ラブライブ!~夕陽に咲く花~
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第5話 Saturday of our someday
朝だ。
心地いい夢を見てる途中に目が覚めてしまうのは少々残念な気がする。
例えば僕が珍しく満点を取りそうなくらい自信のあるテストを受け、そのテストが返却される直前で目が覚める。
きっとそのくらい残念だ。
眼科には真っ白な天井があり、ふと左側を見ると薄い茶色のカーテンが外の風に吹かれてはたはたと揺れている。
僕、開けっ放しに寝ちゃったのかな......?
目覚めたばかりのぼーっとした脳を働かせるために少し考える。だけどやっぱり目覚めたばかりの脳は全然動いてくれなくて昨晩の事をほとんど思い出せない。強いて言うなら夕飯を食べた後に凛と常連のラーメン屋に行って普通盛りサイズの醤油ラーメンに僕は大苦戦させられた。それくらいだ。
その後凛を家に送った後、気絶するかのように家のベッドに倒れ込んだ。
じゃあ......窓やっぱり閉め忘れだな。
ようやく頭が動き出したようだ。
そういえば僕の右腕全体に妙な圧力を感じ、そしてしびれてる気がする。昨晩の記憶を辿りながら僕はふと右側に顔を向ける。
「むにゃ......すぅ〜......」
多分右腕が痺れたり、圧力を感じる理由はこの子が僕の腕を枕替わりにしてすやすやと可愛い寝息を立てながら寝ているからだろう......
いつもはやんちゃでハイテンションな凛がこうして静かになっているとなんていうか......ちょっかいを掛けたくなる。
寝てる凛には申し訳ないけど、少し遊んじゃおうかな。
ちょっとした悪戯心を見せながら僕はヨダレを垂らした凛の頬に向かって軽くツンツン、と突っついてみる。
「ふにゃっ!?......むにゃ......」
凛は1度びっくりして目を覚ますがすぐ自分の世界へと戻っていった。なかなかしぶといな......と思い、今度は凛の頬を引っ張ってみる。
ほっぺが伸びた凛ちゃんが変な顔になっちゃったけど、それはそれで可愛い。
「にゃ〜......」
「はは、この顔の凛ちゃんも可愛い」
直後、びくりと反応した凛がみるみる赤く染まっていくのを見てしまった。
もしかして......
「凛ちゃん、何時まで寝た振りしてるのかな?春人くんもいつまでも寝てないでそろそろ起きてよぉ......」
「......あれ?花陽ちゃん?」
僕が予想したことを口に出した女の子がいた。
その子の声がするまで気づかなかったけど、僕の机の椅子には私服姿の幼馴染、小泉花陽が座っていた。
「おはよ、春人くん。」
「あ、うん......おはよう花陽ちゃん。どうしたのこんな朝早くから」
「朝早くじゃないよ?もう11時なるから......こんにちは?の時間かな」
「え?」
花陽に指摘されて思わず自室の時計を確認する。
指摘通り時計はきっかり10時55分を示していて、僕は首をかしげる。
そうか...僕は寝坊したのか。早寝早起きを心掛けている僕にしては珍しく、自分自身びっくりだ。
それにしても...
