ワンピース~ただ側で~
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番外18話『空島へ』
空島の情報を掴むべく、それについて知っているかもしれないモンブラン・クリケットに話を聞くためにジャヤの東海岸へと到着した麦わら一味。
そこで、モンブラン・クリケットにマシラやショウジョウといった猿山連合軍と意気投合した彼ら。
翌日に訪れるというノックアップストリームなる上昇気流の場所へと進むためにはサウスバードという常に南の方向を示す鳥を捕まえる必要があるという情報を教えられて、麦わら一味は今、夜の森にいた。
「捕まえた~~~~!」
突如、ルフィの嬉しい悲鳴が騒がしくこだました。
遂に、ルフィがサウスバードを夜の森で見つけた――
「見ろよチョッパー! アトラスだ!」
――わけがなかった。
興奮を隠そうともせずに右手に捕まえたカブトムシをチョッパーへと見せつけるルフィに対して、チョッパーはそれがよくわからずに「アトラス?」と首を傾げる。
「そうさ、アトラスとヘラクレスは世界中の人間の憧れなんだぞ!」
「へー、カブトムシが? ……一つなぎの秘宝(ワンピース)とどっちがすごいんだ?」
「う~ん、難しい!」
唸るルフィに、ふと顔を木の幹に向けたチョッパーがそこを指さした。
「ルフィ、ここにもなんかいるぞ」
「ミヤマじゃねぇか! 捕まえろ!」
目を飛び出さんばかりの勢いで興奮するルフィと、理解はできていなさそうだがそれでも楽しそうにしているチョッパー。
と――
「ルフィ、チョッパー! いたぞ! オオクワだ! オオクワがいたぞ!」
――ハントが、右手にクワガタを乗せて現れた。
その興奮ぶりといったらルフィにも劣っていない。
最初、チーム分けでナミと一緒にならずに文句と肩を落としていた彼だったが、森の中に様々なカブトムシやクワガタムシがいることで、マイナスだったはずのそのテンションを一気に限界突破させていた。
「おおおお、オオクワっ~~~!?」
「オオクワ?」
興奮しすぎてしりもちをついたルフィと、ただただ首を傾げるチョッパー。
オオクワをわかっていないようなチョッパーに、ハントが輝いた笑顔をもって「オオクワガタだぞ! 黒いダイヤモンドって言われてるんだぞ!」とチョッパーに詰め寄り「ダイヤなのか! オオクワって!?」と、ハントの言葉に、チョッパーが目を丸くさせて驚きの声を漏らす。
「ナミがいたら喜んでくれたかなぁ!」
オオクワガタの背中をなでながら、ナミとキャッキャウフフする様を思い浮かべて頬をだらしなくさせるハントに、ルフィも「オオクワを見て喜ばねぇ奴なんているわけねぇだろ!」と騒がしく頷いて見せる。
「だよな! だよな!?」
「おう!」
児童顔負けのはしゃぎっぷりを見せる二人だったが「なんでオオクワはなんで黒いダイヤなんだ?」というチョッパーのふとした疑問に、その動きを止めた。
「……なんで?」
「……なんでって」
ルフィが首を傾げて、ハントもまた考え込む。
「……」
「……」
じっと、沈黙。
急に静かになった二人に対し、チョッパーが純粋な顔で不思議そうに首を傾げて、じっとそれを待つ。
「…………」
「…………」
――もしかして聞いてはいけないことを聞いたのだろうか。
二人があまりにも渋い顔でじっと黙り込み始めたため、チョッパーがそういう感想を抱いたとき「――だ、ダイヤぐらい固いから?」ぼそりと、ハントが漏らした。
ルフィが手を打って「それだ、ハント!」と声を張り上げる。
ハントの表情やルフィの表情からも、明らかにテキトーに放たれた言葉だったのだが、純粋なチョッパーにはそれを疑う心根を持ち合わせていない。
「へー! そうなのか! オオクワってすごいんだな!」
「だろ! すごいんだよ、オオクワは!」
「おい、それよりもチョッパーが見つけたミヤマが飛んで逃げたぞ!」
