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儚き運命の罪と罰

作者:望月
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第七話「時空管理局」

 
前書き
何か題名からして出オチなきがするのは自分だけなのだろうか...

第七話「時空管理局」始まります。 

 
モニターには少年が海へ落ちてゆく様子が映し出されていた。
あんな戦いを見た後だからもあるのか体温が上がっている気がした。
その一方でアースラの中は空調が効いていた。

「やってくれたわね...」

そう言ったリンディ・ハラオウンは何時もは非常に冷静な人物だがこの時ばかりは珍しく声を荒げていた。

「彼を死なせてはならないわ!」

ジュエルシード六つを奪取された上に彼を死なせてしまえば管理局の面子は丸潰れだ。
別にリンディは手柄に飢えた醜悪な人間ではなかったが、それでも今回の結果は流石に納得できなかった。

(あの時さっさとクロノ達を出撃させるべきだったかしら?)

今更そんな事を考えても仕方の無いことだと言うのは重々承知していた。それでも人間の(さが)と言うものなのだろうかそう思い悩まざるをえなかった。
クロノとユーノは軽い痣だけですむ怪我しか負っていなかった。本来なら喜ぶべきことだが、生きているのならもう少し派手な怪我...彼らにとって苦痛にならない程度にだがしてくれれば少しは対応が楽だった。リオンに対して厳重な処罰ができるため扱いやすくなるのだ。だがあれだけではおそらくあの剣も取り上げられまい。監視位はつけられるだろうが、あれ程の力(余談だがリオンの『ブラックホール』を見たリンディは彼のことを『生きたロストロギア』と心の中で呼んだ)の前ではそんな物無いも同然だった。しかもその監視は魔法を使った『サーチャー』ではなくて人なので尚更だ。

(ひどく情けない生き物になったものね...わたしは。)

例えどんなことがあろうと誰かに汚して欲しいなどと望んだ自分をリンディは嘲笑った。ましてや自分の息子に対してそう考えたのだ。これでは犯罪者を責めることも到底できない。思えばなのはの勧誘にも今思えば(みにく)い手法をとったものだなと思った。これでは夫...クライドに合わせる顔がないー
そこまで考えた所で首を振った。

(駄目ね...このままではどんどん嫌な方向に進んでしまう。それよりも今は今後の対応を考えなくちゃ。)

おそらくリオンは時空管理局の法律について熟知している。或いは今回の首謀者だと思われるプレシアが彼に入れ知恵したか...リンディは後者だろうと判断した。何故ならクロノ達があれ程調べても全くデータベースには無く無限書庫にも足跡すらない。過信するわけじゃないが彼らは優秀だ。見落としはしないはず...となれば次元漂流者と考えるのが一番可能性が高いからだ。
もし熟知していると仮定するなら...取調べでは十中八九、次元漂流者という立場をフルに利用して来るだろう。ボロをだすなんて甘い希望は持てない。なにせ管理局のことなど知らぬ存ぜぬで押し通せば良いからだ。人の頭の中身を証明するのは極めて難しいことでもし仮に彼が確信犯だと言うのが本当だとしても本人が認めない限りは有効な証拠にはなりえない。つまりリンディの言う厳正な処罰は不当と言うことになる。
一応管理局の捜査官の一人に頭の中を覗けるような希少技能(レアスキル)の持ち主がいるが今回の件は緊急を要する。本局にその捜査官...ヴェロッサ・アコースと言うのだが彼の派遣を要請して彼を待つだけの時間はフェイト達が持っていったジュエルシード六個のことを考慮するとある筈がなかった。もし近くに彼がいるなら協力を頼みたかったが生憎リンディは彼は今全く違う次元世界で任務を遂行中だと記憶していた。一応念のために本局へ問い合わせてみたら結局リンディの記憶が確かだと言うことと彼が真面目に勤務していることしかわからなかった。
モニターにびしょ濡れのリオンが引き上げられるのを見ながらリンディは長い溜息をついた。

「まぁ...なにはともあれ相手の最高戦力を封じられたんだからよしとしなくちゃ。」

元気に言ってみたが心までは続かなかった。


そしてそれから三日後...
アースラ内 医務室にて

「…ここは?」

「いつかと同じですね、坊ちゃん。」

見上げれば真っ白な天井。周りを見れば見覚えの無い機械類。

「…僕には溺れて眼を覚ますとまるで知らない場所に行く体質でもあるのか?」

「そう言う所を見ると意識はハッキリしてるみたいですね。ここは時空管理局の船の中です。」

内心でああ良かった、と思いながらそれでいて別にヒューゴの様な圧倒的な力の持ち主にやられた訳じゃあないので平気だよねとも考え、シャルティエは淡々と説明を始めた。無論その説明を聞く前にサーチャーはあるかどうかの確認はしたが。

「あの後、力の使いすぎで気を失った坊ちゃんは管理局の人間に救助されたんです。彼女達は無事に逃げられたみたいですね。それで坊ちゃんは割りと直ぐに引き上げられたから水はそんなに飲まずに済んだんですけど体力的にも衰弱していたんで直ぐには起きられなかったんです。」