「そういえば二人はどうして僕の部屋にいるの?」
「春人くんやっとそのことに気づいてくれたよぅ。昨日凛ちゃんが遊ぼうって言ってたから...時間は言い忘れてたけど『きっと春くんなら九時ごろに来てくれるにゃ』って凛ちゃん言ってたし...」
「それで僕が来なかったから迎えに来たんだね...なんかゴメンね?」
ううん大丈夫だよ!っと、花陽はジェスチャーを加えながら首を横に振る。
まぁ...確かに遊ぶ約束はしたような気がする。でも凛の家で遊ぶとは聞いていても時間も集合する場所も聞いていないし、そもそも昨日の時点で教えてくれなかった凛が悪い...とは思わない。
なんでも人のせいにするのは良くない。
聞かなかった僕も悪いしお相子ってことで、
「さて、遊びに行くっていうんだから僕も準備しないとね。凛ちゃ〜ん!!起きて!起きてーっ!」
「むにゅ...大丈夫にゃ春くん、まだラーメン三杯はいけるから...」
「なんと!!昨日あんなにラーメン食べたのに夢の中でもラーメン食べてるのか!?」
僕は昨日のラーメン屋の事を思い出す。
大盛りの塩ラーメンにメンマ大盛りチャーシュー大盛り、コーン大盛りに煮卵二つ。それに比べて僕は醤油ラーメンの普通盛り。
店のおじさんは「あれがお嬢ちゃんのお気に入りの組み合わせだ」と嬉しげにそう語っていたが、僕は隣で豪快に麺を啜り、「うんまいにゃ〜♪」と山盛りのラーメンを食べる幼馴染にただただ驚くことしかできなかった。
「まぁ...凛ちゃんは僕が準備できるまで寝かせておいていいよ。」
「......え?昨日も食べたのにって......どういうこと?」
「ええと......昨日凛ちゃんのランニングに付き合ってて、帰りにラーメン屋に巻き込まれたんだ。」
「昨日......凛ちゃんランニングしてたの?」
「へ?う、うん。なんか『かよちんは勉強してるからいけないんだ』って凛ちゃんが言ってたから......」
「そ、そう......なんだね。」
......?どうしたんだろう。妙に顔が暗くなった花陽が「凛ちゃん、それは抜け駆けだよぉ......」と呟いていた......ような気がした。
敢えて僕は何も追求せず、ベッドから抜け出した拍子に剥いでしまった毛布を凛にかけ、クローゼット内の私服を取り出す。
そして、プチプチとパジャマのボタンを外したところで、
「ふぇっ!?春人くんなんでここでいきなり着替え始めるのぉ!?」
「えっ!?...だ、ダメ?」
椅子に座る花陽が、真っ赤の顔を両手で隠しながら僕に背を向ける。
「だめじゃないけど...私や凛ちゃんがここにいるんだからせめて『着替える』って言ってほしいよぉ...」
「えぇ...だって前まで着替えとか普通に見てたのに...」
「......春人くんデリカシーなさすぎ...」
最後は「春人くん」までは聞こえたけど何せ向こうを向いて話しているから聞き取れなかった。
やっぱり高校生になってからこういうことに関して二人がうるさくなったような気がする。
中学生の時も口酸っぱく言われ続けたけど、ここ最近になってさらにレベルが上がった気がする。
ちらちら僕を見る花陽は僕と目が合うたびに視線を逸らし、「早く着替えてよぉ...」とつぶやく。
「なんか...ゴメン。」
どうしたらいいのかわからないもんでして、僕は軽く謝ってすぐに着替えを始める。
最近の花陽はどうも理解できないところが多い気がするよ......
───第5話 Someday of our Saturday───
「にゃ〜......ラーメン食べすぎたにゃ......」
「凛ちゃん夢でもラーメン食べてたからね〜」
「そんなことないにゃ〜!ラーメンの他にデザートにアイスも食べてたにゃ!」
身支度を軽く済ませ、お母さんが仕事に行く前に作ってくれた朝食を食べた後、春らしい桜満開の並木道を三人並んで歩いていた。
そこまで重要視することでは無いけど、僕がリビングに行った時には既に机の上に『私は図書館で勉強してくる。花陽さんと凛さんがいるからって襲わないこと!by雫』という謎の書き置きが置いてあった。
襲う、という事が少々頭に残るけど要はケガさせないように!ということだろう。
何だかんだ言ってやっぱり優しい妹だよなぁ〜と、自慢の妹に感謝の気持ちを送った。
ちなみに凛ちゃんは朝食後、花陽と協力して毛布に張り付いていた彼女を引っぺ返して強制的に起床させた。
僕を起こしに来たはずなのに......
