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とある緋弾のソードアート・ライブ

作者:常盤赤色
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第一一話「超人を唸らすただの人間」

1,







 レベル5へと向けられたメッセージ。しかしその反応は全員が一貫し「何だこれ」というものであった。

「なンかまた面倒くせェことになってンな……」

 とある繁華街のファミレスでそのメールを見た第一位は舌打ちをし、

「…まぁ気にしとくに越したことはないでしょうか」

 真っ白な第二位は戸惑いながらも護るべき存在の少女のことを思い浮かべ、

「ってかこのメール。どこ発信よ。統括理事会?……一応調べてみようかしら」

 常盤台にいた第三位は念のためにと情報を集めるべくその日は朝から街へと出て、

「ったく。ま、来たら返り討ちにすりゃいいだけか」

 いつものファミレス(一方通行がいるところは出入り禁止となっているのでそことは別の場所である)にいた第四位はまったくそのメールを気にも止めず、

「ふーん。それにしてもこのメール、偽装力がプンプン感じられるのよねぇ☆」

 第三位と同じ常盤台にいた第五位は瞬時にそのメールが統括理事会の偽物からの物だと察し、

「…………」

 どこにいるかも分からない第六位は特に何の反応もせず街へと溶け込み、

「おもしれー。根性がある奴が来ることを期待するぜ」

 規格外の第七位は部外者の来訪に心躍らせてすらいた。

 仮にも彼らはレベル5。協力すれば一国などケロリとした顔で相手にできる化け物たちにとって、そのメールは「嘘ならそれでよし。もし本当なら迎撃すればいいだけのこと」程度の物だった。

 それに加え、皮肉にも「学園都市統括理事会」の名が彼らのメールに対する信用度を大きく下げていた。何せ、第一位はついこの前「統括理事会」の名前を使った偽物に騙され、まんまと1人の人間を殺しかけたばかりだし、そもそもレベル5のほとんどが、統括理事会を始めとする大人たちが、自分たちを実験動物のように見ていることを知っている。親船最中のような善意的な人物もいることは知っているが、だからと言って統括理事会そのものを信用できるわけがない。

 第二位と第三位は念には念を入れ事実を調べるつもりのようだが、他のレベル5にはそんな気も起きなかった。彼らにとってのこのメールはその程度のものということである。





 話を戻そう。場面は上条当麻、五河士道、桐ヶ谷和人たちの会合と武偵校のメンバーが依頼を受注した翌日へと移る。

 11月4日。9時32分。学園都市第二十三学区。学園都市在住の学生にも内部構造が分かっておらず空軍などの兵器製造施設としても有名なその場所で、自身の5倍もありそうな高いカーボンの壁を見上げながら遠山キンジはある場所へと向かっていた。

 キンジだけではない。神崎アリア、星枷白雪、峰理子、レキといったバスカービルのメンバーも共にいる。平賀文、中空知美咲は現在アリアがチェックインしたホテルの3室の中の1つで待機しており、ジャンヌ・ダルク30世、エル・ワトソンは戦闘に不向きな彼女たちの安全を確保するため残っている。武藤と不知火は事情があって、現在は学園都市を脱出し武偵校へと帰還していた。

 キンジたちがこの壁の向こう側にある物に用があるのは、もちろん学園都市におけるレベル5+αの「保護」に関係することである。

 デウス・エクス・マキナ・インダストリー。それぞれの頭文字を取り、通称DEM社と呼ばれる大企業の学園都市研究技術局が、ここに建てられている。キンジたちはこの中に用があるのだ。

 DEM社は様々な分野を手掛けており、その中でも顕現装置(リアライザ)と呼ばれる「科学技術を持って「魔法」を再現する技術」においてはシェアの大半をこの会社が握っており、各国の軍部にも提供されているという話だ。

 そして、今回の依頼においてはヨーロッパ武偵連盟と共に依頼主として重要な意味を成しているのである。

 ヨーロッパ武偵連盟とDEM社から東京武偵校へとされた依頼。

 その依頼の詳細な説明をDEM社が学園都市の支部にて行うので、依頼を受注したそれぞれの代表者がここに集まってということである。

 相手は学園都市。国家規模の力を持つ都市である。そのため外部よりいくつかの組織が依頼を受注したとキンジたちは聞いていた。

 守衛門にて頭と体にゴテゴテのアーマーを着た守衛に近づいていく。警戒したような雰囲気を醸し出していた守衛だったが、すぐさまアリアが昨日のうちに武偵手帳とここに来た旨を伝えると、守衛は警戒を解いてくれた。

