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とある緋弾のソードアート・ライブ

作者:常盤赤色
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第一二話「本物の地獄に住む狂乱者たち」

1,







 キンジたちの会合が終わったちょうどその頃。学園都市では別の交わりが始まったところだった。

「「げ」」

 学園都市の一角。どこにでもあるコンビニの内の一店。その店には今現在他の店とは決定的な大きな差異があった。

 レベル5の内の2人──第三位の御坂美琴と第四位の麦野沈利がいることだ。

 コンビニの雑誌コーナーにて週間の漫画雑誌を立ち読みしていた美琴が偶然にも入り口に目を向けたタイミングで店の自動ドアを潜った麦野。お互いの顔を目視した瞬間嫌そうな顔したのも仕方のないことだろう。この2人、多少の因縁があることを知るものは少ない。

「?どうしたんですか麦野……あ、超電磁砲」

 突然入り口にて停止した同行者を不思議に思った絹旗(きぬはた)最愛(さいあい)も麦野の目線の先へと目を向け、停止した理由を見つけた。

 「アイテム」という小さな組織と御坂美琴が交戦したのはおよそ3ヶ月前というところだろうか。妹達のことを1人で背負い壊れかけていた美琴と、「絶対能力進化」計画に関連した研究所の1つの警護を依頼されていた「アイテム」。両者とも激突したときとは心境も環境も数ヶ月の間で随分と変わっているが、それでもお互い、顔を合わせたくない相手には違いない。

 だったらどちらかが無視を貫いて店を出ればいいのだが、どちらもこのコンビニに、正確にはコンビニの雑誌コーナーに用があって来店しているのである。目的の物は他の店にも売っているかもしれないが、ここから一番近いコンビニに向かうとなると、本来のこの周辺に来た目的に間に合わなくなる。

 見た目だけなら文句無しの美少女と美女がお互い見つめ合っているとなるとどこぞの漫画描きが見れば迷わずネタにされそうな構図だが、どちらも嫌そうな顔をしているので台無しだった。

 結局、先に口を開いたのは麦野だった。

「──コンニチワ」
「…………コンニチワ」

 片言での挨拶で済ませ、相手を無視する方向に麦野は決める。幸い、お目当の雑誌はすぐ見つかったし、すぐさまこの店を出れば気まずい空気からは解放されるだろう。待ち合わせの時間まではまだあるが、元々ここでなく近くのカフェにて時間を潰す予定だったのだ。何の問題も無い。

 が、麦野がそうであっても、御坂はそうではなかった。

「…………あんたも、あのメール来たの?」
「あ?」

 雑誌が置いてある棚の関係でどうしても御坂の真横に来なくてはならなかった麦野は隣に立った瞬間、突然話しかけられた。普通ならいきなり「メール」の話をされてもわけがわからない。しかし、麦野には1つ心当たりがあった。

「……「あの」メールか」
「その反応を見ると、あんたも……」
「?超顔をしかめて何の話ですか?」

 隣の麦野の反応、更に隣の絹旗の反応からあのメールが自分だけではなく、他のレベル5にも届いているらしい。御坂と麦野だけに送っていたと考えるとなると、御坂と他のレベル5が顔見知りですらなく、お互い情報交換することがないと断定することになる。確かにこの学園都市で他のレベル5に会う確率はかなり低いが、だからと言って0ではないのだ。もし、これが統括理事会を名乗るだけの人物となればそのくらいは予期して当然だろう。

 どうやら、「全てのレベル5に向けて」という言葉は信じていいようだということはわかった。少なくとも、今回事態に巻き込まれたのは自分だけではない模様だ。

「…………どうする気?」
「どうって……別にすることなんてねぇよ。あのメールが本当かどうかなんて知ったことじゃないからな」
「もし、あのメールが本当だったら……」
「それだったら簡単だ。私たちを狙うんだったら腕の一本や二本じゃすまないことくらいはわかってやるんだろうよ」
「…………」

