グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第28話:思い出のバカンス……そして思い出の喜劇
(グランバニア城・王家のリビングルーム)
ビアンカSIDE
『ぎゃ~、ちょ、マジやめ!!』
MHの向こうではマリーの手に剣を這わせ、リュカの事を恫喝する犯人が……
『止めろオイ、マジで!!』
そしてウルフ君は懸命に事態を収拾しようと画策する。
素早く首から下げてる“静寂の玉”を使い、マリーの迷惑な魔法を封じて。
そうでもしないと慌てたあの娘がイオナズンを唱えかねない。
「おい黒いの! 13Gを払ったら貴様はその娘の指を切るのか?」
『当たり前だ馬鹿! 13Gで1000人の人質を助けられると思うなよ!』
思ってないわよ……私もリュカも、勿論世界中の誰も彼も思ってないわよ。
「では交渉不成立だな。こちらは軍事的解決を実行させてもらう。金を払っても払わなくても人質に危害が及ぶと言うのならな!」
『なんだとぉ~!?』
『わぁぁぁぁ!! ちょ、タンマ! ちょっとタンマですよ陛下!』
リュカと犯人の黒覆面が激しく口論を始めそうになったところで、ウルフ君が慌てて二人の会話を止めに入る。
『陛下……ちょっと時間を下さいませ。彼等こんな事を初めてやらかしちゃってて、興奮しちゃってるだけなんですよ。ちょっと落ち着かせますんで……少々お待ち下さ~い』
そう言うとMHの画面を消してウルフ君は黒覆面と話し合いだした。
勿論音声は聞こえてる状態で。
『おい落ち着けって』
『落ち着けるか! 奴は人質の事を何とも思ってないのか?』
『ああそうだよ。相手は王族なんだぞ……その他大勢の一派市民なんて、失われても何とも思わない』
『何だと!? では貴様はどうやって俺達に協力するつもりなんだ!?』
『だから……これからそれを示そうとしてたのに、お前が余計な事をするから』
『余計な事だと!? 身代金を13Gしか払わないような奴相手にしてんだぞ。怒らない方がどうかしてる!』
『払う訳ねーだろ……13Gだって本当は払いたくないんだ。連中にとって一番良い解決方法は“武力行使”だ。陛下の下に参集してる強力なモンスター軍団を駆使して、お前等犯人グループを皆殺しにするのが、奴の本当の狙いなんだから』
『モ、モンスター……軍団……!?』
『お前が“人質に危害を加える”と言った途端、間髪入れず武力行使を選択しただろ。最初からそれしか狙ってなかったね、あれは!』
『そ、そんな事が許されるのか!?』
『逆に聞くけど、誰が許さないの? この国はあの男の物なんだよ。あの男の自由に出来るんだよ! 考えてもみろ……もし今回の人質籠城身代金強奪事件が成功したら、それを真似しようと似たような事を企む馬鹿者が後に続くだろ。でもテロには屈しない鉄の意志を国民に見せ付ければ、犠牲になったこの船の1000人は悼まれるが“国家は国民の安全を第一に考えてる”って思われる』
『な!? 1000人を犠牲にしてでもか?』
『この国には2億人も人口が居るんだぞ! その内のたかだか1000人……痛くも痒くもないさ! 俺だってこの船に乗ってなきゃ、1000人を犠牲に武力行使するよう陛下に進言するからね!』
『じゃ、じゃぁ……俺達には道が無いのか?』
『そんな事は無い! 俺が何とかする。今の俺にとってアンタ等の振り回す剣は怖くないんだ……恐れてるのは陛下が振り回す剣なんだ。俺は死にたくない……だからアンタ等の為にじゃなく、自分の為に陛下と交渉して身代金を支払わせるんだ。だから邪魔しないでくれよ……もう2度と人質に危害を加える的な言動はしないでくれよ』
巧いわねぇ……そして凄いわね。
打ち合わせをした訳では無いのに、リュカとウルフ君は連携して人質の安全を確保したわ。
思わず感心してリュカに視線を向けると、彼は何人かに指示を出していた。
そしてリビングルームには色んな衣装を着込んだ城内の面子が集まり出す。
綺麗なドレスを着込んだリュリュ、普段着ないような堅苦しい礼服を着たティミー。
やはり形式張った衣装を着込んだオジロンなど……
更には、メイド服を着たスノウまでも待機してる。
そして一際目立ってるのは、何故呼び出されたのか解らないゴレムス・サーラ・ラーミア。
ラーミアなんかは少女の姿ではなく、大鳥の姿で待たされている。
リュカが「大人しく待て」と言わなければ、ラーミアは確実に暴れている……
さてさて、これから何が始まるのだろうか(笑)
ビアンカSIDE END
(ルクスリエース・バンデ号)
リューノSIDE
寸での所で難を逃れたマリーを抱き寄せ、ウルフ等の動向を覗う。
既にペースはウルフに移行してるらしく、切々と解く彼の指示に犯人は素直に頷いている。
因みにウルフの言い分は……
“あの男(お父さん)は馬鹿だから話にならない。何とか時間を稼いで王子のティミー殿下と大臣のオジロン閣下をMHに出させなければならない。それと俺(ウルフ)のフィアンセであるリュリュ姫に現状を知らせて、娘に甘い陛下の心を揺さぶる”との事である。
MHを切ってる様に見せてるが、音声は向こうに伝わってるハズ……
って事は、犯人に言ってるフリして本当はお父さんとの打ち合わせなんだね。
流石はナンバー2……
「じゃぁ陛下との通信を回復させるぞ。絶対に不用意な言動は避けろよ」
「あぁ解ったよ」
おやおや……これではどっちが犯人なのか判らないわね(笑)
「陛下……お待たせ致しました」
ウルフがMHを操作し、立体画像を投影させると……其処には誰も居ないリビングルームの風景だけが。
「あれ……陛下? 陛下ー!!」
『あれぇ? リュカ様ぁ……何か映ってますけどぉ……ど~しますぅ?』
そこに映り込んできたのは、メイド服をセクシーに着熟したお母さんだった!
