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IS 〈インフィニット・ストラトス〉 ~運命の先へ~

作者:GASHI
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第19話 「双武の鬼神」

 
前書き
いつも通り投稿していきます。これで1巻終わったぞ~。  

 
俺はアリーナの通路をひた走り、戦場を目指していた。通路は非常灯のみが点っており、ギリギリ視界が保てるほどの明るさしかない。

「・・・きゃっ!」
「・・・おっと。」

スピードを維持したまま通路を曲がると、女子生徒と思いきりぶつかってしまった。リボンの色からして同級生、水色の髪に眼鏡をかけた大人しそうな雰囲気の少女だった。・・・いや待て。今は冷静に観察なんてしている場合ではない。

「お前はここで何やってるんだ?早く避難しろ。」
「私・・・その・・・代表候補生、だから・・・。」
「なんだと・・・?」

日本人のようだし、日本の代表候補生だろうか?しかし、見るからに気弱そうな少女だ。先程から少し震えているように見受けられる。代表候補生と言う割には明らかに覚悟が足りていない。

「システムクラックは終了した。避難経路も確保されている。早く逃げろ。君がいても足手まといにしかならない。」
「でも・・・でも・・・私だって・・・。ヒーローに・・・なれる、はずだから・・・。」

ヒーロー?この少女は一体何を言っているんだ?・・・よく分からんが、どうやら説得より妥協の方が手っ取り早そうだ。

「・・・分かった。俺も今から援護に向かうから好きにすると良い。ただし、絶対に無理はするな。良いな?」
「うん・・・、分かった・・・。」

俺は再び駆け出した。後ろからその少女が追いかけてくるのを感じながら。



「「「一夏(さん)っ!!」」」

ビームに飲み込まれた一夏の刃は届くことなく、力尽きて地面に倒れていた。その一夏に止めを刺すべく、再び左腕のビーム砲を構える。それを阻止すべく動こうとする鈴とセシリアだったが・・・、
ドゴオオオンッ!
アリーナ全体に響き渡る轟音に思わず足を止める。何事かとアリーナを見回すと、そのあまりの事態に息を飲んだ。

「嘘でしょ・・・?なんで増えてんのよ、コイツら!?」

新たな《ゴーレムI》が4機、アリーナの遮断シールドを貫通して侵入していた。1機ですら悪戦苦闘した相手が4機、その状況に彼女たちは戦慄する。

「と、とにかく一夏さんの救出を!」
「分かってるわよ!」

しかし、4機の《ゴーレムI》がそれを阻む。一夏に近づけず躍起になる2人を尻目にズタズタになった《ゴーレムI》がビームのチャージを開始する。 目の前で自分の慕う男が殺されそうになっているのに助けることもできない。その絶望的な現実を前に乙女3人の目に思わず涙が浮かんだその時だった。

『俺の大事な友人に手を出すな、木偶の坊風情が。』

聞くもの全てを震撼させる殺気を孕んだ声と共に、上空から一筋の閃光が《ゴーレムI》の左腕を消し飛ばした。さらに両腕を失った《ゴーレムI》を蹴り倒し、一つの白い機影がそれを踏み潰していた。

『ほう、この状態でもまだ足掻くか。頑丈なものだ。だが、もう墜ちていいぞ。』

そう言うと、白い機影は瞬く間に黒く染まり、手に持った刀で《ゴーレムI》の胸元を突き刺す。一閃でコアを破壊された《ゴーレムI》は遂にその動きを止めた。

『さて、じゃあ殺し合いしようぜ。人形なら人形らしく楽しく遊ばせてくれよ、三下共。』

狂気を纏った鬼神・・・、神裂 零が戦場に舞い降りた。



「零さん、ですわよね・・・?」
「何なの、アイツ?アレ、ホントに味方なの・・・?」

零の様子を見て鈴とセシリアは身震いする。本来なら喜ぶべき場面なのだが、彼が醸し出す強烈な殺気と狂気に戦慄しか覚えない。

『鈴、セシリア、聞こえているな。』
「は、はい。何でしょうか、零さん?」
『好きにしてくれて構わないが手は出すな。下手に動けば巻き込みかねない。』
「はあ?アンタ何言って・・・」
『邪魔だと言ったんだ。お前たちは足手まといにしかならない。』

一夏と組んですら一機も倒しきれていない。戦況からして当然の戦力外通告だった。しかし零の実力を知らない鈴からすれば傲岸不遜な発言以外の何物でもない。

「バカじゃないの、アンタ!代表候補生のあたしたちがこんな苦戦してるってのに、男のアンタが・・・」
「鈴さん、言う通りにいたしましょう。」

激昂する鈴を冷静に諫めるセシリア。同じ代表候補生である彼女の言い分に、鈴は納得できなかった。代表候補生としてのプライドが彼らの言葉を聞き入れることを断じて許さない。

