IS 〈インフィニット・ストラトス〉 ~運命の先へ~
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第18話 「闖入者」
前書き
深夜アニメを見るために週の半分ほど夜更かししているGASHIです。本格的に書き溜めの心配をしないといけないようです。書きたいけど、筆が進まんのですよ・・・。
「試合中止!織斑、凰、直ちに退避しろ!」
千冬は無線機を手に取って叫ぶ。観客は喧しく騒ぎながら避難を開始し、山田先生を始めとした教師陣は事態の把握と対策に尽力し、箒とセシリアは一夏の身をただ心配する。その中でただ一人、零だけが時間が止まったかのように無言で映像を凝視していた。
「あれは・・・、あの機体は・・・。」
深みがかった灰色、腕が異常に長く人間離れした容姿、そして『全身装甲』。その全てが物語る、たった一つの結論。
(コアNo.468、自動操縦型試作稼働機《ゴーレムI》・・・。なぜここに・・・。)
零が束と共同で研究、開発した無人稼働機のプロトタイプ。現行ISと比べてもトップクラスの機動力と高出力のビーム兵器を併せ持った"競技"用ではない"戦闘"用のISだ。それが今、目の前に映っていた。
「織斑くん!凰さん!今すぐアリーナから脱出してください!すぐに先生たちがISで制圧に行きます!」
『・・・いや、皆が逃げるまで俺たちが食い止めないと。』
「そ、それはそうですけど・・・。でも、いけません!織斑くん!」
「「一夏(さん)!」」
山田先生たちの必死の呼びかけを聞き流しながら、尚も考える零。千冬も同じく沈黙を守っていた。
(あれは明らかに一夏を狙っている。何故だ?あの人は俺に護衛を頼んでおきながら、自分で一夏を殺す気か?)
クラス対抗戦のことを報告した際、束はこのような計画があることを微塵も匂わせていなかった。そうしている内にも一夏と鈴が必死になって《ゴーレムI》と戦っている。
(《ゴーレムI》の戦闘能力は代表候補生を超えている。あの二人じゃ負けるのも時間の問題だろう。俺が出るしかないか・・・?いや、出る。考えるまでもないだろうに!)
己の愚鈍さを呪いながら出撃を進言しようとする零。しかし、それよりも早くセシリアが口を開いた。彼は思わず舌打ちをしてしまう。
「織斑先生!わたくしにISの使用許可を!すぐに出撃できます!」
「そうしたいところだが・・・、これを見ろ。」
千冬の言葉と共に目の前にディスプレイが表示される。内容は第二アリーナのステータスチェックだった。興味無さそうに一瞥した零だが、その内容に目を疑った。
「遮断シールドがレベル4に設定・・・?しかも扉が全てロックされて・・・。あのISの仕業ですの?」
「そのようだ。これでは避難することも救援に向かうこともできない。」
最悪の事態だった。これでは一夏や鈴を助けに行けないばかりではない。アリーナにいた生徒全員が完全に閉じ込められた状態だ。仮に一夏と鈴が突破されれば、間違いなく一般生徒に被害が出る。
「でしたら!緊急事態として政府に救援を・・・」
「やっている。現在も三年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除できれば、すぐに部隊を突入させる。」
何もかもが後手に回っている。状況の悪さに零は溜め息を吐いた。学園生徒のシステムクラック程度では、束さんのハッキングプログラムの解除には相当の時間を要するだろう。
「・・・駄目だ。それじゃ遅すぎる。」
零の呟きに管制室にいる全員が彼を見つめる。その視線を意に介さず、零は静かに真耶に近寄る。
「山田先生、そこ退いてください。」
「え?か、神裂くん?何を・・・」
「退けと言った。システムの奪還は俺がやる。」
「え、あの・・・。きゃっ!」
そう言うと、零は返事も聞かずに真耶を椅子から引っ剥がした。思わずよろめく真耶を無視して、零はキーボードを叩き出す。千冬以外は誰も認識できないほどの目にも止まらぬ速さだった。
「織斑先生、システムクラックを中止させてください。ノイズにしかなりません。」
唯一、この状況についていけている千冬に零が言う。千冬は黙って指示に従った。視線をキーボードと表示されては消える複数のディスプレイに固定したまま、さらに零が口を開く。
「セシリア。」
「は、はい!何ですの?」
「何時でも出撃できる準備をしておけ。5分以内にロックを解除する。」
「・・・了解しましたわ!お任せください!」
生徒の避難経路の確保より、一夏への救援に行くためのルートを作ることを優先する。彼の任務はあくまで一夏と箒の護衛。学園中のどの生徒よりその二人のことを考える。
「零!私にも何かできることは・・・」
「ない。お前は避難経路の確保と同時に誘導に従って脱出しろ。」
箒の申し出を一蹴する零。専用機を持たず、IS操縦に慣れてすらいない彼女を戦闘に参加させるわけにはいかない。箒は悔しそうな表情を浮かべるが、黙って引き下がる。
(好き勝手やって良いとは言ったが、これは許容できない。全力で抗わせてもらいますよ、束さん。)
その時、気づいた者はいたのだろうか?箒が静かにこの部屋を出ていったことに・・・。
「じゃあ、アンタの策ってやつにのってあげるわよ。成功させなさいよね。」
零が管制室で静かな奮闘を繰り広げる一方、一夏と鈴は異形の敵と対峙していた。苦戦を強いられているその状況を前にして、2人は不敵な笑みを浮かべていた。
(しっかし、スゴい発想が出てくるものよね。普通ならそんなこと考えないと思うんだけど。)
戦闘の中で一夏が感じた疑問と違和感。それは、鈴のISというものへの根本的な理解を揺さぶるものだった。
"あれって、本当に人が乗ってるのか?"