 確かに、軍隊と戦うことができると言われているというレベル5と戦うとなるとそれなりの兵力は持ってくるはずである。それでも所詮は外部の技術だ。左にいる女なら少なくとも全員が腕の一本や二本は消し飛ばすくらいのことはするだろう。自分も、その程度の相手に負ける気はない。

 しかし、それでもあのメールの内容は無視することはできなかった。

「けど……大事な人を巻き込むわけにはいかないの。できれば、私は穏便に済ませたいのよ」

 もちろん、自分だけが狙われていると聞けば喜んで敵を返り討ちにするし、こんなメールここまで気にかけることもしなかっただろう。それは大事な人が狙われているとなれば大きく翻る。

 自身の大切な友達を、妹達を、巻き込みたくない。

「だったらお前はお前で好きにすればいい。さっきも言ったけど私は知ったことじゃないからな」

 ただしその考えは御坂の物で、麦野は全く違う考えをしていた。

 確かに、彼女にも失いたくない物はある。しかし自分の身を守れるのは結局のところ自分のみなのである。もし、外部の組織ごときにやられたらそれはそいつが弱かっただけなのである。

 麦野沈利は丸くなった。しかし、彼女の本質事態に変化はない。

 もっとも、それは本人がそう思っているだけかもしれないが。

 なんにせよ、麦野は御坂の事情なんて自分の事情に組み込む気は無かった。赤の他人がどうなろうとどうでもいい。

「……あんたが暴れると私の知り合いに危害が及ぶかもしれないって言ってんだけど」
「だからそんなん私の知ったことじゃないって言ってるだろ?」

 御坂も予想していた答えだったが、だからと言ってここで戦って相手の考えをねじ伏せたところで何も変わらないだろう。もし、この女が暴れることで友達や妹達に危害が及ぶなら、その危害を未然に防ぐのが自分の役目だ。

 それにまた()()()を自分の事情に巻き込んで怪我をさせるわけには──

(…………ってなんでそんなこと思ってんの私)

 知らず識らずの内に()()()鹿()の顔を勝手に思い浮かべた自分に気づきあたふたとする御坂。佐天や初春辺りが見れば微笑ましい目で見られるのだろうが、あいにく今隣にいたレベル5とレベル4は御坂の挙動不審な動きにまったく気がついてなかったようだ。

「そういうわけだ。分かったらここでおさらばだな。私たちが手を組んだって碌なことにならねぇ」

 そんなことを言いながらお目当のファッション雑誌を手に取りレジへと向かう麦野。「ちょっとちょっと。無視ですか?超無視ですか?さっきから何話してるのかって──」と麦野の背に非難を浴びせ続ける絹旗も、それに続く。

 本来ならそこでレベル5の第三位と第四位の短い会合は終わっていたのだろう。お互いがお互いに複雑な物を抱きながら応じた彼女たちだけの会話はここで打ち切られ、また彼女たちはそれぞれの日常や非日常に帰っていく。

 ここで、1つの異常がコンビニの店内へと転がり込んできた。

 開く自動ドア。別になんの変哲も無い光景だった。コンビニの入り口は自動ドアなのだからセンサーに人が近づけば自動ドアが左右にスライドし、開くのは必然というか世界の理と言えよう。様々な技術が発達した学園都市だが、このような日常に関わる技術は一部を除いて外部とあまり変わりないのが現状だったりする。

 開いた自動ドアだが店内に入る影はない。これもありえなくもない光景だろう。自動ドアはセンサー式なので入り口を横切るだけで開く場合もある。コンビニ前の歩道は広いがコンビニ前を横切る歩行者もいよう。これも日常的にはありえなくない光景だ。

 ただし、人が入ってこなかった代わりに入ってきた物があった。

 それはフローリングの床をコロコロと転がり店内へと入ってくる。楕円状の凹凸があるそれは、一方にレバーのような物が取り付けられておりその形は御坂や麦野、絹旗にも見覚えがあるものであった。

