英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)
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第43話
クロ―ゼを加えたエステル達は途中で出会う魔獣も簡単に倒し、ようやく目的地であるルーアンに到着した。
~ルーアン市内・北街区~
「うわ~……。ここがルーアンか。なんていうか、キレイな街ね。」
「海の青、建物の白……。眩しいくらいのコントラスト。まさに海港都市って感じだね。」
「ええ……風景に合わせた建築物、素晴らしい街ですね……」
「ああ………我が祖国では決して見る事のできない景色だな……」
「よくわかんないけど、エヴリーヌもこの街、キレイだと思う。」
初めて見るルーアンの景色にエステル達は見惚れた。
「ふふ、色々と見所の多い街なんです。すぐ近くに、灯台のある海沿いの小公園もありますし。街の裏手にある教会堂も面白い形をしているんですよ。でも、やっぱり1番の見所は『ラングランド大橋』かしら。」
「『ラングランド大橋』?」
観光名所を挙げていったクロ―ゼの言葉のある部分が気になったエステルは首を傾げて尋ねた。
「こちらと、川向こうの南街区を結ぶ大きな橋です。巻き上げ装置を使った跳ね橋になっているんですよ。」
「跳ね橋か……。それはちょっと面白そうだな。」
「うむ。橋が上がる所をぜひ見なければな!」
クロ―ゼの答えを聞いたヨシュアは興味深そうに呟き、リフィアもヨシュアの言葉に頷いた。
「あと、遊撃士協会の支部は表通りの真ん中にあります。ちょうど大橋の手前ですね。」
「オッケー。まずはそっちに寄ってみましょ。」
そしてエステル達はルーアンの支部に向かった。
~遊撃士協会・ルーアン支部~
「こんにちは~、って。あれ、受付の人は?」
元気よく挨拶をしながら入って来たエステルは受付に誰もいないことに気付き、呟いた。
「おや、お嬢ちゃんたち。なにか依頼でもあるのかい?」
そこに掲示板を見ていた女性がエステル達に気付き尋ねた。
「あ……」
「受付のジャンは2階で客と打ち合わせ中なんだ。困ったことがあるならあたしが代わりに聞くけど?」
「えっと……。客じゃないんだけど。」
女性はエステルの胸についている準遊撃士の紋章に気がついた。
「ん、その紋章……。なんだ、同業者じゃないか。あたしの名はカルナ。このルーアン支部に所属してる。見かけない顔だけど新人かい?」
「うん。あたしは準遊撃士のエステル。」
「同じく準遊撃士のヨシュアです。よろしくお願いします。」
「エステルさん達の旅に同行させてもらっているプリネと申します。よろしくお願いします。こちらは幼い頃から姉代わりになってくれているエヴリーヌお姉様とリフィアお姉様です。」
「よろしく。」
「余がリフィアじゃ!カルナとやら、余の活躍を楽しみにしてるがよい!」
女性遊撃士――カルナにエステル達はそれぞれ名乗った。
「エステルとヨシュア……それにプリネにエヴリーヌ、リフィア……そうか、あんたたちがロレントから来た新人とメンフィルのサポーター達だね?ボースじゃ、シェラザードと大活躍したそうじゃないか。」
カルナは少しの間考え、エステル達の事を思い出してエステル達を褒めた。
「ほう……もう、余達の活躍が広まっているのか。」
「あ、あはは……。それほどでもないけど。」
「僕たちが来ることをご存じだったんですか?」
「ああ、ジャンのやつが有望な新人とサポーターが来るって言ってたからね。しかし、転属手続きをするなら彼の用事が終わらないとダメだねぇ。しばらく、街の見物でもして時間を潰してきたらどうだい?」
「そうですね……。ただ待っているだけも何ですし。」
「あたしも賛成!あ、そうだ……。ね、クロ―ゼさん。良かったらもう少し付き合ってくれないかなぁ?せっかく知り合いになれたのにここでお別れも勿体ないし……」
カルナの提案にヨシュアとエステルは頷き、クロ―ゼに尋ねた。
「あ……喜んで。お邪魔じゃなかったらぜひご一緒させてください。」
「やった♪」
「決まりだね。それじゃあ僕たち、ルーアン見物に行ってきます。」
クロ―ゼの答えにエステルは喜び、ヨシュアはカルナに出直す事を言った。
「ああ、楽しんでおいで。」
そしてエステル達はクロ―ゼの案内でルーアン市内の見物を始めた。
その後クロ―ゼの案内でさまざまな所を見て廻ったエステル達はギルドに戻るために南街区と北街区を結ぶラングランド大橋に向かおうとした時、ガラの悪そうな男性3人に呼び止められた。
