問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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相談
「さて、と。それじゃあウィラお姉さん、コミュニティの現状とかについて質問していくから、正直に答えてね?」
「あ、うん。えっと・・・なんでヤシロが?」
一輝が立ち去って少ししてから。
ジャックの号令で子供たちがそれぞれの仕事へ向かい、ジャックがそれを一か所一か所見回りながら手伝っている間に、応接間で現状の確認を始めていた。そこにいるのはヤシロとウィラの二人だけである
「うーん・・・一応あの中で一番年上なの私だし、人生経験もある分判断しやすいから、かな?」
「あ・・・そういえば、そうだっけ」
「うんうん、実はそうなの」
この様子だと、ウィラは完全に忘れていたらしい。たびたび作者も忘れそうになるのだが、彼女がノストラダムスの大予言そのものである、ということを。
「それに純粋な実力で考えても“ノーネーム”の中ではお兄さんの次だしね。こういう時は代理で♪」
「それなら、わかった。何から聞くの?」
「財政状況はこの本拠を見ればわかるし、お姉さんたちが今色んなところを手伝いつつ見て回ってるからいいとして・・・」
今ヤシロが言ったとおり、残りの一輝のメイドたちは屋敷の中に散らばってそれぞれ手伝いをしている。そのさなかどれほど本拠がボロボロなのかなどを調べる、という流れで。
「あ、そうだ。一番大事なこと」
「何?」
「今このコミュニティに魔王が来たとして、まともに戦えるのは何人?」
「・・・私、だけ」
「うわお」
ヤシロは思わずそう漏らしてしまった。そこにはそんな現状への呆れではなく、むしろこれまでよくジャックとウィラの二人だけの状態でこの箱庭を生きてきたという純粋な称賛が込められていた。
「一応、戦うことが出来る子もいるんだけど・・・相手が魔王となると、ちょっと・・・」
「う~ん、確かにウィラお姉さん一人いれば下層の魔王くらいならどうにかなりそうだけど・・・その他は堪えるのも難しいかも」
「そうじゃなくても、ルール次第で・・・」
これがただのコミュニティであればそこまで考えなくてもよかったのかもしれないが、今や“ウィル・オ・ウィスプ”は打倒魔王を掲げている“ノーネーム”と同盟を組んでしまっている。これから先魔王のコミュニティに狙われる可能性は高いだろう。それも、そのまま他のコミュニティが駆け付けるまで耐えられない可能性も。
「だいぶ難しい状況だね・・・うーん、たぶん剣閃烈火の人たちに頼めばここに入れ替わりでいてくれるだろうけど、あの人たちも脳筋というか剣しかないし・・・」
「魔王対策には、ちょっと・・・」
「あ、お兄さんに頼めばアジお兄さんをここにおいてくれるかも!」
「それは、ちょっと・・・」
最後のはホントにどうなのだろうか。というかウィル・オ・ウィスプの子供たちが泣きかねない。だが魔王対策としては実力面でも知識面でもかなり高い水準を持っているのだが。
「とまあ、冗談はこのあたりにして」
「ヤシロ、少し本気だった・・・」
「かなり効果的な案ではあったからね」
「効果的だけど、心労が・・・」
ごもっともだ。
「そうなると、手段としてはかなり絞られるよね。というか、元々お兄さんから『もうノーネームの本拠に来てもらうのが一番だろ』って言われてるし」
「・・・場所とか色々と、大丈夫なの?」
「とりあえず一ヶ所土地を元に戻そうと頑張ってるし、ゲームに参加できない子供たちの仕事も多いから大丈夫。まあウィラお姉さんにはメイド仕事してもらうことになりそうだけど」
「ん、分かった」
そのことに対しては何もないのか、ウィラははっきりとそう答える。一任されている一輝に確認をとらないと確定とは言えないが、まあとりあえずこれで決まりだろう。
「さ、それじゃあ次の話題」
「・・・?まだ、何か話すことが?」
「うん、すっごく個人的なことだけど」
その瞬間、ウィラの中の何かが警鐘を鳴らした。目の前にいる幼女が見せたそれは、問題児の笑み。一体どんな爆弾を投下してくるのかと警戒していると・・・
