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儚き運命の罪と罰

作者:望月
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第六話「禁断の言葉」

 
前書き
海上決戦フェイトとアースラの皆さんが主軸です。

でもやっぱりリオン視点もあるんですよね...やっぱり主人公なので。 

 
金色の魔法少女は潮風と共に空を飛んでいた。カモメやウミネコは彼女の速さにいっせいに道を開けるように散り散りになって飛んだ。
ジュエルシードを探して...と言うよりもあぶりだすと言う方が近いかもしれない。何せ一撃雷を放てば恐らく連鎖的に反応を引き起こしてまとめて発動させることができるだろうから。
むしろ彼女は場所を探して飛んでいた、派手に戦っても魔法を使っても目撃されずに尚且つできるだけ陸から近い所を...リオンができるだけ来やすい場所を。

・・・夢を一つ叶えられるとしたら何がいい?・・・

どうして彼はそんな事を私に訊いたんだろう。とフェイトは思った。ひょっとしてここ日本の風習の七夕の本でも読んだのか、等と思っていたりもした。彼はそれだけ言語以外にも文化に関連した本等で勉強していた。面白そうだと、思う半面そういうことを今まで彼は一度も訊いてきたことは無かった。むしろその手の話は迷信だ、と切り捨てる彼のほうが想像しやすかった。実の所、論理的でありさえすればどんなトンデモ理論でも考慮することができる少年であるのだが。
そう思っている間に都合のいい場所を見つけたので早速作業に取り掛かることにした。魔力を練り上げ海中のジュエルシードを発動させるための魔法を放つ。

「「サンダースマッシャー!」」

声をバルディッシュと合わせたのは彼らのモノマネだったりする。雷撃が海面に直撃し大きな水しぶきをあげた。
数秒後に強大な魔力の反応が幾つも海中で爆発するような感じに広がっていった。間違いなくジュエルシードだ。フェイトはその数を数えた。

「...六つか。」

思ったとおり数が多い。何時もは一つか多くても二つ位なのが六つ、一気に獲得するチャンスであるのと同時危険も増える。暴走体の力が上がることも勿論だがこれほど派手に魔法を使えば間違いなく管理局にも気づかれるだろう。沢山の気泡が海面に見えた。暴走体だ。それを見たフェイトはリオンに念話で決戦開始を伝えようとした。
アルフがそれを制した。

「ちょっと待ってよ。本当にアイツを呼ぶ気なのかい?」

フェイトはキョトンとした顔になった。さも当然のことのように「そうだよ」と言った。

「どうして止めるの?」

アルフは言った。

「アイツを呼んだらまたアタシ達の気持ちなんて知らないって言って好き勝手にやるに決まってるよ!
フェイトはそれでもいいのかい!?」

フェイトからしてみたら今は心を動かされるというよりも戸惑いの方が強かった。アルフがこんなことを言うとは思っていなかった。と言うよりもいつもならまず言わない。それだけリオンへの不満が大きかったということだ。
だからだろうか、彼女がもし平常心を保てていたなら決して言わない、この時でさえ言うのをためらわれた『禁断の言葉』を口にしてしまった。


「フェイトはあの鬼ババァ...プレシアの役に立つ為にあんな奴の力なんか借りずに自分の手でジュエルシードを集めようって思わないのかい!?」


アルフ自身、そんなことは微塵も思っていないのに。結局人の言葉は気分によって左右される物だということだ、アルフは不愉快な気分だった為に、後で彼女が冷静さを取り戻して自己嫌悪しそうなほど不愉快な言葉をフェイトに言ってしまった。
『禁断の言葉』を聴いたフェイトは一旦眼を瞑って息を大きく吐いた、180度さっきとは考えが変わっていた。さっきはアルフに「落ち着いて」と言うつもりだった。海に向けて自らの愛機を鎌に変形させて構えた。

「…行くよ、バルディッシュ。」

このなかで未だ一人冷静さを保っていた彼は「よろしいんですかサー?」とフェイトに尋ねた。

「うん、これは私が決めたことだから。」

「…了解しました。」

気泡がどんどん激しくなってきていた。ザバァンという激しい水飛沫がした。ジュエルシード六つ分の暴走体はその姿を表した。見たときにフェイトはリオンの読んでいた神話にでてきた空想上の怪物だという「クラーケン」というタコを思い浮かべた。今までの暴走体とは格が違うことが見て取れる。

