世界そのものが、それを許さないからな。」
明らかに一夏を嫌悪するようにはっきりとそう言う桜。
「...あんた...何者なの...?」
そんな桜に、鈴は少しばかりの寒気がし、そう質問する。
「...世界の運命が捻じ曲げられ、その影響で死にかけたもう一人の天災...ってとこか?」
「....訳が、分からないわ...。」
頭が痛い事もあり、鈴は思考するのをやめてしまう。
「とりあえず、動けるようになってからか、秋十君が来たら礼を言っときな。君を助けたのは、あの秋十君だからな。...じゃ、俺は目を覚ました事を伝えてくる。」
「...ありがと。」
鈴が短くお礼を言うと、桜はそのまま保健室を出て行った。
一人残った保健室で鈴は物思いに耽った。
「(....また、助けられたのね、あたし...。強く、なったつもりだったのに。)」
想う相手は秋十。今回、助けられた時の事を思い返していた。
「(...ありがとう、秋十。こんなあたしを...あんな仕打ちをしたあたしを、まだ友達だと思っていてくれて...。)」
過去、洗脳されていた時の鈴は、秋十にひどい仕打ちをした事があった。
だが、それでも秋十は鈴の事を友人だと思っていてくれたのだ。
「(...会ったら、お礼言っとかないとね。)」
そう思い、鈴は動けるようになるまで安静にしておくのだった。
襲撃事件が終わり、事件に大きく関わった者達は会議室に集められていた。
「全員、よくやった。...と言いたい所だが、問題点が多すぎる。...まず、篠咲兄妹、オルコット。お前たちは敵の鎮静化に大きく貢献したが、独断行動は危険だ。よって、反省文10枚の罰を言い渡す。...以後、気を付けてくれ。」
「分かってます。...ただ、あれが最善だとも思っています。」
秋十は、そう言って千冬をまっすぐ見る。
「...ああ。エーベルヴァインと更識がロックの解除をするまでの間、その思い切った行動のおかげで護られたのも確かだからな。...これでも少ない方だぞ?」
「な、なるほど...。」
意志はちゃんと汲み取っていたんだなと思いつつ、これでも緩い方なのだと、秋十は少し引き気味に驚く。
「...だが、織斑と篠ノ之!織斑に関しては最初の行動はよかった。一時的で危険とはいえ、生徒たちを護っていたのだからな。...だが、なぜあそこまで全てを危険に回すような真似をした!」
一転、千冬は怒鳴るように一夏と箒にそう言った。
「っ....。」
「わ、私は一夏に喝を入れようと...。」
「あんなの、喝でもなんでもないよ。...桜さんがいなければ、死人が出ていたよ?篠ノ之箒と言う、死人がさ。」
「っ...!」
一夏は俯き、箒は反論しようとしてマドカに否定される。
「...篠咲妹はそう言っているが、それだけではない。...放送室には避難誘導をしていた生徒がいたのだ。それを篠ノ之はあろうことか気絶させて占拠したのだ。...相応の罰が必要だ。」
「なっ...!?何をしてくれてますの!?」
他の人は知らなかった事実を千冬はその場でいい、セシリアはその事実に怒る。
声に出してはいないが、それはその場にいる全員が同じように怒っていた。
「....そういう訳だ。なので、織斑には反省文20枚。篠ノ之に至っては反省文30枚と一週間の自室謹慎を言い渡す。」
「「なっ....!?」」
“なぜそんな目に遭わなければならない”と言いたげに驚く二人。
「あ、あいつは...あいつはどうなんだよ!」
「あいつ?...あぁ、篠咲兄の事か。」
「あ、そう言えばなんで桜さんは席を外してもよかったんですか?」
桜抜きでいいとも言われたが、理由までは知らないので、秋十は千冬に聞く。
「....あいつは、個別で聞かねばならん事があるからな。」
「「...あー...。」」
なんとなく、千冬の事はよく分かっている秋十とマドカは察する。