「なーんかすっごい物つけてるけど、なんなのそれ?」

 彼らが頭につけているラグビーボールのような機械が気になったのか、理子がまじまじと見る。頭頂部と目を完全に隠したその機械は、学園都市に住んでいないキンジたちにとって、もちろん異様なものだった。こんなのが街にいれば目立つのは間違いないだろう。

「悪いね。企業秘密だ」
「えー。ケチー」

 つっけんどんに答えた守衛に対し口を尖がらせる理子。彼らにも「守秘義務」というものがあると考えればあたりまえの反応だが、理子は気に入らなかったらしい。

「ま、いいや。その……エレンさんだっけ?に聞けばいいし」

 理子が名前を口にしたのと、その名前の人物がアリアたちの目の前に現れたのは、単なる偶然なのだろう。

 ノルディックブロンドの長髪にスーツを着こなした「大人の女性」を絵に描いたような女性は周りにいた守衛が目にした瞬間、起立の姿勢になったことから、恐らく相当この企業においては重要な地位についている人物なのであろう。

 キビキビとした態度でキンジたちに礼をした後、その女性は自身の存在を明かした。

「遠山金次さん、神崎・ホームズ・アリアさん、星枷白雪さん、峰・理子・リュパン4世さん、レキさんですね。初めまして。私はデウス・エクス・マキナ・インダストリーの社業務執行取締役アイザック・ウェストコットの秘書を務めております、エレン・M・メイザースと申します」
「そう……あなたがD()E()M()()()()()()()()のエレン・M・メイザースさんね」
「はい。私が()()()()の魔術師、エレン・M・メイザースです」

 態度を崩さずに堂々と自分を「世界最強」と言ったその女性の絶対的な自信に、キンジたちは少し呆れ、守衛たちは脱帽するのであった。

 ──彼らは知らない。目の前の女性がビート板がなければ25メートルをろくに泳げない上、これが人類の限界なのだと明後日の方向に思い込むような人物であることを……。





 エレン・M・メイザースに連れられ、会議室のような一室に通されたキンジが驚いたのは、単純にいるとは思わなかった身内がいたからである。

「お、兄貴じゃねーか。なんだ。兄貴も参加してたのかよ」
「あ、おにーちゃん。久しぶりー」

 そこに座っていた遺伝子学上の自分の弟と自分に抱きついてきた妹を見つけ驚きを露わにしたのは、キンジだけではなかった。

「おまっ……ジーサード!?」

 ジーサードとジーフォース。──和名は遠山金三(きんぞう)と遠山金女(かなめ)。アメリカ政府の機関ロスアラモス・エリートにより生み出された「人工天才(ジニオン)」にして、キンジの父・遠山金叉の遺伝子を50パーセント受け継いでいる、キンジの遺伝子的な弟と妹である。

 しかし、彼はここにいてはいけない人物のはずだ。

「あんた……ついこの前、胸に穴が空いたって聞いたけど」
「あ?ああ。もう元通りだよ。ほれ」

 キンジが驚いていて酸素が足りない金魚のように口をパクパク一番の理由は、ジーサードがつい先日、猴の如意棒という名のレーザーによって胸に穴を開けられたことが大きい。まだこんなに動ける体ではないはずなのだ。ジーサードは。

 ジーサード自身が指で指してきた場所を見て、確かに傷口が塞がっていることに気づき、心配したこちらが馬鹿だったような、しかし弟の無事に安心したような、複雑な気持ちに陥る。

