英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)
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第45話
エステル達がマーシア孤児院に着くと、孤児院は見るにも無残に崩れて焼け落ちて、周囲のハーブ畑は無茶苦茶に荒らされていた。
~マーシア孤児院~
「これは……」
「ひ、ひどい……」
「完全に焼け落ちてるね……」
焼け落ちた孤児院を見て、エステル達は悲痛な表情をした。
「あれ、あんたたち……?」
「ひょっとして君たち遊撃士協会から来たのかい?」
そこに焼け跡の処理をしていたマノリア村の村民らしき男性達がエステル達に気付いて話しかけた。
「う、うん……」
「皆さんはマノリアの方ですね?」
「ああ……。瓦礫の片付けをしているんだ。昨日の夜中に火事が起きて慌てて消火に来たんだけど……。まあ、ご覧の通り、ほぼ建物は焼け落ちちまった。」
男性の一人が無念そうな表情で答えた。
「そ、それで……。院長先生と子供たちは!?」
「それが……何人かの子供たちが火傷を負って煙をすってしまったようで、無事だったのは院長先生と僅かな子供達で何人か重体で宿の一室で寝かしているんだ……」
「そ、そんな……!」
「………どのぐらい酷いのでしょうか……?」
男性の説明にエステルは悲壮な表情をし、ヨシュアは辛そうな表情で尋ねた。
「正直言ってわからない……マノリアは小さい村だからね……それに加えて冒険者用に売っている火傷した時用の薬がちょうど切れていてね……ありったけの傷薬で火傷は抑えたがあくまで傷薬だからね……村にはどの教会もないから、専門的な薬はないし処置の仕方もわからないんだ。……ただ、希望はあると思うよ。」
「一体それはなんなのでしょう?」
男性の言葉が気になり、ヨシュアは聞き返した。
「先ほど『白の木蓮亭』のマスターが傷や病気等を治してくれるところ――癒しの専門であるルーアンのイーリュン教会に連絡したら、運良く癒しの魔術ができる信徒の中でも高度な術を使う方がいらっしゃって、急いでこっちに向かって来てくれているらしいんだ。」
「イーリュンの……それはよかった。」
(………ふむ。こちらの世界のイーリュン教の信徒で高度な治癒魔術をできる者等ティア殿しか思い当たらないのだがな……?まさかルーアンに来ているのか?)
男性の答えにヨシュアは安堵の溜息をはき、リフィアは首を傾げた。
「俺たちはもう少し後片付けをするつもりだけど。あんたらはどうするつもりだい?」
「あ、さっそく宿屋に行ってあの子たちのお見舞いと傷の手当てに……」
「悪いけど、それは後回し。」
「ふえっ!?」
ヨシュアの言葉にエステルは驚いて声を出した。
「この現場、ざっと見ただけでも妙なことが多すぎる。そして、そういう手がかりは時間が経つと失われてしまうんだ。……君の気持ちもわかるけど今は現場検証の方を優先しよう。子供たちのことが心配なのはわかるけど、専門の人がこっちに向かっているんだ。素人な僕達はあまり手を出さない方がいい。下手に手を出して状態を悪くする訳にはいかないしね。」
「………………………………わかった……。あたしたち、遊撃士だもんね。何があったのか突き止めないと。リフィア達もいいかな?」
「ああ……」
「はい、わかりました。」
「…………」
そしてエステル達は孤児院の敷地内を調べ廻った。孤児院を調べ廻ってわかった事は何者かによって放火されたという結論であった。
「……魔力の痕跡があるのは気になりますが、この痕跡で感じられる魔力では原因の一つではないでしょうね。炎の魔術を使ったなら炎属性の魔力が漂っているはずです。……ハーブ畑や食料が入った樽が荒らされていた事といい、恐らく全て人の手によって起こされた事でしょうね……」
「ああ、それにこの辺りは特に油の匂いが強い。恐らく可燃性の高い油をこの辺りに撒いて火をつけたんだろうな。」
「……だね。」
「そ、そんな……」
プリネ達の結論を聞いたエステルは信じられない表情をした。
「プリネの言う通り、これは完全に何者かの仕業だと思うよ。」
「それ……本当ですか……?」
ヨシュアもリフィア達の結論に頷いた時、いつの間にかクロ―ゼがいた。
「あ、クローゼさん!?」
「来ていたのか……」
「どうして……。誰が……こんなことを……。かけがえのない思い出が一杯につまったこの場所を……。どうして……こんな……酷いことができるんですか……!?」
