とある緋弾のソードアート・ライブ
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第一三話「元暗部の奴ら」
1,
上条当麻を狙う謎の組織の動きを察知したのは、何もアレイスター・クロウリーやイギリス清教だけではなかった。
現実の世界「現世」とは時も場所も理論も乖離した場所がある。これは過程ではなく真実の話だ。現に、そこ「隠世」にはとある存在達が現実の世界で起こり始めている出来事を静観していた。
魔神。
人の身にして魔術を究めた末に、神の領域まで到達した者たち。禁書目録の10万3千冊の魔導書を全て正しく活用し、ようやく行き着くことができる、世界すら自由に歪め、世界すら受け付けない存在。
オティヌスを除いた様々なあらゆる宗教のあらゆる魔神たちで構成された真・グレムリンと呼べる存在。ゾンビの理論である「鏡合わせの理論」でレベル無限・残機1からレベル999999999999999999……・残機無限とすることでとりあえず「現世」に乗り込んめる状態となり、遂に行動を起こし始めた彼らは現在──とある場所に閉じ込められていた。
無論彼らは魔神。そもそも「戦う」という思考を必要としない、その力を考え無しに振るうだけで世界を自由に歪めることのできる存在だ。本来なら彼らを封じ込めることができる存在などいないはずなのである。
彼らが住む、「とある魔術の禁書目録」の世界には。
「厄介じゃのう」
しわがれた老人の声が響いた。杖と紫の法衣を装備したその老人を一言で表すなら、なんと言っても「木乃伊」だろう。
網目のように刻ませた多くの皺、焦げ茶色の肌、死体というか水分を完全に失ったその姿はまさしく木乃伊と呼ぶに相応しいものだった。
「まったくだよねー。あーもうやになっちゃう」
僧正と呼ばれるその魔神に答えたのは、娘々と呼ばれる魔神だった。
これまでかというほど青白い肌、丈の短い白いチャイナドレス、満州民族の帽子を被り額に「符」を貼った姿は、どちらかというとチョンシーを彷彿させるものだが、この少女の正体は尸解仙と呼ばれる不老不死の仙人である。
「『ソラリス』のやつ……私等が邪魔だからと言ってあの場面で無理矢理介入してくるか?」
「彼のことだから、より確実に事を進めるために私達の弱体化を見事についてきたというところでしょうね。その上、時空軸の歪みでアレイスターは私達にやられた大火傷の修復中まで逆戻り。見事に私達とアレイスター両方を封じ込めることになったわけね」
そしてもう一人。ネフテュスというその魔神はチョコレート色の褐色肌を包帯で覆っている銀髪の美女である。オッドアイの瞳を持っているが、その瞳の色は気まぐれにコロコロと変わっていた。
ゾンビの理論で「現世」に現れた魔神たち。その理論を組み立てたゾンビがすでに撃退され、激昂して襲いかかって返り討ちになったと思っていたアレイスターが実は自分たちのステータスさえ持ち帰れば良かったとあの時の相対の本当の目的を知った彼らは、アレイスターに埋め込まれた術式で弱体化を余儀なくされていた。本当ならこの程度のもの──異界の技術なので苦戦はするだろうが──脱出するのは容易にできるだろう。が、今の彼らには無理である。
隔離された彼らは自らが大切にしていた上条当麻の動向を、今や静観するしか無くなっていた。
「ゾンビも行方不明だし。ほっんとに無限の退屈ってのも死にたくなるよねー」
伸びをして退屈さをアピールする娘々。彼らは長きに渡り「隠世」にいたが、この空間はそれ以上に何もできないし、何もない。僧正もネフテュスも退屈も過ぎると死にたくなるというのには同意できた。最も、彼らは死ぬことなどできないが。
僧正「…………で、お主は一体何をしに来たのじゃ?」
