グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)
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第27話:思い出のバカンス……トラブルバスター要りますか?
(グランバニア城・王家のリビングルーム)
リュカSIDE
突然ウルフから通信が入ったと思ったら、出た途端切られた。
イタズラかと思いちょっと苛ついたけど、よく見ると通信は切られてなく、映像とこちらからの音声のみ遮断しただけだった。
楽しいランチ時間。
周りにはビアンカを初め、ティミーもアルルもリュリュさえも居る。
只ならぬ雰囲気に皆押し黙り、向こうから聞こえてくる音声を懸命に聞き取ろうとしている。
すると……
『我々はグランバニア王家によって滅ぼされた“楽園の光”だ。この船は我々が占拠した……ムダな抵抗はするんじゃない!』
と、ウルフとは違う男の声が聞こえてきた。
どうやら奴等の乗った船はシージャックされたらしい。
確か“楽園の光”って……ちょっと前にぶっ潰した宗教団体だった気がする。
なんか“光の教団”の後釜的な存在になってきたから、先手を打ってテロ組織として潰したんだけど……
もしかしてウルフを狙っての報復行動かな?
『我々はこの国の邪悪な治世に見切りを付け、他の国で真理を広める。その為にグランバニアには我々の活動資金を出して貰う事にする。その為にこの船に乗り合わせた者達に協力して貰う。逆らえば悪に染まりし者として容赦しないが、大人しくしてれば危害は加えない!』
『では、君達に協力すると言うのであれば、優遇をしてくれると言うのだな?』
お? この声はウルフだな。
MHに近いからよく聞き取れる。
『何だ貴様は?』
『聞かれるまでもないだろう……只の人質だ。お前等がそう言ったんだぞ』
良いねぇ……この状況で皮肉を言えるなんて。怖くないのかなぁ(笑)
『何だと生意気だな……』
『生意気かどうかは別として、協力すれば危害は加えないどころか、全てが終わったら優先して解放してくれるんだろう』
聞く限りではウルフを狙ったテロ行為ではなく、アイツ等は偶然巻き込まれただけみたいだ。
『貴様のような若造に何が出来ると言うのだ!?』
『よく見ろ。その若造が座ってるVIP席を……只の若造にこんな良い席が用意される訳ないだろ! 俺はこう見えてもグランバニアの重鎮だ』
どうやらウルフ等は、相当良い席に招待されてるらしい。
『ほぅ……国家の重鎮。では隣の女2人は、貴様のコレか?』
音声だけだから想像するしかないけれど、犯人の言う“コレ”とは小指の事だろう。
要するにウルフの女かと聞いてるんだろうなぁ……
『よく見ろ馬鹿! こんな程度の低い女が、未来を担うグランバニアの重鎮の女な訳ないだろ! 妹のリューノと、それの世話をする侍女のマリーだ。俺はこの若さで重鎮になったんだぞ……その理由を考えてみろ。王家の女と関係を持ってるからだ! 俺は未来の王位継承者だ……リュリュ姫と許嫁関係にある未来有望な若手家臣だ!』
面白い!
よりによってマリーを侍女に仕立てるとは(笑)
更にはリュリュを使い、自分のVIPさを演出。
『ふん……言うだけなら誰でも言える。お前が国家の重鎮で、我々に協力できる証拠なんて何も無いだろ』
『何も無い人間が偉そうに名乗り出ると思ってるのか馬鹿!? 証拠があり協力できるから名乗りを上げてるんだ馬鹿!』
『貴様……馬鹿馬鹿言いやがって! ではその証拠とやらを見せてみろ!』
『よく見ろ馬鹿。これが証拠だ』
そう言うと何やらごそごそと音が聞こえ、バンバンとMHを叩く音が聞こえる。
どうやら俺の出番が回ってきたようだ。
慌てて俺は周囲の人間をMHのカメラの外へ追いやる。
そして間抜け面で食事をしながらウルフからの通信を待つ。
するとMHの向こうで何やら準備する音が聞こえ、そしてウルフの声も聞こえてくる。
『良いか……今から国王陛下に直接コンタクトを取る。だが慌てるなよ……相手は王族だ。一般人とは違った次元で生きている。俺に任せておけば絶対に金を支払わせるから、邪魔だけはするなよ!』
言うねぇアイツ(笑)
『良いだろう……本当に国王とそれで会話が出来るのなら、貴様に任せてやっても良い。だが、もし我々を騙してるのなら、まず最初に貴様の妹を殺してやるぞ!』
『それ止めろ! いいか絶対に陛下に向かって“人質に危害を加えるぞ!”的な脅しをするな! 相手は王族で国家だ……国民より国家の面子を気にする輩だ。不用意に口走るなよ!』
なる程……奴のやりたい事が解ってきた。
先ずは人質の安全を確保するって事だな。
良いねぇ……犯人の言う事をきいてるフリしながら、こちらの思い通りに物事を進めるなんて。
『コレをココに置いて……よし。おい、代表者を俺の横に来させろ。でも交渉は俺がやるから、勝手に口を挟むなよ! 絶対に王家から金を毟り取ってやるから、絶対に安易な発言はするなよ!!』
ウルフは自身のMHをテーブルか何かに置き、犯人と共に交渉できるようスタンバイした模様。
すると俺のMHからピロピロと音が鳴り、着信を知らせるかのような状態になった。
俺は周囲の者達をMHの撮影範囲から遠ざけ、一人だけの状態に見せMHを構える。
通話状態にしようとMHを操作しかけ、慌ててリュリュに「リュリュ、今すぐにドレスを着てこい!」と指示を出す。
不思議そうな顔をしたので「ウルフのフィアンセ“リュリュ姫”として出番があるから着替えてこい!」と付け足した。