『あぁ? 今忙しいから放っておけ』
映像の外からはお父さんの声が聞こえてくるが、映り込む気配は感じられない。
「お、おいユルメイド……陛下は今何してらっしゃるんだ!?」
私の母親に“ユルメイド”とか言うな。
『えぇ~っとぉ~……リュカ様はぁ……』
本当に“ユルメイド”な感じで喋るお母さんは、手元のMHの向きを動かし、
『モンスター君達にぃ……何か言ってるぅ♥』
そして映し出されたのは、ゴレムス・サーラ・ラーミア(大鳥)に向かって何か指示を出してるお父さんの姿だった。
「ちょ……陛下! 何してるんですか?」
『何って……今からラーミアに乗って、ゴーレムとメッサーラをその船に送り込むんだよ』
「いやいやいや! は、話し合いで解決しましょうよ! 彼等、本当にもう紳士なんですよ!」
“ゴーレムとメッサーラ”と言う単語に、犯人グループのみならず人質等からも恐怖の呻きが聞こえてきた。
『何言ってんの? そいつ等が話し合いを拒んだんだよ。予は金を払うって言ったのに、それを拒否して人質を傷付けるって』
「それは何も解ってない馬鹿が言った事です!」
『その馬鹿がそこに居るじゃん』
「いいえ居ません。もう殺しましたから! そんな馬鹿は殺しましたから!! な、リーダー!」
ジト目で見詰めるお父さんに慌てた口調で言い訳するウルフは、隣の犯人(ずっと同一人物)と肩を組み、仕切り直しを要求する。
『同じ人物に見えるが?』
「みんな同じ覆面ですから! 没個性ですから、みんな同じに見えますから!」
実際に犯人等全員、同じ覆面に同じ衣装……ハッキリ言って見分けは付かない。
『ふ~ん……まぁそういう事にしておいてやるよ。 ……で、13Gで折り合いは付いたのかな?』
「付いてませんよ……彼等はもっと高額の身代金を要求してるんです」
『高額ぅ~? でも予のポケットマネーでは13Gしか払えないよ』
「いやいやいや。陛下のポケットマネーからではなく、城には非常事態用の資金がストックされてるでしょ……」
へ~……そんなお金があるんだ。
『アレはダメだよ。税金だもん……国民から徴収した税金だから、国政にしか使えないよ』
「ですから……彼等の要求は、その税金の還付にあるんです! 陛下の統治する領土に住む罪無き民を救う為に、税金として徴収した資金を身代金として支払って貰いたいんです」
『じゃぁ……国庫にある金の中から、13G支払えば良いの?』
「何で13G限定なんですか!? もっとあるでしょう! 彼等の要求はもっともっと高額なんですって!」
『高額高額って言うけどさ……幾らなの?』
「そりゃ……あれ? 幾らだっけ?」
自信満々に金額を告げようとして、自分も知らない事に気が付き慌てて尋ねるウルフ。
私が犯人だったら、二人の言動には苛つきを憶える。
「おい、幾らだよ!? お前等が最初に金額を指定しないから、陛下が勝手に13Gって言っちゃうんだろ!」
「身代金を俺達より勝手に決定する方に問題があるんだろ! 一度で良いから金額くらい聞けよ馬鹿!」
私は言いたい。“ワザと聞かないんだよ馬鹿!”と……
「あぁ……分かった分かった。で、幾らなんだよ?」
「ふん、よく聞け。我々が要求する身代金は……“500000000G”だ!」
ご、ご、5億G!?
リューノSIDE END
後書き
1Gは100円です。
ページ上へ戻る