そして真っ先にそいつについて指摘したのは僧正だった。もちろんネフテュスや娘々も気づいていたことだが、わざわざ一番最初に口に出した辺り、僧正が「未だに悟りが開けない」と娘々に馬鹿にされるのも仕方ないだろう。ついさっきもアレイスターを散々小馬鹿にして煽った挙句のあの展開である。小物臭がしても仕方なかった。
「あらあら。気付いていらっしゃったのですね?」
そして、それはそんな僧正の呼びかけに応えた。
闇という言葉で表されないような漆黒の中から現れた彼女を見て、僧正たちは眉をピクリと動かした。
少女は美しかった。黒髪を左右非対称のツインテールにし、赤と黒を基調としたゴスロリのようなドレスを着た少女のオッドアイの左目は金色の時計の文字盤となっていた。
ドレスと良く似た日傘を持ちながら優雅に現れた少女は、まるで淑女のようなお辞儀をし、同じ人外でありながら自分たちのスペックを大きく超えた存在である魔神たちに挨拶した。
少女の名前は時崎狂三。「最悪の精霊」と呼ばれる、五河士道がデートしながらも唯一力の封印を未だに逃している精霊。
まるで「対等の存在」のように挨拶してくる狂三に対し、娘々は唾と共に吐き捨てる。
「舐められたねー。いくら弱体化したからといってもあんたら「精霊」みたいな陳腐な存在に遅れをとるのは流石にないって。自分で過去も変えられないように存在にさ」
「うふふ。それは今は受け流しておきますわ。お互いこの場での闘争は避けたいでしょう?」
アレイスターを散々煽ってあの仕打ちを受けておきながら、まだ煽るとは成長しない連中だな、と狂三が思ったのも真実だ。まぁ、彼らは魔神というすでに完成された存在である。もう成長する必要がないそんな存在に成長意欲なんてあるわけがないだろうが。
「それに、ここから出られないあなた方と違い、私はここを自由に行き来できますのよ」
とは言え、痛いところを突かれ少しムカッとしたことも真実だ。だから少し煽り返してみる。
本来ならこの時点で彼女の存在はこの世界から消されていただろう。しかし弱体化した上に閉じ込められた無力な魔神など、今の狂三にとっては恐るるに足らない存在──は流石に慢心しすぎであるが、それでも1対1なら倒せなくもない相手であった。
現に、煽っておきながら手を出してこないことからいくら慢心が服を着ているような存在とはいえ相手方がそれくらいは考えるほど追い込まれているということは分かった。
「…………で、結局あなたは何をしに?」
無視することはできないと判断し、ため息を吐いてのちに本題に入ってきたネフテュスに対して、狂三は静かに告げた。
「少し……教えて欲しい事がありますの」
「ほほう。なるほどな。さて、なんのことかな」
ケタケタと笑いながら応えた僧正。彼が笑うとどこぞのホラー映画より怖い図となるが、別にそんなことで怖がるような人物はここにはいない。
狂三はそんなくだらないを考えながら──そんなくだらないを考えるほど余裕がある自分に驚きながら──本質を口にした。
「決まってますの」
「今回の騒動の元凶……『ソラリス』と呼ばれる彼の正体と目的。その彼とあなた方、そして『ファントム』の関係性ですわ」
2,
起きたら全てが終わっていた。
言葉の通りである。自分が動けなかったり寝たりしていたら、いつのまにか全て終わっていた。具体例を述べるなら常盤台の生徒がクリスマスイヴに寮から抜け出そうとしたら寮監先生から首をコキャッとされ失神し、起きた時にはクリスマスが終わっていたという感じだろうか。
そして、自分ほどこの言葉が似合う奴はいないだろうと少年は思っていた。
