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英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)

作者:sorano
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第44話

~遊撃士協会・ルーアン支部~



「いらっしゃい。遊撃士協会へようこそ!おや、クローゼ君じゃないか。」

エステル達がギルドに戻ると先ほど席を外していたルーアンの受付――ジャンがクロ―ゼの姿を見て、声をかけた。

「こんにちは、ジャンさん。」

「また、学園長の頼みで魔獣退治の依頼に来たのかい?ああ、判った!学園祭の時の警備の依頼かな?」

「いえ、それはいずれ伺わせて頂くと思うんですけど。今日は、エステルさんたちに付き合わせて貰っている最中なんです。」

「あれ、そういえば……。学園の生徒じゃなさそうだけど。……待てよ、その紋章は……」

クロ―ゼの言葉にジャンはエステル達の服装とエステルとヨシュアの左胸についている準遊撃士の紋章に気が付いた。そしてエステル達が自分達の顔がよく見えるように、受付に近付いた。

「初めまして。準遊撃士のエステルです。」

「同じく準遊撃士のヨシュアです。」

「お二人の旅に同行させてもらっているプリネです。こちらは私の姉代わりのエヴリーヌお姉様です。」

「ん、よろしく。」

「余がリフィアだ!ジャンとやら、よろしく頼むぞ!」

「ああ、君達がエステル君とヨシュア君か!それにあなた達がメンフィルのひ……おっとと……失礼。君達がサポーターを申し出てくれたメンフィルの方達だね。いや~、ホント良く来てくれた!ボース支部から連絡があって今か今かと待ちかねていたんだ。」

エステル達が来た事に嬉しいジャンは事情を知らないクロ―ゼがいることに気付かず、思わずリフィア達の事を言いそうになったが、すぐに気付き言い直して答えた。



「そっか、ルグラン爺さん、ちゃんと連絡してくれたんだ。」

「感謝しなくちゃね。」

エステルとヨシュアはすでに連絡をしていたルグランに感謝した。

「僕の名前はジャン。ルーアン支部の受付をしている。君達の監督を含め、これから色々とサポートさせてもらうよ。5人とも、よろしくな。」

「うん!よろしくね、ジャンさん。」

「よろしくお願いします。」

「はい。」

「ん。」

「うむ!」

ジャンの言葉に5人は頷いた。

「はは、君達には色々と期待しているよ。何といっても、あの空賊事件を見事解決した立役者だからな。」

「空賊事件って……。あのボース地方で起きた?私、『リベール通信』の最新号で読んだばかりです。……そう言えば先ほどエステルさん達がハイジャック事件を担当したとおっしゃていましたが、あれ、エステルさんたちが解決なさったんですか?」

ジャンの言葉を聞いたクロ―ゼは驚いた表情でエステル達を見た。

「あはは、まさか……。手伝いをしただけだってば。」

「実際に空賊を逮捕したのは王国軍の部隊だしね。」

「ええ、私達がした事は人質の安全を確保したぐらいです。」

クロ―ゼに驚かれ、エステルは照れ、ヨシュアとプリネは実際自分達がやった事を話した。



「謙遜することはない。ルグラン爺さんも誉めてたぞ。さっそく転属手続きをするから書類にサインしてくれるかい?さあさあ、今すぐにでも。」

ジャンはいつの間にか書類を出して、エステル達を急かした。

「う、うん……?」

「それでは早速。」

「うんうん、これで君たちもルーアン支部の所属というわけだ。いやぁ、この忙しい時期によくルーアンに来てくれたよ。ふふ……もう逃がさないからね。」

2人のサインを確認したジャンは含みのある言葉で笑った。

「な、なんかイヤ~な予感。」

「先ほどから聞いてるとかなり人手不足みたいですね。何か事件でもあったんですか?」

ジャンの言葉を聞いたエステルは弱冠不安になり、ヨシュアは気になって尋ねた。

「事件という程じゃないけどね。実は今、王家の偉い人がこのルーアン市に来ているのさ。」

「王家の偉い人……。も、もしかして女王様!?」

ジャンの言葉にエステルは受付に身を乗り出して期待した目で尋ねた。

「はは、まさか。王族の1人であるのは間違いないそうだけどね。何でも、ルーアン市の視察にいらっしゃったんだとさ。」

(……お姉様、リベールの王族でアリシア女王陛下以外の方達は確か……)

