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ワンピース~ただ側で~

作者:をもち
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番外17話『デリカシー』

 ジャヤという島、その西の町。
 そこは夢を見ない無法者たちが集まる政府介せぬ無法地帯――
 そこは人が傷つけあい歌い、笑う――

 ――嘲りの町『モックタウン』

 そこに、メリー号が停泊していた。

 目の前に空から落下してきた巨大ガレオン船から空島があることを知った麦わら一味は、まずは空島へ行くための情報収集としてジャヤ島へと来ていた。余談だが、元々持っていたログポースは空島にログを奪われたためジャヤ島へ行けるものではなく、故に別のログポース――巨大ガレオン船をサルベージする過程で揉めることとなったマシラという猿似の海賊から奪った――を頼りにジャヤ島へとたどり着いた。

 ……そこまでは良かったのだが――

「殺しだぁ!」

 港に並んだ海賊船の数々、時折聞こえる怒号。

 ――明らかに治安が悪い。

「なんだかいろんな奴らがいるな、ここは」 
「楽しそうな町だ」

 治安の悪さよりも活気の良さに喜ぶルフィとゾロが我先にと町に降り立った。たしかにこういう町では頼りになる二人だが、どこかでトラブルを起こしそうという意味では最も頼りになさならそうな二人でもある。

 町を眺めがら気楽に歩いていく二人の背中を見ながら「無理よ」とまずはナミが言葉を漏らした。

「あの二人が騒動を起こさないわけがない」
「まぁ、ただでさえ物騒な町だ……不可能に近いな」

 ウソップがそれに同意。
 ナミが何かを探すように周囲へと首をめぐらせる。だが、探しているものは見つからなかったらしく「なんでこういう時にハントがいないの!」と怖がっているような怒っているような口調で文句を落とした。

「……ん、そういやジャヤに着いたあたりから見てねぇな」

 ハントならあの町に入っても問題ないだろうし、何よりも二人と違って騒動を好まない性格をしている。だからこそハントにあの二人についてもらおうというナミの計画だったのだが、ハントがここにいないのならば意味がない。

「私が行くしかないじゃないの!」

 そもそも情報収集のためにこの町に来たというのに、情報ではなくトラブルを持って帰られたらたまったものではない。

 半ばヤケになっているのか、それともハントがいなくてもルフィとゾロがいるのなら安全という面では保証されているからか。おそらくはその両方だが「あ、ナミ!」ウソップの驚きの声を背に、ルフィとゾロが起こすであろうトラブルを抑えるためにナミもまた「待って、ルフィ! ゾロ!」と船を飛び出した。

「……行っちゃった」
「……まぁ、大丈夫だろ。あの二人がいりゃ」

 ナミの背中を半ば呆然と、それでいてどこか他人事に、チョッパーとウソップが呟いた……のだが――

「なんだよ、ナミさんがいくなら俺も行くぞ」
「――お前は行くなぁ!」

 船の食糧を確認していたサンジが船室から出ると同時に呟いた言葉に、慌ててサンジへとしがみついた。

「お前まで行っちまったら……こ、この船がもし……お、襲われ……」
「行がな゛いでぐれよぉ」

 ウソップとチョッパーの涙ながらの訴えに、さすがのサンジもそれを引きはがすことは出来なかったらしく「わ、わかったよ……離せよ」と力なく外出を諦めた。

 もしもここにハントがいたら「俺が行くに決まってるだろ!」というハントと「俺はてめぇとナミさんの仲を認めたわけじゃねぇ!」というサンジの張り合いに発展して二人ともいなくなってしまう可能性の方が高そうではあったが、そもそもハントがいれば、ハントにルフィとゾロについて行かせてナミはここを動くこともなかっただろうからそれは意味のない可能性かもしれない。

「……ん? ロビンちゃんは?」
「……?」
「……あれ、いない?」




「……」
「空島……空島かぁ」

 歩きながら、ハントがふと言葉を漏らした。興奮と、想像と、疑問と、期待と……様々な感情がこもった表情で、だがやはり一番はわくわくとした、という表現が最もふさわしいであろう表情で首を傾げる。