少年は学園都市の暗部に潜む小組織のメンバーだった。「メンバー」。小さな組織の上、同じ所属員同士の仲は決して良好と言えなかった。それに加え学園都市の上層部からの圧力や制御もあった。それでも、それなりに充実した日常を生きていたのだ。BLAUとの出会いなども今となってはいい思い出。彼とは数回限りの顔合わせだったが、表の人間の中では少年がとてつもない好印象どころか尊敬の眼差しをも持てた数少ない人物の一人だ。そういえばあの時共にBLAUと会ったスキンヘッドとハリ頭は元気にしてるだろうか。
閑話休題。そんな感じで平和とは言えなかったが、それなりに楽しみを見出すこともできる毎日を生きていたのだ。
あの、10月9日の暗部の抗争が起こるまでは。
あの日、衛星の地上アンテナ破壊を行うために第二三学区に訪れた一方通行を足止めする役割を「メンバー」のリーダーである「博士」から頼まれた彼は一方通行と相対した。
相手の弱点は調べ、どうすれば自分の能力でそこを付けるのかも知っていた。
負けるつもりは無かった。
しかし、冷たい地面へと倒れ動かなくなったのは自分の方であった。
彼はあの日、暗部の抗争において「敗北者」となったのである。
結局、一方通行が手加減したのか、無意識に自分の能力──相対した時一方通行が命名していたが、「死角移動」とでも言うべきか──が発動したのかは知らないが、彼はとりあえず生存し病院へと担ぎ込まれることとなった。
そこから彼は完全にこの街の流れから置き去りにされることになる。
起き上がった時に1番最初に目に入ったのが病院の白い天井だけならどれだけ良かったか。ドレス姿の少女。自分たちと同じ暗部の組織であの日敵対していた「スクール」の一員がそこにいた時は自分は「メンバー」から「スクール」に身売りされたのではないのかと思った。「博士」やあの魔術師とか呼ばれていた少女なら敗北した自分に興味すら持たないでほったらかしにするだろうが、馬場の奴なら他の暗部組織に追い詰められたら自分以外の構成員の身などそれこそ簡単に売るだろう。起き上がっていきなり覚悟を決めることとなった自分の身を怨んだものだ。
が、ドレス姿の少女からもたらされた情報は自分以外の「メンバー」の構成員がいなくなったという、実質の「メンバー」壊滅というものだった。
「博士」は垣根帝督と相対し敗北、死亡。魔術師と呼ばれた少女は「グループ」と相対し敗北、その後の動向は不明。馬場は彼が「避暑地」と呼んでいたシェルターに閉じ込められたのち、行方不明になったという。あの男のことだ。「閉じ込められた」という事実の前に向こう一年は生きていける装備があることを忘れパニックになり、最悪自殺していても不思議ではない。まあ自分が同じ状況に陥ればパニクらないのかと聞かれれば何も言えないが。
そうして壊滅した他の組織「アイテム」「スクール」「ブロック」の残党勢力が統合された新勢力に所属することとなった少年。まだ重症だったのですぐさま合流というわけにはいかなかったが、また暗部での地獄のようなくそったれな日常が始まるのかと思っていた。
ところがいざ動けるようになった矢先に暗部は解体。
噂によれば一方通行のやつが学園都市との何らかの交渉をしたとのことだったが、詳しいことは知らないまま少年は暗部という闇から無理矢理解放された。
本当に、何もかもが病院のベッドで寝てる間に終わってしまったのだ。
自分の近況を振り返って、少年──査楽はため息を自然についてしまっていた。
学園都市のとある公園。午前10時を過ぎた公園は近隣の住人の憩いの場と機能し始めおり、そんな優しい雰囲気が広がる公園のベンチに腰を落とした査楽。1人で公園のベンチに寂しく座るなど悲しいにもほどがあるが、どちらかというと今の彼にはそっちの方が断然よかった。
「あら。ため息なんかついてどうしたの?」
横からかけられた声に反応し、あなたのせいでもあるんですよ。と言う言葉をグッと飲み混んで査楽は顔を上げた。
本来、こんな美少女が隣に座っているなど余程のご褒美に違いない筈だ。だが、それは普通ならともかく、この少女だけには当てはまらないものだった。