「これから凛ちゃんの家に遊びに行くの?」
今日の予定を凛に尋ねる。
しかし、返ってきた内容が僕が聞いたのと違っていた。
「今日はりんの家で遊ぶ前に神社にお参りに行くにゃ〜」
「神社に?この近くにあったっけ?」
「うん、あるんだ。ここから少し離れたところに神田明神っていう神社が。」
「は〜......凛ちゃんのランニングコースの通りにあるっていうあの?」
「うん、あの神社にゃ」と凛が僕達の前をステップで歩きながら答える。
───神田明神
僕達三人が向かっている先にある神社は、東京都千代田区外神田二丁目に鎮座する神社でそこにたどり着くまでにかなりの石階段を登らなければならないという地獄の神社で有名だ。
僕も何度か行ったことがあるらしいが、如何せん幼稚園とか小学生の時の話なので覚えてない。
ただ、石階段は記憶の片隅に残ってるような気がする。
「花陽ちゃんは覚えてる?」
「うん覚えてるよ♪春人くんが泣きながら階段上った姿が可愛かったなぁ〜♪」
はふぅっと妙に艶かしい表情でそんな事を言い出す。全然覚えないけど、そうか、僕は泣きながら噂の階段を上ったのか......
だとしたら心してかからないとな。気持ちを引き締めて正面を見据える。
「春人くん、ここだよ。」
「ここ?......な、長いね」
「そうかにゃ?」
僕と花陽はちょっと怖気付いた目で、凛は頭の後で手を組みながら呑気そうに欠伸をする。
角度は80度くらいで見上げる先には古ぼけた鳥居が君臨している。
「さぁ、行っくにゃ〜!!」
「へっ!?ちょ、早いって!」
「凛ちゃぁ〜ん!!」
僕と花陽がぼーっとしてる間にも凛がスタスタと石階段を上っていく。僕らもその後に続いて......
階段を上ったけど僕と花陽が凛と違うところ、それは日頃運動してるかそうでないかの違いだ。今日まで運動を続けてきた凛は長い石階段を軽々と攻略し、比較的文化系の僕や花陽は汗をかきながら、ようやく鳥居まで着いたころには「2人とも遅いにゃ〜」と言われる始末。
「だ、だって......運動なんてに、苦手だから......」
「ふぅ....はぁ....汗、かいちゃったよぉ」
花陽はハンカチで汗を拭った後、カバンから汗ふきシートを取り出して後始末をする。花陽からふんわりとフローラル系の香りが漂う。
僕も汗をタオルで拭い、この前花陽たちに買えと言われて購入した制汗剤で匂いを誤魔化す。
そんな二人に比べて汗一つかいてない凛が羨ましい。
「ここだよ春くん、かよちん。」
「はぁ....はぁ......ここ?」
凛が指差した方を見る。
どこにでもありそうな極普通の神社。だけど、なんとなく僕の記憶の中にあるような気がする。
確信は持てないけど、三人で遊んだこともあるかもしれない。
鳥居をくぐり、境内内に入ると僕はここがどういう神社か知らないことに気付く。
「ここは.....どういう神社?」
「ん〜わかんないにゃ。多分なんでもお祈りできるんじゃないかにゃ?」
「へぇ〜凛ちゃん物知りなんだねー」
凛は鼻高々にえっへんと大きく胸を張る。花陽も僕も特に言及せずに神前まで歩き、着いたところでお参りする時のルールを確認する。
「ねぇ、お参りの正しいルールって二礼二拍手一礼で良いんだよね?」
「他にも色々しなきゃいけないルールはあるんだけど...すっとばしてきてるんだよねぇ」
「そうなのかにゃ?というか『にれいにはくしゅいちれい』ってなに?」
そもそも凛は『二礼二拍手一礼』すら知らないらしい。とりあえず大まかな事を花陽が凛に教え、ようやく参拝らしくなってきた。
気を取り直し、神前に立って作法に準じてお参りをする。
二拍手の間みんなはどんな事を考えてるのか薄目で2人をチラリと見る。
花陽は真剣に何か呟きながら祈り、凛ちゃんは口元を見ただけで何を祈ってるのかわかった。
「ラーメンお腹いっぱい食べられますように」だと思う。
各々自由に願ってるので僕も自由に......
(僕の願いって....なに?)
───二人が楽しい高校生活を送れますように?
