エセ秀才の生残りを目指した悪足掻き
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独段場(いいえ毒段場です)
前書き
かなりのご都合主義で進んでいきますのでご了承ください。
第3話 独段場(いいえ毒段場です)
「先ほど述べました3つの理由について説明いたします。
まず第1の天の時についてですが、純軍事的に先のイゼルローン要塞攻略から3ヶ月が過ぎており、帝国側が既に迎撃するための準備期間を与えていることから、進攻する機会を失ったといっていいでしょう。
第2の地の利についてですが、帝国領土内の情報についてはイゼルローン要塞の管制コンピューターから各星系の航路は分りましたが、軍事的、特に艦隊戦においての情報についてはほとんど分っていません。
第3の人の和についてですが、これが見事にありません!特に宇宙艦隊総司令部作戦参謀は自分達ができなかったイゼルローン攻略を、馬鹿にしていた作戦で成功させたヤン提督に対して敵対心丸出しでそれこそ帝国軍よりも敵視しています。
(おかげでヤンと会う事どころかコンタクトを取ることすらできなかったんだからな(涙))
そして何より、帝国軍の指揮官はあのローエングラム伯です。彼はいわば軍事の天才です。諜報部に調べて頂きましたが、5年前に少尉任官してから1度を除きその昇進を全て戦場の武勲によってしています。しかも彼の所属する部隊は常に勝っています。そして分析班からの報告では「勝つためには例え味方に損害が出ても手段を選ばない」とのことです。そして「彼が迎撃における総指揮を取るならば焦土作戦を行うことも有りうる」と」
「バカな!民間人を犠牲にするだと!」
「ありえん!」
「なぜです?なぜありえないと言い切れるのですかボロディン提督」
「民間人を守るのが軍人の義務だろうが!そんなこともわからんのか!」
「それは同盟軍の理屈です」
「なにを
「帝国軍は!帝国軍は民間人を守りません!極論すれば帝国軍は皇帝だけを守るための軍隊です。民間人はその対象ではありません。だから、民間人を人間の盾とする焦土作戦についても抵抗が無いのです。そして純軍事的には焦土作戦は有効な作戦です」
「一方、我々同盟軍はその政治的スローガンから、それがどんなに卑劣な罠であろうとも困窮した民間人に物資を提供しなければなりません。その結果予測される援助物資は穀物だけでも1000万トン以上及びその輸送船が別途必要になります。」
「後方主任参謀キャゼルヌ少将閣下にお聞きしますが、これらの補給計画は可能でしょうか?」
「・・・不可能ではないが、かなり困難なものになる」
「進攻星域が増えればさらに要求が拡大しますが?」
「ムリだ!だいたい最初の要求ですらイゼルローンの食糧生産・貯蔵能力をはるかに超えているんだぞ!補給計画が確実に破綻する!」
「そうです!補給計画の破綻は敗戦に直結します。つまり、今次遠征計画は焦土作戦を取られたら、初期の段階で撤退しなければ、"大"敗北必至のアホ作戦です」
シトレ元帥が溜息をつきながら俺を睨み付けて聞いてきた
「・・・どういうことだねフォーク准将?私は君がこの作戦を私的なルート通じて最高評議会議長に持ち込んだと聞くが」
「そのとおりです。シトレ元帥、小官は二つの目的のために今次作戦計画を最高評議会議長に持ち込みました」
「二つの目的?」
「はい。ひとつは現政権が軍事についてどれだけ真摯に対応しているのかあるいは玩具にしているのかを計るため。ふたつめは現政権が軍事的問題点についてどれだけ理解しているのかを計るため」
「ひとつめの答えは先程の録音にあった通り。ふたつめの答えは叩き台としての素案を問題点の洗い出しもせずにそのまま決定案にしてしまったこと。以上のことにより現政権は信用に値しないと小官は考えます」
「・・・まさか貴官はクーデターを考えているのか!」
「いいえ。ビュコック提督、120パーセント失敗するクーデターなんて参加したくもありません」
「はぁ?」
「クーデターを成功させるためには市民の賛同が必要です。首謀者への信用・信頼と言い換えても良いでしょう。しかし現在の同盟軍に対する市民の信頼は地に落ちています」
「なぜなら、『エルファシルの奇跡』『ヴァンフリート4=2後方基地』『グランドカナル号事件』等、ボロディン提督がおっしゃた「民間人を守る」や「友軍の後方基地支援」すら疎かにしているのにも拘らず、軍上層部は誰一人処罰を受けていない。それどころか各事案毎に英雄を作り上げ宣伝し市民の目をそちらに逸らし続けてきた」
「後方部隊でも国防委員長付きの将官が、『軍服を汚した』と言って民間時の少女に対して脅迫し、周りで見ていた他の将官は誰一人止めもしない始末」
「この状況では例え同盟軍首脳部の誰かが『自由惑星同盟のために立ち上がった』と主張したところで市民は誰も信じてくれませんし、賛同もしないでしょう。それどころか反発されて半年と持たずに失敗するのが落ちです」
グリーンヒル大将が渋い声で問いかけてきた
「では、貴官はどうするべきだと言うのだね」
「『今次作戦の明確な戦略的・戦術的目的がない』と言うことは、どのタイミングで撤退しても良いと解釈し大規模な「威力偵察」と位置づけて焦土作戦を確認したところで撤退。現政権には退場して頂き、新政権には軍事的問題点の認識を新しい同盟軍上層部と共有してもらうために積極的にアプローチすべきと考えます」
「そしてヤン提督には同盟軍の“顔”になっていただきます」
「え?ちょっ、ちょっと待って
「ヤン提督!提督は『エルファシルの英雄』なのです。その真価を提督は理解されていない」
「真価?」
「そう、『軍上層部の意向に逆らってでも民間人を救った軍人』という価値です。これは他の諸提督にはないものです」
「地に落ちた同盟軍の信用を回復するには上層部を刷新し『エルファシルの英雄』であるヤン提督を前面に押し出していくしかありません」
ヤンは口をパクパクさせているが言葉になっていなかった。
****************
結局、作戦案としては『焦土作戦を警戒しつつ進攻し、焦土作戦を確認できしだい撤退する。ただし威力偵察として進攻ルート上の各星系の軍事的・地勢的情報の収集を密にする』となった。
(よっしゃー!!最大の死亡フラグを回避したぞーーー!)
(この2ヵ月半の苦労が実ったーーー!)
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