 そして、見知った顔がもう一人。

「………………カナ」
「久しぶり、キンジ」

 何故、彼──いや、今は彼女だが──がここにいるのか。十中八九キンジたちと同じ理由だろうが、それ以外にも聞きたいことはキンジには山ほどあった。

「カナも俺も……兄貴と同じ理由だよ。ここに来たのは」
「……どうやらそうみたいだな」

 なんにせよ……奇妙な形でまた、遠山兄弟が全員、集まることになったのには変わりないだろう。

 それぞれが、お互い微妙な心境なのか話を切り出せないまま──もう一度現れたエレンに促され、各々が席に着くこととなった。





 その後、エレンが部屋に連れてきた短髪白髪の少女を交え、エレンが代表として今回の依頼の説明を始めた。

「まず今回の依頼を受けていただき、社長に変わりお礼を申し上げます」
「いいよいいよ。そんなもん」

 机の上に足を乗っけるという、失礼極まりない態度で返すジーサード。

「無駄は省いてよ……本題に入ろうぜ」
「分かりました」

 あくまで機械的にジーサードに対処するエレンに「大人の余裕」を感じながら、依頼の本質に集中する。

 ──キンジたちは知らない。ここにいる女性が「大人の余裕」どころか、好物を馬鹿にされたという理由で部下に恐ろしい制裁を与える、子供っぽい人物であることを……。

「今回の依頼についての詳細の内容についての、資料をお渡しします。今回この場におられない方々の分も、申請していただければご用意できます」

 そう言うエレンの声と同期するように、20枚ほどのコピー用紙の束を渡し始めたのは短髪白髪の少女だった。

 彼女もDEM社の職員らしい。おとなしい感じの少女に見えるがまるで鋭い刃を隠しているような、心情が読めない雰囲気はなんとなくレキに似ている気がした。目付きや雰囲気から単なる表の人物とは思えない彼女も、エレンが率いるというDEM社第二執行部の魔術師なのであろう。

「……なんでしょうか」
「ん、いや。なんでもない」

 どうやら視線に気づかれたらしく、自分に目を向けてきた少女に手を振るキンジ。右と左の両方から相当な目力で睨まれた気がするのは気のせいではないだろう。

「……では、まずは各能力者の詳細な説明から……」
「おっと待った」

 始まろうとしていたエレンによる学園都市のレベル5についての説明。今回、それぞれ依頼を受けた武偵校、ジーサードリーグ、カナの代表者がここに集まっていたのは、依頼における「保護」の中に名前が入っている8人の人物の説明及び担当するレベル5を決めるためである。そのため、キンジたちが受け取った簡素な資料では詳細が伝わらないため、ヨーロッパ武偵連盟と同じ依頼主となっているDEM社の学園都市支部に足を運んだのである。

 それを止めたのは、資料の数ページ目の部分を開いていたジーサードであった。

「この第七位……削板軍覇っていうのは俺に任せてくれねぇか」

 ジーサードが示すページ。そこには学園都市第七位のレベル5、『ナンバーセブン』削板軍覇の顔が写っていた。

「……対処する能力者への作戦等は後々立てるつもりですが……別にいいですけれども、どうしてなのですか?」
「なに、こいつとはちょっとした因縁があってよ」

 飄々と話すジーサードだが、キンジは、彼の目が生き生きとしていることに気づく。ジーサードが相対するのを楽しみにしていることがまじまじと分かる反応だった。ジーサードをそれほどまでに反応させる相手ということになる。となると因縁という言葉が気になるが──。

「なんだよ。因縁って」
「なーに。兄貴が知るようなことじゃねーよ」

 やはりはぐらかされた。まあこの男のことだから「以前闘った因縁」とか「闘ってみたい相手」とかそんなところなんであろう。

「分かりました。では、これより学園都市の超能力者、レベル5についての説明に移させていただきます。まずはお手元の資料の──」







3,







「──本当に無茶苦茶ね」

 レベル5の個々の能力。それを聞いた一同の感想を代弁するかのようにアリアが呟いた。

「物理法則を曲げちゃうのが最低でも2人。10億ボルトの電流を操るのが人が1人。装甲を貫く破壊兵器をバンバン撃っちゃう人が1人。原理不明の能力を操るのが2人……。こりゃーいくらなんでも詰んでない?こっちはキーくんやカナがいるとはいえ」

 物理法則を曲げるだなんてのがいるだけでも、キンジたちの予測を超えている。

 確かに相手はただの人間だ。今まで通り殴れば血も出るだろうし、銃で撃たれたら血だって出るはずだ。

 が、そこまでのプロセスが難しすぎる。『一方通行』の能力者などはあらゆる攻撃、あらゆる自身の運動を能力でどうこうしてきたからか打たれ弱いことが指摘されたが、そこまで辿り着く方法が不明だ。資料には、これまで彼らと闘った者たちが対処した方法も記されていたが、ぶっちゃけキンジに使えそうな方法はないに等しい。

