遊戯王GX 〜漆黒の竜使い〜
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episode6 ーToon Worldー
Dr.コレクターを見事打倒し、プロとなってからおそらく一番の成果を上げたであろうレンカは観客から惜しみない祝福を受けたのだった。
フードの奥で嬉々とした表情を浮かべながら、いつも一番近くで自分の事を応援してくれていた楓さんにどんな風に自慢をしようか、と思案していいると、いつの間にか、いつもの控え室の扉の前まで来ていた。
よし、と小さく意気込みドアノブに手をかける……、直前、中から感じる気配に違和感を覚える。
(……楓さん、じゃない……。じゃあ、誰?)
警戒心を強めながら、ゆっくりと扉を開き、中へと入る。直後、室内の光景に目を疑う。
ソファにぐったりと横になる女性と、それを冷酷に見下ろす銀髪の男性。そして、ソファの下に広がる赤い水たまり。
サスペンスドラマさながらの殺人現場に最悪の結末が脳裏をよぎる
(まさか、まさかまさか……?!)
失意と憤怒に囚われたレンカの行動は少女とは思えないほど早かった。
腕に装着されていた黒塗りの決闘盤を取り外し、構える。
そして、ゆっくりと振り向く男へとそれが全力で投擲される。
「ハーイ、レン……マイガッ!?」
縦回転するデュエルディスクが顔面へと吸い込まれるように飛んでいき、直後鈍い音が響き、男は後方へとぶっ飛ぶ。
レンカのダイレクトアタックを喰らい、倒れ伏す男性を確認。
そして、仇は取りました。と内心でもうきっと帰って来ないマネージャーに祈りを捧げているとソファの上で絶命していたと思っていた人物がゆっくりと体を起こし、刹那悲鳴をあげる。
「えっ?!ちょっ!ペガサスかいちょぉぉ!」
「えっ……?」
死んでしまったと思っていた彼女のマネージャーが生き返り?、そして、そんな彼女から発せられた意外な人物名に声が上ずるレンカ。
そして、途方もない勘違いをやらかしてしまったのではないか……と頭を抱えていた。
そう、容疑者とレンカが思っていた男性はインダストリアル・イリュージョン社の名誉会長、ペガサス・J・クロフォード氏だったのだ。
◆◇◆
「本ッッッ当にすいませんでしたッ!」
「ワタシはダイジョーブでーす。なので、顔を上げてくださーい、レンカガール?」
きっかり腰を90度まで折り、誠心誠意、謝罪の意を示すレンカと「大丈夫だ。」とそれを必死で止めようとするペガサス会長。
そして、そんな事が行われている端で、せっせと赤い水たまりを掃除する楓の姿があった。
「で、なんであんな殺人現場みたいになってたんですか……?」
「お、おう……レンカさん、そんな睨まないでくださいよ。」
とりあえず騒動がひと段落をし、三人とも落ち着いたのを見計らって、説明を求める。
楓曰く、
控え室でレンカの生中継を観ていた楓が、レンカの晴れ衣装での快勝に思わず舞い上がり、その拍子につまづき、ソファへと顔面からダイブしてしまう。それからは、日頃の疲れか、はしゃぎ過ぎた事が原因かスヤスヤとおやすみになってしまったとの事。
そして、ペガサス氏曰く、
どうやらレンカに用事があり、部屋を訪ねた時、ソファで倒れ伏す女性を発見。心配に思い、安否を確認しようとした際にテーブルの上に置いてあった飲みかけのトマトジュースを溢してしまい、オロオロとしていたとの事。
こうして、レンカが控え室についた時、殺人現場(仮)ができていた次第である。
要するに……
「……楓さんが悪いです。」
「け、けど!レンカさんが早とちりしなければ、ペガサス会長がイタイ目みなくて済んだんですよ?!」
「なっ?!だ、アレ見たら誰だって不審者に思いますよ!」
「オウ、レンカガール……。ワタシの事、さりげなく貶めていませんか?」
「ところで、私に用件って……?」
「オーウ、ようやくその話ができまーす……。」
ギャーギャーワーワーと女性と少女の口論が繰り広げられる事、数十分。ようやく本題に入る事ができると疲れたように首を振る会長。