「クローゼさん……」
「「「「………………………………」」」」
取り乱して叫んでいるクロ―ゼにエステル達はかける言葉はなく、辛そうな表情で見た。
「………………………………。ごめんなさい……。……取り乱してしまって……。私……わたし…………」
「取り乱すのも無理ないよ。知り合ったばかりのあたしだってちょっとキツいから……。……信じられないよね。こんな事をする人がいるなんて。」
エステルはクロ―ゼの両手を握ってクロ―ゼに同意した。
「エステルさん……」
「子供たちが怪我を負ったのは残念だったけど……イーリュンの人がこっちに向かっているからきっと大丈夫だよ。だから安心していいからね?」
「………………………………。……ありがとう。少しだけ落ち着きました。朝の授業を受けていたらいきなり学園長がやって来て……。孤児院で火事が起きたらしいって教えてくれて……。ここに来るまで……生きた心地がしませんでした。」
ようやく落ち着いたクロ―ゼは授業中であるにも関わらず火事跡の孤児院に来た経緯を話した。
「そっか……」
「院長先生と子供たちはマノリアの宿屋にいるそうだよ。調査も終わったし、僕たちも一緒にお見舞いに付き合わせてくれるかな?」
「あ、はい……。そうして頂けると嬉しいです。」
「それじゃあ、さっそくマノリアに行くとしましょ。」
そしてエステル達はマノリア村の宿屋であり、酒場でもある『白の木蓮亭』に向かった。
~白の木蓮亭・宿屋の一室~
エステル達がテレサ達がのいる部屋に入ると、そこにはベッドに寝かされ火傷の痛みと煙をすった影響で苦しんでいる子供たちと無事だったテレサやクラム、マリィがイーリュンのシスター服を着た女性に嘆願していた。
「お願いします!どうかあの子達を助けてやって下さい!」
「頼むよ!イーリュンのお姉ちゃんならどんな傷でもなおせるんでしょ?」
「お願いします!」
「………落ちついて下さい。この子達は母なるイーリュンに代わりまして私が責任を持って癒します。ですから今はこの子達の無事を祈ってあげて下さい……」
「はい………」
女性に諭され、テレサはその場で手を組んで祈り、それを見てクラムやマリィも祈った。
「………まずは体内にある吸ってしまった毒をなくさなくてはいけませんね。………イーリュンよ、かの者等に浄化のお力を……大いなる浄化の風!」
女性が強く祈ると苦しんでいる子供達を淡い光がつつみ、光がなくなると子供達は規則正しい寝息を始めた。
「……イーリュンよ、お力を……癒しの風!」
さらに女性がもう一度祈ると同じように寝息を立てている子供達を淡い光がつつみ、光がなくなると子供達の火傷は綺麗に消えていた。
「ポーリィ、ダニエル、ミント、ツーヤ!ああ、よかった……!」
「「みんな!」」
子供達が苦しまなくなり、完全に火傷が消えて安心したテレサは寝ている子供達にクラムやマリィと共に駆け寄った。
「すごっ……!一瞬でみんなの火傷が治っちゃった……!」
「あれがイーリュン教に伝わる癒しの魔術か……まるで奇跡だな……」
「よかった……本当によかった……」
一連の光景を見たエステルやヨシュアは初めて見るイーリュン教の癒しの魔術に驚き、クロ―ゼは涙を流して安心した。
「えっ……」
「やはりか……」
「あれ………?」
一方女性の横顔や後ろ姿を見てプリネは驚き。リフィアは納得し、エヴリーヌは首を傾げた。そして女性はエステル達に気付いて振り向いた。
「あら……?」
「わっ。凄い美人……」
エステルは女性の容姿を正面で見て思わず声を出した。女性の容姿は一般の女性と比べるとかなり整っており、腰まで届くほどの澄んだ水のような美しい水色の長い髪をなびかせ、瞳は髪の色とは逆に赤であったが女性の容姿や髪、シスターの服装と合わさって逆に似合っていた。また、女性の耳はプリネやリフィアのように尖り、清楚ながらどこか高貴な雰囲気を纏っていた。
「お久しぶりですね、ティアお姉様。」
「久しいな、ティア殿。相変わらず見事な治癒術だな。余も見習わなくては。」
「やっほ。」
女性――リウイの娘でありイーリュンの神官のティアにプリネ達は滅多に会わない家族に親しげに話しかけた。
「リフィアさんにプリネさん。それにエヴリーヌさんも……お久しぶりですね。」
「えっ。リフィア達、この人の事を知っているの?」
ティアと親しげに話すリフィア達を見て、エステルは驚いた。
「………その人の事をリフィア達が知ってて当然だよ、エステル。」
「へ?それってどういう事。」