 レベル5。キンジはこの者たちとどう相対するかで、この依頼の成功か失敗かが決まると思っていた。

「あ、私から一ついい?」

 思考の渦の中で、金女の声が聞こえた。どうやらエレンのうなづきという承諾を得た彼女は、その口からキンジの思考の中から消えていた「とある名」を出す。

「カミジョウトウマって……あのカミジョウトウマ?」

 上条当麻。レベル5以外で唯一の保護対象者。未だにエレンの口から説明がされておらず、ヨーロッパ武偵連盟が「一番の重要人物」としていた少年。

「あのって……有名人かなんかなのかそいつ」

 ここでキンジは真っ当な疑問をしたはずだった……が、周りの反応(バスカービルのメンバー以外)から、この質問が場違いな物だったということに気づいた。

「おいおい知らねえとは言わせねぇぞ兄貴」

 きょとんとした顔をしているキンジに呆れるジーサード。どうやらそれほどのビックネームだということには気づいたが、キンジにはそのような名前など聞き覚えがない。

「マジかよ……。カミジョウトウマっていや第三次世界大戦にグレムリンの一件の中心人物だぞ」
「はぁ?」

 ジーサードが言い出した言葉に素っ頓狂な声を出してしまうキンジ。第三次世界大戦、グレムリンの一件。どれもここ最近で起こった、歴史に名の残るような大事件である。それくらいはニュースで聞いたり映像を見たことがあるが、それの中心人物だと言うのだろうか。このツンツン髪の少年が?

「………………あっ」

 困惑するキンジに続いて素っ頓狂な声を上げたのはアリアだった。

「思い出した……!どこかで聞いたことがあると思ったんだけど……英国でのブリテン・ザ・ハロウィンにも関わってたんじゃ」

 ブリテン・ザ・ハロウィン。アリアの故郷イギリスで起こった第二王女キャーリサと英国の三派閥の内の一つ騎士派によるクーデター事件。ちょうど、キンジたちがジーサードの一件でゴタゴタしていた頃の出来事で、これも後世の歴史に名を残しそうな大事件である。

「その通りよ」

 その答えを言ったのは沈黙を貫いていたはずのカナであった。一同の視線がカナに移る。

「そこに載っている「絶対能力進化」計画を、学園都市最強の能力者「一方通行」と相対して敗北させることで頓挫させたのも彼。ブリテン・ザ・ハロウィンにおいて王室派や清教派と場の収集に尽力したのも彼。第三次世界大戦の裏で動いていた黒幕に突っ込んで行ったのも、グレムリンの一件に深く関わり、そして六十億人を相手にして魔神オティヌスの罪を全うに清算させるために闘ったのも彼よ」
「あー!!」

 ここまで来て叫んだのは理子だ。例の「上条当麻」の写真を見ながら、奇声を発している。

「そういやこの子、確かデンマークの一件に映っていた、ツンツン髪の少年じゃん!」

 そして聞き逃せない一言を発した。

 反射的に資料の中の彼の写真を見やるキンジ。確かに、その出で立ちはあのデンマークにて魔神という1人の六十億人に押しつぶされそうになっている少女の自殺を叱咤し、救おうとした者の姿と似ていた。

「ほんとだ……なんで気づかなかったんだろう……」
「……」

 白雪やレキもそのことに気づいたらしく、絶句しているのがよく分かる。

「こいつ……そんなに凄い力を持った能力者なのか?」
「「幻想殺し」って言ってな」

 キンジが漏らした一言を拾い上げるジーサード。視線は再びジーサードへと集まる。

「どうやら、右手のひらに触れたあらゆる異能の力を打ち消す能力を持つらしい。超能力も、超能力(ステルス)も、魔術も、顕現装置によって再現された魔法も。俺を貫いたあのレーザービームすらもかき消せるんじゃねぇか?」
「猴の如意棒を……!?」

 キンジは絶句する。つい先日見たばかりの光速の一閃。あれは間違いなく必殺の一撃で、キンジにはまだ攻略法すら見えていないのだ。それを右手が触れるだけで防ぐことができるとは……。

 しかしキンジは、まだ上条当麻という人物を完全には理解できていなかった。

「けど……そいつが打ち消せるのは異能の力だけなんだろ?あいつ自身は特に戦闘訓練もしていないって言うじゃないか。だったら俺やジーサードが当たれば簡単じゃないのか?」

