真田十勇士
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巻ノ二十三 箱根八里その九
「あの、宜しいでしょうか」
「何じゃ?」
「旅のお武家様方と見受けますが」
「左様じゃが」
猿飛が漁師達に答えた。
「それが何かあったか」
「はい、実はお願いがありますが」
「何じゃ?海賊でも出たか」
「いえ、海賊でありませぬが」
そうではないとだ、漁師の中でとりわけ大柄な男が答える。
「鮫が出ておりまして」
「鮫か」
「はい、それも一匹や二匹ではありませぬ」
「どれだけ出ておるか」
「二十はおります、どの鮫も大きく気が荒く」
「それでか」
「我等は今海に出ることが出来ないでおります」
漁師は困った顔で言うのだった。
「それでお願いがありますが」
「鮫退治か」
「はい、お礼は用意してありますので」
「それはよい」
幸村がだった、漁師に答えた。
「別にな」
「と、いいますと」
「困っている者を助けるのは武家の務め」
これが幸村の返事だった。
「だからじゃ」
「それで、ですか」
「すぐに海に出てじゃ」
「鮫を退治して下さいますか」
「我等が全て乗れるだけの大きさの船はあるか」
「はい」
漁師は幸村にすぐに答えた。
「それでしたら」
「ではその船を貸してもらおう」
「それでは」
「うむ、すぐに出る」
海にだ、こう答えてだった。
幸村達は漁師達から船を借りてだった、そうして。
すぐに海に出た、すると早速彼等の乗る船の周りに鮫達の背鰭が出て来た。そうして船の周りを泳ぎだした。
その鮫達を見てだ、幸村は落ち着いた声で言った。
「鮫ははじめて見た、海に出たこと自体もな」
「信濃にいてはですか」
「そのこともですな」
「当然ですな」
「そうじゃ、しかしじゃ」
そのはじめて見る中でだ、二人は言うのだった。
「ここは漁師達の為にな」
「はい、この鮫達をですな」
「全て退治しましょう」
「そして漁師達の悩みを打ち消しましょうぞ」
「ではな」
幸村はここまで言うとだった、すぐにだった。
服を脱ぎ褌だけになった、手には小刀を持っている。他の者達もそれぞれ小刀や苦無を持っていてだ、そのうえで。
幸村にだ、確かな笑みで言った。
「ではこれより」
「海に入ってですな」
「鮫達を倒しましょうぞ」
「六郎、御主がじゃ」
幸村は海野に顔を向けて彼に声をかけた。
「軸となってくれるか」
「泳ぎの達者な拙者がですな」
「そうじゃ、そしてじゃ」
「鮫達をですな」
「倒していくぞ」
「畏まりました、それでは」
「よいか、一匹一匹をじゃ」
二十匹の鮫達のうちでというのだ。
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