「実は、レンカガールに渡したいものがあるのデース。」
「渡したいもの?カードですか……?」
一枚のカードを受け取り、しげしげと見つめる。
渡された『ガード・オブ・フレイムベル』と名付けられたカードはただのレベル1のノーマルモンスター。特に変わった点など……。
「あ、『チューナー』……?」
『チューナー』と言えば、孔雀 舞が使っていた『A・ジェネクス・バードマン』にもついていた名称だ。
何かのカテゴリの一種なのかと考えていると、やはりペガサス氏から説明される。
「Yes。ソレは、ワタシ共、I2社が秘密裏に開発している新たな召喚方のための必須カード デース。まぁ、今はソレはただの通常モンスターなのですが……。」
「新たな召喚方法ですか……。興味深いですね、具体的にはどんなものなんですか?」
楓も興味を持ったらしく積極的に質問をする。だが、ペガサス氏は残念そうな表情を作りながら、首を横に振る。
「sorry。ソレは教えられません。ただ、唯一言える事と言えば……『絆の力』でしょうか?」
デュエル・モンスターズとは全く関係の無さそうなワードに首を傾げ、与えられたヒントで必死に解答を得ようとするが考えれば考えるほどわからなくなっていく。そして、レンカはついに諦めたのか、ぐったりと項垂れてしまう。
「うーぬ、さっぱりわかりませんねぇ?ペガサス会長、そんな睨まない凄いものなんですか?」
「はい、おそらく今の環境がガラリと変わると予想されマース。そのため、この事をお話ししているのは、一部のレベルの高い決闘者達だけなのデース。」
そう言うとレンカの方へと向き直る。
「え?……私?」
「Yes。あなたの決闘は素晴らしかったのデース。本来なら、このままカードを渡してもいいのですが……、デュエリストの性と言うのでしょうか?レンカ ガール、あなたのデュエルを見て、一戦お願いしたくなりました。」
レンカへとニッコリと笑みを作り、語りかけるペガサス氏。
一方のレンカは、その笑みになんとも言えない圧力を感じた。
「あの……怒ってます?その……ぶつけちゃった事。」
「ノー。そんな事くらいで怒るわけアリマセーン!」
ただそう言うペガサス氏の目は全く笑っていない。
そして、その額にはくっきりと決闘盤が衝突した痕跡が残っている。
「……怒って、ます、よね?」
「…………。怒ってるなどアリマセーン。ワタシがそんな事で怒る子供だとお思いですかー?」
おずおずと尋ねるレンカとやはりニッコリと笑いながら返答するペガサス氏。楓は何度か繰り返されるやり取りを見ながら此処に大きな子供がっ⁉︎と内心で叫びたいのを我慢していたりする。
「それでは、早速デュエル……と行きたいのですが、ここでは狭いので廊下でやりますか。」
「あー……はい。わかりました。」
本当にやらなきゃいけないのか。と内心で愚痴りつつ、デュエルをするための準備をする。
三人共が廊下へと出るとレンカとペガサスの両名は向かい合い、決闘盤を構える。
「それでは、始めましょうか?決闘‼︎」
「っ。……決闘‼︎」
「……私のターン、ドロー!先ずはマジックカード『紅玉の宝札』を発動!手札の『真紅眼の黒竜』をコストにし、二枚ドロー!さらにデッキから『真紅眼の黒炎竜』を墓地に!
さらに『天使の施し』を発動!三枚ドロー、二枚捨てます。最後にカードを二枚伏せます。」
二度の手札交換の末、レンカがフィールドに出したのは守備を固める伏せカード二枚のみ。
「おや?レンカ ガール、モンスターを召喚しないのですか?」
「いえ、まだ私のターンは終わってません!エンドフェイズ時、墓地の『真紅眼の飛竜』の効果を発動します!通常召喚を行っていないターンの終わりに自身を除外する事で墓地の『レッドアイズ』を特殊召喚します!甦れ、『真紅眼の黒炎竜』!」
「Woh!生贄無しで、レッドアイズですかー!ワンダフルデース!」
漆黒の体躯に火炎を纏ったドラゴンが勇ましい嘶きを上げつつ、飛翔する。
その光景に感動したのか些かオーバーなリアクションを取ってみせるペガサス。
「じゃあ、ワタシのターンデース。ドロー!
