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真田十勇士

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巻ノ二十七 美味な蒲萄その五

「これ位何でもないわ」
「そうじゃな、わしは酒とたらふく食えるものがあれば充分じゃ」 
 豪放磊落な清海は笑ってそれでよしとした。
「何の不満があろうか」
「書があるのならそれでよい」
 学究の筧は真田家が多くの書を持っていることからこう言う。
「そして修行をするのみ」
「わしもわかっていてここまで来た」
 霧隠も実に落ち着いている。
「どうしてここであれこれ言うのか」
「そう言ってくれるか、では行こうぞ」
 幸村は安心して落ち着いていてだ、上田に行くことに不平を漏らさぬ家臣達に微笑んで告げた。
「その上田にな」
「はい、では」
「これより行きましょうぞ」
「そしてですな」
「そこでこれから暮らすのですな」
「そうなる、そして御主達じゃが」 
 十人にだ、彼等は話した。
「家はどうするかじゃが」
「家はまあ何処でも」
「何処でも構いませぬ」
「特にです」
「何でしたら外で寝起きします」
「御主達は拙者の屋敷に入れ」
 これが幸村が家臣達に言うことだった。
「そしてそこで共に暮らそうぞ」
「我等は、ですか」
「殿のお屋敷で暮らすのですか」
「そうしてよいのですか」
「実は旅に出る前に父上からお屋敷を頂いたがな」
 真田家の次男としてだ、それに相応しいだけの屋敷を貰ってそのうえで旅に出たのだ。十万石の家の次男としての格式に相応しいものをだ。
「拙者だけでは広い、御主達も入れ」
「何と、では我等は」
「上田でも殿と共に寝起きしてですか」
「飯も食う」
「そうなりますか」
「我等は主従、そして義兄弟」
 その誓いのこともだ、幸村は話した。
「死ぬ時も共にと誓ったな」
「だからですか」
「飯もですか」
「共に食う」
「そうされますか」
「流石に十一人一度に寝られるだけの広い部屋はないが」 
 だから寝る場所は別々だというのだ。
「しかしじゃ、同じ釜の飯を食おうぞ」
「これまで通りですな」
「そして共に生き共に戦う」
「そうしていくのですか」
「そうしようぞ、父上には拙者がお願いする」
 家臣達と共に暮らすことをというのだ。
「これからな」
「ですか、では」
「早く上田に戻りましょうぞ」
「そしてそのうえで」
「新しい暮らしをはじめましょうぞ」
「是非な」
 幸村は家臣達に笑みを浮かべて応えた、そしてだった。
 一行は信濃を北に進み上田に向かっていた、上田までの道中は至って穏やかで彼等はこれといった騒動もなく進めた。
 上田に着いたのはすぐだった、その上田の町に着くとだ。
 幸村は自身の後ろにいる十人にだ、こう問うた。
「どうじゃ、小さく何もないな」
「ははは、ご自身で言われますか」
「その様に」
「そうじゃ、ここが我等の居場所じゃ」
 この上田こそがというのだ。
 こう話してからだった、幸村はその町の中心にあるかなり堅固そうな城を指差してそのうえでこうも言った。 
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