(うむ。アリシア女王陛下の孫であるクロ―ディア姫ともう一人は確か……甥のデュナン公爵という者だったな。)

エステルの疑問にジャンは苦笑しながら答えた。また、プリネはリフィアにリベール王家の人間に関して小声で確認した。



「へー、そんな人がいるんだ。でも、それがどうして人手不足に繋がっちゃうの?」

「何と言っても王家の一員だ。万が一の事があるといけないとダルモア市長がえらく心配してね。ルーアン市の警備を強化するよう依頼に来たんだよ。」

「なるほど、先ほど2階で話し合っていた一件ですね。それにしても市街の警備ですか。」

「まあ、確かに港の方には跳ねっ返りの連中がいるからね。そちらの方に目を光らせて欲しいという事だろう。」

ジャンはダルモアに頼まれた事を思い出し、溜息をついた。

「跳ねっ返りって……。さっき絡んできた連中のことね。うーん、確かにあいつら何かしでかしそうな感じかも。」

「なんだ、知っているのかい?」

事情を知っている風に見えるエステルに不思議に思ったジャンは尋ねた。

「実は……」

そしてエステル達はジャンに先ほどの出来事を話した。



「そうか……。倉庫区画の奥に行ったのか。あそこは『レイヴン』と名乗ってる不良グループのたまり場なんだ。君たちに絡んできたのは、グループのリーダー格を務める青年たちだろう。」

「『レイヴン(渡りカラス)』ねぇ……。なーにをカッコつけてんだか。」

ロッコ達のグループ名を知ったエステルはロッコ達がグループ名に負けていると思い、呆れた表情をした。

「少し前までは大人しかったんだが最近、タガが緩んでるみたいでね。市長の心配ももっともなんだが、こちとら、地方全体をカバーしなくちゃならないんだ。……とまあ、そんなワケで本当に人手不足で困っていてね。君たちが来てくれて、感謝感激、雨あられなんだよ。……特にメンフィルのお嬢さん達には期待しているよ。なんたって3人は僕達人間より身体能力が遥かに高く、魔術も使える”闇夜の眷属”なんだから。」

「フフ、まだまだ修行中の身ですが精一杯がんばらせていただきます。」

「余がいるのだ!大船に乗った気分でいるといい!」

「ま、疲れない程度にがんばってあげる。」

「あたしとヨシュアも3人に負けないようがんばるわよ!それじゃあ、明日からさっそく手伝わせてもらうわ。」

「何かあったら僕たちに遠慮なく言いつけてください。」

「ああ、よろしく頼むよ!」

そしてエステル達は英気を養って明日に備えるため、ギルドを出てホテルに向かい、部屋を取った後クロ―ゼを街の入口まで送り、ホテルに戻った。

ホテルに戻ったエステル達は運良く取れた最上階の部屋のバルコニーで景色を見て、堪能している所部屋の中から聞き覚えのない声が聞こえて来た。



~ルーアン市内ホテル・ブランシェ・最上階~



「ほほう……。なかなか良い部屋ではないか。」

「なに、今の?」

「うん、部屋の中から聞こえてきたみたいだけど……」

(ん……?どこかで聞き覚えのある声だな……?)

部屋の中から偉そうに話す男性の声にエステルとヨシュアは首を傾げ、リフィアは聞き覚えのある声に訝しんだ。

「それなりの広さだし調度もいい。うむ、気に入った。滞在中はここを使うことにする。」

「閣下、お待ちくださいませ。この部屋には既に利用客がいるとのこと……。予定通り、市長殿の屋敷に滞在なさってはいかがですか?」

豪華な服を着ている男性に執事服を着た老人が自分の主である男性を諌めていた。

「黙れ、フィリップ!あそこは海が見えぬではないか。その点、この海沿いのホテルは景観もいいし潮風も爽やかだ。バルコニーにも出られるし……」

男性が執事――フィリップを怒鳴った後、バルコニーに向かおうとした時、バルコニーにいるエステル達の存在に気がついた。

「な、なんだお前たちは!?賊か!?私の命を狙う賊なのか!?」

「何をいきなりトチ狂ったこと言ってるのよ。オジサンたちこそ何者?勝手に部屋に入ってきたりして。」

(リベールの王族がルーアンに滞在していると聞いたが…………よりにもよってこ奴か。道理で聞き覚えはあるが聞きたくない声だと思った。)