「グォォォォォォォォ!!!」

凄まじい咆哮が大気を振るわせた。海はそれにともなって怒涛のうねりを見せていた。
ほぼ同時に金色の閃光が閃いた。
静寂を戦いの音が跡形も無く破壊する。


そこから少しばかり離れた所...
地球ではSF映画に出てきそうな、だが紛れも無い本物の宇宙船がその様子を冷徹に見守っていた。
リオンはフェイトから話を聞いていたときにたった一つのことを警戒していた。
それがこの宇宙船だった...もっともリオンはこの宇宙船、次元艇アースラを実際に目の当たりにしたことは一度も無かったが。それだけに巨大な組織は恐れるべきものだった。
そしてその船を持つ組織『時空管理局』は極めて巨大な組織であることは言うまでもない。
勿論彼ら『時空管理局』、通称管理局の人間はこの戦闘の様子を見ていた。
だがこれはリオンも予想外だろう。彼らは戸惑っていた、なぜなら

「二人しか...いない!?」

「どういうことだ、レイジングハートの映像に映っていたもう一人は...どこに?」

リオンが管理局を恐れていたように、彼らもまたリオンのことを恐れていた。...と言ってもリオンが話にしか管理局を知らないのにたいして、彼らもリオンの姿をレイジングハート...先日リオンと戦った少女なのはのデバイスの映像でしか知らなかった(無論アースラの中には彼女の姿もあった)。リオンは管理局の名前を知っていたが彼らはリオンの名前を知らなかった。
勿論管理局も彼のことを彼らが誇る膨大なデータベースから調べた。だが当然、リオンやシャルティエの存在など載っているわけがない。だからこそ管理局内ではリオンの扱いは「正体不明のエース級以上の実力を持った怪人」と言うことになる。これを本人が聞いたら騒ぎ出しそうだが。

「僕は『無限書庫』にも入ったけどまるでわからなかったよ。『反管理局連合』の人間の可能性もあるとは思うけど...」

自身も彼のことを調べた茶髪の少年はそう言った。黒髪の少年が「それは有り得ないだろう」と否定した。

「もしそうなら、今まで出てこなかった理由に説明がつかない。あれ程の実力者だ..以前から『反管理局連合』の人間なら既にかなり名が知れてるはずだ。『紅の凶剣』や『壊し屋』のようにな。だけどあんな二刀流の黒髪の剣士なんて、噂でも聞いたことが無い。」

「今までずっと隠してきてて切り札に...とか。」

「それは幾らなんでもミステリーの読みすぎだ。それにその方法を取るならミッドチルダに直接送り込むのが妥当だろう?」

「あ...それもそうか。」

少年二人がそんな話をしている傍ら、この間リオンと戦っていたなのはにとってはそんなことどうでも良かった。フェイトが一撃を寸での所での回避を繰り返しているのを見た彼女は転移装置に駆け出そうとした。それをリオンについて話していた少年の黒髪の方が制止した。

「何でとめるの、クロノ君!?」

「ちょっとだけ待ってくれ...艦長、どう思います?」

そう緑色の髪をした女性に言った。
そのクロノの言葉を聴いた女性...リンディ・ハラオウンは内心で喜ばしく思った。クロノは彼女の息子なのだ。彼がこのモニターの状況だけを見てなのはや自分自身をアースラから出撃させないと言う『安易』な決断をしなかったことが嬉しかった。
既にそんな安易な決断が正しいと言えるような単純な状況ではなくなっていた。リンディは決して愚者ではない。むしろこのような局面に対応するにふさわしい賢者であると言えた。だからこそ余計にこの状況は悩ましかった。と言うのももし確認されている敵がフェイトとアルフだけならこのまま放って置いて自滅を待つのがなのはには悪いが上策だった。
だがそこにリオンが加わると話がまるで変わってしまう。フェイトとアルフだけならジュエルシード六つの封印は無茶な話だがあれ程の戦力を持った少年が一緒に戦うとすれば勝率は格段に上がる。その場合はなのはたちを出撃させ無ければ、六つものジュエルシードをただかっさわられてそれを指をくわえてみているだけの間抜けと言うことになる。それは看過できる話ではないので直ぐに出撃させるだろう。だが彼はモニターには映っていない。
無論何らかの理由で出てこれないのかも知れない...と言うか管理局にとってはそれが一番好ましい事だが伏兵として管理局の人間を襲うなんて事をもし向こうが考えていたとすれば