「...あの人、容姿ばかりか行動も束さんに似てるもんね...。」
「まったく...あいつが二人に増えたみたいで頭が痛くなる...。」
眉間を指で押さえながら、千冬はそう言う。
「あの...私達は特にないんですか?」
「エーベルヴァインと更識は三年が手こずっていたロックの解除を成し遂げただけだからな。...ただ、あの通信機については学園に伝えておくように。」
「あ、はい。分かりました。」
ユーリ達は自分達には反省文がないのだと、少しばかり安堵する。
「おーい、鳳が目を覚ましたぞ。」
「あ、桜さん。」
そこで、桜が鈴の所から戻ってきた。
「...行ってきな、秋十君。皆も、心配なら見舞いに行ってきなよ。」
「だが、この事件については口外しない事。そして、エーベルヴァインと更識以外は言い渡した罰をこなすように。それならば今から見舞いに行ってもいい。」
桜の言葉に続けるように千冬はそう言い、桜の肩を掴む。
「そして篠咲兄...いや、桜。詳しく話を聞かせてもらおうか?」
「え、あ、あの織斑...先生?...肩、痛いんすけど...。」
「当たり前だ。痛くする程でなければ逃げるだろう?」
「良くお分かりでイタタタタタ!?」
ちなみに、今の桜の恰好は鈴を看ていた時...つまり束の恰好に変えたままである。
その事もあって千冬はいつもの二倍の強さで桜を逃がすまいとしていた。
「と言う訳だ。私は今からこいつと話があるからお前たちは見舞いに行ってきてもいいぞ。...むしろ行って来い。」
「は、はい!」
「さ、桜さん、大丈夫でしょうか...?」
「うわぁ...冬姉怒らせちゃったか...。」
有無を言わせない迫力で言う千冬に、秋十達はそそくさと鈴の下へと向かった。
「えー、あー....千冬?」
「...なんだ?」
残された桜は恐る恐る千冬に振り返る。それに千冬はイイ笑顔で応える。
「一体何が聞きたいので?」
「なに、今回の事件の主犯格に目的を問いただそうと思ってな。」
「既に主犯格扱い!?」
あまりに極端な回答にさしもの桜も驚愕する。
「...というのは冗談で、独断行動の主導と一部の隔壁破壊による罰の言い渡しと、個人的に聞いておきたい事があるのだ。」
「...ちなみに罰とは?」
「反省文30枚だ。」
Oh...と嘆く桜。
「ついでに言えば本来なら20枚で済んでいるが私の個人的判断によって増やしている。」
「ちょ、横暴!?それでも教師か!?」
「ああ。お前が相手だからな。」
“当然だろう?”と言わんばかりにキッパリ言う千冬。
「...はぁ...で、聞きたい事は?」
そんな千冬に桜は諦めて話を伺う。
「....今回の件、お前はどう思う?」
「どう...ってのは目的とかか?」
桜の言葉に頷く千冬。
「テロにしては同じ場所に三機を追加するのは不自然。ましてや無人機だ。今、真耶にコアを解析してもらっているが...。」
「その前に俺に一言聞いておきたい...と。」
「ああ。」
どう答えようか。と、悩む桜。
...実の所、目的は完全に把握している。ただ、それを千冬にばらす訳にはいかないのだ。
「...俺の意見としては、様子見...もしくは試したのかもな。」
「ほう...。」
「どの人物に対してまでかは分からんが、敢えて一機だけ突っ込ませて、後から三機増やした。それで、どこまでやれるか試したのかもしれん。」
桜の意見に千冬は考え込む。
実際は、束と桜が一夏を絶望させようと画策しただけなのだが。
「...ふむ。確かにそうかもしれんな。まぁ、後は私達で考える。」
「あ、そうそう。言ってなかったけど鳳の洗脳は解いておいたぞ。」
「ああ。秋十から一応聞いておいた。」
そこで話は途切れ、千冬は少し考える。
「(...桜はそう言うが...本当にそうなのか?...どうもこいつとあいつが頭にチラついて仕方がない...。)」