「心理定規」。自身の能力をそう名乗ったドレス姿の少女とは、今や何だかんだで腐れ縁となってしまっていた。
彼らが所属した組織は、ほとんどのメンバーが死亡、もしくは行方不明となっている。シュチトルと砂皿緻密はとりあえずの生存が確認されているが、どちらも新規メンバーだったり雇われだったりと組織内での付き合いはない状態だ。
そのあと再編成された新暗部組織も、名前をつけるより前にほどなく解体。その構成員たちも絹旗最愛は元所属していた組織「アイテム」が新生したとのことでそちらに行き、学園都市に対する反逆行為によって廃棄されるか暗部によって使い潰されるかの瀬戸際だった手塩恵未は生き残り、表の顔である警備員に専念。他の暗部の組織も1人を覗き新生した「アイテム」、1人も脱落者を出さなかった「グループ」しか原型を止めておけなかった為、心理定規と査楽は宙ぶらりんな状態になってしまったである。
査楽にしてみれば元々同じ暗部の小組織で、敵対すらした組織の構成員となんで行動を共にしなければならないのか、と思っていたが相手がしつこく(恐らくはこちらの反応を面白がってだと思う)こちらに接してくるので、いつのまにかどうでもよくなっていた。
「別になんでもないですよ……そういうあなたは先ほどから携帯をいじくって何か読んでいるみたいですが、何を読んでいるのですか?」
こっちも見ずに「どうした?」と携帯電話をいじくりながら言われてもまったく嬉しくないと査楽は思いながら、心理定規が先ほどから見てる携帯の画面を覗き見る。どうやら何かのサイトらしいことは分かることが、見たことのないものだった。
「ああこれ?都市伝説とか噂話を集めるフォーラムよ。ここのサテンドレスって人の流す情報を面白いから、ちょっとチェックしてるのよ」
こちらに画面を見せてくる心理定規。サテンドレス、と聞くとこの少女のドレス友達か何かとかどうでもことを考えたが、どうやらこのSNSだけの付き合いらしい。見てみると様々な都市伝説の噂話が次々に書き込まれていた。
「……『異世界を繋いだ地下トンネルの話』『消えた脱ぎ女』『怪奇!首から上がない首無しライダー』『学園都市の夜空に響く「とおりゃんせ」の謎』『路地裏を救う救世主カブトムシさん』『怪異!学園都市を彷徨く吸血の能力者』……なんですかこれ」
「そこらへんは今、旬の話題ね。地下トンネルと首なしライダーは少し前の話だけど」
バカバカしい。と査楽は素直に本音を吐いた。このような都市伝説は、あくまで人の口で作られた噂話に過ぎない。大抵こんなものにここで語られるような夢いっぱい希望いっぱいの真実などなく、その柱となっているのはドライで冷たい現実なのだ。
その反応にムッとしたのか心理定規はとっておきを取り出した。
「ちなみに、今一番の旬がこれ。『能力を消す能力を持つ男?上条当麻』についてね」
「上条当麻……?」
聞いたことがある名前の気がした査楽はその名前を聞いた場所を記憶の中から引っ張り出そうとし──そして思い出した。
「ああ。『夜の街を駆け巡り、握った拳で並み居る猛者をなぎ払い、気にいった女は老いも若きも丸ごとかっさらって、草の根一本残さない』。学園都市最強の能力者を倒したというあの上条当麻ですか」
そういえば路地裏でそんな話を聞いたことがある。ある時は学園都市最強の第一位をねじ伏せ、ある時は学園都市第三位の能力者の強気な態度を崩し自らに惚れさせ、ある時は暴れていたスキルアウトを拳一つで壊滅させ……ともはや路地裏の噂話では噂に噂が重なり神話にすら達している「上条当麻」の都市伝説。どこまでが本当かは分からないが、少なくともあの第一位が敗れた相手らしいということは真実と言われている。