(なのはさんが何もできずに負けた相手...クロノやユーノ君がいたとしても万が一の可能性ができない以上だすことはできない...)

フェイト・テスタロッサの後ろに誰がいるか、そんな事はとっくにその苗字から想像がついていた。フェイトは伏兵なんてことを考えないかもしれないが『彼女』ならそれもまた有得る。クロノやなのはに万が一のことがあったら心情的にも立場的にもリンディには看過できない。

「艦長。」

「リンディさん。」

リンディは内心溜息をついていた。

(ここまで面倒な状況はそうそう無いわね...クライド、あなたならどうしたかしら?)

モニターのフェイトはいまだ二人で暴走体と戦っていた。彼女の額に光る汗が印象的だった。


「はぁ...はぁ...」

「グォォォォォォォォォォ!!!」

かれこれ戦闘開始から30分は経過したが暴走体の力は力強い咆哮が示すとおり陰りをまるで見せなかった。
対照的にフェイトとアルフの消耗は激しい、リンディやリオンが睨んだとおりやはり無謀なのだ。暴走体は鞭のように足を唸らせ強烈な水流を持ってフェイトを攻撃していた。

「グォォォォォ!!!」

そして今また咆哮を轟かせながらフェイトに襲い掛かった。

「フォトンランサー!」

「グォォォォォォ!!!」

今までに暴走体に攻撃が掠りもしなかったわけでない。逆にフェイトの被弾はゼロだ。これだけ聞けばフェイトが圧倒的に有利だった。だが、

(駄目だ...フォトンランサー見たいな攻撃じゃまるでダメージにならない)

フェイトにも手応えが無い訳では無い。『フォトンランサー』の様な小技では駄目だが大技...それこそ今フェイトが使える最強の魔法『フォトンランサー・ファランクスシフト』等を当てられれば確実に決着をつけられる。そう確信していた。この場合当てられればと言うよりも発動できればの方が正解か、相手の動きはおそろしく鈍重で『ライトニング・バインド』などで縛るまでも無く命中させる事ができるだろう。
だがそれらは大技が使えれば、と言う前提の下での話だった。

「グォォォォォ!!」

「クソォ!(のろ)い癖に...守りに何か入りやしない!」

アルフが叫んだとおりだ。暴走体が攻撃の手を緩める気配は全く無い。『フォトンランサー』は防ぐに値しないと判断したのだろう。癪だがフェイトの攻撃力はそこまで高いわけじゃあない。大技はあるがそれには当然準備がいる。そもそもフェイトは一撃の巨大な魔法で敵を殲滅すると言うよりも速さで敵を翻弄して攻撃を加えて徐々に体力を奪っていくのタイプの魔道士なのだ。その速さのためにも軽くするためにその装甲は薄い、つまり

(あんな足の一撃をまともに受けたらそれで間違いなく落とされる...)

回避に専念する以外に道は無かった。しかし幾ら速さに自信があったとしても無限に回避し続けられるわけではない。
既にフェイトの敗色は濃厚だった...


