問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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ジャック
「あの、お二人とも・・・何をしていたのですか?」
諸事情から人が訪ねてくるため、一度応接間に集合した“ノーネーム”の主力メンバー。
黒ウサギに耀、飛鳥、そして一輝のメイドたちが集合しているところに遅れてきた一輝と十六夜の二人を見て、黒ウサギが漏らした一言がそれである。
「あー、いや、最初はいつも通りの手合わせのつもりだったんだけどな・・・」
「気が付けば、俺の方から割とマジになってた」
「で、俺もノリで少しマジになったら十六夜がこんな状態に」
そんな声をかけられた二人のうちの一人、一輝の方には特に何かあるわけではない。普段通り外見や他人からどうみられるかなど気にもしていないためにジーンズにTシャツというラフな格好で、唯一何かあるとすれば右手首につけている旗印の刻まれたブレスレットくらいだ。ではなぜ黒ウサギが声をかけたのかというと・・・まあ当然ながら、十六夜が理由だ。
そんな十六夜は、まず服がボロボロになっていた。刃の通らない体となったことで体に傷こそないものの、その外側である服はそうもいかない。つまり、それだけ刃物による攻撃を受けたということだろう。さらに言えば土にも汚れているし、何より十六夜本人がいらだった様子。最後に小脇に抱えている真っ黒なロングコートだ。普段と違いすぎてもうどう反応すればいいのか困るレベルに、十六夜が残念な状態である。
「え、えっと・・・とりあえず、十六夜さんは何か着替えてきてください。そのままの格好でいられるのは・・・」
「ああ、分かった。・・・ってか、俺がいる必要あるのか?」
「別に最悪俺一人でもいいんだが、会えなくてもいいのか?」
「そいつは困るな」
一輝の一言にはっきりと答えた十六夜は、すぐに部屋を出ていく。そして、入れ替わるように・・・
「あの・・・お邪魔、します」
「こんにちはー」
「ああ・・・いらっしゃい、ウィラ、アーシャ」
同盟コミュニティの一つ、ウィル・オ・ウィスプから二人が入ってきた。
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場所は変わり、ノーネームの本館の前。
ウィル・オ・ウィスプのこれからについて少しくらいは話しとけよと思わないではないが、しかしそれ以上待つことが出来ないという二人に、面倒な話などする気もないという一輝によって割愛してしまった。
実際問題としてこの件については一輝に一任されているのだから、あんなに人数集めて話し合ったところで、ということでもあるのだが。
というわけで、本館前に集まったノーネームのメンバーとウィル・オ・ウィスプの二人。今度は主力とか関係なく全員が集まって一輝から少し距離をとって囲むように立っており、その中心に居る一輝は目を閉じ、師子王を横向きに構え・・・唱える。
「我はここに、契約に基づき汝を召喚せんと欲す。汝、これを受け入れるなら我が言霊に従い、ここに顕現せよ。」
一輝がこう檻の中に向けて唱える。そして、彼は一つの声を聞いた。肯定にも否定にもなっていない、ほんの小さな笑い声。
『ヤホホ』というそれを・・・一輝は、肯定と受け取り、伏せていた顔をあげ・・・笑顔で、楽しそうに唱える。
「トリック・オア・トリート!彼の道化師はこう唱え、その祭りの主役となる!」
それは、彼の真の姿を呼ぶものではない。殺人鬼のジャックではなく、道化師のジャックを呼ぶ物。
「南瓜頭の道化師は、誰よりも子供の笑顔を望んだ!子供たちの笑顔のため、子供たちの未来のため!君はただそれだけのために、ここに顕現せよ!」
ハロウィンの主役、ジャック・オー・ランタン。
アジ=ダカーハとの戦いの中一輝と契約をし、その檻の中に封印された彼が今、血なまぐさいことはなくただ子供たちの笑顔のために。
「さあ、皆を笑顔に!ジャック・オー・ランタン!」
最後まで笑顔で楽しそうに唱えた一輝の隣に、顕現した。