今回の事件について思考を巡らす千冬だが、どうしても脳裏に桜と束が思い浮かぶらしく、上手く考えられなかった。
「(...いや、もしかしたら束の仕業でもおかしくない。...無人機四機を嗾けるなぞ、あいつかこいつぐらいにしかできんからな。)」
...実際の所、千冬の考えは大いに当たっている。
だが、千冬はそれは一つの可能性として取って置き、他の可能性を考えた。
「...で、そろそろ行っていいか?」
桜は話はもういいのかと思い、千冬にそう聞く。
「いや、ダメだ。」
「...理由は?」
しかし、拒否されたため、今度は訳を聞く。
「私達と共にコアを解析してもらう。いいな?」
「...どうせ断っても連れてくんだろ?一応、生徒という立場なんだから、そんな機密事項だらけな場所に言ってもサポートぐらいしかしないぞ?」
「ああ。それでいい。」
そう言って、二人は山田先生のいる所へと向かっていった。
「鈴!」
「っ.....。」
一夏は、鈴の名を呼びながら保健室の扉を開け放った。
その際、鈴は顔を顰めていたのだが、それに気づかず一夏は鈴に駆け寄る。
「大丈夫か?心配したぞ?」
「(...秋十...。)」
あからさまに心配するように声をかけてくる一夏を無視し、鈴は後から入ってきていた秋十を気まずげに見ていた。
「.....ねぇ、ちょっと秋十と二人きりにしてくれない?」
「は..?なんでだ?」
「...言っておきたい事があるのよ。」
秋十の名前を出した事で少し顔を顰める一夏に構わず、鈴は皆にそう言う。
「別に二人きりにならなくたって...。」
「はいはい。他の人には聞かれたくないから二人きりになるんでしょー?だったらお邪魔な人達は出ましょうねー。」
引き下がろうとしない一夏を、マドカが押すように追い出す。
他の皆も鈴の事が心配であったが、同じように出て行った。
「(....ガンバッ!)」
「っ....!」
マドカが出て行く間際で、鈴に向かってウインクする。
鈴はマドカに気遣われたのだと思いながら、秋十に向かいあった。
「....秋十...。」
「...なんだ?」
喉まで出かかった言葉が、出てこなくなる。
...言いたい事があるのに、緊張で言えない。そんな状態になる。
「あの...その....。」
「......。」
気まずい状態で言いだそうとする鈴を、秋十はじっと待つ。
「...っ、その...今まで、ごめんなさい....。」
「....。」
いつもの鈴のような活発な雰囲気は引っ込み、細々とした声で鈴は謝る。
「洗脳されてたから...なんて言い訳にしかならないけど、それでも、今までひどい事して、ごめんなさい...!」
そういう鈴の脳裏に浮かぶのは、かつてマドカが亡国機業に誘拐された時。
当時、秋十を蔑んでいた者は皆、なぜお前じゃなくてマドカなんだと、非難したのだ。
その中で、鈴も同じように...いや、一夏と共に人一倍非難していた。
その記憶が、鈴は今では途轍もなく嫌な思い出だった。
「....鈴...。」
「っ....!」
黙って聞いていた秋十が口を開き、鈴はビビる。
「...俺はさ、確かに洗脳された鈴とか、千冬姉とかに散々言われて傷ついてきた。でも、そんな過去があったからこそ、“今”に至れてるんだ。...別に、今までの事は気にしないさ。...今の鈴が、また友達でいてくれるなら。」
「っ...ぁ...!」
秋十の言葉に、鈴は声も上げずに涙を流した。
...怖かったのだろう。拒絶されるのが。許されないかもしれないのが。
「...まぁ、さすがにあいつは許せないけどな。」
「あいつ....あぁ...。」
もちろん、一夏の事である。
「...あいつ、あたし達を洗脳して一体何を考えてるの...?」
「さぁな...。桜さんなら分かってそうだけど、俺は知りたくもない。」
どうせ下種な事を考えているのだろうと、秋十は吐き捨てる。
「...そうね。あたしも知りたくないわ。」