一方海鳴市の公園近く...
大勢の野次馬があつまり凄まじい数のテレビ局の車も集まっていた。新聞記者もいた。彼らは新聞の記事の見出しを考えていた

「『謎のテロ!ビルが一瞬で押しつぶされる!』じゃあだめかなぁ...」

不採用(ボツ)だな。インパクトに欠ける。もうすこし迫力が欲しい。」

「クソォ!機材が足りない!もっと数回せよ!こりゃあ大事件だぞ!」

「ちげぇな!こう言うのは特ダネって言うんだよ!」

その近くには彼らが語っている通りペチャンコに潰されたビルとそれによって生じた瓦礫の山があった。

「ええーこちら現場です。このようにビルが巨人に踏み潰されたのかのような有様になっています。幸いなことに怪我人は一人もいないようですがその被害額は数億円にのぼると見られており...」

「ええ...いきなりこう...グシャアっと潰れたんです。中には誰も居なかったんですが...その前には海の方からとんでもない音が聞こえてきまして...」

「馬鹿ちげえよ、あれは絶対宇宙人の仕業だっての!だってありえねぇだろ!?いきなりビルがぶっ潰れたんだぜ、地震とかも無かったのによぉ!」

「落ち着いて下さい!警察の方では事件性は薄いとみており...」

既に人が人を呼ぶパニックになっていた。その近くのベンチには握りつぶされたペットボトルが転がっていた。
対照的に先程までその場所に居た...正確に言うならばこの事件、ビルを潰した本人の耳には海鳥の泣き声しか聞こえなかった。それもその筈、彼は海上の空をまるで駆け抜けるように飛んでいた。

「クソ...まだか!」

苛立ったようにリオンはそう言った。晶術の応用で空を飛ぶのは凄まじい量の体力を消費するのだ。それを承知の上でお構いなしに彼は駆ける。既に結界は張られているのが遠目で見えた。おそらく一般市民にはこの戦いの音は聞こえていないだろう。マスコミだか何だか知らないがそう言った物で騒がれることを喜ぶような趣味は無いリオンにとっては喜ばしいことだった。
だからこそビルを潰すような真似はしたくなかったのだが、最初の爆音で公園にはかなりの人が集まってしまっていた。彼らの注意を海から逸らすために人の居ないビルを選んでそれに向けて『エア・プレッシャー』を放ったのだ。

(とは言うものやり過ぎでしたかね...)

無論リオンの姿は見られていないだろうし、見られていたとしても晶術はこの世界の人には理解できまいがそれで起こった惨状はシャルティエにそう思わせるのに充分だった。
そんな事を相方が思っているとは露知らず、リオンは焦っていた。

(こんな事になるなら飛行魔法も覚えておくべきだったか...!)

未だに物騒な音は鳴り止まない。その事がさらにリオンを焦らせた。
そしてその様子を管理局は見ていた。

「リンディ提督!」

「聞こえているわよエイミィ。」

そう返しながらリンディは考えていた

(これは私の独り相撲だったのかそれともダメージを負ったフェイトさんを見ていられなくなったのか...けどいずれにしても。)

「なのはさん、ユーノ君、クロノ。出撃して貰えるかしら?」

今まで心配そうにモニターを見ていたなのはは表情を引締めた。

「「ハイ!」」

その元気な返事を聞くのと同時にクロノには念話でこうも言った。

「(無理はしないで...全部でなくても良いからジュエルシードを幾つか横取りしてこれるかしら?)」

クロノは手に胸をあてて一礼して出て行った。
何はともあれ賽は投げられた。決断をしたリンディにあとできることがあるとすれば

(祈ること...かしらね。)

名も知らない剣士が凶悪な性格をしていないことを、クロノ達の無事を、
リンディは静かに眼を閉じた。


(母さん、任せてください。)

クロノはそう思った。実の所、これが今回のジュエルシードの騒動において初めての出撃だった。少なからず張り切っていた。

「!?」

「(落下中は念話で話すんだ!舌を噛むよ!)」

横で声になっていないなのはにそう支持しつつ自分はデバイスを構えた、

「(ふう...)」

再び横を見るとレイジングハートをもって少し落ち着いたようななのはがいた。

「それじゃあ行くよ二人とも。」

「うん」

「サポートはまかせて。」

そう言っていた矢先、近くを黒い髪の毛のさっきまでモニターで見ていた少年が駆けていた。

「あの子は...!」

「は、はやい。」

二人はそれを見てそう言った。クロノも全く同じ気持ちだったがこれ位で驚いていたら執務官なんてこの年では務まらない。
クロノは加速して飛び少年に対して先回りしてその前に立ちはだかった。

「どけ!邪魔をするな!」

「君の都合は聞いていないな、僕は時空管理局執務官クロノ・ハラオウン。君を公務執行妨害で逮捕する。」


少年の肩書きを聞いたリオンは思わず顔をしかめた。敵に間違いなかったからだ。

(時空管理局...クソッ!今は一秒でも時間が惜しいと言うのに...)