「逃がすか!」
3人ががそろってミヤマを追いかけて走り出す。
当初のサウスバードを捕まえるという目的を完全に見失ってしまっているあたり、彼ららしいといえば彼ららしいのだが、今回ばかりはそういう遊んでいられる状況ではすぐになくなってしまう。
「ん?」
網を振り回していた彼らの前にふと落ちてきた黄色い何か。
「……げ」
「蜂の巣だ、逃げろーーー!」
無数に湧いてきた蜂から慌てて逃げ出す彼らだが、蜂たちを振り切った時には体中に刺されまくった痕が。
虫に刺された痛みから半べそをかきつつも、蜂を振りほどけたことに対してホッと一息を――
「――ん?」
着く間もないらしい。
いきなり彼らの目の前に降ってきたものは、またもや蜂の巣。先ほどと同じように巣からは大量の蜂が飛び出してくる。
「どうなってんだこの森はぁ~っ!」
「流石におかしいだろっ!」
全力で逃走しながらも文句を垂れるルフィとハントだったが「あ、ルフィ、ハント! あれ見て!」というチョッパーの声により、首を後ろに向けた。
「鳥?」
彼らの視線の先にいたものは、ルフィの言葉通りに鳥。
ジョ~という独特な鳴き声を森に唄うその鳥こそサウスバード。空島に行くために絶対に捕まえなくてはならない鳥だ。
「あの鳥だ! あいつが巣を落としたんだよ!」
「ジョ~ジョジョッ――」
サウスバードが声高にその嘴からなんらかの言葉を発しようとしたとき、サウスバードの前を、何かがよぎった。そのなにかはサウスバードの眼前を通過してサウスバードがとまっていた木の幹に直撃。
「ジョッ!?」
折れて頭上から倒れこんできた木の幹から逃れようと慌てて翼をはためかせるサウスバード。どうにそれを避けて無事に浮上することに成功したが、ホッと一息をつくことはできなかった。
「捕まえた! っと」
その身は、既にハントの腕の中に。
サウスバードを捕えることに成功し空中から降りてきたハントへと、まずはチョッパーが目を輝かせていた。先ほどまでいた蜂がもう解散してしまっているのは森の動物や虫たちに指令を下せるサウスバードの嘴がハントの手によってしっかりと閉ざされてしまっているからだろうか。
「ハントってすごいんだな!」
「ふふん! ま、一応食糧班だし、こういうのは得意なほうだからな」
少しだけ照れた顔をしながら、だがチョッパーの言葉に鼻高くしてハントは笑って答える。
「へー」
激しく頷いて感心して見せているチョッパーの横で、ルフィが不思議そうに問いを。
「さっき何投げたんだ?」
「あぁ、道中で拾ってた丁度いいサイズの石」
「石?」
「相手が鳥なら遠いところにでも手が届くようにしとかないとって思ってさ……ま、狩りの経験上? 子供のころは手製の弓矢がないと森で狩りなんて絶対にできなかったけど、さすがに今ぐらいになると案外なんとかなるもんだよな」
少しだけ昔のことを思い出しながら、呟くハント。
実は彼の腕の中にいるサウスバードは今にも逃げ出そうと先ほどからずっとジタバタと暴れようとしているのだが、ハントが一度とらえた動物を離すなどあるはずもない。さらにサウスバードは発する声によって森の動物や虫たちに指令をくだすことができることのだが、それをハントは知ってか知らずか嘴を抑え込むようにして捕えているため、サウスバードは声を発することもできない。
「……ジヨッ……」
ついには諦めてジタバタすることをやめたその鳥を見ながら、ハントは満足そうに笑う。
「空島の案内、よろしく」
彼の笑顔にあるものは、空島へ期待。
ただそれだけのようだった。
「……ジョッ」
サウスバードの表情がどこか柔らかくなったように見えたのは、見間違え……ではないのかもしれない。
麦わら一味がサウスバードを捕まえて意気揚々と、現在自分たちの船、メリー号を空島へと行けるように改造してくれているであろうモンブラン・クリケットたちのところに戻った時、彼らの目の前に映ったのは予想されたものと違っていた。
