問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
寝やがった!?
約束通り“ウィル・オ・ウィスプ”の本拠に招かれた一輝とメイド五人。実に今更ながら湖札もメイド姿となっているのだが、まあそんな些細なことは置いといて。
当然ながら無事何事もなく本拠にたどり着いた一輝は、着くなり子供たちにせがまれてジャックを召喚した。
「あー、悪いな、一輝。ろくな挨拶もさせてない・・・」
「気にすんな、子供は本来あんな感じでいいんだよ」
そんな、遠慮も礼儀もないような子供たちの行動にアーシャとウィラは少しばかり頭を抱えたが、一輝に気にする様子はない。型っ苦しいのが嫌いな彼にしてみれば、こちらの方が楽でいいのだろう。
「さて、と。とりあえず部屋まで案内してもらってもいいか?今日はもうこのまま寝て過ごしたい」
「疲れてる?」
「いや、そうじゃなくて・・・いや、最近ちょっと疲れがたまりやすくてな」
「何だそのあからさまな怪しさは・・・ハァ、ならアタシが案内する。こっちだ」
「んじゃ、案内よろしく。ふぁ~・・・」
思いっきり大きく欠伸をする一輝だが、しかしそこで思い出したようにたちどまり。
「そうだ。今日中に五人で確認できる限りでいいから現状を確認しといて。いいよな、ウィラ?」
「うん、大丈夫。説明とかは私がするから」
「とのことだ。頼んだぞー」
一輝の言葉に全員が返事を返した。なんだか五人が空気になっている気がするけどそれは気にしない。
「・・・なあ、世話になるこっちが言えたことじゃないけど、それでいいのかよ?」
「まあ、大丈夫だろ。というか、むしろ俺よりも湖札の方が知識量は多い」
「なるほど、そういうことか」
再びアーシャの隣に戻るなりそんなことを言われていたが、一輝の一言で納得してしまった。さすがにこの状況でふざけることはない、という点は分かっているのだ。そうでなければ一輝に一任されていることを良しとするはずもないのだが。
「んで?アンタが今日このまま寝ていたい本当の理由は?」
「いやだから言ったじゃん。最近疲れがたまりやすくて眠いんだって」
「さすがに、あそこまで言っといてそれが事実ってことはないだろ」
「だよな・・・」
さすがに分っていたようだ、あれは無理があったと。それでも一輝は少し悩み、事実を伝えるかどうか考えて、結局伝えることにする。
「ジャックをここのいる間ずっと顕現したままにするためには、呪力が足りないんだよ。それで、呪力蓄えるために一回寝る」
「そこまで負担が大きいのか?」
「ジャックはあれで霊獣クラス・・・その中でもそこそこ上位に位置するレベルの存在だからな。今は切り離してるといっても、断罪者としてのものを含めれば主催者権限まであるくらいだ。さすがにずっと出し続けるには負担がある」
だからこそ、ひとまず今日は寝る。今日の残りの時間を全て寝て過ごし、その間に生成された呪力を全てジャックに回すことでここにいる間はじゃっくがでていられるのだ。
「一々出したりしまったりするのもだるいからな。それ灘出しっぱなしの方がよっぽど楽だ」
「ふぅん・・・なら、本拠に残してきた二柱の神霊は?」
「アジ=ダカーハの方は相性がいいから元々負担少な目だし、神霊化しなければほぼゼロ。蚩尤に至っては今回本拠の武器庫にしまってある武器を依代にしたから、こっちも負担なし」
「ジャックさんもそうするわけには?」
「んー、そうだな・・・ジャックの依代にできるとしたら超がつくくらいの罪人かジャックをかたどっている長いこと信仰された何かなんだけど」
さすがにそれを準備するのは難しい。そんな現実的な問題からこの手段は却下される。
「それに、そうじゃなくても姿が依代に依存するからな」
「それは確かに・・・」
姿が違うというのはかなりきつい。と言うか物によっては子供たちが泣き出しかねない。それはさすがに問題である。
「そう言うわけで、他に手段が思いつかなかったわけだ。疲れてた、ってのもあるわけなんだが」
「そっか。ならちょっと相談したいことがあったんだけど、明日以降にした方がいいか?」
「いや別に、相談くらいなら今日でいいぞ」
本当に何でもないかのように一輝が言ったので、もうアーシャも気にしないことにした。一輝についてはもう気にしてもどうしようもない、と察しているのだろう。
そうこうしているうちに、一輝が寝泊まりする部屋についた。当然ながらきれいに掃除したり整理したりはされているものの、少しぼろい部屋である。
「あー、うちも中々に金がなくてな・・・」
「いいよ別に、前いた世界では野宿とかもあったんだし」
「いやアンタ前にいた世界は何だったんだよ・・・」
「任務によっては色々とな・・・」
