もう一人の八神
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新暦76年
memory:04 正しいこと
-side なのは-
《にゃはは、やっぱり今回も失敗しちゃったんだ》
《はぁ…そうなんよ。まさか伝えてすぐにバレるなんて予想外やったわ》
《あはは、悠莉は相変わらずみたいだね》
アリサちゃんの別荘ではやてちゃんと悠莉君とすずかちゃんと合流。
初対面のヴィヴィオと悠莉君がアリサちゃんたちとそれぞれ自己紹介している様子を眺めながら話していた。
《でもヴィヴィオは驚きながら喜んでいたね。悠莉君に抱きついてたし》
《それに、驚かなかったけど悠莉も悠莉で喜んでいたよね》
《せやね。悠莉相手のサプライズには失敗やけど、それでもあの二人が喜んでくれたんならよかったわ》
《そうだね》
《うん》
そうこう話していると丁度自己紹介が終わったようだった。
-side end-
-side 悠莉-
時刻はお昼すぎ。
アリサさんのコテージでお昼をとった後、姉さんたちに許可をもらって私とヴィヴィオは湖畔まで来ていた。
「ねぇねぇユーリ。ユーリって格闘技の先生やってるんでしょ?」
「んー…別に先生っていう訳じゃないんだけどね。ただ、アドバイスやケガとかしにくい体の使い方を教えたり、ミット打ちやら組手の相手をしてるだけ」
「……それって先生って言わない?」
「心構えの問題。年もそんなに離れてないし対等だって思ってるからね」
そもそも道場の先生はザフィーラで、私はそのお手伝い。それに私のはストライクアーツじゃないからみんなに教えられるのは限られてるし。
「そういえばヴィヴィオはどうなのさ、スバルさんから格闘の基礎教わってるんだっけ?」
「うん。けど、スバルさん、やっぱりお仕事が忙しいみたいだから、基礎だけ教えてもらって前まで独学でやってたんだ」
「独学って……」
「でもね、独学で頑張ってたらノーヴェが声をかけてくれたの。『そんな動きじゃ体壊すぞ』って。その時からちょこちょこ時間作ってはいろいろ教えてくれるようになったんだよ」
「そっか、ノーヴェさんに教えてもらってるなら一安心。ノーヴェさんとやってて楽しい?」
「うん!」
満面の笑みで頷くヴィヴィオを見てよかったと思う。
楽しくやっているんなら伸びるだろう。
「それにしても意外。ヴィヴィオなら私に教えてほしいとか言ってくるかと思ったのに」
そう言うと苦笑してヴィヴィオは答えた。
「私だってユーリに、って思ってたけどスバルさんとノーヴェに止められたの。それに頼んでもユーリは断るんだろうなって思ってたし」
「まぁ、確かに。その頃の私はストライクアーツなんてほとんど知らなかったし、私が使う武術を教えるにしても、せっかくストライクアーツの基本と基礎ができ始めたところに教えたりしたら、できかけていた土台が無くなってしまうしね」
「二人も同じ様なこと言ってた」
「だろうね。ま、基礎と基本がしっかりしてきたその時は教えてあげるし、ミット打ちや組手の相手くらいならなってあげるよ」
「ホント!?」
「ホント。さて、さっそくだけどやる?」
「もちろんやる!」
アリサってさんから借りてきたミットをヴィヴィオに見せると即答された。
あ、あはは、即答かい。いや、いいんだけど、ちょっとびっくりした。
「行くよ、ユーリ!」
ヴィヴィオはいつの間にか準備を終え、構えている。
それにも苦笑してしまった。
「いつでもどうぞ」
ミットを構えると目を輝かせながら未熟ながらも真っ直ぐな気持ちの籠ったパンチを撃ってきた。
-side end-
-side ヴィヴィオ-
「二人とも頑張ってるー?」
「差し入れ持ってきたんだけど、キリがいいようなら休憩にしない?」
「なのはママ! フェイトママ!」
「悠莉もヴィヴィオもお疲れ。ええもん見させてもろたよ」
「ヴィヴィオって小さいのにすごいわね」
「ホントびっくりだよー」