「超能力者を倒した無能力者といえばもう一人、第四位が2度も敗れた元スキルアウトのリーダーとかも有名だけど、こっちは別格なのよね」
ちなみに、実は心理定規は第四位を破ったのが誰だか知っている。
あの時ボロボロになっていた滝壺利后を守るために戻ってきた無能力者。その後新生「アイテム」の正規要員となったという彼が恐らくその噂の人物だろう。殺し合いをしたはずの麦野沈利とどうやって元の関係の修復どころかそれ以上の関係に成り上がったのかは知らないが、とんでもことをやってのけた男には違いなかった。
「まぁここに書いてあることの殆どが単なる噂話でしょうがね……しかし、実際に一方通行を破ったのは事実のようですね」
そこには『ブリテン・ザ・ハロウィンでイギリス皇室の第三王女を守った1人が上条当麻』『第三次世界大戦を終結させたのも上条当麻』『学園都市にヒーローたちが集まって暴れたのを止めたのも上条当麻』『グレムリンを倒したのも上条当麻』『デンマークの一件で、オティヌスを救おうとしたのも上条当麻』などと根も葉も無さそうなことがつらづらと書かれていた。
馬鹿馬鹿しい。もし本当にそんな60億なり70億なり世界中の人を救える救世主のような人間がいたなら、あんな悲惨な暗部組織の衝突など起きなかっただろう。
それにそんな人間がいたのなら、そいつは「救えなかった、失われた全ての命に対する責任」を問われることにもなる。極論、「お前がいなかったからあいつが死んだ」「お前が救いに来てくれなかったからあいつが不幸になった」という暴論すら可能になるのだ。もし自分がそんな立場に立てば、メンタルなど砂上の楼閣のようにあっという間に崩れ去るだろう。
あくまでドライに上条当麻の噂話を判断する彼も、やはり元暗部の人間というところだろうか。
と、ここで見ていた携帯の画面が切り替わる。電話の受話器のマークが出たことから、どうやら誰からか連絡が掛かってきたらしい。画面を収納し、ボタンを押し通話に応じる心理定規。
「はいはーい」
『心理定規か。査楽のやつもそこにいるのか?』
わずかにだが聞こえてきた声は査楽にも聞き覚えがあるものだった。鈴を転がすようなこのような美声の持ち主に査楽は心当たりがある。
「あ。あなただったのね。えー名前は確か……」
『シルバークロース=アルファだ。いい加減覚えてくれ』
第三次世界大戦後に結成された組織「新入生」の一員として学園都市の上層部に一方通行・浜面仕上を「大きな一つの殺害対象」として認識させようと暗躍した1人。シルバークロース=アルファ。端正な顔立ちと長髪という非の打ち所がないイケメンながら、様々な駆動鎧の「コレクション」を使った「真正面からの力押し」を得意とする青年。
元々「新入生」は暗部解体の折に「解放ではなく暗部に留まることを望んだ者」たちが集まった組織だったが現在ではその新入生も解体され、その後も紆余曲折あり彼はこうして査楽&心理定規の腐れ縁の1人なってしまっていた。もちろん、本人の意思など関係なく。
「いますけど……何の用ですか?」
『なに。『脱落者』について頼まれていたものが出来たのでな』
自分の名前を呼ばれた査楽も会話に参加したところで、携帯にメールが着信したのを表すバイブの振動が伝わった。どうやら例のが届いたらしい。
携帯の通話をスピーカーに設定し、そのまま収納していた画面を出す心理定規。出てきた画面を操作しメール欄からそれを引っ張り出した。
「…………うん。頼んでいたものね。ありがとう」
『大変だったんだからな。いくらあのスキルアウトの忍者やくノ一の子が手伝ってくれたとはいえ、統括理事会が把握していないような連中だから、情報を手に入れるので手一杯だった』
「分かってるわ。このお礼は、いつか精神的に」
