もう一人の八神
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新暦76年
memory:03 地球へ
-side 悠莉-
「地球?」
夏休みに入って数日たったある日。
夕飯のあと、姉さんと洗い物をしていると夏休みの予定についての話題になった。
「そうや。実はな、久しぶりに長い休暇が取れそうなんよ。せやから向こうでみんなで過ごすのもありかなーと」
「そっか。それにしても地球ねぇ……」
そういえばこの世界に来てから地球に行く機会なんてなかった。興味がないと言えば嘘になるけど変な感じがするんだよなー。だって、私の知っている地球じゃないから。
「もしかして気乗りせんか?」
「ううん、行くこと自体は賛成。ただ私の知る地球じゃない地球に行くと考えると少し変な感じだなーと」
「あぁ、なるほど。悠莉は確かにそうかもな。並行世界の地球と私の言う地球が完全に同じもんとは限らんからそう感じるんやろ」
「そゆこと。それはそうと地球にはいつから行くの? それ次第で準備とかしときたいからさ」
「えっとな、予定じゃ来週の頭から二泊三日してミッドに戻ってくるとつもりや」
それから詳細を聞きながらい洗い物を済ませて準備を始めるために部屋へと戻った。
-side end-
-side other-
悠莉が部屋へと入っていったのを見届けたはやてはとある人物に連絡を入れていた。
「あ、なのはちゃん、今平気か?」
『うん。ヴィヴィオはフェイトちゃんとお風呂に入ってるから大丈夫だよ。今度の休暇のことでしょ? 悠莉君はなんて?』
はやての通信相手は管理局の戦技教導官で、昔からの親友の高町なのはだった。
「なんか複雑みたいやったみたいやけど好奇心やら興味が上回って行く言うてたよ。」
『複雑? どうしてまた……?』
「ほら、悠莉は地球出身ってなってるけど実際は並行世界の地球出身やから」
『ああ、そういえばそうだったね』
「そういうことやよ。そっちはどうなん?」
『ばっちりだよ。私もフェイトちゃんもちゃんと休暇もらえたし、ヴィヴィオも楽しみだーって』
「そか、それはよかった。……ところでなのはちゃんわかっとるな」
『サプライズでしょ? もっちろん♪ ヴィヴィオにははやてちゃんや悠莉君行くことを。悠莉君には私やフェイトちゃん、ヴィヴィオが行くこと知らせずに驚かせる』
「うん。あ、でも悠莉はなんやかんやでいろいろと鋭いからなー、驚かへんかも」
『にゃははは、それは主にはやてちゃん次第だよ』
「せやね。まぁ、何とかバレんように頑張ってみるよ」
『うん。……あ、二人とも上がるみたいだから切るね』
「リョーカイや。そんじゃ来週に」
『うん♪ じゃあねはやてちゃん、お休み~』
映像通信は切られた。
はやてはゆっくりと辺りを見渡すが悠莉の姿はない。
それにホッとしてソファーに深く体重をかけた。
だけどこのときはやては気付かなかった。
台所の隅で小さな影がなのはとの会話を聞いていたことを。
-side end-
-side 悠莉-
姉さんの話から数日後。
私と姉さんは管理局の転送ポートから第97管理外世界『地球』の海鳴市へとやってきた。
「っと、無事に到着やな。悠莉、どんな感じ?」
「知らないところへ旅行に来たみたいでわくわくする。それにしてもここは?」
辺りを見る限りどこかの庭って感じなんだけど……それに足元ににゃんこが…ん? にゃんこ?
―――にゃーん
猫は一鳴きすると腕の中に跳びこんできた。
「わっと!?」
慌てて猫を抱きかかえると頭を擦り付けてきた。
人懐っこいなと思いながら喉元や額を軽くうりうりと撫でた。
何処からか猫を探す声が聞こえた。
その声は次第に大きくなって一人の女性が奥の方から出てきた。
そして姉さんの姿を見るなりこっちに駆け寄った。
「はやてちゃん!」
「すずかちゃん! 久しぶり!」
姉さんも同じように駆け寄った。
「うん! 久しぶり。こうやって直接会うのははやてちゃんたちがお仕事できた去年以来だね」
猫を抱きながら久しぶりに会って楽しそうに話している姉さんたちを見る。
あの人は一体…? 姉さんたちの知り合いみたいだけど……。……って、イタタタ、無理して頭によじ登るなよ。……ふぅ、どうしようこいつ。まぁ、爪を立ててないから別に構わないんだけど、頭が重い。
そんなことを考えていると頭に乗る猫が鳴いた。
それに反応してこっちを見た女性と目があった。
姉さんも視線を追って私を見ると忘れてたと言わんばかりに頭を掻いた。
「いやー、ゴメンな悠莉、つい話に夢中になってもうて。紹介するな、こっちは月村すずかちゃん。私やなのはちゃん、フェイトちゃんの友達。民間協力者としてお家の庭に転送ポート置かせてもらってるんよ。そんでもってすずかちゃん、この子は私の自慢の弟の悠莉や」
「どうも初めまして、数か月前から正式に弟になった八神悠莉です」
「こちらこそ初めまして、月村すずかって言います。実は悠莉君のこと、いろいろとはやてちゃんにメールとかで聞いてるんだ。よろしくね悠莉君」
そうなんだ。姉さんが変なこと言ってなきゃいいんだけど。
「よろしくお願いします月村さん」
「すずかでいいよ」
すずかさんとの自己紹介を終え、一旦すずかさんのお宅へと招かれることになった。
その途中で姉さんに聞くことがあったことを思い出した。
「そういえば、なのはさんとフェイトさんとヴィヴィオはどうしたの? もしかして別の転送ポート?」
「そうなんよ。今頃アリサちゃん…ところ、の…………」
「はやてちゃん? どうかしたの?」
「……」
急に固まって立ち止まる姉さんにすずかさんが声をかけるが反応がない。
ふむ、
「返事がない。ただの屍の「屍ちゃうわっ!」…おぉ、復活した」
「って、何で悠莉がなのはちゃんたち来るんを知ってるん!? それは秘密にしてたはずや!」
「何でって、そんなのウヌース使って聞いたからなのですよ。もしかして覚えてない? 六課時代になのはさんと離れたくないって言ってたヴィヴィオを宥めるのに使った私の影のゴーレムを」
「六課時代…ヴィヴィオ…影のゴーレム………ああああーっ! あん時のか!? 悠莉とヴィヴィオが六課の宿舎に来てすぐの時の!! あん時の黒いウサギ!!」
「思い出した? 姉さんに今日のこと話した後に黒ウサギの一匹を放ってたんだ。あの時何か企んでるような顔をしてたからね。ということで今回も残念でした」
最後の一言がトドメになったのか膝をついてガックリと項垂れた。
低い位置にいる姉さんに勝利の笑みを浮かべているとまたもや猫が鳴いた。
いい加減頭から降ろそうと視線を動かすとぽか~んとしているすずかさんが目に入った。
「あ、ごめんなさい、置いてけぼりでしたね」
「え、あ、うん。大丈夫だよ。それにしても今のは?」
「えっとですね…―――」
今のあらましやこれまでに何度も同じことがあったと説明した。
そして姉さんのサプライズがいつしか勝負っぽいものになったいったことも。
それを聞くなりすずかさんは笑いながら言った。
「本当に悠莉君とはやてちゃん仲がいいんだね」
「もちろんですよ。ほら姉さん、いつまでも項垂れてないで行くよ」
笑顔で答える。
そして、姉さんを促しながら足を進めた。
-side end-
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