ホウエン地方LOVEな俺がゲームの中に吸い込まれちゃった
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昔と今
私はーーー。
彼はユウキ。
私は死んだ。
彼は助けた。
私は感謝した。
彼は遅かった。
私は好きになった。
彼は気づかない。
私は手を繋いだ。
彼は顔を赤く染めた。
私は見た。
彼は強かった。
私はもっと知りたくなった。
彼は振り向かない。
私は彼を止められない。
彼は行ってしまう。
私は出られない。
彼は私を待ってくれるだろうか。
私は奴を見つけるまで。
彼は行く。
私は…………
《あなたは違う》
でも、だけど、行く、くらいなら、私が、
***
何故だか妙に懐かれた。
「ユウキさん♪」
「なに?」
「今日は何処に泊まるんですか?」
「ポケモンセンターとか?」
「なら……私の知っているところに行きませんか?」
「え、ああ、うん。別にいいけど」
ーーハルカに懐かれた。
というかキャラが違い過ぎて面食らってるだけで、俺じゃなかったユウキが元々仲が良かっただけなのかもしれないけど。
まあつまり、俺自身ハルカをハルカと認識できてない。何というか……ハルカっぽくない。イメージとかけ離れて完全に俺の中で別キャラとかしてる。
俺が無駄な疑問を持っているせいだとも思うけど……ハルカの知っている宿屋(?)に着いたら詳しくきいてみるか。
「じゃあ私達はここら辺で……」
「ん?一緒に行かないの?」
「い、良いいいんですか!!!」
トロバくん!顔っ!近いっ!
「ちょっとトロバ!」
「私達は適当なところに泊まるから!」
「お二人でごゆっくり!」
「……そうか?まあいいけど」
セレナに首を閉められカルムに口と鼻を塞がれたトロバくんはモガモガと苦しそうに暴れている。
……いやマジでそろそろ辞めてやれよ。顔真っ青だぞ。
「じゃあそういうことで!」
「ウィッス!またなー」
いや主人公と『またな』はないよな。絶対厄介事になるし。
……そんな余計なことを考えているうちにセレナ達御一行は言ってしまった。縁があれば……というかまた必ず何処かで会うだろう。俺にはそんな確かな予感があった。
「ーーで、ハルカ、その知っている場所ってな何処なんだ?」
「あ、はい。ついてきてください」
そう言ってハルカは今俺たちいるナントカアベニューを抜け歩き始めた。薄暗く細い通路を抜け広場に出る。
地面に無造作に突き立てられた看板を見ると……
→ローズ広場
←エテアベニュー
と書かれている。
「ハルカー、そこってもしかして遠い?」
何気なく俺は聞いた。
「少しかかるかと。でもそれほど…………!!!!!!」
「お、おいどうした!?」
ハルカは俺の質問に答えずいきなり走り始めた。
初めてみせるその尋常ではない焦燥と怒りの篭った表情に危機感を抱いた俺は、手をつないだまま走るハルカの後ろをバランスを崩しながらもついて行く。
「おい!落ち着け!」
声をかけるが反応がない。
そうこうするうちにローズ広場を出て、洒落たカフェの横を通りすぎた。
突然。
ハルカが止まった。驚いたが俺はハルカに軽くぶつかりながらも体制を整える。荒くなった息をはいて俺はゆっくりとハルカを覗き見る。
驚くほどその顔は青白かった。目は寒気がするほどに濁り、キラキラ輝かせていた面影もない。
「お、おい!大丈夫か!?」
「よ、ようやく……ようやく見つけ、た……あの……おと…こ…………」
糸の切れた人形のような挙動で力を失い倒れてきたハルカを咄嗟の判断で受け止める。
「な、何だってんだよ……」
正直、今日一日色々な事があって許容量をオーバーしていた俺に、ハルカのその悲痛な表情を見て出てきたのは何とも言えない困惑の呟きだけだった。
***
手短なホテルにチェックインした俺は部屋のベッドにハルカを寝かせた。
ホテルの従業員はいきなり気絶した女の子を抱えてやってきた俺を不審がったと思う。更に借りる部屋は一部屋だけ。下手すれば今頃通報されてるかもしれない。
「あー、二部屋借りときゃ良かったな……」
まあいいや。
俺自身今日一日だけでポケモン世界に入ってジムリーダーと二試合して砂漠で一悶着……もう身体が持たない。
女の子と二人で一つ屋根の下夜を過ごすのに、甲斐性なしとでも思われるかもしれないが限界だ。
「これ……俺がポケモン世界に憧れ過ぎて見てしまった夢……夢オチとかじゃないよな……ハルカに聞きたいこと……まだたくさん、ある…………」
いつの間にか俺はハルカの寝ているベッドに頭を預ける形で眠ってしまっていた。
手は……未だに繋がれたままだ。
***
ーー公園で女の子が追いかけられていた。
「いや!離して!」
ーー赤い服を着た男に女の子は取り押さえられる。多少の抵抗があり、苛立った男は女の子を殴って気絶させた。爪が当たったのか女の子の右耳の後ろが切れ、血が公園の遊具に飛び散った。男は女の子を一瞥したのちに抱え、その場を後にする。
ーー男が向かった先は何処かのビルの二階だった。エレベーターで上がり、部屋に入った男は女の子を乱暴に床に投げ捨てた。
「ここで待ってろ」
ーーそう言って男は女の子をガムテープとロープで拘束し部屋を出て行った。
ーー女の子が目覚めたのは数時間後。気がついたら電気もついていない部屋で身体を拘束されている……その恐怖が女の子の全身を震え上がらせた。
ーー男が帰ってきたのは二日後だった。女の子は窶れ、意識は既に朦朧としていた。
「ーーーーさま。こいつが例の娘です」
「……取り敢えずアジトまで連れていけ」
