真田十勇士
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巻ノ二十三 箱根八里その八
「保元の乱で清盛公はご自身の叔父と争われた」
「でしたな、あの方にしても」
「平家にしてもそうしたことがありました」
「しかしですな」
「それからは」
「身内で争うことはなかった」
幸村は海を見つつ言った、伊豆のその海を。
「壇ノ浦で滅ぶまでな」
「多少のいがみ合いがあったにしても」
「それでもでしたな」
「平家は身内で争うことはなかった」
「それは」
「そうであった」
それが平家だったというのだ。
「あの家は身内ではな」
「争うことなく」
「また家臣も平家の下にあり」
「殆ど裏技なかった」
「そうでしたな」
「源氏よりも裏切った者は少ないやもな」
幸村もこう言うのだった。
「それだけまとまりのよい家であったのだ」
「では清盛公も」
「そうした方だったのですな」
「悪く言われていますが」
「実は」
「戦国の世では身内同士が争うのは常」
このこともだ、幸村は言った。
「多くの家でそうしたことがあった、しかし」
「それは本来あってはならぬこと」
「源氏の様になるからですな」
「果ては誰もいなくなる」
「そうなりますから」
「そうじゃ、それは当家も同じじゃ」
真田家にしてもというのだ。
「身内で争うことは避けねばな」
「ですな、何があろうとも」
「身内で殺し合うのは愚の骨頂」
「まさに」
「それはせぬ、生きる為に策を使うことはっても」
それでもというのだ。
「当家は身内で殺し合うことだけは避ける様にしておる」
「それが大殿のお考えですか」
「そして兄上様の」
「無論殿もですが」
「そうなのですな」
「そうじゃ、源氏の轍を踏んではな」
それでは、というのだ。
「本当に家が滅ぶわ」
「源氏は直系が完全に絶えました」
「その様に身内で殺し合った結果」
「あの様になってはならない」
「それ故に」
「それは避ける」
また言った幸村だった。
「父上、兄上もその様にお考えじゃ」
「家を守ることはあっても」
「殺し合うことはですな」
「何としても避ける」
「そうしますか」
「それが家を保つ第一じゃからな」
身内で殺し合わない、それこそがというのだ。
「絶対にな」
「それに尽きますな」
「まさに源氏の様になればです」
「例えどれだけ栄えても意味がありませぬからな」
天下を取ったとしても、というのだ。彼等も。そうした話もしつつだった。一行は伊豆の海を見つつ先に進んでいた。
そしてだった、漁師達が主従を見てこう言った。
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