~ルーアン市内・南街区~
「待ちな、嬢ちゃんたち。」
「え、あたしたち?」
見覚えのない男性に呼び止められ、エステルは首を傾げた。
「おっと、こりゃあ確かにアタリみたいだな。」
男性の中で緑の髪を持つ不良――ディンがエステルやプリネ達の容姿を見て喜んだ。
「ふん、珍しく女の声が聞こえてきたかと思えば……」
3人の中でリーダー格に見える不良――ロッコが鼻をならしてエステル達の顔を一人一人ジックリ見た。
「あの、なにか御用でしょうか?」
「へへへ、さっきからここらをブラついてるからさ。ヒマだったら俺たちと遊ばないかな~って。」
クロ―ゼに尋ねられ、答えたディンは下品な口調で答えた。
「え、あの……」
「やれやれ……余達がお前達ごときと釣り合うと思っているのか?」
「寝言は寝て言え……だね♪」
「お、お二人とも!そんな角が立つような言い方をしなくても……」
ディンの答えにクロ―ゼは困惑し、リフィアとエヴリーヌは辛辣な事を言い、プリネは姉達の言動に慌てた。
「なによ、今時ナンパ~?悪いけど、あたしたちルーアン見物の最中なの。他をあたってくれない?」
「お、その強気な態度。オレ、ちょっとタイプかも~♪」
呆れた様子で答えるエステルに最後の不良の一人――レイスも下品な顔と口調で答えた。
「ふえっ!?」
レイスの言葉にエステルは驚いて声を上げた。
「見物がしたいんだったら俺たちが案内してやろうじゃねえか。そんな生っちろい小僧なんか放っておいて俺たちと楽しもうぜ。」
「………………………………」
ロッコがヨシュアを見て辛辣な事を言った。辛辣な事を言われたヨシュアは何も言い返さず黙っていた。
「ちょ、ちょっと!何が生っちろい小僧よ!?あんたたちみたいなド素人、束になってもヨシュアには……」
「いいよ、エステル。別に気にしてないから。君が怒っても仕方ないだろ?」
ロッコの言葉に頭がきたエステルは怒って言い返そうとしたがヨシュアに制された。
「で、でも……」
ヨシュアに制されたエステルは納得がいかない表情をしていた。
「なに、このボク……。余裕かましてくれてんじゃん。」
「むかつくガキだぜ……。ガキの分際で上玉5人とイチャつきやがって。」
「へへ、世間の厳しさってヤツを教えてやる必要がありそうだねぇ。」
ロッコ達はゆっくりとヨシュアに歩み寄った。
「ちょ、ちょっと……!」
「や、止めてください……!」
「「「………………」」」
歩み寄って来るロッコ達にエステルとクロ―ゼは叫び、プリネは無言でレイピアをいつでも抜けるように剣の柄に手を置き、リフィアとエヴリーヌはロッコ達を睨んで片手に魔力を集め始めた。
「……僕の態度が気に入らなかったら謝りますけど。彼女たちに手を出したら……手加減、しませんよ。」
3人の大人の男性を相手にヨシュアは慌てず冷静に答えた後、威圧感を出して睨んだ。
「なっ……」
「な、なんだコイツ……」
「ハ、ハッタリだ、ハッタリ!」
ヨシュアの威圧に圧された3人は思わず恐怖感で後退した。
「ヘッ、女の前でカッコ付けたくなる気持ちも判るけどな。あんまり無理をしすぎると大ケガすることになるぜ……」
恐怖から持ち直したディンがそう言った時
「お前たち、何をしているんだ!」
身なりのいい青年が大きな声で叫んで、エステル達のところに近付いた。
「ゲッ……」
「うるせえヤツが来やがったな……」
レイスとロッコは青年の顔を見て面倒くさそうな表情をした。
「お前たちは懲りもせず、また騒動を起こしたりして……。いい年して恥ずかしいとは思わないのか!」
「う、うるせぇ!てめぇの知ったことかよ!」
「市長の腰巾着が……」
青年の言葉にロッコ達は忌々しそうな表情で青年を睨んだ。
「なんだと……」
「……おや、呼んだかね?」
ロッコ達の挑発する言葉に怒りで答えようとした青年の言葉を中断するように、身なりのいい男性がやって来た。
「ダ、ダルモア!?」
「ちっ……」
男性の顔を見たロッコ達は舌打ちをして、さらに面倒くそうな表情をした。
「(だ、誰なのかな……。すごく威厳ありそうな人だけど。)」
「(ルーアン市長のダルモア氏です。お若い方は、秘書をされているギルバードさんといったかしら……)」
一方男性の事がわらかないエステルにクロ―ゼは小声で囁いた。
(ほう。あれがルーアンの市長か……)
(……リフィアお姉様はご存じでなかったのですか?)