ーー男と一緒に入ってきたもう一人の男が何かの指示をだす。男はその男に素直に従い女の子を担ぎ移動を始めた。
ーー女の子が気が付いたのは男の背中から丁度降ろされる瞬間だった。反抗しようとしたが身体に力が入らない。ずっと監禁されていたのだからしょうがないだろう。男はその様子を近くにいた先程と同じ男に伝えた。どうやらもう一人の男の方が目上の存在らしく男は忠誠の証として片膝を地面につけ首をたれた。
ーー女の子はそれから更に二日後、ろくに食事も与えられずに弱りきった身体のまま外に連れ出された。しかし最早抵抗する余力は残されていない。監禁されていた施設を出てすぐ、女の子は男に砂丘の蟻地獄に放り込まれた。
ーー薄れた意識の中、最後女の子は男を睨みつけ……
ーー砂に飲み込まれ完全に息を引き取った。
***
「全くユウキは何処まで行ったのよ」
時は少し遡る。ユウキがナックラーの大群を目撃した丁度そのころ、ユウキの幼馴染オダマキハルカは【そらをとぶ】を使いミアレシティに着いていた。
日は徐々に傾き夕陽が空を赤く染めていた。徐々に点灯を始める街灯の灯りを受けハルカはキョロキョロと辺りを見渡す。
「まさか……もう次の町に出発した……ってことは無いだろうけど……この広さじゃあ……」
ーーしょうがない、聞き込みしよう。
そう決めてハルカは片っ端から道行く人へ声をかけ始めた。
「すいません。この人を探しているんですが見ませんでした?」
写真を見せながら実に様々な人に話しかけるが、帰ってくる言葉は『知らない』という声ばかり。
それも当然だ。まだユウキはミアレシティについていない。幾ら探そうが聞き込もうがいないのでは見つかるものも見つからないだろう。
「うあーーー!もうやめたーーー!」
ーー結論として、飽きっぽい気性のハルカに藁を掴むような真似は続かなかった。
「ユウキ……早く会いたいよぉ」
思わず本音が漏れる。何せ半年ぶりに好きな人と会えるかもしれないのだ。
*
……ユウキはハルカの住んでいたミシロタウンに数年前引っ越してきた。ミシロタウンは子供……どころか人口が少ないためユウキとハルカが仲良くなるのは必然だったと言えよう。
暫く一緒に過ごすうち、ハルカはユウキに対して友情以外の感情を抱くようになってきた。ミシロタウンに同じ年頃の男がいなかったのもあるが……それでなくとも二人きりで過ごすことが多かったのだ。ユウキにハルカが惚れ込むのも時間の問題だった。
しかし……
時を置かずしてポケモントレーナーになる時が来た。
以前からポケモンが大好きでトレーナーに憧れを抱いていたユウキはもちろん、ハルカもあまり深く考えずにトレーナーになろうとしていた。
この世界で言う『ポケモントレーナー』とは同時に、子供が自立するのに通る関門でもある。それをハルカは失念していたのだ。
ーー旅に出てもユウキと一緒。
そんなことをハルカは自分の中で無意識に思っていた。
だが、ポケモントレーナーになるということは《自立》する……つまり、
一人で旅をするということなのだ。
今では旅の危険性等も考慮して二人旅……とすることも多い。しかしユウキの父が頑固者のジムリーダーで昔からの風習に乗っ取ったやり方を突き通した結果、二人は別々に旅をすることになってしまった。
ハルカも初めは自分の感情に気づくことはなかった。だが旅を始めて五日目の夜、ユウキとも家族とも離れて生活することが急に不安になってしまったハルカはトウカの森の自分用のテントの外で泣いていた。
ーー不安、孤独。
そういった感情に押しつぶされ耐えきれなくなった。年頃の女子に我慢しろというのも酷な話だが、夕方頃に野宿の用意をしてから今に至るまでずっと泣きじゃくっていたハルカの身体は冷えきってしまっていた。
そんな時だ。偶然ユウキが通りかかったのだ。
ーー泣いてるのか?
ーーううっ……ユウキ?
ーーそうだユウキだ。大丈夫か?
ーーぐすっ……ユウキぃ……
突然の出来事で整理がつかなかったというのもあるが、ハルカは泣き顔を隠すこともせずユウキに抱きついた。
優しく髪を撫でたユウキはハルカの身体が冷えていることに気づき、温かいスープを拵え飲ませる。温かさが胸に染みてようやくハルカの孤独感が和らいだ。
ーー落ち着いたか?
ーーうん……でも……
ーーああ、今日くらい一緒にいてやるよ。
結局その日の夜は二人で同じテントの中、手を繋いで寝たのだった。
ーーそこからだ。ハルカがユウキへの自分の気持ちに気づいたのは。
*
「あー、そんなこともあったっけなー」
ベンチに座って昔を思い出しハルカは呟く。紛らわそうと思い出したことなのに余計にユウキへの想いが強くなってしまう。
「いけないなー私も。今回こそは……って何回も挑むけど告白出来なくて……それでいてアイツは鈍感だし」
旅が一旦の終わりを迎えても状況は変わっていなかった。ユウキとハルカはライバルで親友。その位置から未だに抜け出すことが出来ていないのだ。
そんな自分への呆れを含めて大きく息を吐くと少し気分がすっきりした。意外にも昔を思い起こすのは良かったのかもしれない。
「さーって。いつまでもこうしてちゃ始まらないし……手当たり次第に建物に入ってみよう!」
ーーあの放蕩者は放っておくと持ち前の天然ジゴロパワーで女性を籠絡して行く。早く見つけ出さないと。
謎の悪寒と共に変な想像をしてしまったハルカはすっかり日のくれた夜の町を歩き始めた。
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