 資料から見れば、彼はキンジたちのような荒事に日々まみれた武偵ではない。銃の使い方も知らないだろうし、素での戦闘能力は素人に違いない。

 それにジーサードは「ハハッ」と薄い笑いを浮かべる。

「……あいつがただ右手に変な能力を持ってるだけの存在なら、あるいは今の世界は随分と違ったんだろうな」
「は?」

 今の世界は随分と違う?どういうことだ?この少年は銅像が立つようなことをなんども

「他に数点、彼には突飛つすべき点があるわ。その異常なまでの「打たれ強さ」……ただの一般人が風速120メートルの暴風に吹き飛ばされ、風力発電の支柱に激突して、立ち上がれると思う?」
「「「「…………」」」」

 今度こそ、本当に絶句した。

 スケールがでかすぎて完全には理解できないが、それでも自分がヒステリアスモードになってようやく抜け出せるような危機にその少年は遭い、それに遭いながら立ち上がったということになる。もちろんキンジだってそんな激突の仕方をすれば立ち上がれまい。それ以前に死んでもおかしくない重症になるのは間違いない。

「更に……彼は人の心を解きほぐすのを得意としているのよ」
「猜疑心、復讐、諦め……今まで、そいつは様々な敵と闘ったらしいが……その多くが何かがねじれて暴走してる連中だったらしい」
「……」

 自分とは正反対だな。とキンジは思った。キンジの場合立ち向かってくる敵は、何かが狂っているわけでもなく、ただ単純に闘うためにくる連中ばかりだ。おそらく、自分が今まで乗り越えてきたものとはまったく別種の方法が必要となってくるのだろう。

「彼の一番の力はそのねじれを解くことにあるのよ。一つ一つ、慎重に強敵の心の中の憎悪を解いていく。だからかしら……彼を損得ではなく感情で助けようとする人間は多い」
「上条勢力って言ってな」

 「勢力」だなんて大仰な言葉を一笑に付すことは、すでにバスカービルの面々にはできなくなっていた。

「学園都市のレベル5、必要悪の教会、魔神……ウチの大統領も面識あるっていうから相当なもんだろ」
「……大統領……アメリカのロベルト・カッツェ大統領のことですか」

 そういえばジーサードは何回か大統領のシークレットエージェントを勤めたこともあると聞いている。もしかしたら、個人的な繋がりというものを持っているのかもしれない。

「他にもイギリスの王室派とも利害の一致で協力関係になれるらしいから、どれだけめちゃくちゃな人物が分かるでしょ?」

 レベル5。今回の依頼に置いてこの存在が重要な位置を持つことには変わりはない。


 しかし、「上条当麻」という存在も、それと同等以上の位置を持つことを、キンジたちは理解した。


「まさか……俺以上に色々なことに巻き込まれている高校生がいるなんてな…世界は広いな。超人ランクもさぞかし高いと見た」
「あ、ちなみにあいつは「幻想殺し」と耐久力以外はいたって普通だし負けることも多いから超人ランクには名前はねぇからな。どっちかっていうと身体能力なら兄貴の方が化け物だぞ」
「……」

 黙るしかなかった。







4,







 大分寒くなったなと考えながら遠山キンジは学園都市を歩く。

 その後、依頼に関わる者同士、改めて自己紹介をし(といってもキンジにとっては身内ばかりだったので自己紹介と言えばエレンの部下であるという鳶一折紙という少女くらいだったが)、現在はホテルへと戻っていた。ジーサードやカナも、それぞれの潜伏先へと戻っている。

 とりあえずの動きは決定した。依頼の決行は今夜0時ジャストに行われることになっており、すでにキンジたちの装備は整えられている。いささか時間が足りなすぎる気もするが、学園都市の統括理事会が嗅ぎつけてくるかもしれないリスクが増えるとなると、迅速な行動をしなければなるまい。

 今回の依頼において協力態勢を取っている2つの組織。今回はそれぞれの組織両方による依頼となっているが、2つの組織が収集した受注した対象者や組織には違いがある。

 主にDEM社には個々の実力が高い者たちが集められた。キンジやジーサード、カナは言わずもがな超人ランクに名を連ねていたり、Sランクの武偵、DEM社が率いる第二執行部の精鋭などの個人で学園都市の能力者を相手取ることができるような者たちが集まった。

 対して、ヨーロッパ武偵連盟が収集したのは個の能力が高い者や組織ではなく、群として完成された組織らしい。資料によるとプライベーティアとかいうロシアの組織に所属していたものや、「脱落者(ドロップアウト)」とか言う学園都市内の組織がそれらしいが、資料に載っていた以上の詳しいことは知らない。

