IS 〈インフィニット・ストラトス〉 ~運命の先へ~
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第17話 「切り札」
前書き
春休みになって大歓喜のGASHIです。いよいよバトル回。まあ、零は見学ですが・・・。
クラス対抗戦当日、俺は第二アリーナのピットで《白式》の調整作業に勤しんでいた。それを興味深そうに眺める一夏、箒、セシリアの3人にその様子を眺める千冬さんと山田先生。相変わらず一夏のいる場所は無駄に人が多い。
「《白式》の調整は零さんが担当してますのね。」
「一夏にもちょっとずつ教えてはいるがな。まだまだ任せるには不安すぎる。」
「あはは、自分の専用機だし早く自分で管理できるようにはなりたいんだけどな。難しくってさ・・・。」
「情けないことを言うな、一夏。」
4人で歓談しているうちに目の前の作業を終えた俺は、近くに置いてあったコーヒーを啜る。・・・むぅ、少し冷めてしまったか。いっそ氷でもぶち込んでアイスにしようか?・・・いや、味がなくなるな。
「しかし初戦から鈴が相手か・・・。」
「良かったじゃないか、一夏。鈴と戦う前に負ける心配をしなくていいなんて。」
「おう・・・、って負けると思ってたのかよ!?」
「さあな。」
実際負けるなんて思ってはいない。あれだけ訓練したんだ、専用機を持たない一般生徒よりは確実に強いはずだ。緊張をほぐすにはこのくらいの冗談がちょうどいいのさ。
「凰さんのIS《甲龍》は織斑くんの《白式》と同じ近距離格闘型ですね。」
山田先生が《白式》に《甲龍》の基礎データを送信する。近距離格闘型が相手ならセシリアの時よりは戦いやすいはず。警戒すべきは第三世代兵器の存在か。一体どんな切り札を隠し持っているやら。
「わたくしの《ブルー・ティアーズ》とは勝手が違いますわよ。お気をつけて。」
「大丈夫だ。訓練通りにやれば勝てる。」
「箒の言う通りだ。あれだけ鍛えてやったんだ。期待に応えてみせろ、一夏。」
「おう、任せろ。じゃあ、行ってくる。」
皆の応援を受けて、一夏は戦場へと飛び立っていった。さて、俺も管制室へ移ろう。
『一夏、今謝るなら少しくらい痛めつけるレベルを下げてあげる。』
『そんなのいらねえよ。全力で来い。』
試合開始前の前口上。どちらも自信に満ち溢れている。しかし一夏と違い、鈴の方には多少の余裕を感じる。流石は代表候補生であるだけはある。自分の実力に一抹の不安すらないようだ。
『一応言っておくけど、ISの絶対防御も完璧じゃないのよ。シールドエネルギーを突破する攻撃力があれば、本体にダメージを貫通させられる。殺さない程度にいたぶることは可能なの。』
『ああ、分かってる。』
鈴の言う通り、絶対防御は必ずしも絶対ではない。世の中には、絶対防御の突破とIS操縦者への直接攻撃に特化した兵器の存在も確認されている。その趣味の悪いガラクタを抹消するために、俺が一体いくつの研究所を壊滅させたことか・・・。
『両者、試合を開始してください。』
試合開始のブザーが鳴り響いた直後、一夏と鈴が同時に動いた。一夏の『雪片弐型』が鈴の展開した大型の青竜刀に弾き返される。大型ブレード『双天牙月』、《甲龍》の主力武装だ。
『へえ、初撃を防ぐなんてやるじゃない。けど・・・。』
もう一本の『双天牙月』を展開した鈴は二本を連結、再び一夏に襲いかかる。縦横無尽に舞う刃に防戦一方の一夏。武器の重量も相まって明らかに力負けしている。ジリ貧だな。
「ああもう、わたくしの教えた三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)を使いなさいな!」
隣で見ているセシリアが躍起になって言う。あの技術は一夏にはまだ早いって・・・。さて、一夏はどうするのかな?
(・・・お、動いた。)
一夏は距離をとって仕切り直しを図る。うん、正解。《白式》は性質上消耗戦に弱いからな。不利な状況が長引きそうなら身を引くべきだ。ちゃんと教えたことが身についてるようで何よりだ。
『・・・甘いっ!』
その鈴の言葉の直後、一夏がまるで見えない拳に殴られたように吹っ飛ぶ。何が起きたか、まったく視認できなかった。《甲龍》の非固定浮遊部位に動きがあったように見えたが・・・。俺はすかさず『天眼』を起動し、事態の確認を開始する。
『今のはジャブだからね。』
鈴の不敵な笑みを合図に、再び一夏が吹っ飛んで地面に叩きつけられる。・・・なるほど、今度は確と見たぞ。面白い兵器だな。
「何だ、あれは?」
「わたくしにも何とも・・・。」
流石に箒とセシリアは分からなかったらしい。まあ、あれが視認できたら人間超えてるだろう。じゃあ超人のブリュンヒルデは・・・、相変わらずの無表情と沈黙。読み取れん・・・。
「『衝撃砲』だな。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰エネルギーを砲弾として打ち出す。第三世代兵器だ。」
肩部大型衝撃砲『龍咆』。初見で相手にするには厄介な武装だ。俺でも間違いなく直撃してただろう。試合前に《甲龍》の詳細なスペックを確認して策を講じるべきだった。山田先生が伝えてくれるからと高を括っていた俺のミスだ。
「一夏・・・。」
箒を始め、管制室にいる全員が固唾を飲んで見守る中、一夏はただひたすら鈴の猛攻を回避していた。回避する度に不可視の砲弾がアリーナの壁を抉る。
『よくかわすじゃない。この『龍咆』は砲身も砲弾も目に見えないのが特徴なのに。』
やはりそうか。砲身は空間そのもの、砲弾はエネルギー。両方見えないのは厄介だ。ISのハイパーセンサーをフル稼働して空間の歪みや大気の流れの変化を観測するしかない。弾道予測だけでも相当神経を使うだろう。
(しかもあの衝撃砲、見たところ砲身斜角にほとんど制限がない。射線が直線とはいえ、死角のない不可視の武装に鈴の操縦スキルの高さ・・・、一夏はどこまで凌ぎきれるかな?)