ところで、レンカ ガール?貴女はカートゥーンが好きですか〜?」
「へ、あ、はい。」
「それは良かったデース。最近は、3Dや実写などが増え、子供達がアニメに興味を持ってくれないのデース。ワタシとしては、ヒジョーに残念でなりマセーン!」
あんなにも楽しくて、面白いのに……呟きながら意気消沈する。だがすぐに調子を取り戻し、コホンと咳払いを一つ。
「少し離しが逸れてしまいました。だけど、レンカ ガール。貴女がカートゥーンが好きで良かったデース。」
ニッコリと笑みを浮かべ、そう言うペガサス氏。だが、なぜかその優しげな風貌からは感じないはずの威圧感を感じる。
「なので〜、今から貴女をカートゥーンの世界にご招待デース!ワタシはデッキトップを三枚除外し、フィールド魔法『トゥーン・キンクダム』を発動シマース!」
「なっ⁉︎」
無機質で殺風景な廊下は瞬く間にアニメで出てくるようなお城の一角へと早変わり。
見事なビフォーアフターに目を疑うレンカ。
「ふふ、驚くのはまだ早いデース!ワタシは『トゥーン・アリゲーター』を召喚シマース。」
デフォルメ化されたワニが斧を掲げ、威嚇する。だが、レンカのレッドアイズに睨み返され、もともと青い肌を更に青くさせ、ペガサス氏の後ろへと隠れてしまう。
「オオゥ、やはり下級モンスターでは貴女のドラゴンには役不足ですね。なので、ワタシは『トゥーン・アリゲーター』を生贄に『トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール』を特殊召喚シマース!」
主人のいきなりの生贄発言にギョッと目を剥くアリゲーター。だが、ごめんなサーイ、とペガサス氏が謝ると渋々と消えていく。そして、入れ替わりにポンッと白煙を上げつつ、またもやデフォルメ化された魔法少女が現れる。
「あっ……可愛い。」
「ふふ、気に入ってもらえ、なによりデース。バット、可愛いだけじゃないでーす!『トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール』は『トゥーン・ワールド』がある時、相手の場にトゥーンモンスターがいない時、ダイレクトアタックが可能デース。そして、今発動されている『トゥーン・キングダム』は『トゥーン・ワールド』としても扱いマース。」
「うわ〜、そんなの2000バーンと同じじゃないですか〜。いやらしいですねー。」
今まで静観していた楓さんがペガサス氏の説明を聞き、嫌そうな表情を浮かべる。
「そう言わないでくださーい、ミス楓。トゥーンモンスターは強力な代わりに幾つものデメリットを抱えていまーす。その一つに、トゥーンモンスターのほとんどが召喚されたターン、攻撃ができマセーン。」
オヨヨ、項垂れるペガサス氏。
もっともトゥーンモンスター特有の召喚酔いがあっても十二分に強力な事は変わらないのだが。
「では、バトルデース!覚悟してくださーい!『トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール』でレンカにダイレクトアタックデース。ブラック・バーニング!」
「リバースカードオープン!『ガード・ブロック』を発動!ダメージを0にして、一枚ドローします。」
魔弾は障壁へと阻まれ、レンカは事なきを得る。
そして、残念デースなどとペガサス氏は言っているがおそらく防がれるのは折り込み済みなのだろう。
「防がれてしまいましたか。しかし、デュエルは始まったばかりデース。ゆっくり楽しみましょう。ワタシはカードを一枚伏せ、ターンエンドデース。」
ゆっくり楽しみましょうなどとペガサス氏は言うがレンカにとってはそんな余裕はない。早くトゥーンモンスターを除去しなければ、直接炙られて早くもゲームエンドとなりかねない。
このターンで、まずはブラマジを倒すと意気込み、デッキトップへと指をかける。