 ともかく作戦は動き始めた。キンジたちも、武偵校に向かった武藤や不知火たちが戻り次第、行動を開始する。

 ジーサードが率いるジーサードリーグが食蜂操祈と彼女が率いる能力者たち──派閥というらしい──と削板軍覇を担当する。第七位はもちろんジーサードが志願したのだが、第五位を彼らが相手にすることになったのは人間ではないのがジーサードの部下がいることと、彼らが有する先端科学兵器がよく刺さることが理由となっている。

 カナは個人での依頼の受注ということなので、相手にするのは御坂美琴1人だ。学園都市に匹敵する科学技術を持つ先端科学兵器やDEM社の顕現装置にはもちろん電気系統も存在しており、あらゆる電流を自在に操る能力者にとってそれらは悪手すぎる。そのため、カナが彼女を担当することとなったのだ。10億ボルトの電撃を放つというとてつもない相手だが、あのカナのことだ。心配は無用だろう。

 物理法則を無視できるという一方通行と垣根帝督。説明も理解もできない彼らに対抗するには、同じ説明も理解もできない力でなければならない。彼らを相手にするのは「精霊」という能力者以上の化け物と相対するだけの性能を誇る顕現装置を操る魔術師たちだ。知り合いですらない短すぎる付き合いだが、任せても安心できるはずだ。

 ──例え相手が、人体実験や科学兵器を生み出しているという、黒い噂の絶えない企業でも。

 そして、キンジたち武偵校の面々が相手にするのは麦野沈利、及び彼女がリーダーを務めるという「アイテム」という小さな組織だ。レベル4が2人。その内の1人はどうやら第一位の演算力を植え付けるという内容の研究の被験者らしく、防御力の一点のみなら第一位にすら匹敵するという話だ。残りの1人は無能力者だが、こっちは手先が器用で車の鍵開けや爆弾の解体などはお手の物、更には学園都市の科学技術で作られた様々な兵器を使いこなすことも可能らしい。単体での戦闘力も「そこらのスポーツ選手と同じことをやっていた」らしく、麦野沈利ほどの実力者ではないとはいえ油断はできないだろう。

 そして正体不明の第六位。彼──もしくは彼女──を探すには物量による情報収集が物を言うという話なので、ヨーロッパ武偵連盟が依頼している組織たちが、スキルアウトや風紀委員、警備員と共に対処するという話だ。

「学園都市のレベル5はほとんどが人格破綻者との話です。統括理事会が我々のことを察しているとなると、戦闘になるのは必須でしょう」

 エレンが言っている通りとは思わないが、話し合いでどうこうできる相手かは会ってみなければ分からない。しかし、もし昨日の襲撃が彼らによるものなら、戦闘は避けられないだろう。

「うーん…………」

 そんなことを思案していたキンジの横で唸っているのはアリアだ。キンジはそれに気づかなかったが彼女の眉間にはシワがよっており、エレンから渡された資料のあるページに視線を集中していた。

「……どうしたんですか?アリアさん」

 いち早くアリアの表情に気づいたのはレキ黙った。なんだかんだでこの面子の中で2人の付き合いはかなり長い。コンビを組んだことも多いし、お互いの微細な表情の変化くらいはすでに読み取ることはできるくらいの関係になっている。

「──この顔、どっかで聞いたことがあるのよね」
「…顔?」

 アリアが指差す資料に書いてある、ある人物の名前を覗き見るレキ。

 主に学園都市の組織だという「脱落者」についての情報が載せられたそこには、こう書いてあった。

 「脱落者」メンバーの6人の内の1人。白髪の30代くらいの男性だが、はっきり言って目がイっている。どっからどう見ても危険人物だが、隣の醜悪な老人の写真が作用しその見た目の危険度は薄れている感じがする。

「どこだったかしら……」

 アリアは結局辿り着けなかった。

 もしもここで気付いていれば、この依頼が前提から覆るようなことにも限らず。


 ──コードネーム「アルベリヒ」。


 かつての、ある人物の宿敵がそこには載っていた。







第一一話「超人を唸らすただの人間」 完
 
 

 
後書き
2015年 3月 22日
境界線上のホライゾンとストライク・ザ・ブラッドのアニメ視聴中の常盤赤色 
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