彼女が精神的になんて言うとそういうこと(実際にしたことがあると査楽は睨んでいる。本人は肯定してないが)だと思ってしまう。が、通話口のシルバークロースは詰まらなそうに『ま、期待はせんわ』と言い放った。この男、そのようなことに興味はないのだろうか。
──と、頭の中でそんなことを思うところ、ちゃんと査楽も思春期の男子であった。
『じゃ。こっちは黒夜と合流でき次第動く。あの忍者やくノ一もすでに動いているらしいから、何かあったらそっちに連絡を取るといい』
「オーケー。じゃ、今夜ね」
こうして通話を切り、心理定規は携帯をしまい込む。査楽の方も「やれやれ……」という感じでゆっくりと腰を上げた。
「まったく……」
自らの携帯を取り出し、メール欄を確認する。先ほどまでマナーモードにしていたからか気付かなかったが、自分の物にも先ほど心理定規に届いた物とまったく同じ内容のメールが届いているはずだ。
メール欄でそれを確認し、査楽は歩き出した。いつの間にか立ち上がっていた心理定規もそれに続いて、2人は公園から出た。
やはり自分たちにこのような明るすぎる場所は似合わないかもしれない。
そんなことを思う査楽。右手に歩いている少女が同じことを思っているかは分からないが、いつまでもあのような日が照る場所にはいられないような存在であることは確かであろう。
一方通行が「表」に慣れたように、彼らもある程度「表」でその存在が認められるように過ごしてきた。
しかし、自分はどう足掻いても日陰者という過去から逃れられないかもしれない。だが、それはそれでいい。
査楽は同時に、ある少年の顔を思い出していた。
馬場芳郎。
かつて同じ「メンバー」に所属した構成員の1人であり、今の今まで動向がはっきりとしていない、行方不明だった人物。
査楽の手には、今の彼のいる場所についての情報があるはずだ。
『脱落者』。
どういう組織か完全には知らない。それが学園都市のあらゆる抗争によって敗北した敗者たちの集まりであること、構成員が皆、学園都市に強烈な憎悪を持っていること、それさえ分かればいい。
博士というリーダーがいなくなった今、別に学園都市の為に動く必要などない。
だからこれは査楽や心理定規の個人的な意思や考えによるものだ。
「さて……行きますかね」
「面倒くさいけどね」
こうして、彼らは今一度「学園都市の暗部」へとを姿を消す。
この日、学園都市にいる全ての元暗部が動き出すことになる。ある者は己の野望のため。ある者は己が守る者を守り通すため。ある者は個人的な問題のため。ある者は死んだ仲間が最後までやり遂げようとしたことをやろうとするため。
そして──
3,
同時刻。
遠山キンジたちの元に間宮あかりたちが到着する。
そして同じタイミングでもたらされた情報により、彼らは準備もままならないまま事態を解決するために動き出すことになる。
同時刻。
学園都市の重要施設にて、ほぼ同時にテロが起こる。
その中には警備員本部や学び舎の園もあり、それらに対して警備員や風紀委員が鎮圧のため動き出すこととなる。
そして、学び舎の園にて集まっていた白井黒子、初春飾利、佐天涙子。常盤台の図書室にて集まっていた食蜂操祈をトップとする派閥もそれらに巻き込まれていく。
同時刻。
「……なぁ。いくら何でも遅くないか?」
「確かになぁ……」
電話で呼びつけた相手が、まさか近くのコンビニで顔合わせしただけではなく共闘して襲い掛かってきた化け物を相手に暴れているとは梅雨知らず、上条当麻と浜面仕上、そしてどうしても付いてくるといって聞かなかった滝壺利后はデパートの屋上にて柱に寄りかかって待ち人を今か今かと待っていた。
しかしそれにも限界がある。それを知らせるかのように上条の携帯に一通のメールが入った。インデックスからだ、
「……どうやらイギリス清教の連中が空港についたらしい…。俺もう戻らなきゃいけないかもな」