リオンの飛行はさっきも言ったように消耗が激しい、今空中で彼らを相手にする余裕は流石のリオンでもなかった。だが、口先で言い負かすか説得するか、いずれにしても時間が無いし相手がそれに応じてくれるとは限らない。とすれば必然的に選択肢は一つ

(やるしかない...か?)

だとすれば必勝。しかも瞬殺しなければならない。そう考え体勢を整え隙を伺い始めた。すると、

ズガァァン!!

「フェイトちゃん!?」

一瞬だけ彼らの意識がリオンから外れた。おそらく生でこの戦いの音を聞いたのは初めてだったのだろう。

(今だ...!この瞬間しかない!)

「そこを...」

「あ、しまったなのはー」

茶髪の少年がなのはに注意を呼びかけたが、もうすでにリオンはシャルティエをかまえ攻撃の態勢に入っていた。

「どけえぇぇぇ!!」

漆黒にして超高速の斬激が一閃した。

「「「うわああ!?」」」

「…今の僕は虫の居所が悪いんだ...邪魔をするなよ...!」

無論今の一撃で後を奪うつもりも怪我をさせる気すらない、見た目こそ派手な攻撃ではあるがリオンにとって今重要なのは彼らを倒すことではない。

「行くぞシャル。時間が惜しい。」

「わかってますよ、坊ちゃん。」

リオンも自覚していた。間違いなく飛行速度は落ちていた。後ろを見るとあの一撃を二人に庇われたのか知らないがすでに体勢を立て直したなのはが見えた。

(まぁ...そこまで僕にとって有害ではないだろう。)

そう思い放って置くことにした。もうすでにリオンの瞳には暴走体が映っていた。本来のリオンにとってならただの雑魚だが、今のリオンに残された体力でわざわざなのはを落としてあれを倒す余裕は無かった。


「大丈夫ですか、マスター。」

「うん、大丈夫だよレイジングハート。」

リオンの思惑通り彼女たちはさっきの攻撃で怯みはしたが全く傷を負っては居なかった。そして前方のリオンを見た。なのはには彼がまるで足を引きずりながら歩く老人のように見えた。
元からなのははリオンのことが気にはなっていた。ある日突然魔法と言うものと出会い、ジュエルシードを集める戦いに巻き込まれた。普通の人間だったら文句の一つでも言いたくなるであろう話だが、その中でフェイトと出会い彼女がどこと無くさびしげな印象をしていたというだけで助けてあげたい、友達になりたいと思えるほど心優しい少女だった。ところが突然フェイトと一緒に現れた圧倒的に強い剣士。そんな彼のことが気にならないはずも無かった。...だが同時に少し怖いとも思っていた。と言うのも先日シャルティエを突きつけられた感覚は魔法に触れてからでも最もゾッとするような経験だった。年端もいかない少女に恐怖を与えるには十分すぎることだった。
だがなのはは今老人に見えると言った位に疲弊した彼を見てそんな恐怖は薄れてきていた。そんな状態になってもフェイトのところに向かおうとする彼は実はとても優しい人間なんじゃないかって思った。

(まだちょっと怖いけどね)

でも彼とだってきっと仲良くなれる...なれたらいいな。そうなのはは思った。


暴走体がもう間近に迫ってきたときにリオンはシャルティエと共に鋭く叫んだ。

「「グレイブ!」」

地属性の晶術『グレイブ』を空中で発動させ海底を大きく隆起させて安定した足場を作った。本来は相手の足元を攻撃する晶術なのだがこのような使い方もできた。リオンは上を見上げた。探していた少女はリオンを見て大きく眼を見開いた。