ISは人が操縦しないと動かない。それは世界の常識だ。しかし、人間とは程遠いフォルムが、どことなく機械じみた挙動が、戦闘中に一夏と鈴の会話に始終黙して聞き入るその態度が、その常識に対する疑念を増長させていた。ISというものを最近になるまで理解していなかった一夏だからこそ辿り着いた、柔軟なアイデアだった。
(本当に大丈夫なんでしょうね?失敗したら承知しないわよ、一夏!)
一夏に頼まれたのはたった一つ、"『龍咆』を最大威力で敵に向かって放つこと"。今まで何発連射しても当たらなかった衝撃砲を連射不可能な最大威力で打てと言うのだ。鈴には一夏の思惑が理解できなかったがそれでも良い。一夏は今まで鈴に嘘を吐いたことはない。理由はそれで充分だった。
「よし、じゃあ早速・・・」
「一夏ぁ!」
一夏が突撃体勢に入ったまさにその時、ピットから一夏を呼ぶ声が聞こえた。ふと一夏がそちらを見ると、箒が肩で息をしながらピットに立っている。一人管制室を抜け出した箒は脇目も振らず一夏のもとへ駆けつけたのだ。
「男なら・・・、男ならその程度の敵に勝てなくて何とする!」
この声に敵が反応した。徐に腕部に搭載された高出力ビーム砲を構え、無防備な箒に照準を合わせる。
「箒、逃げろ!」
一夏の必死の呼び掛けも虚しく、敵は躊躇なく引き金を引いた。一筋の閃光が箒に向かって一直線に飛んでいく。箒には防ぐ手立てはない。一夏も鈴も距離的に間に合わない。箒は死を覚悟して目を閉じた。
・・・痛みが何時まで経っても襲ってこない。身体を焼かれる感覚もない。恐る恐る目を開いた箒の視界に、灰色のビットが映り込んだ。
「あれは・・・。」
『まったく、とんだじゃじゃ馬娘だ。危ないったらありゃしない。』
「零?その声、零か!?」
『よう、一夏。結構善戦してるな。感心感心。』
突然、プライベートチャネルから零の声が流れだし驚く一夏。しかし、零はそれを気にすることなく会話を続ける。
『あれは《武神》のビットだ。箒はこっちで保護するから、お前は自分のやるべきことをやれ。期待してるぞ。』
「・・・サンキュ、零。鈴、やれ!」
「分かった!」
零の言葉に励まされ、一夏は鈴に合図を送る。鈴は一夏の指示通り、エネルギーを充填し最大威力の『龍咆』の発射準備に移行する。すると、射線上に一夏が背を向けて立ち塞がった。このままでは『龍咆』が一夏に直撃してしまう。
「ちょっ、ちょっと馬鹿!退きなさいよ!」
「良いから打て!」
「はあ!?・・・ああもうっ、どうなっても知らないわよ!」
考えるほどの猶予は残されていなかった。鈴はそのまま『龍咆』を発射、巨大なエネルギーの塊が一夏の背中を襲う。
(いける・・・!)
一夏は後部スラスター翼を全開にして弾丸と化したエネルギーを取り込み圧縮、莫大な慣性エネルギーを生み出した。『零落白夜』を使用するためのエネルギーを残して瞬時加速を行うために外部からのエネルギーを利用する。考え得る限り最善の策だった。
「おおおっ!」
気合いと共に振り下ろされた必殺の斬撃は敵の右腕を一刀両断した。しかし、それが限界だった。一夏は敵の左拳をモロに受け、地面に寝転がる。敵はそれを見下ろしながらゆっくりと左腕を一夏に向ける。至近距離からビームを叩き込むつもりだ。
「「一夏っ!」」
箒と鈴の叫ぶ声が聞こえる。この危機的な状況の中で一夏はただ・・・、不敵な笑みを浮かべていた。
「・・・狙いは?」
『完璧ですわ。』
この短いやり取りの直後、『ブルー・ティアーズ』の放つレーザーの雨が敵を襲う。驚いた箒と鈴が客席を見ると、《ブルー・ティアーズ》を纏ったセシリアが『スターライトmk-III』を構えていた。鬼のような速さと正確さでシステムクラックを終えた零の指示で一夏とコンタクトをとっていたのだ。
「決めろ、セシリア!」
『了解ですわ!』
セシリアの狙撃が敵のど真ん中を射抜く。『零落白夜』によって遮断シールドを完全に破壊されていた敵はシールドバリアーを展開することができず直撃、爆発する。
『ギリギリのタイミングでしたわ。』
「セシリアならやれると思ってたさ。」
『そ、そうですの・・・。ま、まあ当然ですわね!』
セシリアの労を労う一夏。戦いの終結を実感し、ホッと息を吐き出した彼だったが、その油断を嘲笑うかのように《白式》が警告音を発した。
「一夏!まだアイツ動いてる!」
鈴の言葉に思わず敵のいる方向を見ると、残った左腕を一夏の方に向けてビームの発射体勢に入っていた。一夏は躊躇いなく突っ込む。その一夏の姿を白い閃光が覆い尽くした。
後書き
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