ホウエン地方LOVEな俺がゲームの中に吸い込まれちゃった
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姿が同じ敵の登場は定番
「嗚呼!フライゴン!さすがっ!ドンドン行こう!」
フライゴンは黙々と穴を掘っていた。
しかし予想していたよりも謎の空間は深い位置に存在していたらしく、俺は暫くフライゴンの背を堪能していた。触り心地は……一口に説明できない。モフモフのサラサラ……とだけ言っておこう。どうだ?羨ましいだろ!
そんな時だった。
突如として身体全体が浮遊感に包まれる。
「うぉっとー」
「ゴーン!」
身体に少しのGを感じた後、フライゴンによって空中に浮遊する。
「ん……フライゴンありがとな」
フライゴンの鳴き声を聞き、とりあえず周りに目を向けてみる。
そこには……
「一面……ナックラーだらけ!!?」
壁、天井、地面。全てがびっしり隙間なくナックラーで埋め尽くされていた。見るもの全てを圧倒するほどの超質量。茶色の壁が意思を持って蠢き、その二つの瞳はこちらを注視して離さない。
こ、これは……
「ナックラーだらけじゃないかぁぁ!(歓喜)」
「フ、ライゴン……(また、始まった……)」
こんな光景誰得?……いやいや俺得っす。
フライゴンはナックラーから育てたんだ。その俺がっ!フライゴン同様っ!ナックラーを嫌いなわけっ!ないじゃないかぁっ!
「というわけだフライゴン。俺をあのパラダイスに投げ込んでくれ」
「ふ、フラッ!?……ゴンッ、ゴーン!(え、えぇ!?それは流石にやめといた方が良いんじゃないかな。……物理的に身体が壊れるよ)」
赤いカバーの付いた瞳に焦りの色をみせたフライゴン。あー、なんだろう?嫉妬かな?……嫉妬!そうか嫉妬か!
「おーよしよし。可愛いなあ、もう!」
「ふ、ふらいごん……(でた……早合点)」
その時だった。空間に途轍もない音量の鳴き声が木霊する。
「ーーフゥラァァァァイゴォォォォォン!!!」
「!!」
……広い空間でもその轟音は反響し、肌がピリピリと震える。
声を聞いた瞬間にそのポケモンの種類からステータスまで、関連した全ての項目を脳内に羅列した俺は咄嗟に声の主を探す。
ーーいた。
唯一ナックラーの大軍勢にポッカリと空いた空間。そこに……俺が記憶している大きさを遥かに超える、巨大なもう一匹のフライゴンが鎮座していた。
「フゥゥライゴォォォン!!」
「おおっと……何言ってるかわかんないけど、お怒りのようだ」
ポーンと軽い音が腰から聞こえた。見ると、ポケナビに文字が表示されている。
「ゴーーン!」
俺のフライゴンが泣くと文章が追加された。
【ユウキ!】
どうやら気を利かせて俺の手持ちのアイツが文字を表示してくれている様だ。
【今はここから引いた方がいい!同族の僕から見ても気が立ってる。話し合いの余地もなさそうだし……女の子の声は気がかりだけど、逃げるんだ!】
それもそうか……しかし、もしその女の子に万が一のことがあったら……と思うとなかなか決断できない。
考えつつ俺は視線を上にあげる。
う、うわぁあ。これは……うわぁあ。
「おいフライゴン」
「フラッ?」
「お前の同族さん、ヤる気っぽいよ」
俺たちが入ってきた穴は既にナックラーでびっしり埋め尽くされ、完全に塞がれてしまっていた。
これは……詰んだ?などと軽い気持ちでナックラーを見ていた、その時だった。
「フゥゥゥゥライゴォォオォォン!!!」
「うわっ、ちょ!待てや!」
超高速で巨大なフライゴンは此方に接近してきた。
「フ、フライゴン!でんこうせっかで避けろ!」
言うが早いがフライゴンは一瞬にして数メートル前方に移動した。思わず振り返ると、丁度鋭い翼が俺たちのいた場所を切り裂いている光景を目の当たりにする。
「完全に敵さんこっち狙ってるけど……いけるか?」
「ライゴン!」
こうなってはバトルは避けられない。野生にしてはレベルが高そうだが……それは問題じゃない。一番は数だ。