 手榴弾。その単語を御坂が思い浮かべた頃には──







2,







 茅場晶彦の「真の異世界の創造」という渇望を具現化するため行われ、4000人近い死者を出した狂気のデスゲーム、SAO事件。その死者の内の40分の1を超える数を殺害した、とあるPK集団がいたことを知るのは、一部の人間だけだ。

 その名はラフィンコフィン。名の意は「笑う棺桶」。ゲームオーバーが現実での死を意味するSAOにおいて、PKを快楽の手段として行ったSAO最悪最恐の殺人ギルドだ。その凶悪性から当時SAOの攻略に当たっていた「攻略組」有志50人による捕縛隊が組まれ戦闘となり、討伐隊11名、ラフコフ側21名という最悪の結果を残して壊滅。その出来事はキリトやアスナ、クラインといった殲滅作戦に参加した者たちにとって最悪の出来事となり、その記憶に刻まれることとなる。

 事件から一年が経とうとしている今でも、その禍根は攻略組、ラフコフ組、両方の帰還者に深く根付いている。後ほど起こる死銃(デスガン)と名乗るプレイヤーによってGGOにて起こる一連の騒動も、ラフコフの幹部であった2人の人物が中心となり起こされたことで、禍根の一つと言っても過言ではない。

 そして、POHの誘惑・洗脳により狂的なラフコフのメンバーになったものも少なくない。

 今回編成されたプライベーティアのメンバーの一部は、まさにそれだ。

 SAO事件を引きづり、未だに手に染み付いた仮初めの、相手の命を奪う感触を忘れられず、しかし舞い戻った現実の世界ではそれが容易にできなくなってしまった、快楽のやり場のなくなった彼ら。そんな彼らにとって今回の誘いはまさに極上の禁断の果実だった。

 元々プライベーティアは「一方的に人殺しがしたい」のただ一点のみを持つ軍隊経験が有る者で編成された連中である。人殺しを快楽の手段とする元ラフコフのメンバーが彼らに馴染むのに、時間はいらなかった。

 出会って2日。もはや彼らは歴戦の戦友のような仲へとなっていた。

 ──人を殺す。ただのその快楽の前には。





「うわっ……すげぇ威力だなこりゃ。しかしこんなんで学園都市のレベル5がやられんのかよ。バケモンなんだろ?あいつら」
「レベル5って言っても体は生身らしいしな。流石に不意打ちでこれはな。ってか、本当ならこんな爆薬とかじゃなくて直接ヤりたいんだけど……」
「やめとけ。殺し合いの先輩が教えてらやるけど、ギリギリの殺し合いがしたいなら諦めろ。向かったところで一方的にノされるのがオチだ」

 狂気に顔を歪める者。淡々と「殺し」を遂行しようとする者。なんでもないように、仲間内で会話をする者。そんな彼らが逃げ惑う一般人が大勢いる原因となった、爆音が響き黒煙を上げ続いているコンビニを取り囲んでいた。

 その連中の服装はバラバラだ。まるでどこぞの傭兵のように重火器を体に纏った奴。それとは正反対的に剣やナイフなどの刃物にローブやマントという、どこかのゲーム内のような格好をしている奴。後者には、体のどこかに特徴的な「笑う棺桶」のタトゥーが入れられていた。

 まるで服装の主旨も時代感も違う一団。その十数名には共通することは──誰もが、この状況を、「人殺し」を楽しんでいることだった。

「しかしラッキーだったな。まさかこんなに早く対象が見つかるとはな。さっさと終わらせて、これから来るっていう風紀委員とか警備員とか言うやつで、思う存分楽しもうぜ」
「そうだな……ってか。ギルマスやザザたちも惜しいことしたなぁ。……こんなに楽しめそうな場を用意してくれるって聞いたら喜んで参加してきただろうに」
「ギルマスって……POHってやつのことか」