(いや、会った事もない。余が会った事のある市長はメイベル殿を除いてロレントのクラウス市長ぐらいだ。)
メンフィルが異世界に進出してさまざまな公式の場でリウイやペテレーネ、ファーミシルスと共に顔を出しているリフィアにプリネはルーアン市長――ダルモアの事を小声で尋ねたが、リフィアは首を横に振って小声で返した。
「このルーアンは自由と伝統の街だ。君たちの服装や言動についてとやかく文句を言うつもりはない。しかし他人に、しかも旅行者に迷惑をかけるというなら話は別だ。」
「けっ、うるせえや。この貴族崩れの金満市長が。てめえに説教される覚えはねえ。」
諭すように答えるダルモアにディンはダルモアを睨んで荒い口調で答えた。
「ぶ、無礼な口を利くんじゃない!いい加減にしないと、また遊撃士協会に通報するぞ!?」
「フン……何かというと遊撃士かよ。ちったあ自分の力で何とかするつもりはないわけ?」
「たとえ通報されたとしても奴らが来るまで時間はある……。とりあえず、ひと暴れしてからトンズラしたっていいんだぜぇ。」
青年――ギルバートの言葉にレイスは鼻をならし、ロッコは腰に差しているナイフを抜いて答えた。
「悪いんだけど……。通報するまでもなくすでにここに居たりして。」
「「「な、なにぃ?」」」
しかしエステルの言葉に驚いた3人はエステルの方に向いた。
「はあ~、この期に及んでこの紋章に気付かないなんてね。あんた達、目が悪いんじゃない?」
驚いているロッコ達にエステルは溜息をつきながら左胸に飾った準遊撃士の紋章を指差した。
「そ、それは……!?」
「遊撃士のバッジ!?」
「じゃあ、こっちの小僧も……」
3人は遊撃士の紋章に驚いた後、ヨシュアを見た。
「そういう事になりますね。」
3人に見られたヨシュアも同じように左胸に飾ってある遊撃士の紋章を指差して答えた。
(ど、どうすんだ?まさかこんなガキどもが遊撃士なんて……)」
(なあに、構うもんか!遊撃士とはいえただの女子供じゃねえか!)」
(ば、馬鹿野郎!見かけで判断するんじゃねえ!ついこの間、3人がかりで女遊撃士と戦ってのされちまったのを忘れたのか!?そ、それに何と言っても……”あの人”と同じなんだぞ!?)
一方、エステル達が遊撃士とわかったロッコ達は焦って小声でどうするか会話をして、ある決断をしてエステル達の方に向いて答えた。
「きょ、今日の所は見逃してやらあ!」
「今度会ったらタダじゃおかねえ!」
「ケッ、あばよ!」
捨て台詞を言ったロッコ達は逃げるようにエステル達から離れて去って行った。
「なんて言うか……。めちゃめちゃ陳腐な捨て台詞ね。」
「まあ、ああいうのがお約束じゃないのかな?」
去って行ったロッコを見てエステルとヨシュアは苦笑した。
「済まなかったね、君たち。街の者が迷惑をかけてしまった。申し遅れたが、私はルーアン市の市長を務めているダルモアという。こちらは、私の秘書を務めてくれているギルバード君だ。」
「よろしく。君たちは遊撃士だそうだね?」
「あ、ロレント地方から来た遊撃士のエステルっていいます。」
「同じくヨシュアといいます。」
「エステルさん達の修行の旅に同行させてもらっているプリネと申します。」
「……エヴリーヌ。」
「プリネの姉のリフィアだ。」
話しかけて来たダルモアとギルバートにエステル達は自己紹介をした。
「そういえば、受付のジャン君が有望な新人やサポーターが来るようなことを言っていたが……。ひょっとして君たちのことかね?」
「えへへ……。有望かどうかは判らないけど。」
「しばらく、ルーアン地方で働かせて貰おうと思っています。」
「ほう。ジャンとやらもわかっているではないか。」
ダルモアの言葉にエステルは照れ、ヨシュアは礼儀よく答え、リフィアは口元を笑みに変えた。
「おお、それは助かるよ。今、色々と大変な時期でね。君たちの力を借りることがあるかもしれないから、その時はよろしく頼むよ。」
「大変な時期……ですか?」
