グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)
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第26話:思い出のバカンス……暗雲立ち込ってますか?
(ルクスリエース・バンデ号)
リューノSIDE
“ボー”と言う汽笛の音と共に私達の乗った船が動き出した。
予定通り午前10時の出港にトラブルメーカーな一族である我々は胸を撫で下ろす。
下手をすると“我が国の王の態度に腹を立てた隣国が攻めてきた!”なんてあるやもしれない。
そうなればバカンスどころではないからね。
まぁそんな心配も杞憂に終わり、私達は船内のエステへと足を運んでる。
さっき船長さんへ挨拶に行ったウルフが、『ご婦人をお連れと伺っております。これをご利用下さい』とサービス券を貰ってきたので、有難く利用させて貰う訳。
お父さんからウルフの事だけは聞いてる船長……
でも私達の事については何も知らされてないらしいです。
お父さん曰く『“王族”なんて称号は、他に自慢する取り柄の無い者が掲げる称号だ。恥ずかしいから外では隠しておけ』との事。
なので、この船の偉い人達も“ウルフは国家の重鎮。そして彼について行く若い女が2人”としか認識してないらしい。
それを聞いたマリーが『姫様をパンピーと同列視するなんて許せないわ!』と猛抗議。
だが『俺と別れるか、王族を誇示するのか今すぐ決めろ』と脅され、大人しく引き下がった。
私やリューラは正妻との間に出来た娘じゃないから、あまり王族としてのプライドとかは無いのだけど、マリーにはあるのかな?
それとも面白半分で騒いでるだけかしら?
とは言え無料のエステ利用権にはマリーも喜んでます。
ウルフには「まだ若いんだから、エステとか必要ないだろうに……」と言われましたが、「彼女がより美しくなるのに、何の問題があるというの!?」とマリーに言い返され、肩を竦めて付き添ってきます。
流石の私もマリーと同意見で、若くてピチピチの彼女が更に美しくなるのであれば、黙って付き添っていれば良いのです!
他でも無いウルフの為なのですから。
「いらっしゃいませ」
船内のエステ店に入ると、和やかな笑顔の女性3人が我々を迎えてくれた。
流石エステティシャンだけあって皆美しいです。
「さっき船長さんから戴いた無料券があるんですけど、使えますか?」
「はい。ウルフ様とお連れのご婦人2名様ですね? 船長からお伺いしております。 チケットではご婦人2名分だけですが、当店よりのサービスでウルフ様も無料でご利用して出来ますが……如何なさいますか?」
おお……国家の重鎮として働いてるだけあって、皆さんの待遇が高クオリティ!
マリーじゃないけど“王族”を宣言すれば、もっとVIP待遇してもらえるんじゃないかしら?
まぁその場合、私達に対する待遇ではなく、その後ろに居る王様に対するモーションなんでしょうけどね。
「俺はいい。見ての通り今でも十分イケメンだから、これ以上美しくなったら世の中の男共に嫉まれる。まだ伸び代のある婦人2人を美改造してやってくれ」
はぁ~……言う事が凄い。
店員も苦笑いで「はぁ……」とか言ってるわよ。
「昼は中央ステージで催されるショウを観ながら摂るから、それまでに普通の美女2人を絶世の美女に変えてやってくれ」
「こらウルフ! 絶世の美女に向かって、普通の美女とは如何な事か!?」
「黙れ普通美女マリー。絶世の美女はエステ無料券で喜んだりはしない。無用な行為だからな! 絶世には到達してない普通の美女等が、エステ無料券で喜ぶんだ。弁えよ!」
ニヤリ笑って私達に言い放つと、自身は手近な椅子に腰掛けてスケッチブックを広げ描き始める。
「ちょっと……どうせ描くなら、絶世の美女にバージョンアップしてからにしてよね!」
皮肉られた私は、お返しにウルフへクレームを付ける。
すると……
「馬鹿者! 誰が普通美女ごときをスケッチするモノか! 絶世美女に仕上がってる店員さんを描く為に俺はお前等に付いてきたんだ。お前等も早く彼女等のレベルへ押し上げて貰え(笑)」
冗談なのは解ってるが……ムカつく。
さて……
無料券の効果宜しく絶世美女に仕上がった私達は、ほぼ同時にスケッチを終えたウルフの側へ戻り描き上げた絵を覗いてみる。
……こいつ、本当に店員を描いてやがった。
私もマリーも、文句の一つも言ってやろうと口を開き賭けたんだけど、
「なんだ……いくらエステティシャンの腕が良くても、絶世の美女のグレードを更に上げる事は出来なかったか。まぁいい……お前等にエステは不要だと証明できたんだ。絶世の美女には伸び代がない……とね(笑)」な~んて事を言ってきましたですよ!