ヨシュアの言葉にエステルは首を傾げて聞き返した。
「エステル……日曜学校の授業で七曜教会以外の宗教の事を授業で習った時、その人の顔を見た事なかった?」
「へ………………………あ――!?聖女様の横に写っていた人だ!ちょっと待って、聖女様が写っていた所って確かアーライナ教やイーリュン教で有名な人が載っていたはず。…………って事はもう一人の聖女様!?」
「『癒しの聖女』ティア・パリエ様………!」
ティアの顔を見て思い出したエステルは驚き、同じように学園の授業でティアの事を習ったクロ―ゼも驚いた。
「はじめまして、イーリュンの信徒の一人、ティア・パリエです。後………できればその聖女と言う呼び方はやめていただけないでしょうか……?私はペテレーネ様のように我が主神、イーリュン様の神核を承っている訳ではありませんし、そんな風に呼ばれると恥ずかしいんです……どうか気軽に”ティア”とお呼び下さい。」
「えっと、じゃあティアさん。みんなの火傷を治して早速で悪いんだけど、聞いていいかな?」
「構いませんが……あなた達は?」
「あ、自己紹介がまだだったわね。準遊撃士のエステル・ブライトよ。」
「同じく準遊撃士のヨシュア・ブライトです。エステルとは義理の兄妹です。」
「………ジェニス王立学園のクロ―ゼ・リンツと申します。昔、お世話になった縁でマーシア孤児院の手伝いをさせて貰っています。子供達の命を救って下さって本当にありがとうございました。」
「私は母なるイーリュンの教えに従ったまでです。ですからあまり私の事は気にしないで下さい。……それで遊撃士の方達が私に何の御用でしょうか?依頼を出した覚えはないのですが……」
「あ、単に同じ治癒魔術を使う者として気になっただけ。だから、あまり気にしないで。」
「あなたが……?もしかしてアーライナ教の信徒の方ですか?こう見えてもゼムリア大陸のイーリュン教の神官長を務めさせていただいており、信徒の顔は全員覚えていて、エステルさんの顔は見た事がありませんから……」
エステルの言葉にティアは首を傾げて尋ねた。
「ううん。あたしはどの宗教の信徒でもないわ。」
「そうなのですか。という事は”秘印術”の使い手の方ですね。それで一体何をお聞きしたいのでしょうか?」
「うん。どうやったらあんなに上手く治癒魔術ができるのかなーって。あたしも”闇の息吹”っていう治癒魔術ができるけど、回復量はバラバラでティアさんみたいにみんなを一遍に治したりできないもん。」
「……治癒魔術は魔術の中でも高度な魔術と言われていますが、それほど難解な魔術ではありません。要は相手をどれだけ思えるかですね。治癒魔術は魔力もそうですが使い手の精神状態によっても効果は変わりますから……それと申し訳ないんですが闇の神殿の治癒魔術についてはよくわからなくて何も申し上げる事はできません。すいません……」
ティアはエステルに申し訳なさそうな表情で頭を下げた。
「わわっ。あたしなんかにティアさんみたいな凄い人が頭を下げる必要なんてないよ。信者でもないあたしに治癒魔術の事について教えてくれてむしろ感謝しているわ。」
ティアの行動にエステルは慌てて答えた。
「そうですか、少しでもお役に立ててよかったです……ところでどうしてリフィアさん達がここに……」
「「……ハァ……ハァ……」」
「ミント!?ツーヤ!?しっかり!」
「ミント姉ちゃん、お願いだから目を覚ましていつものような明るい笑顔を見せてくれよう……」
「起きてツーヤお姉ちゃん……でないとクラムを叱るのあたしだけになっちゃうよ……そんなの嫌だよ!?」
ティアがリフィア達に尋ねようとした矢先、眠っていたミントとツーヤに異変が起こり、それに気付きテレサやクラム、マリィは焦って何度も呼びかけた。
「え!?完全に治療したはずなのに……!?……すみません、ちょっと失礼します!」
容体が急変したミントやツーヤに驚き信じられない表情をしたティアはミントとツーヤに急いで近付いて状態を確かめた。
「……………これは!……………………そんな……………」
2人の状態を確かめてそれぞれに魔力を送ったティアはいくら魔力を送っても効果がない事に気付き、悲痛な表情をした。
「ティア様、2人の体に蝕んでいた毒を先ほど除去しきれてなかったのですか……?」
クロ―ゼはティアの表情を見て、不安そうな表情で尋ねた。
「いえ、今のお二人は健康そのものです。」
「じゃあ、どうしてミント姉ちゃん達がうなされているんだ!?」