エステル達の姿を見て慌てている男性にエステルは注意し、男性の身なりと顔を見て男性の正体がわかったリフィアは溜息をついた。

「オ、オジサン呼ばわりするでない!フン、まあよい……。お前たちがこの部屋の利用客か?ここは私が、ルーアン滞在中のプライベートルームとして使用する。とっとと出て行くが良い。」

「はあ?言ってることがゼンゼン判らないんですけど。どうして、あたしたちが部屋を出て行かなくちゃならないわけ?」

「事情をお伺いしたいですね。」

「「「…………」」」

自分達に理不尽な命令をする男性にエステルとヨシュアは顔をしかめて尋ねた。また、男性の言動にプリネは表情を硬くし、エヴリーヌとリフィアは男性を睨んだ。



「フッ、これだから無知蒙昧(むちもうまい)な庶民は困るのだ……。この私が誰だか判らぬというのか?」

「うん、全然。なんか変なアタマをしたオジサンにしか見えないんだけど。」

自信を持って答える男性にエステルはあっさりと否定した。

「へ、変なアタマだと……!」

「エステル……。いくら何でもそれは失礼だよ。個性的とか言ってあげなくちゃ。」

「なるほど、物は言いようね♪」

「キャハッ♪別にこんな人間にエヴリーヌ達が気を使う必要はないよ♪」

「うむ!エヴリーヌの言う通りだな!」

「み、みなさん………お気持ちはわかるのですが、そんな挑発をするような言葉はできればやめたほうが……」

普段礼儀のいいヨシュアまで遠回しに男性を貶したのでプリネが呆けている男性を横目で一瞬見た後、一人でエステル達を諌めようとした。

「ぐぬぬぬぬ……。フッ、まあ良い。耳をかっぽじって聞くが良い。……私の名は、デュナン・フォン・アウスレーゼ!リベール国主、アリシアⅡ世陛下の甥にして公爵位を授けられし者である!」

怒りを抑えていたが、とうとう我慢できなく男性――デュナンは自分の身分と名前を威厳がある声で叫んだ。



「………………………………」

「………………………………」

「………………誰?」

(……リフィアお姉様、今の方がおっしゃたことは本当なのですか?)

(ああ、残念ながらな……一度だけ会った事はあるがあの横柄な態度や自分勝手な性格は全く変わっていないな……)

デュナンの名乗りを聞いたエステルとヨシュアは口をあけたまま何も言わず、エヴリーヌは首を傾げ、プリネはリフィアに小声で確認した。

「フフフ……。驚きのあまり声も出ないようだな。だが、これで判っただろう。部屋を譲れというそのワケが?」

「ぷっ……」

「はは……」

「キャハ……」

「あはははははは!オジサン、それ面白い!めちゃめちゃ笑えるかも!よりにもよって女王様の甥ですって~!?」

「あはは、エステル。そんなに笑ったら悪いよ。この人も、場を和ませるために冗談で言ったのかもしれないし。」

「キャハハハ………!」

デュナンは威厳ある声で言ったがエステルやヨシュア、エヴリーヌは笑いを抑えず大声で笑った。



「こ、こ、こやつら……」

デュナンは笑っているエステル達を見て、拳を握って震えた。

「……誠に失礼ながら閣下の仰ることは真実です。」

そこに今までデュナンの後ろに控えていたフィリップがエステル達の前に出て来て答えた。

「え……」

エステル達は笑うのをやめてフィリップを見た。

「これは申し遅れました。わたくし、公爵閣下のお世話をさせて頂いているフィリップと申す者……。閣下がお生まれになった時からお世話をさせて頂いております。」

「は、はあ……」

フィリップの言葉にエステルは状況をよく呑みこめず聞き流していた。

「そのわたくしの名誉に賭けてしかと、保証させて頂きまする。こちらにおわす方はデュナン公爵……。正真正銘、陛下の甥御にあたられます。」

(し、信じられないけど……。そのオジサンはともかく、あの執事さんはホンモノだわ)

(そういえばジャンさんが言ってたね……。ルーアンを視察に来ている王族の人がいるって……)