「……ドロー!『伝説の黒石』を召喚します。そして、黒石のエフェクト発動!自身を墓地に送り、デッキから『真紅眼の黒炎竜』を特殊召喚、します!」
黒い閃光が迸り、現れたのは体躯に炎を纏うドラゴン。
もし、ペガサス操るトゥーンの演出のベクトルが可愛いに向いているのなら、レンカのドラゴン達はカッコいいだろうと自分で思う。
「レッドアイズがフィールドに二体ですか……。なかなか見かける事ができる光景ではありませんね。」
「そうですか?レンカさんなら、こんなの朝飯前ですよ〜?」
何故か、自分の事のように自慢気語る楓は無視しつつ、デュエルを進める。
「バトル、です!レッドアイズでブラマジに攻撃!黒・炎・弾!」
「『トゥーン・キンクダム』の効果により、デッキトップを除外して、トゥーンモンスターの破壊を無効にシマース。」
グニャリと体を歪め、火炎弾を避けるとケラケラとバカにするように笑い声を上げるニセ・ブラック・マジシャン・ガール。
「くっ、黒炎竜でブラマジを攻撃!」
「無駄デース。『トゥーン・キンクダム』の効果で破壊を無効デース。」
再び攻撃を放つも躱される。だが、ダメージは流石に無効にされず、計800のダメージを与えた。
もっとも必要経費なのだと言わんばかりに涼しい顔をするペガサス氏。その余裕な態度に対し、レンカは甚だ疑問に思う。
「私はこれでターンエンドです。」
「では、ワタシのターン、ドロー。まずはさっきのお返しデース!魔法カード『シャドー・トゥーン』を発動シマース。相手モンスターを対象にし、そのモンスターの攻撃力分のダメージを与えマース。なので、ワタシは『真紅眼の黒竜』を選択して、その攻撃力分、2400のダメージを貴方に与えマース!」
「やっ!リバースカードオープン『ダメージ・ダイエット』発動!このターンに受けるダメージを全て半分にします!」
レンカのレッドアイズから抜け出た影が襲いかかってくるが、なんとかして耐える。だが、相手は容赦無く直接攻撃をしてくる状況で1200ポイントものダメージは大きすぎる。
「おお、このターンで決めようと思っていたのですが簡単にはいきませんネー。
じゃあ、バトルデース。『トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール』でレンカにダイレクトアタックデース。ブラック・バーニング!」
「くぅぅぅ……。」
半減されてもなお1000ポイントのダメージは大きく、必死に衝撃に耐える。
これで、レンカの残りライフは半分を割り、残り1800となってしまい、次のブラマジの直接攻撃が決まればそのままエンドになってしまう。
「メインフェイズ2で、『トゥーン・仮面魔導士』を守備表示で召喚シマース。そして、ターンエンドデース。」
「くっ……私のターン、ドロー!『強欲な壺』を発動して、二枚ドロー!そして、『真紅眼の黒炎竜』を再度召喚!そして、マジックカード『黒炎弾』を発動します!『真紅眼の黒竜』の元々のダメージ分、2400のダメージを与えます!」
「おお!熱いのは、キライデース!なので〜、ワタシは手札から『ハネワタ』を捨て、効果を発動シマース!このターン、ワタシに発生する効果ダメージを0にシマース。ザンネンでしたね、レンカガール。」
多大なダメージを与えられる『黒炎弾』を防がれ、さらに第二の刃として用意しておいた黒炎竜のバーンエフェクトも無に帰す事となる。
流石、デュエルモンスターズの産みの親。自身のプレイングの数段上を行く実力に歯噛みするレンカ。
「……バトル、です。『黒炎弾』のデメリットにより、『真紅眼の黒竜』は攻撃できませんが、『真紅眼の黒炎竜』は別です!黒炎竜でブラマジを攻撃!」
「『トゥーン・キンクダム』の効果で、破壊を無効にシマース。」
400のダメージを与えるが微々たるもの。ペガサスは涼しい顔をしている。
「私はカードを二枚伏せ、ターンエンドです。」
「それではワタシのターン、デース!ドロー!