 すでに意気投合した彼らは、元ラフコフメンバーから彼らを束ねたギルドマスター、POHの話は聞いており、その存在について知っていた。

 POH。ラフィンコフィンの創設者であるギルドマスターにしてSAOで最も猛威を振るったPK。ユーモラスなキャラクターネームとはかけ離れた、冷酷で狂気的な思考を持った殺人鬼であり、美貌とカリスマ性を持った悪のカリスマである。彼が犯罪者プレイヤーに行った誘惑・洗脳は凄まじく、未だにPOHをまるで信仰団体の教祖のように崇める元ラフコフメンバーもいるほどだ。

「ああ。ギルマスは連絡取れなかったからしょうがないけどよ。ザザの奴は確か何か準備があるとか言ってたな。……そういやジョニー・ブラックの奴も」
「どうでもいいけどよ。そろそろこいつ、嬉しすぎて腰砕きになりそうだぞ。ヨダレも垂らして相当やばいな」

 少年から中年まで、大小様々な男たちの中で年長者の部類に入る1人がへたり込んだ自分よりふた回りも下だと思われる少年を見る。自分たちも今の感慨を深く感じてはいるが、少年は完全に高揚した顔でヨダレを垂らしながら笑っていた。常人から見れば完全に狂気に支配された笑みだったが、彼らにとっては態度に表してないだけで、内心同じ感じなだけにすぎなかった。

「あぁ。そいつかなりギルマスにゆっくりと教育されてたからな。久々の感覚で快感が過ぎたんだろ」
「けどよー。これ、死んでないよな?死んでたら貰える金が半減するわこの後の殺しができなくなるわで面倒なんだけど」
「うーん。大丈夫じゃないの?」

 人の命をまるで食事するかのように簡単に自らの快感に食い潰すことができる彼らにとって、これからできる快楽の吐き場が無くなることは死活問題に等しい。そのくせ、「ダイヤノイド」の壁でも簡単に破壊できるという火力の手榴弾を後先考えず投げ入れたことも、彼らが快楽を後先考えず先に置く、すなわち狂っているという証明になるのだろう。

 近くにいた男が腰砕きになった少年を立たせようと手を差し伸べた。

 同時に2度目の爆煙が上がる。

 先ほどと似た爆煙は一瞬手榴弾の物にも見え、男たちの1人は身内がまた手榴弾を投擲したのかと思った。

 が、元軍隊の男たちは気づく。今の爆煙には1度目と違う箇所があると。正確には、戦場で彼らは慣れっことなっていたあの、硝煙の臭いがしないのだ。

 そしてその理由は明確に示された。

「ッ…………ギャァァァァァァァァァァァァァァ!?」

 突然隣から聞こえてきた叫び声に反応し、剣とナイフを構えていた少年も、腰砕きになっている少年に手を差し伸べた男も、その声の主を探し、そしてそれを目視した。

 声の主はすぐそこにいた。自分たちと同じプライベーティアのメンバーである男。

 第一の爆破からずっと沈黙を続けていた男の右腕がなかったのだ。

「え…………」

 腕が消えたことに気づかなかった。男が絶叫したのはどちらかというと、腕が弾け飛んだ際の痛みによるものではなく、突如右腕が無くなっていたショックによる混乱と恐怖によるものだろう。あまりの高温で傷口が完全に炭化し、余計な出血はない。そもそも出血しない体だが、それでもその傷口の異常さは数々の戦場を渡り歩いてきた男たちだけではなく、医者志望でもなく人体の勉強などしたことのない少年たちにも見て取れた。