ティアの答えにクラムは詰め寄った。
「クラム!恩がある方になんて口を聞くんですか!」
「あ………」
テレサに怒られたクラムはティアに詰め寄るのをやめて、気不味そうな表情をした。
「………話を続けます。確かにお二人は健康そのものですが……その前にテレサさんに一つお聞きしたいのですが。」
「なんでしょうか?」
「ミントさんにツーヤさん……2人は最近魔力を使うような事はしませんでしたか?」
「魔力を使うような事とは……?」
「簡単に言えば魔術を使う事です。手から火や水を出したりや風をおこしたりなど、そういった不思議な事を2人はしませんでしたか?」
「そんな事をしている事は見た事が……………あ………!」
「……どうやら、心当たりがあるようですね。」
ティアに尋ねられ少しの間考えていたテレサは声を出した。
「先生、ミントちゃんとツーヤちゃんは魔術が使えたんですか……?2人が”闇夜の眷属”である事は知っていましたが……」
テレサの様子が気になったクロ―ゼは尋ねた。
「あれ?そう言えば昨日はその2人は孤児院にいなかったわよね?」
「……あの時この子達はちょうどお使いに行っていましたから………それでクロ―ゼ、先ほどの質問に答えるけど、2人は今まで不思議な力を使ったりなんて事はしなかったわ。でも…………あの時………」
「………あの時とは?」
テレサの言葉が気になったヨシュアは尋ねた。
「………孤児院が火事になって逃げ場を失った時、天井から私やクラム達に火のついた屋根の瓦礫が落ちて来た時、それに気付いた2人は両手を上にかざしたんですが……その時、2人の全身が光り、両手から大きな光の玉のような物が出て来て落ちて来た瓦礫を破壊したんです。………そういえばその直後に2人は倒れたんです。あの時は煙を吸ってしまったせいかと思ったんですが……」
「やはりそうですか……このお二人が今うなされている原因なのですが……魔力の枯渇です。」
「魔力の枯渇……?それは一体何なのでしょうか……?」
ティアの答えにテレサは不安げな表情で尋ねた。
「魔力の枯渇とは体内にある魔力を使いきってしまうとよく起こる症状です。……軽い症状なら眩暈や気絶程度ですむんですが、重い症状だと最悪死に到ります……」
「そんな……どうにかならないのですか!?」
血相を変えたテレサはティアに詰め寄って嘆願した。
「……魔力が枯渇しているなら供給をして回復する事は無理なんですか?」
「もちろん、私もそれを考えて先ほど試しましたが……駄目なんです。魔力を2人にいくら供給しても私の魔力を受け付けなく、供給できないんです……もしかしたら、魔力の相性の問題があるかもしれません。」
ヨシュアの提案にティアは首を横に振って悲痛そうな表情で答えた。
「そんな……!せっかくミントはエステルさんに会うのをあんなに楽しみにしていたのに……こんな事って……!」
「え……その子があたしに会いたいってどういう事ですか?」
テレサの言葉に驚いたエステルはテレサに尋ねた。
「……エステルさん達が孤児院を去った後この子達が帰って来てアップルパイとハーブティーを出して食べさせていた時、この子が急に昨日来たお客様の名前を聞き、エステルさんが自分のママだと言ってエステルさんに会いたいって言ったんです。」
「あ、あたしがこの子のママ!?」
テレサの説明を聞いたエステルはうなされているミントを見て驚いた。
「ふーん、エステルってこんな大きな子供がいたんだ。もしかしてエステルって人間じゃなくて見かけによらず結構年を取っているの?」
「ハ……!?……ってそんな訳ないでしょ!?あたしは正真正銘16歳の人間だし、子供を産んだ覚えもないわ!」
「エ、エヴリーヌお姉様……さすがにそれは無理がありますよ……」
「やれやれ……」
エヴリーヌのとんでもない発言にエステルは驚いた後、顔を真っ赤にして否定した。エヴリーヌの発言にプリネは苦笑し、リフィアは溜息をついた。
「(………もしかして……)あの、エステルさん。この子にあなたの魔力を供給してあげてくれませんか?」
エステルが騒いでいる中、ティアはある事を思い付きエステルに頼んだ。
「へ?……わかった、やってみるわ。………………………」
ティアに言われ目を丸くしたエステルはすぐに表情を引き締め、ミントに近付きミントに自分の魔力を供給した。
「………ハァ………ハァ………………スゥ……スゥ……マ……マ……」
すると今までうなされていたのが嘘のようにミントは規則正しい寝息をし始めた。
「嘘……!?魔力が供給できた!?」