ダルモアの言葉が気になったヨシュアは聞き返した。
「まあ、詳しい話はジャン君から聞いてくれたまえ。ところで、そちらのお嬢さんは王立学園の生徒のようだが……」
「はい、王立学園2年生のクローゼ・リンツと申します。お初にお目にかかります。」
「そうか、コリンズ学園長とは懇意にさせてもらっているよ。そういえば、ギルバード君も王立学園の卒業生だったね?」
「ええ、そうです。クローゼ君だったかい?君の噂は色々と聞いているよ。生徒会長のジル君と一緒に主席の座を争っているそうだね。優秀な後輩がいて僕もOBとして鼻が高いよ。」
「そんな……恐縮です。」
ギルバートの言葉にクロ―ゼは自分の事を謙遜して答えた。
「ははは、今度の学園祭は私も非常に楽しみにしている。どうか、頑張ってくれたまえ。」
「はい、精一杯頑張ります。」
「うむ、それじゃあ私たちはこれで失礼するよ。先ほどの連中が迷惑をかけたら私の所まで連絡してくれたまえ。ルーアン市長としてしかるべき対応をさせて頂こう。」
そう言って、ダルモアとギルバードは去っていった。
「うーん、何て言うかやたらと威厳がある人よね。」
「確かに、立ち居振る舞いといい市長としての貫禄は充分だね。」
去って行ったダルモアの後ろ姿を見てエステルとヨシュアは感心した。
「ダルモア家といえばかつての大貴族の家柄ですから。貴族制が廃止されたとはいえ、いまだに上流貴族の代表者と言われている方だそうです。」
「ほえ~……。なんか住む世界が違うわね。まあ、それを言ったらリフィア達もそうなんだけどね。リフィアはもちろんだけど、プリネも優しそうに見えていざという時にはなんていうか……近寄りがたい雰囲気を持っていたもんね。」
「そうだね。特にモルガン将軍に交渉した時なんて立ち振舞いや言葉遣いも含めて立派な貴族に見えたよ。」
クロ―ゼの説明にエステルは呆けた後、リフィア達を見て呟き、ヨシュアも頷いた。
「あの……先ほどモルガン将軍とおっしゃりましたが、エステルさん達は将軍とお知り合いなのですか?」
エステル達の会話で気になったクロ―ゼは恐る恐る尋ねた。
「うん。ほら少し前にあったハイジャック事件をあたし達とあたしの先輩の遊撃士の人といっしょに担当していたんだ。」
「その時、モルガン将軍と一悶着あってね。プリネやリフィアが納めてくれたんだ。」
「は、はあ、そうなんですか……(将軍、一体何をもめたんでしょうか?将軍もリフィア殿下の事はご存じのはずなのに……)」
エステルとヨシュアから軽く説明を聞いたクロ―ゼは人知れず冷や汗をかいた。
「あはは……その事は持ち出さないでいただけますか?我ながらあの時はちょっと大げさに言いすぎましたから、今でも恥ずかしいと思っているんですよ。」
「何を謙遜している、プリネ。あの時のお前は我がルーハンス家の者として立派な立ち振舞いだったぞ。」
「うん。いっつもエヴリーヌ達の後を付いて来た可愛いプリネも成長したね。やっぱりエヴリーヌやリフィア、お兄ちゃん達の教育の賜物ってやつかな?」
「お、お二人共……本当に恥ずかしいのでこれ以上はやめて下さい……」
姉達に褒められたプリネは照れた母のように顔を真っ赤にして照れた。
「あはは、いつも冷静であたし達より大人なプリネもそんな顔をするんだね♪しかし、それにしてもガラの悪い連中もいたもんね。」
「そうですね。ちょっと驚いちゃいました。ごめんなさい、不用意な場所に案内してしまったみたいです。」
「君が謝ることはないよ。ただ、わざわざ彼らを挑発に行く必要はなさそうだね。倉庫区画の一番奥を溜まり場にしていみたいだからなるべく近づかないようにしよう。」
「うーん……。納得いかないけど仕方ないか。」
ヨシュアの言葉にエステルは腑が落ちてない様子で頷いた後、エステル達は一端ギルドに戻った………
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