「姉さん? それにアリサさんとすずかさんも」
ミット打ちに集中し過ぎて、気付かない内にこっちに来ていたママたち。私もユーリも驚いて顔を見合わせた。
「キリもいいし休憩にしようっか」
「そうだね」
フェイトママたちが用意してくれた差し入れを食べながらママたちの昔話と聞いていると、なのはママとユーリがいないことに気づいた。
「あれ? なのはママとユーリがいない……」
「なのはちゃんと悠莉君なら森の奥の方へ行ったよ」
「森に?」
どうして森なんかに……はっ!? もしかしてなのはママとユーリは……
――――――――――――――――――――
『な、なのはさん…こんなところでなんて……っ!』
『にゃはは、だいじょーぶ。みんな話に夢中になってるから。ほら、悠莉君のここ、固くなってる』
『や、やめてくださいっ』
『そんなこと言っても体は正直だもんね』
『っ……なのは、さん』
『おねーさんに任せて。悠莉君は私に委ねてるだけでいいんだから』
『あっ…なのはさん……』
『悠莉君……』
――――――――――――――――――――
……………
「だ、ダメエエエエーーっ!!」
「うひゃっ!?」
「きゃっ!?」
「ヴィ、ヴィヴィオ!?」
「顔が真っ赤よ!? 一体どうしたのよ!?」
「ぁぅ、ご、ごめんなさい……なんでも、ないです」
うぅ~、あんなこと想像してたなんて絶対に言えないよぉ……。で、でも本当になのはママとユーリ、一体何をしてるんだろ……?
真っ赤な顔を俯かせながらもなのはママたちのことが気になった。
「? 何を想像したんか気になるところやけど、ヴィヴィオはなのはちゃんと悠莉のことが気になるんやろ?」
「は、はぃ……って、はやてさん、なのはママたちが何してるか知ってるんですか!?」
「大方やけどな。何やったら確かめに行こか?」
「えっ…でも……」
「バレんかったら大丈夫や」
「行っておいで。もしもの時は私たちも一緒に謝るから、ね」
躊躇っているとフェイトママが背を押してくれた。
回りを見ても皆さん頷いてくれた。
はやてさんと一緒になのはママとユーリを探しに歩いていた。
「はやてさん、なのはママとユーリがやってることに心当たりあるんですよね? それって一体……」
「あー…それな、機会があるたんびなのはちゃんに…というか、フェイトちゃんやティアナ、キャロにもやな、お願いしとるみたいなんよ」
「お願いですか?」
頷くはやてさん。
だけどその表情は、どこか自分を責めているようなものに見えた。
「ミッド式の魔法を教えてもらっとるんや」
……え?
「知っての通り悠莉の魔法術式が近代ベルカやろ? 使えんことはないから学んで今よりも強うなろうとしとるんよ」
「え…でも、ユーリって強いし、私たちの知らない魔法使えるし……」
「確かにな。でもな、ユーリはそれらを公に知らせとうないみたいなんよ。それに本人曰く、『郷に入れば郷に従え』、らしい。あとは……」
「あとは?」
はやてさんが続きを言おうとしてると、
「―――着いたみたいやね」
「え? ……あっ!」
爆音とは言わないけど、それなりに大きな音が聞こえた。
少し開けた場所で二人は対峙していた。
そして桜色と明るすぎる水色の光弾が、まるで流星のように乱れ飛んだ。
結局、はやてさんに聞こうと思ったけど、なのはママとユーリ、二人の魔法を見た瞬間、それをすっかり忘れてしまった。
-side end-
-side はやて-
「アクセルシューター!」
「アステルシューター!」
桜色と水色の光弾を操る二人を見る。教導官の血が騒ぐのか、嬉しそうに相手をするなのはちゃん。喜々として成長を実感し、今よりもさらに上へ行こうと必死に食らいつく悠莉。
「わぁ~~!!」
そして、そんな二人に目を奪われるヴィヴィオに目を向ける。
運がいいのか悪いのか、悠莉たちを見つけたから言えずになったけど、これはよかったことなんやろか。……わからん、でも言わなくてよかったと思ってしまっている私がおるんは否定できへん。