ボロボロのモンブラン・クリケット、マシラ、ショウジョウ。真っ二つにされたメリー号。奪われた――モンブラン・クリケットが体をボロボロにしながらも見つけていた――金塊。そして、残された海賊ベラミーのマーク。
昼間にルフィ、ゾロ、ナミの3人で情報収集している時に、ルフィとゾロに絡んできた海賊で、ナミにとって最大の不興をもちこんだ男だ。
「手伝おうか」
「いいよ、一人で」
ゾロの言葉にルフィが首を横に振り、右手の骨に力を入れつつも一味へと背中越しに言う。
「朝までには戻る」
ルフィがベラミー一味へと金塊を取り戻しに走り出し、残った彼らは猿山連合軍とメリー号の修繕と強化を手伝う。
出航するのは朝。
既に深夜を終えようとしている時間で、残り3時間を切ってしまっている。このタイミングを逃せば次はいつ空島に行く機会が訪れるかわからない。
麦わら一味が時間との戦いが始めた頃、ジャヤモックタウンにて新たな風が吹き抜けようとしていた。
「一億……あの覇気で3千万はねぇとは思っていたがここまでとは」
「どうすんだよ、船長」
「……ハントまでいやがんのか」
船長と呼ばれた男、無精ひげとところどころ歯がぬけている男。マーシャル・D・ティーチ。
どうんすんだよ、と声をかけた男、図太い筋肉質な上半身に、腰に巻いたベルト、顔半分を隠す覆面が特徴的な男。ジーザス・バージェス。
どこか死にかけの男、同じくどこか死にかけていそうな馬に乗っている男。ドクQ。
長い狙撃銃を肩にかけて黒マントをはためかせる男。ヴァン・オーガー。
その4人の巨漢が新たに配られた手配書をにらみながら、小さく言葉を交わしあっている。
「ハントってやつより麦わらのルフィの方が懸賞金高いぞ?」
ハントという賞金首に対して難しい顔をしてみせるティーチに対して、バージェスの素朴な疑問を」
「白ヒゲの一味にいたときに何度か会ったことがあるが……2番隊隊長だったエース級に強ぇぞ?」
「たった6千万ベリーでか?」
やはり苦い顔で言うティーチに、バージェスが目を白黒させる。
「王下七武海のジンベエと一緒に海軍に出入りしてたから海軍もあいつのこと知ってんだ。賞金が低いのはそもそもの性分が政府にとって危険度が少ねぇってとこかもな。ま、海軍がどういう意図で6千万にしてるかは知らねぇが、ハントが厄介なことには変わりはねぇ」
「……だったら手を引くってのか?」
バージェスが不満げに声を落とし、ティーチがそれを一蹴した。
「ゼハハハ! 世間からすりゃ一億の首をとりゃニュース、海軍からすりゃハントの首をとりゃニュース。探してたのは1億を超える首、ついでにハントまでいるってんなら都合いいじゃねぇか。さぁ、成り上がってやるぜここから!」
ティーチのこの言葉を皮切りに4人が肩を並べて歩き出す。
「ウィ~ッハッハァ~! やっと獲物をとる時か!」
「船長、しかしラフィットとの奴とはこの町で落ち合いの予定」
「おめぇらしくねぇなオーガー。逸れちまったらそれも巡り合わせだろう!? ゼハハハハハ!」
「その通り。運命とは常に人間の存在価値を計る……ゲフ、ああっ」
マーシャル・D・ティーチたち、黒ひげ一味。
彼らが麦わら一味へと狙いを定めていた。
夜が明け、朝。
メリー号の修繕と強化を終え、ルフィも少し遅れたものの見事に金塊を取り戻して帰ってきたため、麦わら一味は3時間ほど前に無事に出航を果すことに成功していた。
空島へ行くため乗らなければならない海流、ノックアップストリーム。それに乗るため、メリー号は既にその予兆とされる大渦へと身を任せている。
「ギャオオオオオオオ゛ァアアア! ……ギゴ……プギィアアアア…………」
巨大な海王類が大渦に呑まれて海面下へと沈みゆく。