「……」
「どんな島だろうな」

 足を止めることなく空を見上げて、雲を見つめて、また呟く。

「……」
「雲の上に島があるのか? それともなんかこう……もっとわけのわからない不思議な感じか? ……どう思う?」

 隣を歩く女性――ロビンへと話を振る。
 先ほどからほとんど無視していたロビンだったが、それでも話しかけられては答えずにはいられないのかため息を一度落として、呟く。

「そうね」

 ロビンの端的な返事。というか返事として成立していない返事に、ハントの反応が早かった。 

「どう思う? って聞いて『そうね』って返ってきちゃったよ! ほとんど俺の話聞いてなかったのかよ! この距離で!? まさかの!?」

 異常なほどにハントのテンションが高いのは空島という存在に、やはり興奮しているからだろう。にしても少しウザいレベルな気がするが、だからこそロビンは少し困惑気味というか迷惑気味というか、そういう表情なのかもしれない。

 そもそも一人で動くことに慣れているロビンはモックタウンでの聞き込みを単独で行おうとしていた。それを、このハントに見つかってしまい、今に至る。一人ぶつぶつと空島に思いをはせているハントを見る分にはただただ間抜けそうな男でしかないのに、ロビンが得意としているこっそりと抜け出すという行為を見つけた男がよりによってこの男だ。
 小さくため息を落としてたロビンがどこか悪戯な笑顔で立ち止まる。

「……ん? 聞き込みするんだろ?」

 同じように足を止めて首を傾げたハントへと、ロビンが問いを重ねる。

「どうして私について来たのかしら?」
「……は?」
「やっぱり監視するためかしら?」

 ロビンはハントが自分を仲間に入れる時に『俺はもともとロビンが俺たちの仲間になることに反対ではない』という会話をゾロとしていたことを聞いていた。だからこそ、これをあえて問う。
 これを問うことでハントに対して自分を疑っているという罪悪感をもたせ、それによってハント自身から『じゃあ俺は先に帰る』という行動をさせる。それがロビンの狙いだ。

 麦わら一味の仲間になった彼女だが、彼女の育ってきた境遇故に心の底から彼らを仲間として麦わらの船にいる、というわけではない。

 ――やっぱり私には単独行動の方が向いているわね。

 どこか自嘲的な呟きを呑みこみ、罪悪感を煽るためにじっとハントの目を見つめる。
 別にロビンはハントのことを嫌っていない。ただ単独で動きたいと思っているだけ。単独で動いた方が効率が良いと思っているだけの話だ。

 とにかく、これでハントは船に戻るだろう。そういうつもりでいたロビンだったが、残念なことにハントはロビンの想定より斜め上……正確には斜め下という方が正しいかもしれないような返答を。

「監視? ……え? 誰を? あぁ……えっと、ロビンを?」
「……え?」

 ロビンの表情が、おそらくはなかなか見ることが出来ないであろう、呆気にとられたそれになる。

「こっそりと抜け出されたらさ、なんか面白いことあるのかなとか思うだろ? ……ナミに声かけようと思ったんだけど、なんかこの町のことビビってそうだったしあんまり俺の言葉聞く余裕もなさそうだったから俺もこっそりと着いてきたんだけど」

 ――俺ってロビンを監視してるのか?

「……」

 小さな言葉を紡ぎ、逆に尋ねてみせるハントの言葉に、ロビンが黙り込んだ。
 罪悪感を感じさせるつもりだったが、どうやらハントには心の底から1ミリたりとも監視というつもりはなかったらしい。少しでも監視ということに心当たりがあったのなら既にロビンが思い描いた通りの展開になっているはずだからだ。

 ハントは罪悪感を覚えるどころか、ひたすらに首を傾げて「えっと……アレ? もしかして仲間でも性別が違ったら一緒に歩くと監視とかそういう扱いになったりするのか? ……え、マジで? というか監視って……ストーカー的な扱い? いやいやそんなつもりじゃなくてさ……というか俺恋人いるから! ストーカーするならナミのこと……いやストーカーじゃないからね、俺! ナミにだってそんなストーカーみたいなことしないからね!?」