ええ私もマリーも単純ですから、彼氏の台詞に大満足で浮かれました。
だってやっぱり嬉しいじゃん!
ウルフに美しいと言われるのって……
ってな感じでエステ店を出て、大きなステージのあるレストランへと赴きました。
なんでも、今グランバニアで流行ってる弦楽団が、生演奏をするというらしいのです。
それを見ながらランチを食べ、優雅な船旅のスタートを飾るらしいのですわ。
マリーは音楽に興味があるから楽しみにしてるみたいだし、ウルフも芸術に関心がある(って言うかウルフに関心のない分野なんてない)みたいだから期待してるみたい。
私は音楽にも芸術関係にも興味ないから、別に弦楽団なんてどうでも良いけど、美味しい料理には興味津々だから、それなりに楽しめると思います。
お父さんが一緒なら、ステージを占領して歌い出す可能性もあるのだけれど、今は居ませんからそんな楽しみ方も出来ませんね(笑)
流石のマリーだって、いきなりステージに乗り出して歌い出すとは思えませんしね。
開演10分前……つまり11時50分にレストランへ到着。
受付にウルフが名を伝えると、
「ようこそおいで下さいましたウルフ様。社長より最高の席を用意するようにと言付かってます」
と言われ、大きなステージの真ん前……えぇ、弦楽団独占席を提供されました。
私達のテーブルを中心に、左右へ同じ半円のテーブルが3つ。(つまりは7席)
ステージを正面に観て後ろに4つ。(私達の座る席の後ろの列は5席、その後ろは3席、最後は1席)
そしてステージを囲うように末席が多数……
「やべーな……あんまり目立つ席って嫌なんだよなぁ」
そうなのだ。嫌でもVIP感を露出するこの席は、大人しくしておきたい私達には向かないエグゼクティブシート。
ショウが開始してない状態では一番目立つ席の人間が一番最後に来場した為、周囲からの視線が刺さるように痛い。
なんせ周囲のVIPは皆年寄りばかりで、若く見積もっても中高年ばかりなのだ。
その中に未だ10代のウルフと、更に若い女が2人登場すれば、周囲の視線も集まります。
“あのガキ共は何者だ!?”“なんだってあの若造は、女を2人も侍らせてるんだ!?”って感じでね。
来るんじゃなかったかな?
「わぁお……齧り付きな席じゃん!」
半円卓の中央にハイテンションなまま席に着くと、周囲の視線をモノともしないマリーが楽しそうにはしゃぎ出す。
やっぱり正当な王家の血筋はVIP待遇になれてるのかしら?
それとも……
思わずウルフと目が合って、多分同じ事を考えてたんだと思うけど、笑い出してしまう。
そして思った……気負ってても意味がない。これは愉しんだ者勝ちだと。
だから私もウルフも気楽に席に着く事が出来た。
マリーが身勝手に真ん中の席に座ってしまった為、右側に私が……左側にウルフが着席。
ウルフと少しだけとは言え離れて座る事に不満があるが、マリーが勝手な事をしそうになったら、二人して止めなければならないので、これで我慢します。
さてさて、そうなると早く開演してほしくなるのが人間の性。
美味しい料理も堪能したいし、この齧り付きな席も満喫したい。
ワクワクソワソワ状態で12時になるのを待っています。
すると会場全体が薄暗くなり(各テーブルには蝋燭の灯火があるので、食事する分には問題なし)、目の前のステージのカーテンが厳かに開きました。
それと同時に給仕さんが前菜を運んできます。
ステージからは優雅な音楽が流れ、私の口には美味しい料理が届き、まさに夢のような時間が世界を支配します。
ですが、夢は覚めるもの。現実は面倒な事のオンパレード。
「イオ!」(ドカーン!)
突如ステージの端が爆発したと思ったら、黒い覆面をした複数の武装集団が会場内に乱入!
目立たない警備の人間を一瞬で制圧し、リーダー格の男がステージを占領した。
「ちっ……」
事態を一瞬で把握したウルフが、素早く懐からMHを取り出し、お父さんの端末と通信状態にすると、映像と向こうからの音声を遮断して懐に仕舞いました。
何故助けを要請しないのか疑問に思ってると、ウルフは私達を見て「大人しくしてろ。勝手な事をするんじゃないぞ!」と忠告。
どうやらウルフには考えがあるようです。
リューノSIDE END
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