海王類でさえそうなるのならば、もしも自分たちが海に落ちることがあればそれこそひとたまりもない。
船上でそれを眺めていたナミとウソップ、チョッパーが声を失って肩を震わせる。
「も! 勘弁じでぐれぇ! 恐ぇっつうんだよ! がえらせてくれゴノヤロー! 即死じゃねぇかごんなもん!」
「あ゛あああぁぁぁぁーー!」
「こんな大渦の話なんて聞いてないわよ! サギよサギーーーー!」
「うわああああ夜になったああああ渦にどんどん吸い寄せられるぞおおおおお! 引き返そうルフィ! 今ならまだ間に合う、見りゃわかるだろ! この渦だけで十分死んじまうんだよ! 空島なんて夢のまた夢だ!」
「そうよ、ルフィ! やっぱり私も無理だと思うわ!」
恐怖におびえてルフィに諦めようと言うウソップの言葉に追従して、ナミもまた頷く。ただ、ルフィがそれらの言葉を受けて、単純に頷くはずがない。
「夢のまた夢の島! こんな大冒険逃したら一生後悔すんぞ!」
ウソップとナミの思惑とは全く正反対の方向に背中を押されてたルフィはただただ楽しそうに笑う。その言葉でチョッパーは笑顔を見せるが、残念ながらナミとウソップはそこまで簡単な性格はしていない。
――た……楽しそう。
半泣きというかもう涙を流してしまっているウソップとナミ。
その二人を見ていたハントが「ナミ」とナミの肩をたたく。
「……なによ?」
肩を落として、ほとんど幽霊のように薄い反応で振り向いたナミの手を強引に握りしめて、ハントが笑う。
「何があっても俺はこの手を離さない。俺が絶対にナミを守る。例えメリー号が急に壊れても、空島にメリー号が乗れなくて海面に叩き付けられることになってもナミは絶対に安全だから。それを俺が保証する……だから楽しもうぜ! もし成功したらナミと一緒に夢みたいな島に行けるんだ、こんなに楽しいことはないって!」
絶対の自信と、期待と、そしてそれ以上にナミへの好きという感情を込めて、強く手を握りしめる。
「あ……う、うん……そう、ね!」
自分の手にあるハントの手をナミもまた強く握りしめて、そして恐怖の張り付いていたひきつった表情から力が抜ける。ナミもまたやはりハントに対して強い信頼があるのだろう。先ほどまでとは打って変わって、ナミらしい快活な笑顔をハントへと向ける。
「ちゃんと握ってなさいよ!」
「おう!」
場違いな空気を流そうとする二人だったが、残念ながら今はそういうタイミングではない。
「ホラ、ウソップ。おめぇが無駄な抵抗してる間に――」
「間に? なんだ」
「――大渦に呑まれる」
「っ!」
「あ゛あ゛っ!」
ゾロの言葉通りメリー号が大渦の底へと吸い寄せられ行くことに気付いたナミが一層にハントの手を強く握り、ウソップが悲壮な声を騒がしくまき散らす。
渦が大きすぎてそこはもう水面すらないような渦の中心部に船が落ちようとして――
「あ?」
――大渦が消えた。
「何!? 消えた! なんでだ!!」
「何が起きた!?」
慌てる一同だったが、航海士のナミがその疑問に答える。
「……違う、始まってるのよ……もう。渦は海底からかき消されるだけ……まさか――」
この大渦に対してナミなりにわかったことがあるらしく、ぶつぶつと小さく言葉を落としていく。ナミのそれに一味の全員が耳を傾けていたのだが「待ぁてぇーーーー!」という大声に、全員の意識は必然的にそちらへと向かった。
「ん? ……あ!」
「おい、ゾロ」
「あ?」
「あれ」
「ゼハハハハ! 追いついたぞ、ハント! 麦わらのルフィ! 」
実に特徴的な笑い声をもって彼らの前に現れたのはマーシャル・D・ティーチたち、黒ひげ一味。
「……あれは……モックタウンにいた」
ナミが呟いた通り、ルフィとゾロとナミは一度モックタウンで彼らに会ったことがあるし、それ以外の留守番をしていたサンジたちは「誰だ?」と首を傾げている。
会ったことがあろうがなかろうがどちらにせよ、ここで会う意味がわからない。