 ロビンも想定していなかった訳の分からない結論へと着地をして見せた。

「……しないよな?」

 最後にはまさかのロビンに問いかけるという、しかもロビンに聞かれても困るとしかいいようのない質問を。

「……え、ええ」

 ペースを乱されて、どうにか表面上を繕って頷くロビンに、ハントはホッと一息。

「おし、行こう! さっさと空島に行きたいんだよ、俺は」

 元気よく大股に歩き出すハントの背中をロビンがジッと見つめる。

 ――今なら。

 そういう思いがフと浮かんだ彼女だったが、足が動かない。
 まだ仲間になって、いやきっと正確には仲間にすらなってもいないという彼女に、ハントは全く疑いの気持ちすら持たずに行動している。その警戒心の無さが初めての経験という形でロビンの足を縛っているのかもしれない。

「……おーい、早く早く!」

 子供のようにせかすハントに、ロビンはハントが行動を初めて本当の笑みを浮かべて「ええ」と答える。

 その足取りは最初よりも少しだけ軽い。

「ねぇ、漁師さん」

 ハントへと追いつき、共に歩き出した二人。
 いくつか道を曲がったところで、ロビンがハントに質問を投げかけた。

「……漁師って俺のことか?」
「もちろん」

 ロビンが仲間になった時に軽い歓迎会ということで大きい魚をハントが獲ってきたことがあったことからロビンにとってハントは漁師という認定になったらしい。

「……いや、うん……まあいいけど」

 少しだけ不服そうに、だが間違いではないので ハントも若干嫌そうな顔をしつつも素直に頷く。

「さっき航海士さんと恋人みたいなことを言ってたと思うのだけれど」
「ん!? ま、まぁ……そうなんだよ」

 恥ずかしそうに、嬉しそうに、それでいて自慢げに。空島で高揚している時の表情とはまた別の感情を満載にした表情で顔をふやけさせるハントへと、ロビンは表情を変えずに首を傾げる。

「航海士さん、怒るんじゃないかしら?」
「……怒る?」

 ロビンの言葉の意味がわからなかったらしく、不思議そうにするハント。本当にわかっていないらしいハントに、ロビンはまずナミへと同情のため息を一つ落として、それから若干に真剣な表情になってハントへと指を突きつける。

「私と漁師さんにその気がなくても、これはきっと航海士さんからしたら――」
「――あった! ロビンあった! 酒場だ!」

 ロビンにとってこれは真面目な忠告だったのだが、残念ながらハントの耳に届く前に、ハントにとって現在もっとも興味があるそれがハントの目に入ってしまった。ロビンの言葉を最後まで聞くまでにハントは我先にと駆けて行ってしまった。

「先に入るぞ!」

 そのまま酒場の中に入ってしまうハントに対して「大丈夫かしら」
 本当に心配しているのか疑わしくなるくらいに、ロビンは表情を変えずに呟いたのだった。
 



「収穫、一応はあったと言えるのかしら」
「あ、ああ」

 酒場を出て、特に感情の見えない声で平然と呟いたロビンに、ハントは少しだけ頬をひきつらせながら頷いた。

 ――ロビンって……怖い。

 ロビンの隣で歩きながら、ハントは酒場であったことを思い出しながら内心で呟く。
 酒場で空島のことを聞いたた二人だったのだが、それを聞いていた店主やならず者たちが「どこの夢追いだよ、まるでクリケットだな」と大爆笑。ハントは単純に首を傾げただけだったのだが、それとは対照的だったのがロビンだった。