慌ててビアンカやメイドと共に部屋を出て行くリュリュを見送り、改めてMHの操作をしてウルフと通信状態にする。
そして開口一番……
リュカSIDE END
(ルクスリエース・バンデ号)
リューノSIDE
『どしたウルフ? お前……休暇中じゃなかった?』
ウルフが操作するMHから、ワイン片手に優雅な態度のお父さんが現れた。
きっとこちらの状況を聞いてたんだと思う。だってワインなんて飲まないもの……
「お食事中大変失礼致します。実は重大なトラブルがありまして……陛下のお力を拝借致したく、ご無礼と思いながらも連絡させて戴きました」
普段では有り得ない態度のウルフとお父さんに、思わず笑いそうになる私とマリー……
『ふ~ん……どうした? 悪霊にでも取り憑かれたのか? 隣に顔の黒い霊の姿が見えるぞ(笑)』
ウルフの隣で身代金交渉を監視しようとしてる犯人を指差し、その被ってる覆面を嘲笑いながら余裕を見せるお父さん。
「いえ……そうではありません。私の乗る船が占拠され、陛下に対し身代金を要求していたのです。彼はその犯人達の一人です。ご覧の通り、この船に乗る者達はここに集められ、人質として囚われております」
ウルフは身体を引いてMHにこの会場を映させると、冷静に状況説明をする。
思わず私も会場全体を見渡した。するとこの会場には来てなかった人達も犯人達に捕まり、私達と一緒に人質状態に貶められている。
『ふ~ん……何、お前等……お金が欲しいの?』
とても気の抜けた言い方で現状を理解するお父さん。
まるで今気が付いたかの様に見える。
「当たり前だ! 金が欲しいからこんな大がかりな事をやってるんだ! 言われなくても解るだろ!」
『解る訳ねーだろ。卑しい平民共が何を考えてるのかなんて、国王たる予に理解できるはずがない!(笑)』
緊張感の感じられない交渉相手に、犯人が怒りの声を発した……が、余計ムカつく返答をされ身体を震わせている。
折角のバカンスを台無しにする犯人共に対し、いい気味だと思いつつも不意に或る事に気が付いたのでマリーの耳元まで口を運び尋ねる。
「ねぇ……犯人共を怒らせて、私達は大丈夫なの?」
「さぁ……マイダーリンは強いから、犯人達が暴れ出しても大丈夫なんじゃないの?」
でも、事態を深刻に捉えてない彼女からは、ユル~イ回答しか返ってこなかった。
私もウルフの実力に疑問は持たないけど、犯人達が暴れ出したら1000人は居るだろう人質全員を無傷で助けられるとは思えない。
どうなるのか不安に思っていると……
『仕方ないなぁ……お金払うよ。そしたら皆を無傷で解放してくれるんでしょ?』
と、お父さんが身代金支払いを承諾した。
「ふん! そうやって言う事を聞いてれば良いんだよ!」
犯人の言葉に苛ついたけど、無事に解放されそうなので安心する。
お父さんもウルフも、ちょっとだけ犯人を苛つかせたかっただけだったのよね……
そんな事を考えながらMH越しにお父さんを眺めていると……
『ちょっと待っててね……今……お金を取り出すから』
と、ゴソゴソ懐から財布を取り出した。そして……
(チャリチャリ~ン!!)
『お!? 喜べ、今日は結構持ってるぞ!』
と、MHの向こう側でテーブルに手持ちの小銭をブチ捲いた。
「「「え!?」」」
こちら側の誰もが声を上げた瞬間だった……
私も犯人も、私達より後方で人質になってる方々も……
MHに映るイケメンが何をしてるのか理解できないで居る。
『ひい、ふう、みい……おお!? 13Gもあるじゃないか?』
お金を払うって……お父さんのポケットマネーで払う気なの!?
じょ、冗談でしょ!?
私はウルフに視線を向けて何かを訴えようとしたのだが、彼の余裕の笑みを見て言葉を飲み込んだ。
どうやらここまでは予定通りらしい。
つーか、これが予定通りって……私達本当に大丈夫なの?
リューノSIDE END
(ルクスリエース・バンデ号)
マリーSIDE
ヤベ~……おもしろい~!!
お父さんもウルフも全力で犯人をおちょくってるわ。
覆面をしていても開いた口が塞がらないのが見て取れる。
「ふ、ふざけてるのか貴様!?」
うん。ふざけてるのよ奴は!
『そんな大声出すなよぉ~……予の下にはラーミアという大鳥が居るから、今すぐ持って行くよ。だからお前等も今すぐに人質を解放しろよ』
「誰が解放するか!」
「あ、馬鹿……そんな事言うなよ!」
激怒した犯人の言葉にウルフが反応する。
『何でだよぉ~……お金を払ったら人質解放してくれるんじゃないのかよぅ! 話が違うじゃねーかよぅ』
「黙れ、何処の世界に1000人もの人質の身代金が13Gな事があるんだ!?」
1人の身代金にしても安すぎるわね。
『国王たる余が知るかよぅ……下賤な者共の価格なんて!』
「……ふん! では俺が教えてやる。13Gでは、お前が言う下賤な者共の小指1本くらいしか買えないって事をな! 何だったらこの女の小指を、貴様の下に届けてやろうか!?」
相当頭にきてるのだろう……
犯人のリーダー格はお父さんに嫌味を言いながら、手近に居た女の手を掴みテーブルに押し付けると、持ってた剣をその手に押し付ける。
「よ、よせ! 早まるんじゃない……冷静に話し合おうじゃないか」
突如ウルフが狼狽えだした。私も勿論狼狽えてる。
だって……私の手なんだモ~ン!!!!!!!!!!!
マリーSIDE END
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