さて、なにもする事はないのでこのままバトルデース!『トゥーン・仮面魔導士』でレンカにダイレクトアタックデース!」
放たれた魔力弾をモロに喰らい、その衝撃に顔をしかめる。そして、残りライフは残り900とついにレッドゾーンに達してしまう。
「『トゥーン・仮面魔導士』の効果により、一枚ドローシマース。そして、トドメです。『トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール』でダイレクトアタック!ブラック・バーニング!」
「レンカさんっ!?」
トドメの攻撃が放たれ、思わず楓が悲痛な叫びを上げる。
だがしかし、今まで数多の強敵と戦ってきたレンカがあっさりと終わるわけがなく……
「この瞬間、リバースカードオープン!『コンフュージョン・チャフ』!2度目のダイレクトアタック時に、発動され、攻撃対象を1度目にダイレクトアタックをしたモンスターへと変更し、そのモンスターと強制戦闘させる!よって『トゥーン・仮面魔導士』と『トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール』をバトルさせる!」
「WHY?!」
ペガサスの意表を突いた見事なカウンターにペガサス自身も思わず声を上げる。
レンカへと放たれた魔弾は急遽方向転換し、仮面魔導士へと直撃。
やっちまったブラマジはテヘペロと舌を出して謝り、被害者の仮面魔導士はその大きな目をグルグルと回してした。
やはり、ペガサス専用のカテゴリであるトゥーンモンスターは演出も芸が細かい。
そして、発生するダメージはもちろんペガサスへと行き、ライフを1700まで削る。
ペガサスは楽しそうに笑みを浮かべるとぱちぱちと拍手を送る。
「アメイジング!まさかこんな反撃を用意していたとは、予想してなかったデース。」
これだからデュエルは楽しいと呟くペガサス。そして、表情を一転させるとレンカを真剣な表情で見据える。レンカはその凛々しい表情を見て、思わずどきりとする。
「本当の闘いはココからデース!ワタシも本気で貴方をぶっ潰しマース。覚悟してくださいね?」
ペガサス氏の強烈な物言いに一瞬怯むが、望むところですと返し逆に睨み返す。
「いい心構えデース!なら、ワタシも貴方のその気持ちに応えねばなりまセーン!ワタシは二体のモンスターを生贄に、このカードを特殊召喚シマース!現れよ、『ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン』!!」
「ッッッ!?」
レンカレッドアイズと対をなすドラゴンが召喚され、目をいっぱいに開きブルーアイズを見つめる。
例えデフォルメ化されても、その威厳は全く損なう事なく、むしろ凶悪にすらなっていると感じる。
「ッ……ブルー、アイズ……!」
「イエース!ワタシのデッキのエースモンスターデース!レンカのドラゴンに負けず劣らずベリークールデース!
それでは、ワタシはカードを一枚伏せターンエンドです。」
「私のターン…………。」
かつてない程に気持ちを込め、デッキトップへと指をかける。
レンカの最強の下僕を呼び出すあのカードを引く事を願い、そして
ドローする。
「ドロォォォ!」
手札へと加わったカードを見て、よしと小さく意気込む。
「私はマジックカード『真紅眼融合』を発動!デッキの『真紅眼の黒竜』と『デーモンの召喚』を融合!」
「WATS?!デッキ融合!」
驚きの声を上げるペガサスの目の前で、二体のモンスターが神秘の渦へと吸い込まれ、バチリと黒い稲光を迸らせながら、混ざり合う。
「地獄の雷撃を繰りし悪魔よ今、烈火の炎と一つとなりて龍のまなこに今宿らん!融合召喚!出でよ、獄炎操りし地獄の龍!『悪魔竜 ブラック・デーモンズ・ドラゴン』!」
雄々しき雄叫びを上げ、悪魔の如きドラゴンが降臨する。
「バトル!ブラック・デーモンズ・ドラゴンでブルーアイズを攻撃!煉獄のヘルフレア!」
「ッッ!ワタシは『トゥーン・キンクダム』の効果により破壊を無効にします!」
「けど、ダメージは通る!」
放たれた獄炎はブルーアイズを呑み込み、さらにペガサスまで及ぶ。ペガサスは炎に呑まれ思わず苦悶の声を漏らすもすぐに立て直す。
(残りライフは1500!このまま通れば!!)