 己の能力で全員を組み伏せて「そのクリケットという男の居場所を教えなさい」と強引に聞き出した。
 そのいきなりのサマがハントにとっては怖かったらしい。

 ――できるだけ怒らせない方向にしよう。

 心の中にそれを書き込んだハントが一人で頷いたとき、ちょうどメリー号がハントとロビンの視界に映ることとなった。

「私そんなに面白いこと言った!? 何なの一体っ!」
「随分荒れてどうしたの?」
「なにかあったのか、ナミ?」

 船着き場の下から尋ねた二人に、サンジが「ああ! お帰りロビンちゃ……ってなんでてめぇが一緒なんだ!」と怒鳴り声をあげ、同じくそれに気づいたルフィが「お前ぇらどっか行ってたのか」と首を傾げる。

 唯一顔を強張らせるだけに留まって、無反応に近い反応を示したナミ以外は普段通りの反応だ。この時点で普段のハントならばそのナミの異変に気付いていただろう。だが、今のハントは空島に浮かれすぎていて、残念なことに少しナミの様子がおかしいことにすら気づけていない。
 だからこそ。

「服の調達と――」
「――空島の情報だ!」

 ロビンの言葉を引き継いで、ハントは笑顔のままで言い放つ。

「おっ、宝の地図だ!」
「ただの地図だろ、どこだこりゃ?」
「この島よ」

 ロビンが入手した地図について会話を交わすロビンとルフィたちを尻目に、フと自分の甚平の裾を引っ張られたことにハントが気付いた。

「……?」

 振り返ると、そこには顔を俯かせたナミが。
 ナミに裾を捕まれたということ自体が嬉しくて「お、ナミ! あ、そうだ聞いてくれよ。さっきロビンと酒場に行ったんだけどさ」と先ほど酒場であったことを話そうとする。やはり、ナミにどこか元気がないというのにそれに気付かない。ただただ楽しそうに、笑顔をナミへと浮かべる。

「……ロビンと一緒にいたの?」
「ん? ああ、そうなんだよ。いや、っていうかそんなことよりさ、ロビンって結構こわいん――」
 普段通りに。
 酒場であったことを雑談として話そうとしたハント。 
 だが、その言葉は途中で遮られることとなった。

「――え」

 頬にに痛みが走った。
 あまりに突然のことに、自分がナミに叩かれたのだとハントが気付くまでに数秒の間がかかった。痛みが走った頬を気にすることすら出来ず、ハントは状況を理解できずに首を傾げてどこかブリキ人形のようにぎこちない動きでナミを見つめる。

「……」
「……」

 なぜいきなり殴られたのか。
 ただその意味が分からずに声を発しようとした時、既にナミが口を開いていた。

「そんなことって…………何よ」

 ハントを殴った右手とは逆の左手、その拳、肩、声、瞳。それら一切が震えて滲んでいた。

「……え、いや……え?」

 ナミの様子がおかしいことに、ここでやっとハントも気づいた。
 ただ、やはり思考回路はついて行かない。
 なんで殴られた、とか。
 なんで今のナミはこんなにも辛そうなんだ、とか。
 そんなこと……どんなことだ、とか。
 わけもわからずにそんな様々な疑問がハントの脳裏をかすめいく。
 けれどハントなりに何かを答えなければならないと感じたらしく、口をパクパクと、まるで金魚のように動かす。ただ、結局出てきたものはただのかすれた空気で、それは言葉として成立していない。
 ただナミの手を掴もうとしたハントの腕を、ナミは拒絶して、言う。

「私はあっちですごくムカついて――」

 睨み付けて、言う。 

「ハントはロビンと楽しんできて――」

 悲しそうに、言う。 

「……私、バカみたい」

 ――ほんと、私ってバカ。

 最後に漏れた声が、より重い響きを持ってハントの胸にのしかかる。

 ――だめだ、行かせてはいけない。

 それを咄嗟に思ったハントだったが、この状況を理解できていない頭と体がいうことを聞かず、ただ腕を伸ばすだけに留まる。船室へと駆けこんでいくナミの背を、ただハントは見つめるしかできなかった。