大きなカボチャの頭に、襤褸切れのマント。その全てが生前と同じ姿である彼。そんな姿を見て真っ先に反応したのは、当然ながらウィラであった。
彼女が最も長い時を共に過ごしてきた相手。死んだと思っていた彼と再会できて最もうれしいのは彼女だ。だからこそ、一輝の手で彼女の前に押し出されてきたジャックをみて当然ながら涙を流し、
「・・・久しぶり、ジャック」
「ええ。お久しぶりです、ウィラ。・・・すいませんでした、勝手なことをして」
「ううん、気にしなくていい。・・・ジャックは、蒼炎の旗印に・・・ッ」
そして、最後まで言い切ることもできず堪えられなくなり、彼に抱き付く。彼女は自らの年齢も気にせず、声をあげて泣き、ジャックにしがみついている。そんな二人の周りにいる者たちは皆それを見守り。
「・・・ま、こうなるならよかったかね」
一輝はただ一人、その輪から外れながらそう呟いた。
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一輝がジャックを召喚してから少し経った後。
ウィラが泣き止んだために飛鳥や耀、黒ウサギに十六夜、そしてノーネームの子供たちなど。ジャックに会えたことを喜ぶ者たちに囲まれながらアーシャを乗せている。
そうして賑わっている中、真っ先にその輪を抜けた一輝はそのまま一人、本館の屋根に座ってそれを見ていたのだが・・・それは一人ではなくなった。
「あの・・・カズキ」
「ん?どうかしたのか、ウィラ」
散々泣いて、散々抱き付いて。自分の分はそれでいいと判断したのか。ウィラもその輪から抜けてきて、一輝の隣に座った。
「えっと・・・改めて、ありがとう」
「気にすんなって前にも言わなかったか?むしろ俺が勝手に殺したんだから、お前たちには俺を恨む権利がある、って」
「そんなことはしないって、こっちも言った」
ムカッとしたのか、頬を少し膨らますウィラ。そのまま少し向き合っていた二人は、同時に噴き出して笑い出す。
「ま、そうだな。そこまで言うなら、俺はもう気にしないことにする。だからウィラも気にすんな」
「分かった。じゃあ、そういうことで」
もうこれ以上ジャックの件について引っ張らない。そう二人の間で取り決めをすると、再び視線をジャックたちに戻して、話を始める。
「それにしても、やっぱりジャックは子供たちに好かれてるよな」
「うん、何せジャックだから」
「ジャックだもんな」
ジャックだから、という理由だけで彼が子供に好かれる理由の説明には十分。もはやそれは誰もが共有している考えなのだろう。
「それじゃあ、この後は前に言った通りで大丈夫?」
「ああ、問題ない。今の状況なら俺たち六人が本拠にいなくてもどうにかなるし、最悪どっかの魔王が攻め込んできてもアジ=ダカーハは残していく予定だから」
「・・・もし魔王が攻め込んできたら、むしろかわいそう」
「勝ち目がかけらほどもないからな」
アジ君でもなく、アジさんでもなく、アジ=ダカーハを残す。一輝がそう言ったのは、本拠にいるのは一輝の檻の中にアヴェスターのみを残した状態であるからだ。つまり、アヴェスターこそ使えないもののそれ以外は全盛期の彼その物。本当に、魔王が攻め込みでもしようものなら覇者の光輪一撃で消し飛ぶ。かわいそうになるのも仕方ない。そして、たかが本拠の護衛にアジ=ダカーハを残す一輝もどうなのだろうか。
「あ、万が一のために蚩尤も残してるんだった。今は武器庫にいるけど」
「待って、カズキはどんな敵を想定してるの?」
「新たに誕生した人類最終試練、とか?」
「冗談でもダメ・・・」
本気であきれた様子のウィラを見て、一輝は首を傾げる。まあ最悪の可能性を考えるというその行為そのものはいいことなのかもしれないが、それにしたって、ということだろう。そしてもし仮に人類最終試練の魔王が出てきたとしても、アジ=ダカーハ一人で十分である。少なくとも一輝が駆け付けるまでの時間くらいは稼げる。
「はぁ・・・でも、問題ないならこのままいく方向で」
「ああ、勿論行かせてもらうぜ。ウィル・オ・ウィスプからのお招きなんだからな」
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