今となっては考えてもどうしようないことやけどつい考えてしまう。
あの日…六課襲撃の日、もしかしたら六課が半壊されることはなかったかもしれん。悠莉が言ってくれた言葉を…民間協力者になって一緒に守りたいという言葉に頷いていれば、六課も…そして悠莉もヴィヴィオもあんなことにならんやったかもしれん。悠莉の言葉はとても嬉しかった、戦力にもなると思ってしまった、せやけど、それと同時に私の弟に怪我をさせたくない、傷ついてほしくなかった。せやから悠莉に言いかせてカリムのおる聖王教会で待ってもらうことになった。
……結果だけ言ってしまえば全部傷つけてしまったんやけどな。
命がけで守ってくれて怪我をした六課のみんなや誘拐されてしまったヴィヴィオ。そして、私のせいでただ見ていることしかできず自分を悔やんだ悠莉。聖王病院でみんなの姿を見た瞬間、悠莉の雰囲気が殺伐としたものに変わった。いろんな感情がごちゃ混ぜになった目に涙を浮かべながら、今にも暴れだしそうなほどひどく荒れていた。フォワードメンバーやヴィータにシグナムが何とかしてくれんかったら悠莉は……
最終決戦の最中に問題が起こっていた。
それは第三者の介入だった。報告によれば、その人物はバイザーをかけた男性とも女性とも取れる容姿だったらしい。目的は不明。ただ、管理局に敵意はなく、ミッド地上に現れたガジェットを破壊した。
その人物はエリオとキャロの前にも現れた。
召喚虫たちを気絶させ、ルーテシアにかけられていた洗脳を一瞬で解いたらしい。話を聞こうとしたが二人を一瞥して消えてしまったという。
そして、その姿を見たもう一組で、唯一言葉を交わしたなのはちゃんとヴィヴィオ。
交わした言葉の内容は話してもらえんかったけど、レイジングハートに残されていた映像を見た。そこには驚くなのはちゃんと聖王状態のヴィヴィオを拘束して砲撃を放とうとする謎の人物。
『もう嫌なんだ…大切な誰かを失うのはもう! だから助けるんだ! ―――咎人たちに、滅びの光を。星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ。貫け! 閃光! ……ヴィヴィオ、防御を抜いて、魔力ダメージでノックダウンさせる。ちょっと痛いかもしれないけど我慢できる?』
『うん、大丈夫、だから…私を助けてっ!!』
『うん……行くよ! スターライトォ! ブレイカー!!』
映像はここまで。
謎の人物に関するものはこれ以外にはなかった。映像をもう一度再生しようとしてもレイジングハートに細工がされてたらしく、謎の人物に関するものだけがきれいさっぱりと無くなった。目撃した局員も同じようで、謎の人物に関する情報が消えていた。いまあるのは多くの局員の目撃情報だけとなった。
後々にその謎の人物が分かった。
悠莉だった。原因はヴィヴィオがうっかりフェイトちゃんに口を滑らせたことで知った。それを悠莉に伝えるとため息をつきながらも教えてくれた。説明が終わると同時に私とヴィータとシグナムの怒声が響いた。
そりゃそうや、何も言わずに戦場に飛び込んでいったなんて知ったら心配して怒るに決まっとる。その後、悠莉のことは私をはじめ、各部隊の隊長・副隊長、ヴィヴィオのみの極秘のものとなった。
これで吹っ切れたのか、悠莉はフォワードメンバーと一緒に訓練を参加するようになった。見た感じ、一生懸命頑張ってるように見える反面、無理をしているようにも感じた。
「……力がなければ何も守れないから…大切な人たちを守れる大きな力がほしい。それにいざという時に手札は多いにこしたことはない、か」
あの時、何を選んだら正しかったんかはわからん。だけど悠莉にあんな思いをもうさせへん。そのためにも楽しそうに嬉しそうに笑っていられるように頑張らんなあかんな。
-side end-
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