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真田十勇士

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巻ノ二十七 美味な蒲萄その四

「辿り着くまでに時間がかかる」
「そこが我等の強みか」
「そうであろうな」
「ここはまだ徳川家は来ておらぬな」 
 幸村もだ、冷静な声で述べた。
「先程の村では何も言っておられなかった」
「左様でしたな、まだ甲斐との境ですが」
「それでもです」
「徳川家はまだ来ていないと仰っていました」
「特に」
「徳川殿は慎重な方」
 それ故にとだ、幸村は言った。
「兵を進めることもな」
「慎重で、ですか」
「兵をじっくりと進められている」
「それでここにはですか」
「まだ、ですか」
「どうやら上田に来るまで時がかかる」
 幸村は冷静な目でこう分析もした。
「ならばな」
「それまでの間にですな」
「用意を整え」
「そしてそのうえで」
「徳川家にあたりますか」
「そうなる、だから御主達もな」
 彼等もというのだ。
「その時まで何かと働いてもらうぞ」
「ですな、では上田に戻ったならば」
「何かと忙しいですな」
「戦の用意に」
「それで」
「そうなる、無論拙者もじゃ」
 幸村自身もとだ、彼は笑って言った。
「忙しくなる」
「ですな、では徳川家と戦になる時に備えて」
「用意をしましょうぞ」
「そうしよう、ではな」
 幸村は自ら足を進めて家臣達に言った。
「まずは上田に戻ろうぞ」
「その上田ですが」
「果たしてどうしたところでしょうか」
「田舎じゃ」
 笑ってだ、幸村は家臣達に上田即ち彼が生まれ育った場所のことを話した。
「全く以てな」
「ううむ、そうですか」
「都や大坂と比べると」
「そうなのですか」
「いやいや、これまで見てきた町の中でもな」
 とりわけ、というのだった。
「小さいものじゃ」
「上方や東海の町とは」
「違いますな」
「そうじゃ」
 ここで言ったのは穴山だった。
「信濃は山の中にある、町はあってもな」
「小さいものじゃ、人も少ない」
 由利も言う、二人共信濃にいるから知っているのだ。
「上方とは比べられぬぞ」
「しかも山と木はこの通りじゃ」
 海野も言う。
「これまでの国とは全く違うぞ」
「そうか」
 そう聞いてもだ、皆落ち着いていてだ。猿飛も言う。
「ならよい」
「よいのか」
「ははは、わしは猿。猿は山にいるものじゃ」
 こう海野にもだ、猿飛は笑って返した。
「だから何ともないわ」
「そもそもそうしたことがわかって殿にお仕えするのであろう」
 信濃より開けている岐阜にいた根津も言う。
「ならばよい」
「そうか」
「うむ、喜んで入ろう」
「修行中はずっと山にいました」
 伊佐も微笑んで言う。
「ならば何の不満があるのか」
「山が嫌で忍は出来ぬ」
 望月は自分が忍であることから言う。 
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