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問題児たちが異世界から来るそうですよ?  ~無形物を統べるもの~

作者:biwanosin
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手合わせ

とある日のノーネーム。建物から少し離れたところに一輝と十六夜はいた。
お互いに向き合って拳を握り、一瞬の沈黙が流れ・・・同時に動く。
地面を踏み込み、拳と拳がぶつかる。その衝撃でどちらも後ろに跳ばされ、十六夜はその先に合った木を蹴って再び跳ぶが、一輝は横に跳んでしまったので空振りに終わった。
十六夜は自分の拳で倒れてしまった木を無視して一輝のとんだ方を見るが、その瞬間に青筋を立てる。ニコニコとしながら手を振っていたのだから当たり前だろうが。

そんな理由からイラッとした十六夜だが、しかしそれでも突っ込むことはなかった。少し前までの彼ならともかく、今の彼からは慢心と言ったものは消えている。
自分より強いやつが、このコミュニティだけでも一輝、湖札、アジ=ダカーハと三人はいるということを知っている。その点から彼は慢心と言ったものを捨てている。格上に対してはもう下手に動くことはない。
一輝は十六夜のその様子を見て感心したのか、そんな表情を作り、次の瞬間には十六夜の視界から消える。

それにはさすがの十六夜も表情を変え、どこに行ったのかとまず右を見る。そして、その瞬間には左から殴り飛ばされた。
日本人の習慣ゆえか、それとも利き腕が右手だったのか。なんにしても右から確認してしまったために十六夜は攻撃を喰らい、再び飛ばされて木にぶつかって軽く口の端から血を流す。それを拭い地面に手をついて立ち上がると、どうするか少し考える。このまま続ければ、今日の手合わせも何もできずに敗北して終わってしまう。それだけは避けねばと考えて・・・結局何かできそうな手は一つしか浮かばず、それを実行する。

一輝にしてみればそれは何か考えていたと思ったら急に突っ込んできた、というような状況なのでさすがに一瞬目を見開いて固まったが、手合わせの最中にそのままでいるわけにはいかない。すぐに頭を切り替えて構える。十六夜がしてくるとしたら何であるか、それをこれまでの手合わせから考え、どれがきても対応する手段を立てて・・・そのどれでもない一手を打たれ、その驚きと内容から行動を停止してしまう。
十六夜の打った一手はとても単純。立つ際に握りこんだ砂を一輝の目にめがけて砂を投げつけたのだ。この上なく単純であるその一手なのだが、しかし今回についてはそれがとても効果を出した。

まず一つ目に、一輝は何が来ても対応できるようにと『目をしっかりと開いていた』。当然ながら砂も入りやすく、一輝の視界は塞がれた。その上に反射的に体が固まってしまったので、隙もできた形だ。
そして二つ目に、それがこの上なく十六夜らしくなかったということだ。十六夜といえば真正面からぶつかってくる、そんな印象を抱いていたところに砂による目つぶしだ。その驚きはかなりのものになるだろう。

そんな形で、これまでの手合わせでは一度も作ることのできなかった隙を作ることのできた十六夜。当然の流れでそのまま拳を突き出して、始めて一輝にまともな一撃を入れた。それでよろめいた一輝に対して十六夜はもう一撃入れようか考えたが、それを踏みとどまって一度下がる。ここまで行けた以上はできるところまで行き、可能なら勝ちたい。そのためにも慎重を期していくためにも、このままでは二撃目がどこから飛んでくるのか簡単に想像されてしまう。普通の相手ならともかく、一輝ではそれだけの情報で十分なのではないか。そんな考えから彼は音を立てずに短時間で移動し、真逆から攻撃をする。
が、しかし。その拳は一輝の手に阻まれた。

少なくとも子の二撃目まではいけると考えていた十六夜は目を見開き、一輝がまだ目を閉じているのを見て再び驚く。しかも、もう一度後ろに逃げようとしてもしっかりと握りこまれてしまっているので、逃げることもできない。今度はそこで十六夜が隙を作ってしまったために、一気に投げられる。
まだ目が見えないにもかかわらず、一輝は地面にたたきつけられて息を吐き出した十六夜の喉に手刀を当て、いつでもその首を落とすことが出来る体制となる。



  ========



「これで俺の勝ち、だな」
「ああ、そうだなコンチクショウ」

心の底から悔しそうな声をあげた十六夜に対して、一輝は「ま、よくやっただろ」と一言だけ言って立ち上がる。そのまま手さぐりで倉庫の中からペットボトルを取り出して目を洗っていると、十六夜もその後ろで立ち上がる。

「ったく・・・まさか十六夜がこんな手を使ってくるとは。考えてもなかった」
「だからこそやったんだろうが。・・・結局、意味なかったみたいだけどな」
「意味なくはないだろ。俺に初めてまともな攻撃入れれたんだ」

その時点で意味がねえ、と十六夜はぼやく。自分よりも上にいる相手であるとはいえ、ここまで圧倒的では、ということだろう。

「それよりも、なんで今日はあんな手を使ってきたんだ?」
「別に・・・変なプライドは捨てることにしたんだよ。何を使ってでも、勝てるならそれで勝つ、ってな」
「・・・ふうん」

今度こそ、一輝は本気で感心する。一度の挫折を乗り越えただけでここまでの成長を見せるとはさすがに思っていなかったのだろう。

「つーわけで、これからは色々と試させてもらうぜ」
「それについては、まあご自由に、って感じだけどな・・・そうか、それなら」

一輝は少しの間上を向いて考え、そして十六夜を見る。

「なあ、その意志はもうしっかりとしてるか?」
「あー・・・まあ、俺らしくはないと思いながら、それでも迷わず実行できる程度には」
「ふむ・・・んじゃ、もう一つ。オマエ、なにか確固たる意志とかってある?」
「ああ、それはある」

こんどは迷わず、即答する十六夜。そして続けられたのは。

「俺は仲間を守り、弱者を守り、そして無関係なやつらには飛び火させずに・・・敵の全てをぶっ飛ばす。それが、俺の目指す場所だ」
「それはまた・・・俺なんかとは比べ物にならないくらい立派な考えだな」

自分にとって大切だと思うものでなければ、心の底から守ろうと思えないほどに偏っている一輝。だからこそ、こうしてはっきりと言ってしまえる十六夜を少しだけまぶしく感じた。

「それなら、今のお前におすすめの技が、一族に伝えられてる中にある。それこそ、汚い、姑息、卑怯者、とか言われかねない系統のものだけどな」
「・・・それは、どんなものだ?」
「一番早いのは、自分の目で見て、自分の体で体感することだな。つっても、俺も全部使えるってだけで得意なわけじゃねえんだけど」

そう言いながら一輝が取り出したのは、真っ黒なロングコート。それを着てから腕や肩などを少し抑え、その他にも色々なものを十六夜が確認できない速度で取り出しては服の中に取り付けていく。

「まあそれでも、使えるし十分実用できるレベルにはあるからさ・・・鬼道流暗術、暗伎、暗殺技の数々。とりあえずその身で味わえ」
 
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