「……………やはり………」
自分より高度な術者であるティアに出来なかった事が自分に出来た事にエステルは驚き、ティアは一人納得した。
「ミントさんにとってエステルさんの魔力が相性がよかったのでしょうね。おそらくミントさんは孤児院のどこかに漂っていたエステルさんの僅かな魔力を感じて本能的にエステルさんに会いたがったのでしょうね……なぜ、エステルさんを母と感じたのはわかりませんが……」
「あたしの魔力が………」
ティアの説明を聞いたエステルは自分の両手を見た。
「………ハァ…………ハァ…………」
「ツーヤちゃん!?」
「そうだ……もう一人いたんだ……」
未だうなされているツーヤにクロ―ゼは駆け寄り、ヨシュアはどうするべきか考えていた。
「だったらあたしを含めて魔術を使える人がみんな試してみればいいじゃない。考えるのは後よ!」
「そうだね。プリネ、リフィア、エヴリーヌ。お願いしていいかな。」
エステルの意見に頷いたヨシュアはプリネ達を見た。
「うむ。」
「わかった。」
「私の魔力で命が助かるのならいくらでも供給をして差し上げます……!」
ヨシュアの言葉に頷いたリフィア達はそれぞれ順番にツーヤに魔力を供給した。するとリフィアとエヴリーヌは供給できなかったがプリネの魔力は供給できて魔力が供給され、回復して顔色がよくなったツーヤはミントと同じように規則正しい寝息をし始めた。
「スゥ………スゥ………ご……主人……様……」
「よかった……ありがとうございます、プリネさん……」
「いえ、力になれてよかったです。」
ツーヤも助かった事に安心したクロ―ゼはプリネにお礼を言い、お礼を言われたプリネは謙遜して答えた。そして今まで眠っていたダニエルとポーリィが目覚めた。
「「う、うん……?」」
「ダニエル、ポーリィ!目覚めたのね!どこか痛い所はない?」
目覚めた2人の子供にテレサは尋ねた。
「うん、さっきまで苦しくて痛かったけど今はへーき。」
「えへへ、なんだか暖かかったね。」
「良かった……。本当に良かったね……」
元気そうな2人の子供を見てクロ―ゼは安心した。
「そう言えば遊撃士のお二人はどうしてこちらに?私が目的でないとするとテレサさん達のお見舞いですか?」
「いえ、調査に来たついでにお見舞いに寄らせて頂きました。」
ティアの疑問にヨシュアは丁寧に答えた。
「調査に来たって……。あの火事を調べに来たんだろ?なにか分かったこと、あんの?」
「えっと……」
「何と言ったらいいのか……」
クラムの言葉にエステル達はそれぞれお互いの目を合わせて困っていた。
「ねえ、みんな。お腹は空いてないかしら?私、朝ゴハンを食べてなくて食堂で何か頼もうと思うの。ついでだから、みんなにも甘いものをご馳走してあげる。」
「え、ほんとぉ!?」
「ポーリィ、プリン食べたーい!」
エステル達の空気を読んだクロ―ゼは子供たちの関心を別に向けるために提案をし、ダニエルやポーリィはクロ―ゼの提案に喜んだ。
「で、でも姉ちゃん……」
「……………………。行きましょ、クラム。」
「え……」
「つべこべ言わずにさっさと来なさいってば。クローゼお姉ちゃん、はやく下に行きましょ。」
「ふふ、そうね。」
クラムは納得がいかない様子だったが空気を読んだマリィに引っ張られてクロ―ゼや起きている子供達といっしょに部屋を出た。
「ティアお姉様、積もる話もあるでしょうし私達も下に行きませんか?」
「うむ。余もティア殿とは話したい気分だったしな。」
「………わかりました。」
「エヴリーヌ、余達も部屋を出るぞ。下で何か頼むといい。」
「本当?じゃあ、下に行こう。」
同じように空気を読んだプリネやリフィアはティアやエヴリーヌと共に部屋を出た。
「ふう、助かっちゃった。あの子たちやイーリュンの信徒のティアさんにはあんまり聞かせたくなかったから……」
「そうだね。プリネ達やあのマリィって子は察してくれたみたいだけど……」
火事について聞かせたくない子供たちやティアが部屋を出た事にエステルは安堵の溜息をはき、ヨシュアも頷いた。
「ふふ、良い子に恵まれて私は本当に幸せ者です……。それで、調査に来たとおっしゃっていましたね。どうぞ、何なりと聞いてください。」
「ご協力、感謝します。」
「えっと、それじゃあ……」
そしてエステル達はテレサに調査の結果を伝え、テレサからは状況を聞き始めた………
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