「……チッ」

 それに続いて発せられた舌打ちは爆煙の中からだった。しかし野太い軍隊崩れの野太い声でもPKという行為によって狂った少年の声変わりしかけの声でもない。

 握り拳大の閃光を周りに滞空させながら爆煙を切り裂き現われたのはもちろん、学園都市最強の能力レベル、レベル5の1人麦野沈利。

「もう金払ったのに雑誌がボロボロでこれじゃ読めねーじゃねーか。弁償してもらおうにも店側の過失じゃねーし。レジから金取るわけにもいかないし、そもそも壊れたしよ……」

 確かに、ここにいる彼らのいた場所も十分な地獄と言える場所だっただろう。戦場とSAO、まったく趣は違うものの、そこで狂気を維持できてきた彼らは十分な異常者なのだろう。

「それじゃ、おめーらが弁償してくれるって感じでいいんだよな?ええ?」

 まぁ、それすらも狂気渦巻く学園都市の暗部からすれば、生暖かいぬるま湯に過ぎないのだが。







3,







「……ったく。普通こんな街中で手榴弾ぶっ放すなんて考えられないわよ」

 爆煙の中から麦野に続いて出てきたのは御坂美琴と絹旗最愛。御坂は背後に店内の店員やお客さんを守りながらの登場である。

 突然に投げ込まれた手榴弾による爆煙を店の前方のみに留めることができたのはレベル4以上の能力を持つこの3人のおかげである。御坂が磁力を使い手榴弾を誘導。その意図を察知した麦野沈利と絹旗最愛がそれぞれの能力、「原子崩し」と「窒素装甲」を使い壁を作成。自分たちの身を爆煙から守ったのだ。御坂と他の店内にいた者たちはついでという形で守られた結果となる。

「何言ってんですか。不意打ちは上等手段ですよ。まぁコンビニにいる客ごと対象を抹殺しようとする超イカレ野郎はあんま見たことありませんが」

 「あんま」ということは見たことがあるのか。と突っ込む御坂だった。口で言っても何にもならないし心の中で、だが。

 そんな事はともかく、と目の前の惨状を確認する──が、御坂はその惨状を見て眉をひそめた。

 ある程度の悲惨な惨状は覚悟していた。なにせ相手はあの第四位だ。先ほども思ったが、相手が腕の1、2本で済まされるとは思ってはいない。御坂は爆煙から出れば、麦野の周辺に手榴弾を投げ込んできた連中の惨たらしい末路が広がっていると考えていてさえいた。

 ところが麦野の周りにあるのは、先ほど御坂が読んでいた漫画雑誌ほどの大きさの鉱石がゴロゴロと転がっている姿だった。死屍累々とした環境見せられずにすんでホッとしたが、それでも場が異常なことには変わらない。

 店内にいた人たちを一先ず逃し、会話に参加することにする御坂。本当ならあまり一緒にいたくない相手であるが、今は協力した方がいいだろう。同じ判断を下したのか、麦野も何も言わなかった。

「ちょちょ。何ですかこれ。超どういう状況か分かんないですけど」

 麦野に問いかける絹旗。しかし麦野もさっぱりという顔をしたところ、場がどうしてこうなったのか理解できてないらしい。

「私だって分かんねぇよ」

 鉱石を一つ拾い上げ、観察する絹旗だったが、別に彼女は鉱石系に詳しい科学者ではない。この鉱石が異常な大きさということがなんとなくわかるだけだった。

「腕弾いたのはいいんだけど、そしたらなんかいきなり消えちまって。それだけ」
「消えた?」

 御坂もこれまで様々な敵と戦ってきた。あの馬鹿ほどでは無いが、見てきた世界も常人よりかは随分広いとは思っている。

 しかし突然消える敵とは中々戦ったことはない。いや、「空間移動」系の能力者と対峙したことがないわけではない。

 しかし、いくら彼女が知る白井黒子でも、腕を消された恐怖とパニック状態で、正確な演算が行えるとは思えない。それに加えて相手は恐らく外部組織だろう。現にあの手榴弾は外部によって開発されたものだった。それならば彼らが能力者という推測は立たない。