僕は常日頃二人が笑顔で高校生活を送れることを願っていた。 そのために今日までずっと行動してきたし支えてきた。
不良に絡まれた時も...ボロボロにされたけど、最善の道はつくってきた。
進路に悩んでいたときもどうすればいいのか一緒に悩んで、考えて、そして、結論を出してきた。
また受験の時も二人を合格させるために必死に勉強をした。
凛は英語、花陽は公民が苦手だったから僕はその二科目を重点的に猛勉強をし、考え方や解き方をアドバイスしてきた。
僕自身も勉強は苦手だったけど二人の為に勉強をしたおかげで自分の力にもなったし、彼女たちも合格できて一石二鳥の成果をだすことができた。
これもすべて、彼女達の為にやったことであり、僕のやりたいことだったから。
...でも、なにかが違う。
僕の願いや希望は花陽や凛のソレらと比べるとなにかが違うような気がする...
(僕は...?)
...わかんない。
───大好きな二人の傍にいること?
幼馴染の花陽と凛。
僕にとってなくてはならない大切な、それこそ兄妹のように一緒に過ごしてきた幼馴染であり、親友の彼女達。
そんな二人が僕の傍から離れていったら...僕はどうなるんだろう...?
いや、そういう考えはよくない。いつかは僕も花陽も凛も、自分の進路に向けてここから離れていく。
それは仕方ないことであり、運命でもある。
...仕方ないことだとわかっているけど、すごく胸がモヤモヤする。
(...まぁ、今思いつく簡単なお願い事でいいかな?)
三人でお願い事を始めてからこの間僅か数秒。
珍しく頭がフル回転したなぁ、と感心しながら僕も目を瞑って願い事をする。
───三人で楽しい高校生活を過ごせますように。
と。
「ねぇ凛ちゃん!春人くん!あそこで縁結びとかのお守りを売ってるんだって。行ってみようよ~。」
「”縁結び”?なに?かよちん好きなオトコノコとかいるのかにゃ!?」
「ち、違うよぉっ!ただ例として挙げただけで———」
「これは一大事だにゃ春くん!かよちんの周りに遂にオトコノコの気配だにゃ〜!!」
「ふぇぇっ!?な、なんでそうなるのぉ!?うぅ...ダレカタスケテェ〜ッ!!」
願い事をしてから僕たちは境内内を散策していた。特に目立つところはないけど、花陽が目にした先にはお守りをはじめとするグッズが多数並べられていて、その中の”縁結び”を例えにだした花陽は凛に翻弄されていた。
それこそ、いつものように...
「にゃ~?かよちんの好みの男の子はどんな子なのかにゃ~?見せてにゃ〜!」
「ふぇぇっ!?だから凛ちゃん違うってばぁ〜っ!!」
追いかけられる花陽と追いかける凛。
二人のじゃれ合いを横目で見ながら、並べられたグッズに目を通していく。
縁結び、合格祈願、交通安全、安産守、学業成就のお守り。
どこの神社や寺院にもありそうなモノばかりだった。
───二人の為に何か”お受けしてこようかな”。
と、僕は”学業成就”と彫られていた三本の鉛筆セットを手に取る。
赤、緑、青の鉛筆はなんとなく”信号機”を連想させた。
あれ...?順番ってどうだったっけ?
これが所謂”ど忘れ”というものである。
「お兄さんは勉強が苦手なん?」
「え?」
唐突に女性の声が奥から聞こえ顔をあげる。
その先には巫女姿の長髪の女性が僕を見て微笑んでいた。
「えっ...と。」
「それとも、後ろの可愛らしい女の子たちのため?」
紫の綺麗な髪を揺らしながら巫女さんは尋ねる。
いきなり声をかけられて内心バクバクの僕は「えぇ、まぁ...はい」と誤魔化しながら返答する。
「それにしても可愛らしい彼女さん達やね?もしかしてどっちも本命なん?お兄さんモテそうやからな〜。」
そう言いながらやけにフレンドリーな巫女さんは何故か楽しそうに小指を出しながらグイグイ質問をしてくる。
そして関西出身なのだろうか...妙に違和感のある関西弁を行使する。
「全然違いますよ、彼女たちは僕の幼馴染で今年から高校一年生のピカピカな女の子たちなんです。」
「なるほどなぁ〜、ウチも二年前はピカピカの高校一年生だったんやで?そんなウチは二年経った今、高校三年生で音ノ木坂の副会長をやってるんや。時が経つのは早いんなぁ〜。」
