もう一人の八神
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新暦76年
memory:02 見た夢は追憶で
-side 悠莉-
「ん…ん~~っ………ありゃ?」
カーテンの隙間から入ってくる朝日を浴びて目が覚める。
意識が覚醒しだすとあることに気づいた。
「なんでリインとアギトがここで寝てるんだ?」
二人はそれぞれフルサイズを解いて私の服を握りながら眠っていた。
「ま、いいか。確か今日は少し余裕があるって言ったからもう少しこのままでいいかな? それにしても……」
懐かしい夢を見たな。……まだ機動六課が活動していて、私がこの世界に飛ばされて姉さんたちと出会った頃だったかな?
――――――――――――――――――――
「ここは……?」
飛ばされて気を失ったらしい私は聖王病院のベットの上で目を覚ました。
状況を確認しようと部屋の中を確かめていると、ふと窓の外の中庭に目が行った。
栗色の髪でサイドポニーの女性がウサギの人形を持った金髪でオッドアイの女の子に歩み寄ろうとしていた。
しかし次の瞬間、窓ガラスが割れる音が聞こえたかと思うと二人の間に武装をした女性が割って入り、オッドアイの少女に武器を向けた。
「っ!?」
それを見て窓を開け放ち、瞬動で中庭へ飛び出した。
「はあああああっ!!」
「なっ!? クッ!!」
「シスターシャッハ!?」
瞬動のスピードをのせた拳を武装した女性に放った。
それをトンファーのようなもので防ごうとしたが完全に殺せずに三メートルほど転がった。
「大丈夫?」
オッドアイの女の子に駆け寄って怪我がないかなど確かめた。
「ふぇ……うぅ………」
女の子は怯えながら小さくだけど頷いて答えてくれた。
それを見てホッとしながらもサイドポニーの女性とシスターシャッハの二人に敵意の視線を向けた。
「ちょっと待って! 話を聞いて!」
サイドポニーの女性が少し慌てながら声をかけてきた。
どうしてこんな小さな女の子に武器を向けるような人たちの話を聞かないといけない。
そう思いながらも右も左もわからない状況をどうしようもないと考え、話を聞くことにした。
「ごめんね、びっくりしたよね?」
サイドポニーの女性はオッドアイの女の子と視線合わせるように屈んで謝った。
「ぅん……」
女の子は小さく頷いた。
それを見て安心した表情になった。
「初めまして。高町なのはって言います。お名前、言える?」
「……ヴィヴィオ」
「ヴィヴィオ…いいね、可愛い名前だ。君のお名前は?」
ヴィヴィオから視線を移して話しかけてきた。
「……悠莉、小鳥遊悠莉」
「悠莉君か。もしかして地球出身なのかな?」
「……どういうこと?」
この時のなのはさんの言葉に疑問を持ち、思考に入った。
そんな私を見て「後で詳しく教えてあげるから」と笑みを向け、ヴィヴィオの方へ向き直る。
「ヴィヴィオ、どこか行きたかった?」
「……ママ、いないの」
なのはさんは一瞬だけ、よく見ないとわからないくらい僅かに辛そうな表情を浮かべた。
しかしすぐに表情を笑顔に戻して、
「ああ……、それは大変。じゃあ一緒に捜そうか?」
「……うん」
ヴィヴィオは涙を溜めながら、小さく頷いた。
それからしばらくして、機動六課の宿舎へと場所を移した。
隊舎へ着くとヴィヴィオと違って部隊長室に案内された。
そして二人の女性と向き合っていた。
「そんじゃ改めて。私はここ、機動六課の部隊長をしとる八神はやて言います」
「私はライトニング分隊隊長、フェイト・T・ハラオウンです」
「……次元漂流者、小鳥遊悠莉」
警戒気味に名前を伝えるとはやて姉さんとフェイトさんは少し苦笑気味な笑みを浮かべた。
「(なのはちゃんの言うてたとおり、私らかなり警戒されとるなぁ)一応、なのはちゃんとシグナムからある程度、悠莉君が今どういう状況か来たやろうけど…なんか聞きたいこととかあるか?」
姉さんが言った通り、なのはさんとシグナムに宿舎に来るまでに自分が異世界に飛ばされたのだと聞いた。
しかし違和感のようなものを感じてなのはさんの言った『地球』について調べてもらった。
「高町さん伝いに頼んだことなんですけど」
「えっと、そのことなんだけど……」
フェイトさんが少し困ったような表情で口を開いた。
「君に頼まれてた地域について調べてみたんだけど、『地球』のどこにも存在しなかったんだ。それ以外のことも、ね」
確認でフェイトさんを見ても何も言わずに頷くだけだった。
それを聞いてやっぱりかと内心納得した。
「……やっぱりか」
「やっぱりってどういうことなんや?」
口に出さないようにしようとはしていたが、うっかり呟いてしまったみたいだ。