「……ぇ……ぇ?」

 訳がわからない。
 それ。
 ただそれだけがハントの脳内の全てを占めていた。
 助けを乞うように首をめぐらせて、そこでフとロビンが呟いた。

「だから大丈夫か漁師さんに一度聞いたのだけど」
「いや、ロビンちゃんは悪くない。どう考えても悪いのはこいつだからさ」
「え? ……俺?」

 サンジのことだから、また絶対的に男が悪いみたいな言い方を……そう思ってどこかホッとした様子でサンジを見るハントだったが、サンジの目がそういう時のものではなく、ただただ真剣な目をしていることに気付き、サンジ特有の女性第一の考えとかではなく、サンジの一人の人間としての意見だということに気付いた。

「俺……なんか悪いことしたのか?」

 本気でわかっていないハントへと、サンジは「ったく」とため息を落として睨み付ける。

「俺とナミさんが二人で買い物行ったら、てめぇはどう思う」
「ナミとサンジが?」

 ――なんでいきなりそんなことを。

 グチグチと漏らしながらもその図を想像したのか、数秒ほどの後、顔をしかめた。

「……嫌、だなぁ」
「てめぇはそれと同じことを今したんだよ!」

 噛みつくように吐き出されたサンジの言葉に、だがハントはまだしっくりと来ないようで首を傾げる。

「……?」

 何度か首をひねり、ロビンへと顔を向ける。

「え、俺ロビンのこと仲間としてしか見てないし……ロビンだって俺のことを男としては――」
「――ええ、見てないわね。けど、関係ないと思うわよ?」
「……関係ない?」
「例えそういうつもりじゃなかったとしても、そういうのを嫌という女性は多いと思うわ。それに私はまだここに入りたてだし、航海士さんからすれば知らない女性といるようなものよ」
「……知らない……女性と」
「改めて聞いてやる。ナミさんがてめぇのよく知らない男と一緒にどっかに行って、帰ってきたらどう思う。しかも自分が嫌な思いをしてる時にナミさんはそのてめぇのよく知らない男と楽しかったっていう話をしようとしてきたら……てめぇはどう思う」
「……っ!」

 そこで、やっとハントが体を震わせた。
 考えなしの自分がナミを傷つけたのだ、という事実へとつながり、ハントが慌ててナミの船室へと駆けていく。

「……ったく、世話の焼ける」

 サンジが面倒そうに呟いて、煙草に火をつける。

「少し意外だったかしら、コックさん?」
「意外って……何がだい、ロビンちゃん」

 小首を傾げるロビンへと、サンジが柔らかい笑みを浮かべて、同じように小首を傾げながら聞き返した。

「コックさんは航海士さんのことを好きだと思っていたから」
「もちろん、ナミさんも、それにロビンちゃんも大好きさ!」
「あら、ありがとう」

 感情のこもっていないお礼に対してはサンジは反応を見せず「けど、ま――」と言葉をつづける。

「――ナミさんの笑顔を作るのはあのクソ甚平野郎が一番うまいのさ」

 ロビンに、男には滅多に向けないであろう快活な笑顔で呟く。ロビンにとって眩しさを感じさせるようなその言葉に、彼女は「そう」と穏やかな笑みで頷いたのだった。

「ま、とりあえずハントとナミは大丈夫だろ」
「うし、じゃあ俺たちはこの地図のやつんとこに行くか」

 ただ傍観していたウソップとルフィが締めくくり、メリー号がまた動き出す。さすがに同じ島に位置する場所に移動するだけ、という時にまでナミの力が必要というわけではないらしく、船は港から離れようとしていた。




「ちょっと……やりすぎたちゃったかな」

 自分の船室で、ナミがベッドに顔を伏せながら呟いた。
 たしかにルフィやゾロについて行った先で不快な目にあったのは事実で、彼女が普段よりも苛立ちを抱えていたことも事実だった。ハントとまだ恋人になりたての関係だというのにハントがいきなり自分以外の女と一緒にどこかへと繰り出していたことでいきなりカッとなってしまったこともまた、事実。