 では一体、彼らは……。

「しかし、なんで初めから能力を使ってあの手榴弾を使えなくしようとしなかったんですか?この質問、麦野も超該当しますけどね」
「ああ。そこ?」

 思考にふけっていた御坂は、絹旗の声に反応して顔を上げた。

 絹旗の言う通り、彼女たちの能力なら不意打ちの手榴弾でも使用不可能に簡単にすることができただろう。

 しかし、それをしなかった。ということはそれなりの理由があるというわけだろう。

「流石に狭いコンビニの中であんなのに追い込まれたら戦いにくいしね」
「ん?あんなの?」

 首を傾げる絹旗。何のことだか分からないので当たり前であろう。

 すると「あんなの」という御坂の指が何かを指していることに気づく。ふとそこへ振り向いてみて、驚いた。

 視界を、白い何かが覆っていた。

 目の前にそびえ立つ巨大な骸骨。日本の古い妖怪で「がしゃどくろ」という妖怪がいるがそれと似たものだと思えばいい。アインクラッドにてキリトたちが戦った第75層のボス、ザ・スカル・リーパーとは違い、完全に人型の巨大な骸骨が空中歩道へと身を乗り出していた。

 その大きさ、およそ12メートル。十分な巨体と言えよう。

「……なんですか、これ。リアルな骸骨メカとか製作者のセンスが超問われるんですけど……」
「これ、機械じゃないわ」

 いきなり乱入してきた巨大骸骨に嫌そうな顔をする絹旗の、間違いを訂正する御坂。

「え?ロボじゃないんですか?これ」
「電気系能力者なら機械系統がないことは分かるわよ。もちろん、あいつだって分かってるんじゃない?」

 横目で麦野を見る御坂。反応からすればこれをちゃんと察知していた、と見てOKだろう。

「で、どうするの」

 目の前を覆う巨大骸骨。それを正面に添えながら、御坂は横に立つもう一人のレベル5に疑問を示した。

「だからさっきも言っただろ」

 手を振り上げてきた骸骨に構える御坂に対して、面倒くさそうに答える麦野。伸びをし欠伸すらしているが、彼女がやることは最初から決まっていた。

「返り討ちにする。それだけだ」
「いいわね。気に入ったわ。乗ってあげる。それ」
「随分上から目線ですね。まあ今は超戦力が欲しいところですし、特別に了承しますけど」
「絹旗。お前いつからアイテムのリーダーになったんだよ」

 こうして

 学園都市のレベル5、電気系能力者最強の2人が手を組むこととなった。





 同時刻。

 一方通行は昔の「グループ」のアジトの一つの跡である無人の地下街にいた。

 その周りに転がるのは同じ時刻に麦野の周辺に落ちた鉱石と同じもの。そこにあるはずのものは一方通行に不意打ちを仕掛け腕や足が外されたはずの無様な男たちの姿だが、それはこの場にはなかった。いや、忽然と消えたと言った方がいいだろう。

「どォなってン──」

 反射を切り、一先ず杖で鉱石を突いていた一方通行だったが、その目の前に新たな敵が出現する。

 突如現れたそれは、まるで何かのRPGゲームのボスとして出てくるような、モンスターと言える存在だった。

 目の前にそびえ立つ巨大な斧を振り被る獣人を見つめながら、一方通行はため息をつきながら言い放った。


 一言、「めンどくせェ」と。


 直後に

 圧倒的な力の暴力があった。





 さらに同時刻。

 垣根帝督──正確には、垣根帝督の「優しさ」が表面化した個体であるカブトムシ05は同じように、しかし他の面子よりかは十分に生温い方法で襲いかかってきた連中を撃退していた。──まぁそれすらも、撃退された面々にとっては十分、トラウマものだっただろうが。