「リオンさん...?」

まるで今漸く自分のしていることが間違っているときがついたようだった。

「何だ、思ったよりも元気そうじゃないか。」

「あ、アンタまさか助けに来てくれたのかい?」

リオンは安堵して思わず溜息をついた。

「勘違いするなよ。これは飽くまでもついでだ、やるぞ!ジュエルシードを回収する!」

二人は(うつむ)いた

「…ごめん。」

「…ごめんなさい。」

それを聞いたリオンは薄く笑った。

(あとで説教をしなくちゃならないと思っていたが...この件については見逃してやるか。)

そう思ってシャルティエを構えた。

「(おいバルディッシュ。聞こえているか?)」

「(ハイ...なんでしょう?)」

「(残念だが僕はもう次の一発で限界だ。あの『伝言』はお前から伝えてくれ。)」

「(な、何をー)」

少しばかり抗議する声が聞こえた気がしたがもう既に念話は切っていた。

「聞こえるな?時間を一分だけ稼いでくれ。」

「リオンさん?」

「アンタ、何をする気なんだい?」

「良いから速くしろ!」

リオンの剣幕に押されたのか何も言わずにフェイトとアルフは暴走体を撹乱し始めた。リオンの後からやってきたなのはも力を貸して旗色も良くなっていた。そしてリオンは晶術の準備をした。
イメージするのは超重力の深淵。今ここに必要なのは圧倒的火力。残された体力を振り絞ってリオンとシャルティエが使えるなかで二番目に強力な晶術を選んで発動した。

「「ブラックホール!」」


「えっ...?」

客観的にその声だけを聞いたらなんとも間の抜けた声だ、と言えるだろう。だが現実を見ればそう言ってしまうのは余りに酷だ。
一瞬ではすまない時間フェイトは眼を疑った。余りに現実的でない光景が目下には広がっていた。
突如、巨大な黒いボールの様なものが出現したと思ったらあっという間にあれほど自分たちを苦しめていた暴走体は一瞬で形を失った。

「…すごい。」

溜息と共に出た言葉はそれだけだった。無理も無い。確かに倒すだけなら巨大な魔法を準備する時間と余裕があればフェイトにもできただろう。だが彼女の最強の魔法『フォトンランサー・ファランクスシフト』でもあんなことはできない。彼の晶術と言う技の一つであろうあの『ブラックホール』は暴走体を蹂躙して引きちぎるようにして押し潰したのだ。圧倒的な破壊力に広大すぎる攻撃範囲...あわや自分も巻き込まれそうになったと錯覚するほどの大迫力。フェイトが知る限りあんな魔法は古今東西どこにもない。無論晶術は魔法とは違うらしいがー

「フェイト!」

アルフがぼんやりしていた彼女を呼んだ。

「逃げるよ!ジュエルシードはもう回収した!」

ハッと現実に引き戻された。そうだ、逃げなくては。今自分は追われている身だ。

「リオンさん!」

帰ったらちゃんと謝らなくちゃ、そう思って彼を呼んだ...が

「・・・・・」

「リオン...さん?」

彼は応じなかった。一陣の風が吹いた。
彼は風に逆らわなかった。同時に彼の作った足場も消えた。水しぶきがあがった。

「リオンさん!」

「だめだよフェイト!もう奴らも来てる!」

「でも!」

リオンは眼を閉じたまま海中に沈んでいった。

「大丈夫だよアイツなら...だから行くよ!」

既にアルフは転移の術式をくみ上げていた。バルディッシュはリオンとの念話が終わった後きっと自分の(フェイト)は冷静ではいられないだろうと考えてアルフにこう指示していた。
全速力でここを退避しなくてはならない、と。
なのははさっきからフェイトに「待って」と言っていたがおそらく聞こえてはいまい。
フェイトは沈んで行くリオンに届かない手を伸ばした格好のまま虚空へ消えていった... 
 

 
後書き
実はこの話が無印で一番やりたかった話だったりします。

よく転生などでリリカルなのはに過剰戦力を入れる話がありますがその過剰戦力がフェイトサイドにいてそれをリンディ達が確認しているのだとすれば海上決戦のときリンディは迷うと思うんですよね。よく迷わずになのはの出撃を止めてますがあれはおかしいと思ったがゆえにリンディの内心の葛藤を書かせていたただきました。

まあ結果だけ見れば原作とそう変わることは無いんですが納得してもらえれば幸いです。 
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