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ダンジョンにSAO転生者の鍛冶師を求めるのは間違っているだろうか

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少女、再登場

 
前書き
第五話のサブタイを変えさせていただきました。 

 
 ヘファイストス様がお帰りになってから適当に武器を七つ作って、箱にほうり込むと、既に時計は午後の六時を指していた。
 一心不乱に打ち込んでいるわけではなかったが、鎚を振るいながら、これからどうしようかとか、アカギミナトのこととか、SAOのときのこととかに思いを巡らせていると、気付いたときには窓から差す陽光は消えて、代わりに部屋の中は炉の炎で真っ赤に染まっていた。
 ずっと同じ姿勢でいたからか、

 「うぅーーーーーーっ」

 と、背伸びをすると、背骨から粉砕骨折したような音が爆ぜた。
 それを聞いて、帰るか、と支度を始めた。
 支度と言っても、炉の炎を消すだけ。
 槌は目に付いたところに放り出したままだ。
 外に出て、扉に鍵をかけて、俺は道すがら夕食を買って、宿への帰路に就いた。


    ◆ ◆ ◆


 翌日。
 いつも通りの時間に起きて、いつも通りに支度をすませて、俺は職場に出勤した。
 が、いつも通りはそこまでだった。

 「遅いのよっ。いつまで待たせるのよ!」

 何故か工房の扉の前に例の少女がいた。

 「お前が来るのが早過ぎるんだよ。俺はいつもこの時間に来てるんだよ」
 「ああ、そう。いいこと聞いたわ」
 「あっ」

 しまった、と思ったけれど、まあ、口から出たことはもうなかったことにできないわけで、気にしないようにしよう。

 「で、返事は?」

 そそくさと扉の鍵を開けている俺の背中に少女が言う。
 その声は何か確信のこもった声音だった。
 何故かわからないけど。

 「直接契約はしない」

 その少女に簡潔に返事した。

 「な、何でよっ!」

 俺がまさか嫌だと言うとは思わなかったのか、驚愕の色を呈した声色で叫んだ。

 「だって、したくないし、できるだけ」
 「できるだけって。少しの同情心もないの、あんた?」

 まるで人格を否定されているようだ。
 ようだ、じゃないか。
 否定されているのか。
 とは言っても、

 「同情心はあるけど、それはそれで、俺は俺だし」
 「それはそれってっ!それにあれだけ渋っといて、できるだけなはずがないじゃない!」
 「いや、できるだけ、だけど」

 俺は地面を蹴り付けながら言う少女に言った。
 本当にできるだけだ。
 ただその『できるだけ』という基準がもしかしたら高いかもしれない。

 「なら、何処までが、できるだけなのよっ」
 「殺されるんだったらする」
 「はっ?」

 案の定、俺の基準を訊いて、口を開けたまま固まった。

 「死ぬことだけは嫌だからな」
 「いや、それは誰だってそうでしょっ!」

 少女は固まっていたけれど、俺の言葉ではっとして叫んだ。

 「まあな」
 「じゃあ、殺されないなら何をされてもいいってわけ?」

 どこか呆れたような声音で訊いてきた。

 「何をされてもいいってわけではないよ。面倒なことになるようならある程度なら対処するし」
 「…………ある程度…………ね」

 少女は思わせ振りに俺の言葉を復唱した。

 「何だ?何かする気なのか?」

 その少女に冗談半分で訊く。
 まあ、まさか俺の機嫌を損ねるようなことはしないだろうと考えたけれど、どうだろう、わからない。

 「あるわ」

 そんな俺のちょっとした心配を裏切らず、少女は肯定した。

 「…………へー、何だ?」

 俺はその少女の返事に目を細めて続きを待った。
 何を言うか楽しみにしていなかったとは言えない。
 面倒ごとには代わりはないけれど、少し骨を折れば片付くことだろうと、何の根拠もなく思っていた。

 「そうね、何か困っていることない?」
 「………………はっ?」

 しかし、俺の予想を遥かに逸脱した言葉が返ってきた。
 まず、質問されるとはまるで考えてなかった。

 「だから、何か困っていないかと、言ってるのよ」
 「いや、聞き逃したわけではないよ。ただ、いきなりでついていけなかっただけ。それで、困っていることを言えば、何をしてくれるんだ?」

 と、言うと、少女は何故か偉そうに鼻を鳴らしてから、

 「解決してあげるわっ」

 と胸を張って言った。
 この返事は予想していたので、ありがたく、

 「そうか、なら俺とこれから関わらないでくれ」

 と、その少女に言って俺は工房に入ろうとした。

 「ちょっ、ちょっとっ!それ以外でに決まってるじゃないっ!」

 少女は慌てて、扉を開けて工房に入りかけた俺の服の裾を掴んだ。
 自分が俺を困らせている自覚はちゃんとあるのか。
 殊勝なことなのか否なのか、わからないけれど。

 「いや、何でだよ。何で頼む方が条件出してるんだ?」

 というか、今現在NOW一番お前に困らせてるんだけど。

 「何でもよっ。とにかく何か()()ことで困ってることあるでしょっ!」
 「え~?」

 他にあるでしょ、って言われてもお前が俺の前に現れるまでは何不自由なく生きていたんだけどな。
 と言っていても、ずっとここで騒がれるのも嫌だしな。
 また追いかけっこも嫌だから、何かさせて黙らせるか、それともどこかに行かせるかするか。
 と、思い、扉を開けた工房の中を一通り見回した。

 「ああ、そう言えば、あったよ」

 そして、ふと目に入ったことで名案を思い付いた。

 「えっ、何なのよっ?」

 少女が嬉々とした声で背後から俺に聞いてきた。

 「この箱を()()のメインストリートにある【ヘファイストス・ファミリア】の支店まで持って行ってくれないか。支店は目立つからそこまで行けば、気付くと思う。いつも苦労してるんだ」

 そう言って、俺は彼女の前に工房の隅から持ってきた箱をどかっと置いた。
 その箱というのが、例の武器を無造作に入れている箱で、これが溢れると支店に持って行くようにしているのだけれど、それがそれなり骨が折れるのだ。

 「わかったわっ。任せなさい」

 俺の機嫌を取るためにとは言え、二つ返事で了承してくれた少女に一抹の罪悪感を抱きながら、俺は少女の背を見送った。

 支店があるのは北西なんだよな。
 騙しておいてなんだけど、まさか気付かれないとはな。
 まあ、いいか。
 取り敢えず、数日こんな感じでやり過ごしながら、どうするか考えるか。
 と、考えながら、すぐには帰ってこないと思うけれど、保険でさっさと装備を付けて、工房に鍵をかけ、ダンジョンに向かった。 
 

 
後書き
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