今は忌々しく思える記憶を抑え込み、鈴も同意するように言う。
「...桜s」
「あ、皆は入れなくていいのか?結構時間がかかってるけど。」
「え、あ、そうね。入れていいわよ。」
何か言おうとして、秋十に遮られる。
どの道、もう入れてもいいので、鈴は許可を出し、秋十は皆を呼びに行った。
「(聞きそびれたけど...他の人にも聞いた方がいいわね。)」
少しして秋十が皆を連れて戻ってくる。
「言いそびれてたけど、久しぶりね。マドカ。」
「あ、気づいた?」
戻ってきたマドカに鈴はそう言い、伊達眼鏡で軽い変装をしてたマドカはそういう。
「いや、バレバレよ?」
「だよねー。むしろ、なんで分からないのかと。」
嘲るように一夏を見ながらマドカはそう言う。
そして、当の一夏はそんなマドカを見て言葉を失っていた。
「なっ....あっ...!?」
「戸籍上は桜さんの義理の妹。...冬姉からも認めてもらってるよ。」
一応説明として、マドカは鈴にそう言う。
マドカの事を知っていて、驚いている一夏と箒は放置のようだ。
「...ところで、さっき鈴はなんて言おうとしたんだ?」
「あ、気づいてたの。...そうね、他の人にも聞きたいし、ちょうどいいわ。」
秋十はさっき鈴が言い損ねてた事に気付いており、改めて聞いた。
「...あの桜さんって、何者なの?」
「....あー....。」
「...えっと...。」
「...その....。」
いつも一緒にいる秋十、マドカ、ユーリが口籠る。
その反応を見て、鈴は大体察する。
「...あ、うん。“そういう”類の人物なのね。」
「...印象としては束さんみたいな感じなんだけどなぁ...。」
「何者と聞かれると...なぁ?」
「...織斑先生の幼馴染としか...。」
三者三様で言う秋十達に、鈴は“束や千冬と同じ類”と考えるようにした。
「天然チートがこんな所にも...。」
「(マドカもチート染みてきたのは...言わないでおくか。)」
鈴がそう呟いたのに対し、秋十はついそう思ってしまう。
...なお、桜の周りにいる人物は大概チート染みてきている。
「...っ.....。」
「だ、大丈夫ですか?」
「...ええ。まだちょっと頭が痛いわ。...今日はもう、安静にしておくわ。」
頭を押さえた鈴に、ユーリは心配そうに聞く。
鈴は安静にしておくと言ったので、今日はここでお開きにするようだ。
「じゃあ、俺たちは行こうか。」
「そうだね。鈴、早く元気になってね。」
「分かってるわ。」
そう言って秋十達は保健室を出て行く。
その際、一夏はずっと何かを考えていたが、誰も気にしなかった。
「....もしもし。」
日が暮れ、寮の一室にて、桜は電話を手に取り、誰かと話す。
同室の秋十は、今はマドカの部屋にて一緒に反省文を書いている。
「...あぁ、もうすぐだな。..あぁ、分かってる。」
電話先の相手に対し、桜は返事をする。
「...まったく、あんたも不器用だな。...ま、立場上仕方ないか。」
桜はその相手に対し、少し苦笑いしながら応答する。
「...じゃ、後は任せろ。“デュノア社長”。」
そう言って、桜は電話を切る。
「(...さて、場面が動き出したか...。確か、ドイツでも少し動きがあったな。)」
これから起きるであろう出来事を、桜は想像する。
「...それはともかく、この大量の反省文...なんとかするか。」
そこで思考を切り替え、桜は地獄の反省文に取り掛かる事にした。
後書き
放送室で避難誘導しているありますが、それは校舎内にいる人に向けたものです。
誘導してた人は、アリーナに向けて誘導を行おうとすれば、危険に晒すだけだと理解していました。
...キャラ動かしきれてないなぁ...。
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