一輝ですら辛いと感じるものがあったのだろうか、少し思い出しただけで頭を抱えてしまった。かなり珍しい一輝の図である。
「さて、と。それで?相談って何?」
「一気に本題に入ったな・・・」
「こういうのは下手に長引かせても何にもならん」
ベッドに座ってはっきりとそう言う一輝に呆れたような溜息をついてから、アーシャもまた部屋に入ってきて椅子に座る。背もたれを前にして座るちょっと行儀の悪い形だが、彼女には不思議と似合っているように思う。
「あーっと、さ。元々アタシがプレイヤーやってたのって、ジャックさんとウィラ姐さんに無理言って、何だよね」
「うん?」
「ほら、“ウィル・オ・ウィスプ”って本来は主催者メインのコミュニティだからさ」
そう言われて、一輝は思い出した。ウィラがかなり強いプレイヤーだから忘れがちになってしまったが、本来はそう言うものなのである。
「それでも、鬼姫連盟の開くゲームを見たときに、かなり憧れたんだ。自分もあんなステージに立ってみたい、って」
「・・・それで、いろんなゲームに参加してたんだな」
「うん、そう。この服もさ、ジャックさんが『それなら一張羅を作らねば!』って言って作ってくれたもんなんだよ」
自慢の一着であるのか、服について話すときが一番うれしそうだった。そして、だからこそ。次に続く言葉には強い覚悟が込められている。
「でも、さ。ジャックさんがいなくなった以上、もうそんなことを言ってるわけにもいかないから」
「・・・なるほど、な。相談ってのは、プレイヤーを引退する話なのか」
「そういうこと。二足の草鞋でできる程主催者は甘くないし、アタシ自身の実力もない。だから、どこかできっぱりと引退しようと思う」
ふむ、と一輝は少し悩む。さすがにこの場でふざけることはしない。だからこそ真剣に考えて、そして。
「・・・なあ、これまでに白星って何回上げたことがある?」
「一回、だな。ジャックさんと一緒に耀に勝ったやつ」
「そうか。なら、一個提案が」
そう言って指を一本立てた一輝に、アーシャは何かいい案があるのかと身を乗り出す。
「とりあえず、今度一個上の層で開くギフトゲームに出ろ。出納め、ってことで」
「・・・それ、意味あるのか?」
「ちゃんとキリを付ける、ってのは重要なことだぞ。それで、その結果で考え直すなら考え直して、そうじゃないなら主催者に回る」
「・・・できると思うか?」
「多少はノウハウがあるだろうから、大丈夫だろ」
あっさりといった一輝に対してアーシャは文句を言おうとしたが・・・
「なんなら、俺も手伝うし」
「・・・は?」
この言葉で、それも難しくなってしまった。
「いや、なんで?」
「同盟コミュニティだし、あとギフトゲームでれなくて暇だし」
「あー・・・」
そしてすごく納得してしまった。この問題児たちにしてみれば、暇というのは天敵でしかない。
「まあそう言うわけだから、俺にできる協力はするぞ。必要なギフトがあるなら都合できるかもだし、檻の中の異形だって貸せる」
「・・・それ、だいぶゲームの幅が広がらないか?」
「広がるだろうな。で、それをうまいこと実行できるかはオマエのやり方次第だ」
「うわー、プレッシャーが・・・」
そうはいっているものの、アーシャの顔はとても楽しそうになっている。どんなことが出来るかと想像しているのかもしれない。
「ま、そういうことならとりあえずゲームに出てから考えるよ。まだ先なんだっけ?」
「しばらく先になるかな。少なくとも、俺の上層めぐりが終わってからじゃないと」
「・・・上層めぐり?」
「ああ、なんか呼び出されてさ・・・面倒で仕方ないけど、階層支配者たちが行けってうるさいから」
「え、それはあれなんだよな?先方からもう少し先で、って言われてるんだよな?」
「何も言われてないから後回しにしてる」
「それ絶対すぐに来るって考えてるよな!?上層の神群の方々、ちゃんとくるって考えてるからこそだよな!?」
当然ながらアーシャが突っ込みを入れた。まあこの話の流れでは仕方ない。
「えー、それならちゃんと日時指定してくるだろ。だから問題ない」
「相手は上層の神群だろ!?失礼したらどうなると思ってるんだ!!」
「俺の手で全滅させるだけだろ」
「何言っちゃってんのオマエ!?」
ああ、また一輝による被害者が増えてしまった。せっかく一つ覚悟を決めた彼女なんだから、せめて穏便にしてあげてほしいのだが・・・まあ、一輝がそんなことを考えるはずもなく。
「んじゃ、相談も終わったことだしそろそろ寝る。お休みー・・・」
「オイ!話まだ終わってないんだけど!?」
「zzzzzzz・・・」
「ホントに寝やがった!?」
あぁ・・・頑張れ、アーシャ。強く生きてくれ。
ページ上へ戻る