ぱっと見で数千はいるだろうナックラーに一斉に襲い掛かって来られたら幾らレベル差はあっても厳しいだろう。
だからまずは……
「速攻で親玉を無力化する!……フライゴン!【りゅうのいぶき】!!」
フライゴンは喉元にエネルギーを溜めると、それを間髪いれずに解き放った。紅蓮の息吹が一直線に向かって行く。
当然フライゴンもバシャーモ同様レベルは最高となっている。いくら威力60でも直撃すれば致命的だろう。
しかし、巨大なフライゴンは俺の予想を……いや、ポケモンの世界の常識を裏切った。
「フラァァァァアアァァァアアイゴン!」
その凄まじい雄叫びに反応したかの様に巨大フライゴンへエネルギーが集まってゆく。そして……
頭上に向かって解き放った。
「は…………オイオイ、冗談だろ」
何度か、その技は見たことがあった。アニメ版サトシ、シロナさん等々……うろ覚えだが使っていたはずだ。
技の名前は【りゅうせいぐん】
ゲームではなつき度を最高まで上げ、更に技を教えてくれる人の元へ行かなければ習得不可のドラゴン最強技だ。
「オイオイオイオイ!幾ら何でもそれはおかしいだろ!」
爆発音。抑え込まれたエネルギーが解放され周囲に無差別に飛び散る。【りゅうのいぶき】諸共巻き込んでそのエネルギーの塊は此方へ向かってきた。
その名の通り【りゅうせいぐん】は自身のドラゴンの力を流星の如き弾丸として上空から降らせる技だ。ドラゴン技最強の称号は伊達ではなく、威力140から130に下方修正された今でも数多のドラゴンポケモンのメインウェポンとして重宝されている。
実際に目の当たりすると、何とも言えず。
流星群と表現するに相応しい光景に俺は完全に目を奪われてしまっていた。
「フラッ!!」
おっと!いけないいけない。よく考えれば今大ピンチだった。
「う、うーん。でもいざって時に何の技で対処すればいいのかわかんねっ!」
不味い。ひっじょーに不味い。ターン制RPGポケットモンスターに慣れすぎなせいで思わずリアルタイムバトルということを忘れてしまう。
いや、慌ててはいけない。冷静になって状況を分析。気分はノズパスだ。
此方に当たる進路を進んでいるのは6発。後ろに俺が乗っていることを考えると全て躱すことは不可能。ある程度は技で破壊しなくてはならない……っと。なら……
「……フライゴン。此方に向かってくる一発目を右手の【ドラゴンクロー】で迎撃し、二発目は左手を。そのまま【ばかぢから】で二つを纏めて粉砕。次の一つを交わしながら準備、【はかいこうせん】でフィニッシュだ」
意外にもスラスラ作戦を立てられた。やろうと思えばできるもんだねぇ。
俺に命令された通りにフライゴンは行動してくれた。
【ドラゴンクロー】で二つぶった切る。
【ばかぢから】で寸前に迫っていた流星を消失させる。
【はかいこうせん】は先にいた巨大フライゴン諸共エネルギーを飲み込んだ。
「フ……ライゴン!!」
全てを破壊する威力故の【はかいこうせん】は、【りゅうせいぐん】を俺の予想以上の力で粉砕して行った為、相手のフライゴンに直撃。巨大フライゴンは苦しそうなうめき声をあげながら最後のわるあがき……とばかりに此方を睨みつけ、ナックラーが群れる地面に落ちて行った。
【はかいこうせん】はゲームでは子供達が好んで使うことはあっても、俺の様な廃人プレイヤーが使うことはなかなかない。
しかし。
「やっぱこの世界物騒だわぁ」
と、俺としたことが冗談の一つも言えないコメントから察するに余りある【はかいこうせん】の威力は途轍もない物だった。
敵とはいえ、あの威力を見るとすごく申し訳ない気分になる。
「【はかいこうせん】は封印の方向でいこう」
威力的には【ばかぢから】も相当なものだったが、其方は一点集中型の様でまだよかった。しかし【はかいこうせん】は洒落にならないレベルで《破壊》を辺りに撒き散らす。例えるなら【ばかぢから】はシングルバトル。【はかいこうせん】はトリプルバトルな感じだ。
「えーとフライゴン。取り敢えずはありがとう、助かったよ」
「ゴーン♪」
ーーにしても此処は何なんだ?