 だが、かといっていきなり本気でハントの頬をたたいて、その場から逃げ出してしまうほどのことだったかと問われれば、彼女自身でもその答えが見つからない。
 そもそもハントは男女間の問題についておそらくルフィばりに鈍いであろうことはこれまでの航路でわかっていたこと。ハントとロビンが一緒に出掛けた、というよりもロビンが一人で行こうとしていたところにハントがくっついて行った、という方がどうせ正しいのだろう、ということもナミはわかっている。

 けれど、島次第ではハントと二人でデートに行きたいとか考えてワクワクしていた――この島に着いた時点でデートは無理だという気持ちが強かったし、実際にハントにはルフィとゾロのお目付け役について行ってもらおうと思っていたことはまた別問題として――気持ちや、せめて『一緒に行かないか?』とか声をかけてくれてもいいんじゃないだろうかという気持ちが重なり合ってナミ自身でも驚くほどの爆発を起こしてしまった。

「……はぁ」

 ハントがナミのことを好きで好きでたまらないのと同様に、いや、もしかしたらそれ以上にナミもハントのことを好きで好きでたまらないのだが、ハントとこの先、本当にずっと一緒にいられるかどうかについての不安を覚えてため息を一つ。
 だが、すぐに考え直したのか、首をぶんぶんと振って「とりあえず、私が謝んないとだめなのかな」と呟いてベッドから立ち上がる。

 ハントのことだから今もなお訳が分からずに甲板で混乱しているのだろう。それを想像して、小さく笑う。

「……惚れた方が負けって本当なのね」

 どこぞで読んだ本に載ってあった一文を実感して、自身でつぶやいた言葉が恥ずかしかったのか少しだけ顔を赤くして歩きだ――

「ナミ!」

 ――階段扉が大きな音とともに開け放たれて、その勢いのままにハントが必死な顔で部屋へと入ってきた。

「ハン――」

 凄まじい勢いで現れたハントに、ナミが目を丸くさせたのもつかの間、すぐに先ほどいきなり頬をたたいてしまったことを謝ろうとして、だが「――ごめん!」と、ハントによって先に謝られたことでそれが中断された。

「俺がロビンと二人でどっかに行って、ナミがどういう気持ちになるかとか……全然わかってなかった」
「……え」

 呆然としていたナミの目が驚きに見開かれた。まさかハントがそういうことを察せるとは思っていなかったからだ。

「本当はナミと町に行きたかったけど、なんだかナミこの町に降りるの嫌そうだったし、声をかけるのを諦めたらロビンが一人でどっか行こうとしてるのがたまたまに目に入って……空島の情報はどうしても聞きに行きたかったし……なんて、言い訳にもなってないけど……これからはもっとナミを傷つけないように気を付けるから……だから、ごめん! ほんとに悪かった!」
「……っ」

 頭を下げたハント。
 その表情はナミからは見えないが、声色からはどこか泣きそうにすら聞こえるほどにそれが感じられて、ナミがわずかに言葉を詰まらせた。

 ほんの一瞬前にハントとの将来に対して不安を覚えていた自分が恥ずかしくなるほどに、ハントは真っ直ぐに謝罪の言葉を向けている。
 それが伝わって、ナミの体が反射的に動いていた。
 ハントの体を柔らかい感触が包み込み、ナミの甘い匂いがハントの鼻孔をくすぐったくさせる。

「ナ……ミ?」

 なにせ二人は恋愛初心者。きっとこれからもこういうことがあるだろう。それでもハントとなら何も心配することはない。 
 ナミが笑って小さな言葉をハントへと投げかける。 

「私たち、まだまだだけど……一緒に成長しよう?」
「……そう、だな……うん」

 ハントもまた笑顔になって、頷いた。
 二人が優しく抱きしめあう。
 穏やかな時間が二人の包んでいた。
 



 二人が笑顔になっていた時、メリー号はロビンが入手した地図の場所へと到着しようとしていた。

 
 

 
後書き
あとがき

仲直りシーンの描写薄すぎ!
……薄すぎ……orz

ハントの一人称にすればよかったのかなぁ……いやでも、ここはなぁ。

なんだかなぁ。


ほんとなんだかなぁ


恥ずかしいあとがきを一部削除 2015/2/18
 
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