「にゃあ?カブトムシさん、どうしたの?」

 彼らを撃退した路地裏から陽の当たる歩道へ出る。そのまま少し歩き図書館へと戻るとどうやらお手洗いに行っていたらしく、友達との席を外していたフレメア=セイヴェルンがこちらに気づき、寄ってきた。

 その顔に少しの不安があることを察知し、カブトムシ05──垣根帝督は笑顔でその不安を和らげることにした。

「いえいえ。なんでもありませんよ」
「そうなの?大丈夫?」
「はい。大丈夫ですよ。だからあなたも、早く友達のところへ戻ったほうがいいです」
「うん。分かった、にゃあ」

 そう言うとテコテコと級友のアズミという少女の元へと戻るフレメア。その背を見送って、垣根は再び外へと出た。

「まったく……図書館ごと駆動鎧で襲おうと準備していた時は流石に驚きましたよ……」

 しかしあのカマキリを模した駆動鎧、どこかで見たことがある気がするのだが──それは今はいいだろう。

 今思考を向けるべきは襲いかかってくる敵に。守るは、あの少女、自分やあの少女がいたいと思う平穏な日常。

 自ら生み出した自分の分身(カブトムシ)たちから入る情報を纏めながら、垣根帝督は歩いて行った。

 学園都市の持つ闇を、何の考えも無しに解体しようとする者たちの、魔手の中へ自ら。





「超すごいパーンチ」
「だからそれはやめプギャァァァァァァ!?」

 またまた同時刻。学園都市のどこかにある公園にて、他のレベル5と同じく削板軍覇も襲撃を受けていた。

 まぁそれは一方通行や垣根帝督を襲った連中とは何の関わりもない、モツ鍋さんもとい内臓殺しの横須賀にだったが。

「ち、ちくしょう……第六位のヤローの仕事中に偶然見つけて、ここであったが100年目って感じでやろうとしたのに……相変わらずの馬鹿だしこいつ」
「お、意識あんのか。やっぱお前根性あるよな」

 既にリベンジマッチは50を越えただろう。前は「すごいパーンチ」一発でビブルチされていた男が数ヶ月で十発まで耐えれるようになり、「超すごいパーンチ」一発で意識が沈んでいたのが数週間くらいで一発くらいなら意識を失わなくなったのは、大した成長といえよう。が、いくら意識があるとはいえ立ち上がれなければ意味がない。

「ほら、手ェ貸すぞ」
「虚しくなるからやめろよって毎回言ってんだろ……」

 口では悪態を付きながらも差し伸べられた手を握るモツ鍋さんもとい横須賀。昔の彼なら手を引っ叩いていただろうが、削板軍覇に殴られてから、彼も随分変わったということであろう。

「……で、これはどうするんだ?」

 ちなみに、削板vs横須賀のタイトルマッチだが、その前にひと騒動があったことを知るのは、もちろんこの2人だけで有る。

 確かにモツ鍋さん、もとい横須賀は削板軍覇に一回も勝てた試しはない。しかし彼も随分と修羅場をくぐってきたものである。あれくらいの連中なら素手で返り討ちにすることができた。

 無能力者は弱い。それは否定はできないが、彼のように努力をし成長する無能力者だって大勢いるのだ。

 それはさておき、目の前にゴロゴロと転がる鉱石を見ながら、横須賀は解いた。襲いかかってきたのを削板と一緒に撃滅したらこうなったのだが、これを一体どうするのかと。

 少し思慮してから削板軍覇は「ポン」と手を叩いた。嫌な予感がした横須賀だったが、それを何とか抑え込む。

「あんな根性ねえふやけたようなやつじゃなくて根性ある鉱石にするからよ。まず殴って形を」

 前言撤回。なんの危機感もないバカにツッコミを入れることとした横須賀であった。






 こうして歯車は回り始める。

 気づけば、誰も止めれないほどの速さになり

 ガタゴト、ガタゴトと……






第一二話「本物の地獄に住む狂乱者たち」完
 
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