「それで今に至る、という訳か。つくづく甘いな。プレシアの言ったとおり時空管理局の法律はスケスケらしい。」

無論クロノ達に殺傷能力のある攻撃をしなかったのもこれが狙いだ。彼はリンディが睨んだとおりの確信犯だった。

「まあそのお陰で僕も取り上げられていないんですから僕達は余り大きな声でそれを責めることはできませんけどね。あ、そうそう。後で取調べをやるみたいですよ。まあ大体聞かれることの予想はつきますけどね。大方なんで彼女達に協力してジュエルシードを集めているのかとか、晶術についてとか訊くつもりなんでしょうけども。」

顎に手を当ててリオンは聞いていた。そして突然「ちょっと待ってくれシャル」と言って話を中断させた。

「さっき今僕がいるのは船の中だと言ったな?どう言う事だ、全く揺れを感じないぞ?」

ああ、とシャルティエは得心したように行った。

「そんなことですか坊ちゃん。それはこれが海の上を移動する船じゃなくて空を飛ぶ船だからだと思いますよ。ほら、前にプレシアから聞いてはいたじゃないですか。」

「ああ、次元艇という奴か。そうか、これが...」

そう言って首を回した。窓がないのを見て少し残念に思った。今この船、シャルティエから聞いた話ではアースラと言うらしいがもし高度を上げていたらきっと海鳴市を一望できただろうから、そんな景色は是非とも見てみたかった。

「そういうことなら納得だ。シャル。」

「いえいえ、酔い止めのお世話にならなくて良かったですね。まあ坊ちゃんが目覚めるまでは要るかどうか判らなかったけどね。」

まったくだ、とリオンは思った。海で溺れた人間が救助されて船に乗せられて、その船の上で船酔いすると言うのも滑稽な話だ。そんな自分を想像してリオンは苦笑した。
同時にそうならなくて良かったとも思った。想像して思い描く分には滑稽で済ませられるが、自分が本当にそんな状態に陥ったら、決して愉快な気分にはなれまい。

「失礼する。」

その言葉と医務室の自動ドアの無機質な音はほぼ同時に聞こえた。


脇腹が微かに痛む気がした。だがそれはクロノの錯覚だ。もう完治しているはず傷とも言えない様な打ち身が痛むはずは無い。或いは今目の前にその原因となった一撃をクロノにお見舞いした、その相手が目の前にいるからかもしれない。
彼はベッドから身を起こした、彼が起きた事だけは知っていた。と言うのも患者が眼を覚ますとそれを知らせるようなシステムになっているからだ。犯罪者の狸寝入りの防止の為だと言うが、それが果たしてそんなに需要のある物なのかとクロノは見るたびに首を捻っていた。そんなのサーチャーで確認すれば良いじゃないかーとは思う物の今回ばかりはそれが使えないので感謝する他は無いのだが。
コホンと咳払いをして口火を切った。

「意識は取り戻したようだな。」

「お蔭様でな。本当に良いのか?僕はお前達の敵だぞ。」

クロノにはそれが皮肉が込められている様に聞こえた。

「別に管理局は誰とも敵対しない、言いかえれば誰の味方でもない。ただ公平な治世を()くための組織だ。君の場合その処置が妥当だったと言うことだろう。」

投げやりな口調にならない様に気をつけた。リンディに厳重な監視を持って彼を徹底的に封じ込めるべきだと進言したときに言い返されたことをそっくりそのままリオンに言った。

「で、だ。解っていると思うが取調べだ。聞かせて貰いたいことが幾つかある。」

「別に構わない。さっさと始めてくれ。」

そう言ったリオンの顔には「『幾つか』じゃなくて『幾つも』の間違いだろう」と言う言葉が貼り付けてあった。極力気にしないようにしてクロノは尋問を始める事にした。

「では最初に...あ、そうだ。僕はまだ君の名前を聞いてはいなかったな。彼女、フェイト・テスタロッサは君の事を『リオンさん』と呼んでいたが、君の名前はリオンでいいのか?」

一瞬だけリオンの表情に先程までの顔とはまた少し違うなにか微妙な物ー少なくとも言葉では言い表せない、クロノが何だか知らないものが混じったような気がした。

「ああそうだ、僕の名前はリオン。リオン・マグナスだ。」

ふむ、と顎に手を当てるポーズを取った。考え込んでると相手に印象付けるポーズだ。
だが特に反応はない、今の言葉にも澱みは無かった。となると、あの「何か」は何なんだろうとクロノは思った。まあ今考えてもわからないだろうから考えるだけ無駄だ、と思って次の質問をすることにした。ついでにその前に呼び方は彼女に倣って「リオンさん」と言うことにした。