「あんなぽっと出の素人がどうこうできるわけないでしょ!代表候補生のあたしたちすら一機も墜とせないのよ!?」
「落ち着きなさいな。この状況を打破するには零さんの実力は必須。実力不足を自負しているなら、彼の言うことに従うべきですわ。」

鈴には理解できなかった。目の前の代表候補生は一体何を言っているのだろう?彼女は軍事訓練を日常的にこなしてきた一国の代表候補生より、つい最近発見された男子の方が強いと言っているのだ。信じろと言われる方が無理がある。

「・・・分かったわ。アンタがそこまで言うなら従ってあげようじゃない。ただし、危なそうならすぐに割り込むからね。」

それを聞いたセシリアは満足したようにピットへと飛んでいく。鈴は相変わらず怪訝な表情でその背中を追う。

(なんであんな胡散臭い奴をそんなに信じられるのよ?そんなに強いの・・・?そうは思えな・・・)

ドンッ!!
鈴の思考は大地をも震わすような轟音に遮られた。何事かと振り返ると、零が二本の近接ブレードを構えて敵に突っ込んでいた。驚くべきはその速さ。明らかに瞬時加速を上回る加速力とトップスピードを見せていた。

「トロい。」

それを迎撃しようと拳を振り上げる《ゴーレムI》だったが、振り下ろすよりも先に零が懐に入り込んだ。腕が異様に長い《ゴーレムI》は距離を詰められると却って腕が役に立たない。すぐさまもう片方の腕で振り払おうとするが、零はその一言と共に《ゴーレムI》の四肢を切り刻んだ。ダルマ状態になった《ゴーレムI》に退屈そうに刃を突き立てる零。その光景に鈴は唖然とした。

(嘘でしょ!?あんな化け物をあっさり倒しちゃうなんて・・・。)

もはやプライドなど関係ない。目の前の男の強さを身に染みて感じていた。しかし、零からすればこれは戦いですらない。遊戯のレベルでしかないのだ。

「あと3機。」

零はハイパーセンサーを利用して背後に迫る6本のビームを回避、空高く飛翔し、3機の《ゴーレムI》全てを視界に入れられる位置へ移動する。

「換装。『月詠』展開。」

その声に呼応するように機体色は漆黒から純白へと変貌し、両腕の近接ブレードは大型のバスターライフルに変わる。『素戔嗚』と対をなす射撃戦特化パッケージ『月詠』。《武神》のもう一つの姿である。

「『滅却』チャージ開始。目標、敵IS全機。」

間断なく襲う無数のビームを一切姿勢を変えずに回避する。トップクラスの狙撃手でも、スコープを覗いた体勢のまま照準を変えずに敵の攻撃を回避し続けるのは至難だろう。

「出力50%。充分だな。」

ポツリと呟いた零の言葉を合図に、IS2、3機程度なら優に覆えるほどの巨大な熱線が放たれる。その破壊光線は地面を抉り、アリーナの半分をクレーターに変える。

「流石はAI、動きが単純だな。」

土煙から飛び出した《ゴーレムI》2機の頭部が撃ち抜かれる。一撃必殺の決戦兵器である『滅却』を敢えて囮に使った零は、回避を前提として瞬時加速で接近、両腕に装着されたビームボウガン『煌閃』を零距離で発射したのだ。

「ほい、ラスト。」

鬼のような追撃はまだ終わらない。勢いをそのままに彼は『素戔嗚』に換装して大鎌『影刈』を展開、残りの1機の首を刈り取った。黒に染まるその姿は死神を彷彿とさせる。

「つまんね。このまま墜とすか・・・。」

視覚を失った『ゴーレムI』たちは彼にとって障害物にすらなり得ない。彼は『影刈』を振るい『ゴーレムI』の四肢を切断、文字通りダルマ状態に仕上げる。本来ならコアを破壊して完全に機能停止に追い込みたいところだが、今の彼にはそれは出来なかった。

「これで良いですか、織斑先生?」
『問題ない。ご苦労だったな、神裂。』

千冬に研究用に捕獲するように命令されていたのだ。独り言が多かったのは理性を保ち人格の変化を防止するため。自分の中途半端な戦果に不満そうな表情を浮かべる彼だったが、千冬の命令に逆らえるほどの度胸はまだ持ち合わせていない。彼は倒れている一夏を小脇に抱えてさっさと戦場を退散する。

(これは説教が必要だな・・・。)

などと考えながら・・・。  
 

 
後書き
次回は閑話休題。のんびりほのぼのやってきます。 
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