「麦わらのルフィ、おめぇの首にゃ1億の賞金首がかかってんだ! 海賊狩りのゾロには6千万ベリー、ハントも海坊主ハントとして6千万ベリーだ! てめぇらの首を貰いに来た! 観念しろや!」
観念しろ、というティーチの言葉に、ルフィとゾロは表情を緩めて笑う。
「聞いたか、俺1億だ」
「6千万か、不満だぜ」
賞金首が跳ね上がったことで明らかに喜んでいる二人に、ナミが「喜ぶな、そこ!」と注意をする。
ノックアップストリームに乗るために色々と忙しいはずの麦わら一味だったのに、ティーチがいきなり現れ、さらには賞金首の話をもって騒ぎ立てたせいで麦わら一味の注意が賞金首へと移る。
全員の興味が賞金首の話題に持っていかれたはずだったが、そこに一人だけ全く別の視線をもってティーチを見つめている男がいた。ティーチとは以前からの顔見知りで、先ほども二つ名なしに、直接名指しで呼ばれた彼、もちろんハントだ。
「そういえばさっきあいつらハントのことも知ってるみたいだったけど」
ナミやルフィたちがティーチと会ったのはモックタウンが初めてでその一度だけ。ハントがその彼と知り合いらしいということに驚いた表情を見せつつもハントに首を傾げる彼女だったが、残念ながらハントはそのナミの言葉を全く聞いていなかった。
マーシャル・D・ティーチ。
白ヒゲという最強とされる海賊のもとにいながらも、それを裏切り、サッチを殺した男。
ハントも何度かお世話になったことがあるサッチを殺した男。
今や海賊『黒ひげ』として海を進む男。
そう、エースが追いかけている男。
「……ティーチが……モックタウンに?」
「いたいっ!」
ハントの手に自然と力がこもり、その手をつないでいたナミが痛みから反射的に腕を引く。
「あ、ご、ごめん」
あわてて頭を下げるハントだが、やはりその意識はナミよりもティーチたちに向かっている。
「どうしたの、ハント」と尋ねるナミの声にも答えずに、ハントはそっとナミの手を離してルフィやゾロ、ハントの賞金首のことを話しているティーチへと向かって叫ぶ。
「なんでだ!? ティーチ!」
悲鳴のようにすら聞こえるハントの叫びに、ティーチはその短い問いだけでハントの質問の意図を理解したらしく、不敵な笑みを浮かべて言う。
「あいつが俺の意中の悪魔の実のを手にれやがったんだ……俺が元々白ヒゲの船にいたのはその実を手に入れるためだったからな……仕方なかった」
仲間を殺したというのに、決して悪びれないその態度はどこかふてぶてしく、そして海賊然たる態度でもあるが、だからこそそれがハントには気に入らない。
「仕方なかったって……っお前! サッチさんは――」
メリー号の縁に体をもたれかからせて叫ぶする。
が、残念ながら時間切れ。
メリー号が浮かぶ周辺の海面が徐々にせりあがり、そして。
「全員船体にしがみつくか! 船室へ!」
「海が吹き飛ぶぞ!」
ノックアップストリーム。
近くにいた黒ひげの船を瓦解させ、直上にあったメリー号を天高く、空へと突き上げた。
「……っ!」
様々な感情が入り乱れるだけで終わってしまった黒ひげとの一瞬の再会。ナミの手をやさしく握りながらも、どこか悔しげにハントが肩を震わせる。ほんの数分前まであった、空島への興奮の笑顔はなりを潜めて唇をかみしめているそのハントの姿は、しかし一瞬。
ハントの表情に気付いたナミが心配げに声をかけようとした時には、ハントの表情はまた数分前の笑顔のそれに。
「行こう、ナミ……空島に!」
「……ええ!」
メリー号は空を昇る。
ロマンと冒険を求めて、どこまでも。
――エース……お前の使命、だもんな。
ハントが隣にいるナミにすら聞こえない声で呟かれた言葉。
それが、ノックアップストリームの海流に乗って流れていく。
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