「一体何の目的でジュエルシードを集めている。」

此方には特筆すべき変化はクロノには見受けられなかった。

「目的と言われてもな...依頼されたとしか言いようが無い。」

「依頼だと?」

「ああ、僕はどうやらお前達の言葉で言う『時限漂流者』と言う世界単位の迷子らしい。だからとりあえず生活のために傭兵のような事をしている。」

迷子、と言うところだけ少しばかり顔を顰めていた。本人自身その言い方には何か引っ掛かるものがあるのだろう。年の近い(と思われる)クロノは妙なところで彼に共感していた。

「成る程生活の為か...まあそれは良いだろう。所で誰がそんな『ジュエルシードの回収』何て事を君に依頼したんだ?」

間髪いれずに答えた。

「僕と一緒に戦っていた奴らがいただろう。アイツらの保護者だ。もっとも名前は知らないがな。」

「知らないだと?だが苗字くらいはわかるだろう?」

彼はああ、と相槌をうった。

「まあテスタロッサと言うんだろう、その他の事は知らんな。」

かなり疑わしくは感じたがプレシアの名前を彼が知っているかどうかはこの際そこまで重要じゃないのでおいておく。それよりも重要なのは

「その他のことは知らないと言ったな?その目的も?」

「当然知るわけも無い。」

やれやれと内心でクロノは首を竦めていた。ここまで徹底してるとなると理詰めで聞き出すのは難しい。かと言って『取引』に応じる相手とも思えなかった。それにそもそもそれはクロノの流儀に反していた。

「じゃあ次に君はどの様に次元漂流者となった?」

「どうやらジュエルシードからでてきたらしいんだが、残念ながら僕はその状況を実際に見たわけじゃないし覚えても無いから詳しくは言えんが。」

(だったらもう少し位残念そうに言ってくれよ...)

クロノは頭を抱えたくなった。正直なところもう有力な情報を得るのは七割位諦めていた。最初から殆ど形式上の尋問にしかならないとは予想もついていたが実際にやるのと想像するのでは大違いだ。こんなに歯痒いものだとは思わなかった。

「じゃあ次はその剣について聞くが。」

「ロストロギアとやらじゃあないぞ。魔力も感じないだろう?」

いっそ清々しくなるほどにスパッと一刀両断された。次元漂流者の持っているものが間違いなくロストロギアだと認定できない限りは管理局はそれを押収する権利を持たない。

(ロストロギアじゃないだと...?じゃあアレをなんと呼べと言うんだ、ただの剣か?それこそ笑えない話だ。)

とは思う物の、ロストロギアでない以上はあれは...本当にふざけた話だが『ただの剣』と呼ぶ他無く、あの暴走体を瞬殺した魔法みたいな技もただの『手品』扱いだ。クロノにできることがあるとすれば眼前の涼しい顔をした極悪無罪人を睨みつけることくらいだった。

「どうした?随分と怖い顔をしているな?」

「…これで取調べを終了する。一日後くらいに医務室から空いてる部屋の一つに移されると思うから準備しておくことを勧めておく。」

そう言って立ち上がってドアのほうに歩いていった。

「ああそうそう、待ってくれ。一つ聞きたいことがある。」

「何だ?」

ドアの方を向いたままクロノは耳を傾けた。

「僕の立場はどうなるんだ?」

(白々しい...わかっているだろうに。)

「重要参考人だ。」

「罪人じゃないんだな?」

「今の所はな。」

「なら罪人じゃない人間のことは」

「当然サーチャーによる監視はしない!」

怒鳴ってからしまったと思った。これでは相手を助けるだけだー案の定リオンは「そんなことを聞きたかったわけじゃないんだがな。」と言った。

「まあいい、別の機会にまた聞くとしよう。随分ご立腹のようだからな。何か不都合でもあったのかい?」

(あったな、それはお前の取調べだ。)

だがそれも荒げた声と共に胸にしまいこんだ。また何か失言をしてしまってはそれこそ馬鹿な話だ。クロノはここまで我慢できている自分を誉めてやりたくなってきた。

「特にそんなことは無かったが...まあお言葉に甘えるとしよう。失礼する。」


クロノがドアを開け、微かにずかずかと言う足音が遠のいていったのを確認してリオンは思わずため息をついた。

「坊ちゃんも中々やりますね。悪人(ワル)が中々板についてましたよ?」

不快そうに顔をしかめて「やめてくれ」と言った。

「そんなものを褒められてもちっとも嬉しくない。微妙な気分になるだけだから止めてくれ。」

馴れないことはするものじゃないとつくづく思った。無論リオンとて人間だ。人との関係においてそんな素の自分をいきなりさらけ出すような能天気ではない。そう言った意味の『仮面』を被ることもある。
だが被りにくい仮面も存在するのだ。

「そんなことより部屋を移ると言うことらしいから準備を始めるぞ、シャル。」

「はい、坊ちゃん。」

そう言葉を交わした後リオンはいそいそと準備を始めた。
とは言っても持っていくものはシャルティエ位なのだが。それにリオンは家事ができるわけじゃない。
ここでベッドメイクでもやっておけばそれなりに心象も良くできるんだろうが、別に自分がやっても仕方ないと言う風に考え次の呼び出しを待つことにした。 
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