「だったらすぐ戻っとけよ。その……イギリス清教だっけ?そういう奴らに会わなきゃいかないんだろ?あいつらは俺たちが待ってるから」
フラクシナスの不思議技術を使えば、最悪ここからで2秒足らずの内にフラクシナスに行ける。現在、士道を始めとする天宮市組、キリトを始めとするALO組、キーナを始めとする異世界組とともにインデックスやオティヌス、土御門とステイルもあそこにいる状態だ。イギリス清教に対してはフラクシナス側から協力の打診が土御門を通してされたらしい。「精霊」という存在についての説明は現地にて行うとしていたが、今回来ると聞いたのは神裂たち天草式やアニェーゼ部隊の面々と聞く。彼女たちなら「精霊」という存在についても受け入れてくれるだろうから心配は特にいらなかった。
それでも出来るだけ顔見知りの人物がその仲を取り持ったほうが良かろう。ってか土御門が「前のことの説明も兼ねてみんながカミやんに逢いたがったてるから、来たほうがいいぜい」と言っていたからとりあえずフラクシナスに帰ったほうが良い。前のことの説明というと十中八九オティヌスとの件だろうから説明が面倒くさいことになりそうだが。
「そうか?それなら頼んでもいいか」
「大丈夫。超電磁砲とも顔見知りだし」
その顔見知りとはお互い潰し合いをした中での顔見知りということだが、そんなことを知らない上条は「分かった。それなら頼む」と言っていきなり消えてしまった。どうやらフラクシナスに回収されたらしい(ちなみにバリバリ人目についていたがそこは天下の学園都市。別に何も怪しまれてもない……はずである)。
「……それにしても、おっせーな」
「おそいねー」
こうして、彼らはその後数分、来ることのない待ち人を待つこととなったのである。
同時刻。
「ヒョッヒョッヒョッ。これは面白いことになってきたものだねぇ」
学園都市の一角にある廃工場。そこの二階にある一室にて、老人の笑い声が響いていた。
温厚そうな老人風の喋り方をする彼は、しきりに画面に何かを打ち込み、その合間に笑い声を挟みながら過ごしていた。
「……チッ。クソジジイが…」
「そう言わないでくださいよ。私は彼よりも年上ですが、見た目の醜悪さならあなたの方が断然勝りますよ」
部屋にいるあと2人の人物の声が老人の声に変わり響いた。どちらも30代ほどの男性の声だ。一方の声の主にたしなめられた人物は、何かを言いかけたが、それを飲み込む。なんの備えもしてない今の自分では目の前の男に敵わない。実力も何もかもが。
だからそれを取り戻すためにこの組織に参加したのだが。
そんな中部屋に一つしかないドアが開かれ、3人の視線がそちらへと向けられる。
「何をやっているんですか。時間ですよ」
入ってきたのは男たちよりも若い、少年だった。少し「ふくよか」と表現した方がいい少年の顔には、貼り付けの笑顔が浮かべられていた。その後ろには陰気そうな少女もいる。
彼らは『脱落者』と呼ばれる組織の主要人物たちだ。
「それじゃあ……実験開始と行こうかなぁ」
リーダー格の老人の声に従い、2人の男も動き出した。
全ては失った物を取り戻すため。そして「復讐」。
──この日、学園都市にて最悪の復讐者たちが暴れ出した。
同時刻。
全ての人を巻き込み事態が動き出す。
それは──
第一三話「元暗部の奴ら」完
後書き
今作では時空改変の影響によって、原作では確定してない不明瞭な部分が勝手に確定していることになっています。例えば「手塩恵未の生存の確定」や「馬場芳郎があの状態から無事脱出できた」など。そこらへんはご配慮ください。
2015年 4月 5日
YouTubeでSAOのキャラソン調べてたら今頃死銃のキャラソンがあることを知って驚いた常盤赤色
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