凡ミスをしてしまった自分に小さくため息をついて、話すことに決めた。
「高町さんの話を聞いてて、もしかしたらって思ってたんですよ。だけどハラオウンさんのを聞いてある程度確信できました」
「それが何にかを聞いてもいいの?」
「別に構いません。多分信じられないでしょうけど、私は並行世界の地球からこの世界へと飛ばされたんだと思います」
「並行世界……」
「そうです。並行世界を知ってますか?」
「もちろんや。確かあれやろ? 自分たちのいる世界によく似た別の世界、簡単に言うたらもしも、もしかしたら、そんなifの世界」
「そんな感じです」
驚いた表情の二人だったけど、すぐに納得といったというものになった。
「やっぱり……。申し訳ないけど君の戸籍を調べさせてもらってたんだ」
それについてフェイトさんから話があった。
まあ、簡単にまとめたら『地球』には私の戸籍が存在せず、何者なのかわからない状態だった、と。
それからも簡単な質問や確認もあり、それらを終え一息ついたときだった。
「悠莉君はこれからどうするつもりなんや?」
「これから、とは?」
「そのまんまの意味や。管理局の技術じゃ並行世界への移動なんて不可能。せやからこの世界でどうやって生活していくかや」
「はやて?!」
ストレートすぎる言葉に驚くフェイトさんをよそに姉さんはまっすぐ私を見て答えを待った。
「……そうですね、放浪という手もあるでしょう。お師匠たちに生きてくために必要なことを教わりましたから」
「お師匠?」
「向こうで私の面倒をみてくれた親代わりというか家族です」
「え? それって……?」
「私にもいろいろとあるんですよ」
これ以上自分の過去を話さないと拒絶。
それを感じ取った二人は口をつぐんだ。
暫く沈黙が続いたが姉さんが話を戻した。
「……つまり悠莉君は行き当たりばったりで物事を決めて過ごしていくんか?」
「この世界に頼れる人なんていませんし。それに独りには慣れてましたから」
この時の私は憂いを帯びた表情だったと姉さんは言っていた。
そして、姉さんは静かに何かを考え始めた。
黙って姉さんの答えを待つ私。
心配そうに私と姉さんを交互に見るフェイトさん。
「……よしっ、決めた!悠莉君、私の家族にならんか?」
「……はい?」
「はやて?!」
フェイトさん二度目の驚愕。
こればっかりは私もすぐには頭が回らなかった。
だけど姉さんの言ったことが理解できると思ったことを言った。
「どうしてです? 私と八神さんは赤の他人ですよ? なのにどうして……」
「なんでやろな? 自分でもようわからん。でもな、この考えが私の中で一番しっくりくるんよ。それにな、」
姉さんは私に笑みを向けて言った。
「独りでいることがどれだけ辛いことなんか私もよう知っとる。悠莉君を独りにはできん」
「っ!?」
この時、一瞬だけ姉さんがお師匠たちと被った。
「それにな、家族いうんはお互いに迷惑かけあって助け合ったりするもんやと思っとるよ」
―――悠、お前はお前の道を進めばいいんだよ。
どこからお師匠の声が聞こえた気がした。
ハッとして辺りを見渡したが当然姉さんとフェイトさんしかおらず、二人は私を不思議そうに見ていた。
「どないしたん? もしかして嫌、やったか?」
「……お師匠の声が聞こえた気がするんです」
「お師匠さんの?」
小さく頷いた。
「自由に生きてほしいって」
お師匠の言葉を聞いて私はゆっくり考える。
私は何をしたいのか。
私の願いを、望みを。
そして自分の中の答えを伝える。
「八神さん…本当に、家族になってもいいんですか?」
「っ! もちろんや!」
姉さんは驚いたように、でも嬉しそうに答えた。
その証拠に満面の笑みを向けていた。
――――――――――――――――――――
あの時はさすがに出会ってすぐに家族ができるなんて想像できなかったな。でもこれは必然だったのかもしれない。お師匠と姉さんがどことなく似た雰囲気持ってるから、それに引き寄せられたのかもね。
「うみゅ……ゆーり、ちゃん……」
「ユーリぃー……うみゃ……」
「あははは……二人してどんな夢見てるのさ」
二人は私の服を握り直すと笑みを浮かべた。
それを見て二人と同じように笑みを浮かべて目をつぶった。
双樹さん、私は幸せですよ。みんなと挨拶もなしに別れたのは残念ですけど、それでも助けられた命で幸せのために精一杯生きてます。
目を開け、満面の笑みで、
「ほら、二人ともそろそろ起きなよ」
幸せそうに眠るチビッ子二人を起こすことにしよう。
-side end-
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