「私はこのバトルフェイズ終了時、ブラック・デーモンズ・ドラゴンのエフェクトを発動します!墓地の『真紅眼の黒竜』をデッキへと戻し、その攻撃力分のダメージを相手に与える!」
「やらせませんっ!トラップカード『ダメージ・トランスレーション』を発動シマース!」
「なんっ?!」
黒い影がフィールドへと現れ、ブラック・デーモンズ・ドラゴンの放った炎を受け止めてしまう。そして、半減させられたダメージはペガサスのライフを削りきれず、僅かに300だけ残してしまう。
「このターンワタシが受ける効果ダメージを半分にし、そして、このターンの終わりに受けた回数分だけ、フィールドに攻守0レベル1の『ゴースト・トークン』を召喚します。」
ケタケタケタと不気味な笑い声を上げるゴーストがペガサスの周りを飛び回り、レンカを挑発する。
「わ、私はカードを一枚伏せ、ターンエンドです。」
「私のターン、でーす!ドロー!ふふ、レンカ ガール。あなたのパワーだけに頼らないタクティクスは素晴らしいデース。But、それも対策されてしまえば力を100パーセント発揮できまセーン。」
「くっ……」
ペガサスの言葉はどうしようもないほどに正論で、悔しそうに表情を歪める。
「けど、あなたは若い。まだこれからもっと強くなれまーす。しかし、そのためには人は敗北を学ばなければなりマセーン。だから、私はあなたにデュエルを申し込んだのでーす。」
決して、デュエルディスクを投げつけられたからではありませんよ?と微笑みながら。
「……私は、……ない」
俯いたまま、ボソリと呟く。そして、ゆっくりと顔を上げるとペガサスをしっかりと見据え、
「私は、まだ、負けてない、です!」
啖呵をきった。
「ほう、ならば!私は儀式魔法『イリュージョンの儀式』を発動シマース!」
「っ⁉︎……それは!」
トゥーン以外のペガサスのもう一つの切り札。それが今使われ、驚きを露わにする。
「『ゴースト・トークン』を生贄に、現れなさーい!『サクリファイス』!」
単眼が描かれた壺へと贄が入れられるとゴポゴポと音を立て揺れ始める。
そして、真っ二つに割れると青黒い肉の塊がペガサスのフィールドに現れる。
「……さ、サクリファイス⁉︎」
「Yes。遊戯ボーイ以外に使うのは久しぶりですが……。
『サクリファイス』の効果発動!私はブラック・デーモン・ドラゴンを選択して、吸収シマース!ダークアイズ・イリュージョン!」
サクリファイスの魔眼に睨まれたレンカのドラゴンは無抵抗のまま、サクリファイスに捕食される。
「『サクリファイス』は吸収したモンスターの攻撃力分、自身の攻撃力をアップさせまーす。よって、攻撃力は3200!」
体積が2倍ほどに膨れ上がった肉塊が見据えるのは、レンカを守らんとペガサスを睨みつける黒いドラゴン。
「バトルでーす!『サクリファイス』でレッドアイズを攻撃!」
「くっ……!」
レッドアイズはその体を触手に貫かれてしまう。そして、レンカにダメージが与えられ、ついにライフは残りたった100のみとなる。
「……この勝負、勝ちは渡しません!」
「ワッツ⁉︎」
正しく絶体絶命である状況。だが、レンカも、そしてレッドアイズも諦めてはおらず、決死の抵抗を見せる。
「リバースカード、オープン!『レッドアイズ・バーン!
互いのプレイヤーは破壊された『レッドアイズ』の攻撃力分だけダメージを受ける!」
「なっ!?」
廊下の一角に爆音が響き渡った。
◆◇◆
デュエルの後ペガサスは去り、二人はいつもの控え室で寛いでいた。
「……負けちゃいましたね」
「む、負けてないです」
楓の言葉にレンカはつんと拗ねた態度を取る
レンカ曰く、「引き分けだから、負けじゃない」との事。
けど、レンカが若干落ち込んでいるのは誰が見ても明らかである。
「悔しかったですか……?」
唐突に楓が尋ねると、レンカはこくりと小さく頷く。
「じゃあ、もっと強くなりたいですか?」
やはり、こくりと頷く。
その反応を確かめた楓はバックから一冊のパンフレットらしきものをレンカに渡す。
「……『デュエル・アカデミア』?」
「はい。要するにデュエリスト養成学校です。今よりもっと良い環境を整えてあげられる、とお約束します。
まぁ、こればっかりはレンカさん一人の一存で決められる事はないですが……。」
「私はもっと……強くなりたい、です。」
弱々しく、然れどもハッキリと口にする。
「それにペガサスさんからもカード貰っちゃいましたしね。」
「……はい。絶対に使いこなしてみせます!」
ペガサスから渡された新たなカードを、新たなドラゴンを見つめながらそう決心する。
後書き
というわけでVSペガサスでした。
まぁ、タイトルからバレバレだと思いますが。
これにて、第一章『プロデュエリスト編』終了です。
次回は、第二章『アカデミア編』スタートです。
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