「ふはは、参ったか!次期国王に定められたこの私に部屋を譲る栄誉をくれてやるのだ。このような機会、滅多にあるものではないぞ!」

小声で会話をし始めたエステルとヨシュアを見て、デュナンは高笑いをしてエステル達に再び命令した。

「ふ、ふざけないでよね!いくら王族だからといってオジサンみたいな横柄な人なんかに……!それにこっちにだって……」

「あいや、お嬢様がた!どうかお待ちくださいませ!」

デュナンに言い返そうとしたエステルにフィリップは駆けつけて大声で制した。

「え?」

「しばしお耳を拝借……」

そしてフィリップはデュナンに聞こえないように壁際までエステルたちを誘導した。



「失礼ながら、お嬢様がたにお願いしたき儀がございます。これで部屋をお譲り頂けませぬか?」

フィリップは懐から札束になったミラを取り出してエステル達に差し出した。

「し、執事さん……」

「何もそこまで……」

「閣下は一度言い出したらテコでも動かない御方……。それもこれも、閣下をお育てした私めの不徳の致すところ……。どうか、どうか……」

フィリップは土下座をする勢いで何度もエステル達に頭を下げた。

「……そこの執事。余の顔に見覚えはないか。」

フィリップが何度も頭を下げている所、今まで黙っていたリフィアが声をかけた。

「ハ……?」

リフィアの言葉にフィリップは頭を下げるのをやめて、リフィアの顔をよく見た後驚愕した。

「なっ………!?そ、そんな!?なぜ貴女様がここに……!?」

「今はそんなことはどうでもよい。あの放蕩者は一度会っているにも関わらず余の事をわからない上、今の発言……リベールは余を馬鹿にしているのか……?」

「そ、それは………」

威厳を纏って語るリフィアを見て、フィリップは顔を青褪めさせた。そしてフィリップはその場で土下座をしてリフィアに嘆願した。

「申し訳ありません……!これも閣下をお育てした私めの不徳の致すところ……ですので決して我が国は救世主であり、また同盟国の皇族であるリフィア殿下を貶してなどいません……ですから殿下の怒りは閣下に代わりまして私が全て受けます!どうか、どうか……!」

フィリップは土下座をした状態で床にぶつけるかの勢いで何度も頭を下げた。

「ふう、仕方ないか……。あんまり執事さんを困らせるわけにもいかないし。」

「リフィアも許してあげてくれないかな?全てフィリップさんが悪い訳ではないと思うよ?」

「…………お前達がそう言うのなら余も怒りをここで収めるか………さすがにこのような素晴らしい部屋を血で染める訳にもいかぬし、ここで力や権力を振るえば余はあの放蕩者と同等になるしな……」

エステルは溜息をついて部屋を譲る事を言い、ヨシュアに諌められたリフィアも溜息をついて答えた。

「エヴリーヌお姉様も我慢できないでしょうが、お願いします。」

「ん。お兄ちゃんからもいくらムカつく相手でも無暗に人を殺してはダメって言われているしね。」

「フィリップさんの誠意は十分僕達やリフィアに伝わりましたから、頭を上げて立って下さい。部屋はお譲りします。ただ、そのミラは受け取れません。」

「し、しかしそれでは……」

「いいっていいって♪リフィア達にとっては大した部屋じゃないかもしれないけど、あたしやヨシュアにはちょっと豪華すぎる部屋だし。あのオジサンのお守り大変とは思うけど頑張ってね♪」

「お、お嬢様がた……。どうも有り難うございます。」

フィリップはエステル達の懐の広さに感動してお礼を言った。



その後最上階の部屋をデュナンに譲ったエステル達はホテルの受付に空き部屋を聞いたが部屋はなく、困っていた所をナイアルが通りかかりナイアルの好意でナイアルが取っている部屋に一晩泊めてもらった。リフィア達がメンフィルの貴族と知ると、ナイアルは興味ありげな表情で追及したがヨシュアが誤魔化し、またリフィア達の取材の許可は大使館で取る必要があると言うと、引き下がった。そしてその翌日ギルドに行くとマーシア孤児院が火事になった知らせが届き、エステル達は孤児院に住むテレサや子供達の安否、火事の現場を調べるために急いでマーシア孤児院に向かった……… 
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