「それで、お兄さんへの想いはどうするの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
フリーズしてしまった。そのままフリーズすること一分。結構な時間をかけて再起動したときには珍しく顔が真っ赤になっている。
「えっと、その、これは・・・少し違くって、」
「あ、うん。大丈夫。その辺りについてはちゃんと理解してるから」
「・・・なら、言わないでほしかった」
あははー、と言っているヤシロを、ウィラは少し恨めしそうに見る。しかし彼女はそんなこと気にもせず。
「私としてはそれはそれで一つの想いの形だし、いいと思うんだけど」
「・・・さすがに、こんな短期間でそこまで割り切れない」
「あはは、そっか」
見た目の上では幼女が弄ってる図となるのだが、実際の年齢で考えればヤシロの方が上なのでそこまで間違ってはいない。箱庭において見た目なんて何の参考にもならないのである。
「・・・ねえ、ヤシロ。ちょっと相談していい?」
「今のウィラお姉さんの状況だったら、たぶん私よりもお兄さんの方が専門だよ?」
「本人に相談するの・・・?」
「もういっそその方がいい気がするけどね。それに、お兄さんならそのことを言われても変なことは考えないだろうし」
「・・・そう、なの?」
「あのお兄さんだからね。・・・まあ、他にもちょっと事情があるんだけど」
「事情?」
「うん。ちょっとした、ね」
ヤシロはそう言うと、床についていない足をぶらぶらさせ、少しだけ話す。
「多分、湖札お姉さんを除けばちゃんと気づいてるのは私だけなんだけど・・・お兄さんって、ちょっと特殊な感情の在り方をしてるんだ」
「特殊な在り方?」
「そう、特殊な在り方。どれくらい特殊かというと、普通の人ならそれを理解してたら自己嫌悪に陥ったり自分が信じられなくなるくらい特殊。周りの人からしてみても、本当に普通の一般人にすればお兄さんのことを人間なのか・・・生物なのか疑うんじゃないかな?」
あっさりと言われたそれは、ウィラが固まるには十分なものであった。そこまでのたとえ方をされるとは、一輝は一体どんな感情の在り方をしているのか、と。
「・・・それは、カズキが大切を失わないためには何でもする、とかじゃなくて?」
「ああ、それは知ってるんだっけ?でも、うん。それとは別のことだね」
唯一心当たりのあったものを聞いてみたものの、しかしそれは違ったらしい。ではいったい何なのか・・・少し悩む様子を見せたが、しかし何も思いつかなかったのかそれも短い時間で終わった。
「・・・知ってるのは、二人だけなの?」
「ちゃんと知ってるのは、私と湖札お姉さん、それにお兄さん本人だね。音央お姉さんと鳴央お姉さんは違和感は感じてるかもしれないし、スレイブちゃんが気付いたうえで何も気にしてない、って可能性はあるけど」
何せスレイブちゃん、お兄さんの相棒だしねー、と。剣と主という繋がりや剣筋に感情が出るという話など。スレイブがそれに気付いている可能性は意外とあることをヤシロは告げた。
「・・・なんでそれを、私に?」
「簡単なことだよ。これで考え直すことになるなら、それでいいと思う。もしここまで言ってもそれに気付けないなら、その感情は何が何でも捨てるべきだと思う。そして・・・それに気付いてもなお感情に変わりがなかったりするなら、まだ悩んでても大丈夫。そんな感じ」
つまり、これは彼女なりの手助けなのだ。もう何度目か分からないが、彼女はここにいる中で、それこそ言ってしまえば一輝の檻の中の住人を除けば最高齢クラスに経験を重ねているのだ。実は一番相談に乗っていい解決法を示してくれる可能性が高かったりする。
「そう言うわけだから、そんな感じで判断してみるのがベストだと思うよ、ウィラお姉さん」
「そう、なの?」
「うん、そうなの。大サービスでもう一個ヒントをあげちゃうと、普通なら興奮するような状況にもってくのが分かりやすいかな」
一瞬。今度は本当に一瞬だけ固まってから、訪ねる。
「えっと、それはなんだか楽しくなってきたとか、そういう?」
「ううん、性的な方♪」
一瞬の絶句。そしてそのまましばらく、ウィラは固まったままであった。
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