なるほど...この巫女さんは先輩だったのか。と、いうことはアルバイトとしてここで働いてるのだろうか。
終始ニコニコ笑ってる巫女さんは「そうやね〜もしお二人さんにプレゼントするんやったら...」とグッズを眺め、
「こんなんとかどうやろか?」
たくさんの中から『開運護符』と書かれた護符を勧めてきた。
「開運...、いいですね。これ、花陽ちゃんも凛ちゃんも喜びそうだ。」
「ウチのスピリチュアルパワー入ってるから効果絶大よ〜♪」
「すぴ...ま、まぁわかりました。これを二つください。」
「ありがとなぁ〜。それと、”スピリチュアル”やで?」
巫女さんの通称”すぴりちゅあるパワー”の入った護符を受け取り、財布から二千円を取り出して巫女さんに渡す。
「む~残念にゃ!かよちんのスマホからオトコノコの気配はなかったにゃ!」
「ひっ!って...凛ちゃんか。驚かせないでよ...。」
「春くん何”買った”のかにゃ?」
「それは後のお楽しみ。ところで花陽ちゃんは?」
「かよちんならそこで座ってるにゃ!」
いきなり後ろから声をかけてきた凛は僕の手元をのぞき込んで中身を確認しようとする。振り返ると凛に振り回された花陽が椅子に座ってぐで~っとバテていた。どうやらかなり凛に弄られたらしい...。
「花陽ちゃ~ん、大丈夫〜?」
「は、はひ〜。い、今行くよぉ〜」
ちょっとお疲れ様子の花陽ちゃんが目をクルクルさせながら僕のところまで歩いてくる。
大丈夫かなぁ...と思ったのもつかの間、
「きゃあっ!」
「へっ?」
おぼつかない足取りで歩いてたからやっぱり躓いてしまった。
僕は花陽の肩を引っ張って転ばないように支える。ボフッと花陽の体が僕の体にすっぽり収まり、まるで僕が彼女を背中から抱きしめているかのような図。
その拍子に花陽のさらさらな髪が僕の周りを漂い、鼻孔をくすぐる。
───花陽ちゃんってこんなに女の子らしい匂いするんだっけ?
たった数年でここまで変わるものなのか...。
と、幼馴染の成長に少しばかり嬉しい僕だった。
「大丈夫?」
「......」
「花陽ちゃん?」
「え?」
こちらに振り向いた花陽が真っ赤になっていた。
強く抱きしめすぎてしまったのだろうか...
「ケガしてない?気を付けるんだよ。」
「う...うん、大丈夫だよ。あ、ありがとう...」
なんとなく気まずくなってしまい、僕も目を泳がせながら巫女さんからお釣りを受け取る。
巫女さんはというとなぜかニヤニヤしながら、
「お兄さんラブラブやんな〜。」
と、言ってくるまであった。凛はなんか僕を睨みながらぶうっと頬を膨らませている。
僕はどうリアクションしたらいいかわからず、とりあえず苦笑いを凛と巫女さんに振りまく。
未だにこっちの世界に戻ってこれない花陽は「...ふえ...抱きしめられちゃった。」とつぶやいていた。
どうしたらいいか...と迷っていたところに、
「あれ?」
「ん?どうしたの凛ちゃん、巫女さんを見て...」
「いや...巫女さん、どこかで見たことがあるような気がするんだけど...」
「そうなの?」
凛の意外な記憶力と巫女さんを交互に見比べ、僕も記憶を辿るけど全然そんな覚えはなかった。
一体どこで凛は出会ったというのだろうか...
「巫女さんは高校生かにゃ?」
「そうやで、ウチは音ノ木坂の高校三年生で副会長の東條希っていうんよ〜。よろしくなぁ星空凛ちゃん♪」
「え!?なんでりんの名前知ってるんですか?」
「それはウチが副会長やからで♪」
この巫女さん...東條さんはなにやら凄そうな人だ。副会長で全校生徒の中の一年生...しかも『星空凛』という一人の女の子を特定したのだから...
どんな方法で凛を知ることができたんだろうか......。
「あの、一体どうやって───」
東條さんに質問しようとしたとき、
「希〜っ!お待たせ〜!少し生徒会室で資料まとめてたら遅れちゃったわ!」
石段の方から澄んだ綺麗な声が聞こえた。
僕と凛は声の持ち主の方へ顔を向ける。
そこには......
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