実力なんて比べるまでもない。IS操縦において一夏が鈴に勝ってる部分など一つとしてない。それは鍛えた俺が一番分かっている。だが、それを覆すために何が必要かは一夏の方が知っている。俺には欠片ほどもないが、一夏は誰よりも強いそれを持っている。それが一夏の強さだ。
『・・・鈴。』
『な、何よ?』
『本気でいくからな。』
『な、何よ・・・、そんなの、当たり前じゃない!とにかく、格の違いってのを見せてあげるわ!』
『龍咆』と『双天牙月』を併用し、一夏を追い詰めようとする鈴。それを防御または回避しながら動き回る一夏。先程と似た構図だが一夏の動きが違う。距離をとろうと後退を意識していたが、今は鈴の周囲を旋回している。どうやら鈴を撹乱し、隙を作るのが目的のようだ。
「織斑くん、何かする気ですね。」
「瞬時加速(イグニッション・ブースト)だろう。私が教えた。」
「瞬時加速?」
山田先生の言葉に淡々と答える千冬さん。その答えに食いつくセシリア。いや、仮にも代表候補生なら瞬時加速くらい知っててほしいものだが・・・。まあ、箒も知らないだろうし解説しよう。
「瞬時加速はIS戦闘における格闘特化技能の一つだ。後部スラスター翼からエネルギーを放出してそれを圧縮、再放出することで爆発的な推進力を得る。他の格闘技能の基礎となる技術だ。」
二重瞬時加速(ダブル・イグニッション・ブースト)や個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)など、活用法は多岐に渡る。セシリアは射撃、それも狙撃を中心とした戦闘スタイルだから、特に必要がなかったんだろうな。
「織斑先生自ら教えたんですか?」
「そこの小僧に頼まれてな。」
千冬さんの言葉に管制室にいる全員の視線が俺に集中する。小僧呼ばわりとはなかなかムカつく。まあ、文句なんて言おうものなら何をされるか分かったものではないので仕方なく我慢するが。
「例の五本勝負の件だよ。一夏にIS操縦を教えてくれるように頼んだんだ。内容は千冬さん任せだったけど。」
瞬時加速をたった一週間で覚えさせるとは驚いた。一夏の覚えの良さもあるだろうが、やはり千冬さんの手腕に依るところが大きいのだろう。俺は教えるのあまり上手くないからなぁ・・・。
「出し所さえ間違えなければ、アイツでも代表候補生と渡り合える。しかし・・・、通用するのは一回だけだ。」
千冬さんが表情を険しくする。瞬時加速はその性質から奇襲攻撃として使われることが多い。一度使えば当然警戒される。もちろん、奇襲だけが取り柄ではないが、それ以外の使い方を一週間で叩き込むのは千冬さんでも無理だったのだろう。
(そこら辺は、大会後に教えなきゃかな・・・。)
映像に視線を戻すと、相変わらず一夏はひたすら回避に専念している。なかなか上手いな。ちゃんと鈴が『龍咆』の照準を固定しにくいようにしている。攻撃のリズムも崩れて苛立っているのが伝わってくる。
『ここだっ!』
一夏にとどめを刺そうと躍起になって『龍咆』を乱射していた鈴に遂に隙が生じた。一夏の動きを捉えきれず、見失った上に背後をとられたのだ。『龍咆』に死角はなくても人間にはある。ハイパーセンサーの補助があっても背後や足下に対する反応は遅れるものだ。
『うおおおおっ!』
瞬時加速で鈴に急接近する一夏。鈴が気づいた時には既に『雪片弐型』を振り上げていた。確実に防御は間に合わない。誰もが一夏の勝利を確信した瞬間だった。
ズドオオオオンッ!
アリーナの遮断シールドを突き破り、何かがアリーナ中央に激突する。アリーナ全体に衝撃が走り、中央は土煙に包まれた。誰もが驚く中・・・、
"異形の胎児"が現れた。
後書き
「ゴーレム」はヘブライ語で「胎児」という意味です。ということで最後の文を付け加えてみました。感想や評価お待ちしてます。
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