俺の経験上フライゴンは野生では絶対に出現しない。新作のXYも流石にバランスが崩壊することはしないはず。だとすると、殿堂入り後の隠し要素か何かなのだろうか。
「ーーだ、ーーーけて」
「この声は……」
遠くて聞こえにくかったが、この声はあの助けを求めていた女の子らしき声だ。
「ーー助けて!」
「……ああ!今助ける!」
辛うじて助けを求めている言葉を聞き取り、声の方角を探す。
「ーーここか!」
丁度真下。フライゴンを下降させ、ナックラーを避けながら地面に着地する。
「どこだ!聞こえるなら返事をしてくれ!」
「ーーここ、です!」
声を頼りに視線を向けるとナックラーが大量に、其れこそ山のようにという表現がピッタリなくらい群がっていた。
その様は何かをあさっているかの様で……不安になった俺は急いでナックラーを掻き分けて行く。
「くっ、ナックラーちょっと動き止めてくれ!」
一匹を掴んで投げる。二匹目を掴んで投げる。三匹目に取り掛かろうとしたときには一匹目が戻っている。はっきり言ってキリがない。
「ちょ!おま!ナックラー!足にひっつくな!……普段なら大歓迎だけども!」
巣を攻撃する天敵だとでも勘違いしたのか、今度は引き剥がしたナックラーが俺の足止めにくっついてきた。
す、進めねえ!
「フラァァァイゴォォォン!」
そんな時だった。俺を手伝っていたフライゴンが初めて苛立ちを含めた大声で吠えた。
すると、
ぴくっとナックラーが動きを止めた。あれだけガチャガチャと騒がしかったこの空間が嘘のような静寂に包まれる。
「お、おう……何ていうかありがとう……?……フライゴン」
「ふ、ふらいごん……?」
どうやらフライゴン自身も予期せぬ反応だったらしい。キョドりながらこっちを見つめてきた。
「でも今がチャンスだ!」
計算外のことでもラッキーには変わりない。フライゴンにも本格的に手助けを頼み黙々と進んで行く。
もう何度目か分からないくらいナックラーを引っぺがした、その時。
「ん?やけにこのナックラー重く……ね……………」
俺が掴んだのは人間の腕だった。
***
「出てきたのは可愛らしい女の子でした。めでたしめでたし」
「可愛らしいだなんてそんな……」
俺の目の前で顔を赤くするこの女の子こそ、ナックラーに埋もれていた声の主だった。
…………心配して損したよ。超元気だよ。ヤルキモノもびっくりだよ。
「まあいいや自己紹介しよう、俺はユウキ。君は?」
「……?あれ、私のことお忘れですか?」
「え、お忘れ?って何が……んん!?」
……まさかの!
「知り合いかよぉぉぉぉ!」
小声で叫ぶという器用なマネをした俺は急いで接点のありそうな人物を探す。
彼女の容姿は、丁度俺と同年代くらいで小柄。透き通った様な白い肌が特徴的で、日傘をさしながら紅茶を啜る……さながらお嬢様なイメージ。俺の好みのタイプに合致するとても朗らかな女性だった。
こんな俺の中でぶっちぎりの一位の子が脳内検索にひっかからない……だと!?
ホウエン関連の線で探したが見つからない。他地方ならば其れらしき人にも心当たりはあるが……まさかカロス地方で出会ったとか!?
「お、おーい。この子に心当たりないか?」
それとなくモンスターボールに話しかける。
すぐにポケナビを通して反応があった。
【シラネ】
「ううぉい!」
「は、はい?」
「あ、いやごめん。なんでもないヨ」
「……もしかして、私のこと……」
「い、いいいいいいや!違う!違う!」
「いえ、分からないのも無理ありません。ユウキさんと接していた時から私かなり変わっていますから」
「あ、そ、そーっかー!そうだろうなーとは思ってたんだよ!」
「そうですか!……多分ですけど憶えていらっしゃる知り合いの方の名前を言ってくださればすぐ出てくると思いますよ」
そう言って、ニコッ☆と凄まじい破壊力を持つ笑顔を此方に向けてくる。
やめてっ!俺のライフはもうゼロよ!
「……じゃ、じゃあ言ってみる」
やべー。なんだあの期待の眼差しは!何ていうか……私がすぐに出てくると信じて疑っていないみたいだ。
どうする!どうする?どうする!?
出来るだけ悲しませることはしたくないけど……どう考えても第三世代レギュラーキャラじゃないし……マイナー路線で攻めるか?……かと言ってエリートトレーナーアヤカ!とか言っても……絶対当たらない自信がある。
……いやまてまて。もしかしたら深く考えすぎかもしれない。
この子は自分を俺が知っていると自信を持って言えるくらいには親しかった……という可能性もあるんじゃないか?
