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真田十勇士

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巻ノ二十七 美味な蒲萄その六

「あの城がじゃ」
「上田城ですな」
「我等の城」
「左様ですな」
「うむ、あの城こそがじゃ」
 まさにというのだ。
「我等の城じゃ」
「流石に大坂や小田原の城とは比べられませぬが」
「これはかなり」
「堅固ですな」
「守りやすく攻めにくい」
「実にそうした城ですな」
「御主達にはわかったか」
 上田城のことがとだ、幸村はまた言った。
「左様、あの上田城は一見すると然程大きくないがな」
「しかしですな」
「その堅固さはどの城にも負けぬ」
「そうした城なのですな」
「実は」
「例え十倍の敵が攻めて来ようとも守れる」
 こうも言った幸村だった。
「あの城はそうした城じゃ」
「ですな、ではこれからその上田城に入り」
「そして、ですな」
「大殿、若殿ともですな」
「お会いするのですか」
「そうじゃ、御主達を父上と兄上に紹介する」
 是非にと言う幸村だった、今度は。
「よいな」
「はい、これより」
「あのお城に入り」
「我等を大殿と若殿に会わせて下され」
「無論そうする」
 幸村も確かな声で応えてだった、そのうえで。
 一行は上田の町に入った、すると皆幸村主従に道を開けてその端々から頭を下げた。
 その様子を見てだ、家臣達はそれぞれ言った。
「いや、やはり」
「殿は大名の家の方ですな」
「そのことがあらためてわかりました」
「今のこの様子を見て」
「好きではないのだがな」 
 ここでこう言った幸村だった、あまり好ましくないといった顔で。
「拙者は偉くとも何ともない」
「しかしこの上田の大名のご次男殿です」
「十万石の」
「そのことを考えますと」
「こうしたことも」
「当然だというのか、しかしな」
 それでもと言う幸村だった。
「こうして恭しくされることは好かぬ」
「殿はあくまで、ですか」
「武士とあるべき」
「そうお考えですか」
「その様に」
「そうじゃ、拙者は一介の武士」
 そうでしかないというのだ。
「この様に深々と頭を下げられる者ではない」
「ではこの様はですか」
「殿にとっては望ましくなく目指しておるものでもない」
「そうなのですな」
「その通り、しかしこの者達は守る」
 今自分に頭を下げている者達はというのだ。
「上田の民達はな」
「真田の民」
「それ故に」
「我等は代々この上田におった」
 そして治めてきたのだ、国人とも呼ばれるのが真田家なのだ。 
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