下手にモブキャラ言っても当たるわけがないんだ。なら少しでも可能性が大きい方にかけてみよう。
「じゃあハルカ……とか」
ないな。バカか俺は。女主人公兼男主人公ライバルのデフォ名言ってどうすんだ。
「あ!流石です!そうですよ!ハルカです!」
「あ、やっぱり?そうだよねー。じゃあツツジさn……………………」
……………………………………この子は今何と?
「だからハルカですってば!お久しぶりですユウキさん!」
***
ーーヒヨクシティ・港。
ヒヨクジム・ジムリーダーのフクジはある要件で港まで足を運んでいた。
早速見つけた自身の知り合いに声をかける。
「エニシダさん」
「おお、フクジさん!どうかしましたか?」
ホウエン地方、バトルフロンティアのオーナーエニシダとは十数年来の友人である。フクジはエニシダの姿を見てほっと一息ついた。
「……ああ、用というほどでも無いんですが……彼……チャンピオンのユウキくんは今どこへ?」
「いやあ、ホウエン行きの船が出ないもんで……あの冒険好き……どこか一箇所に留まるという事を知らない。早々に探検に行きましたよ」
エニシダの返答に少し後悔の念を抱きながらフクジは自身の用事の内容を胸の内で反芻する。
「あ……そうですか……エニシダさんがまだ居るときいて……てっきりユウキくんもいるものだと……」
「どうかしたんですか?」
「……ポケモンリーグ協会本部が彼の事を聞きつけたらしく、ユウキくんに対しての伝言を預かったのです」
何やら只事ではないということを悟ったのかエニシダも深妙な顔つきで続きを促す。
「伝言……というと?」
「ホウエン行きの船がでないことも関係しているそうですが……詳しいことは私にも分かりません。ただ……この紙にこれだけ……」
「なになに……」
受け取った二つ折りの紙を丁寧に開き、エニシダは中の文章に視線を落とした。
ーーーーー
ーーホウエン地方チャンピオンユウキ殿。
一ヶ月後にある計画を実行に移す。貴君にとっても無関係とは言い難い内容の計画となっている故、至急カロスポケモンリーグ協会へご足労願う。
ーーーーー
「なるほど……ではユウキくんのポケナビにこの事送っておきます」
「すいません。お願いします」
「いえいえ…………」
フクジ、エニシダ共に内容について気にはなっているが特に触れなかった。ポケモンリーグ協会が秘密主義なのはいつものこと。どのみち答えを知るすべなどないのだ。
エニシダはニヤリと笑って、いつも通り自分の利益を考えた行動をとる。
「それよりフクジさん!貴方フロンティアブレーn」
「エェェェェニィィィシダァァァァァサァァァアアァン!!」
ブレーンの勧誘。ただでさえ現在人気が最高潮のバトルフロンティアにブレーンの少なさは致命的。こうしていつもことあるごとに勧誘へと乗り出すエニシダだが、今日は邪魔が入った。
少々苛立ちながら振り向き、エニシダは硬直した。
「うお!な、なんだい!今ブレーンの勧誘中なんだk……」
「うるさいうるさいうるさい!なんで!……なんでユウキを止めておいてくれなかったの!!」
ーーあ……忘れてた。
エニシダは怒鳴る少女に自身の過失を理解した。
「……!」
「あっ……って顔するんじゃなーーーーい!!」
「ま、まあまあ。落ち着いてくれよハルカちゃん!」
緑のバンダナに黒のスパッツ。オレンジの服を着た少女は、ホウエン地方オダマキ博士の娘であり、お隣さんでライバルでもあるユウキを探してここまできた……
ーーオダマキ ハルカその人である。
「まったく!何のためにエニシダさんに着いてきたと思ってるんですか!」
「い、いやユウキくんを探すためだろ?」
「そ う で す よ」
凄まじい怒りのオーラに気圧されながらも、誠意を見せるべく腰の角度90度、今までの人生で培ってきた最高の状態を維持しながらいった。
「……いや、ごめんね。本当に、ほんっっっとうに!ごめんなさい!」
年上のおじさんに全力で謝られたハルカは若干顔を引きつらせながら自分のリュックを手に取り中身を確認した。
「ちょ……どこいくんだい?」
「ユウキのあとを追います!……あの放蕩者がこの地方に居るって分かっただけで万々歳ですから!!」
「あ……うん。頑張って……」
徐々に物語の歯車は動き出した。
しかし同時に異物を受け入れた世界には歪みが生じる。正史のレールから一度外れた世界は徐々に道を逸れて行く。
チートやバグを使ったゲームの様に、徐々に徐々に、その変化は大きくなって行くのだ。
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