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鎧虫戦記-バグレイダース-

作者:
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第09話 妖艶のベルカ

 
前書き
どうも蛹です。
今回も情報を提供します。
医務室‥‥‥‥‥‥擦り傷、切り傷、果てには骨折まで対応できる
       総合病院ばりの医療機器を備えた部屋。
       広さは東京ドームの約半分ぐらい。
       再生能力の高い収容者たちが使うことはほとんどない。
       使うのは、もっぱら雇われた軍人たちである。
       医師は週七日で(要は毎日)出勤(ていうか住んでる)している。
       人数は合計21人で、男性が13人、女性が8人である。
       医務室ながら研究所でもあるので、細菌やウイルス、毒物に対しての
       治療薬を開発する仕事も行われている。
       

彼らの作った薬品は、世界でも効果を発揮しています。
基本的に、医務室の先生たちはいい人たちです。

それでは第09話、始まります!! 

 
「見つけたぞ!!」

セキレイたちの元に軍人たちが銃を構えたまま走って来た。
彼らは表向きは戦国博士に忠誠を誓っている。
だが、実際はこの不自由な世界を生き抜くためのいわば“擬態”である。

「覚悟しろ!!」

そう言って全員は改めて銃をセキレイたちに狙いを定めた。
セキレイはゆっくりと立ち上がって軍人たちを見た。

「お前らも‥‥‥‥俺と一緒なんだな‥‥‥‥‥」

軍人たちは、職員と同じく実験を受けずに待遇されていたのではないか。
今までセキレイはそう思っていた。しかし、今は違う。
むしろ、収容者たちよりも厳しい場所だったのではないだろうか。
一度命令を背けば、彼らも収容者と同じ、いやそれ以上の目にあうだろう。

故に“擬態”。己を危険から守る為に己の見た目を変えている。
この施設の職員たちは、そうして生き延びてきたのである。

「“自由”じゃ‥‥‥‥ないんだな‥‥‥‥‥‥」

セキレイはそう言いながら彼らの方に向かって歩き始めた。

「全員、掃しゃ――――――」


 ドスッ!!


この隊の隊長らしい人の言葉は
セキレイの一撃の前に阻まれた。
鉤爪が彼の腹に深々と突き刺さっていた。

「ガハッ!!」

隊長は血を吐いた。おそらく鉤爪が内臓を傷つけたのだろう。
このままでは彼は出血によって死んでしまう。
だが、隊長の顔は不思議と安らかに見えた。
セキレイは耳元に口を近づけた。

「アンタも‥‥‥‥“自由”が欲しいのか?」

彼はそれを聞いて目を見開いた。
そして、痛みに耐えながら口を開いた。

「私も‥‥‥君のような力があれば‥‥‥‥‥」

彼の声は震えていた。
人は事実を突きつけられると感情が動かされるのだ。
彼は歯を食いしばり、悔しがっていた。

「‥‥‥‥‥お互い大変だよな」

セキレイは少しだけ微笑みながらそう言うと
爪を抜いて、ゆっくりと気遣いながら隊長を横に寝かせた。

「おばちゃん。治してやってくれないか?」

それを聞いたカツコは少しの間、困惑していた。
しかし、すぐに頷いて近づいて行った。

「貴様ッ!隊長に情けをかけるのかッ!!」

立ち尽くしていた軍人たちの一人が怒鳴った。

「死んで初めて“自由”が手に入る奴もいる。
 その事実をつい最近に突きつけられた。
 でも、やっぱりおれは誰にも死んで欲しくないんだ」

セキレイは遠くのカメラを一つ見ながら言った。

「戦国博士‥‥‥‥アンタには感謝してる。命の恩人だしな。
 でも、どうして“自由”を奪うんだ?
 家族みたいに、みんなで楽しく毎日を過ごせばいいんじゃないのか?
 アンタは自分以外の人間をただの道具ぐらいにしか思わないのは何でだ?
 脳の構造が根本的におれ達とは違うのか?‥‥‥‥‥疑問だらけだよ」

セキレイはカメラをギンッと睨んだ。

「ただ一つだけ言えることは‥‥‥‥‥おれはお前を許さねぇってことだッ!!」

彼は拳を握りしめて叫んだ。



    **********



 ポウゥゥ‥‥‥‥


カツコの″治療光線《リカバリーレイ》″が隊長の患部を
強く、それでいて優しく照らした。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ふぅ」

彼女は一息ついて手を離した。
隊長の腹部に開いた5つの穴は完全に塞がっていた。

「あとは医務室で治してもらってね」

彼女は眩しい笑顔で言った。
隊長はそれを見て少し顔を赤くした。

「あ、ありがとうございます‥‥‥‥‥」

隊長は礼を言った。そして全員で医務室へと歩いて行った。


「‥‥‥‥‥‥‥行っちゃったね」

ハトはつぶやいた。

「そうだな‥‥‥‥」

セキレイはそれに答えた。

「この後、悪いことがなければいいけど‥‥‥‥‥‥」

カツコは軍人たちの後ろ姿を見ながらつぶやいた。
彼らの後ろ姿が廊下を曲がって完全に見えなくなった。その瞬間――――――――


 ドゴオオオォォォォォォォォォォオオオンッッ!!


謎の轟音が響き渡った。
そして、壁の向こうから二体の素体型″鎧虫″が攻め込んできた。
全員はとにかく逆方向に全力で走った。

「な、何だありゃあッ!?」
「おっきな虫さん!?」
「ただの化け物じゃないかッ!!」

3人はその光景を見て叫んだ。
今までずっと施設内で過ごしてきたため、
セキレイとハト、ジョンは″鎧虫″の事を知らなかった。

「あれは″鎧虫″よ!外ではこんなのがウヨウヨいるのよッ!!」

カツコは″鎧虫″についての事を知っているようである。
施設の職員なので、わからないことはない。

「みんな下がっててッ!!」

カツコは二体の″鎧虫″の前に立ちふさがった。
セキレイはそれを見て急ブレーキをかけて叫んだ。

「おばちゃん、潰されるぞッ!!」

カツコは右の袖を二の腕までまくった。

「いいえ、私は大丈夫よ」

鎧虫は轟音を立てながら容赦なく走って来ている。
カツコは逆に奴らの方向へ走った。

「さぁ、かかって来なさいッ!!」

そう彼女が叫んだ瞬間に、″鎧虫″二体に異変が起こった。


 ザザンッ!!


二体の身体が横から上下に真っ二つになったのである。
そして、そのままに体は床に崩れ落ちた。

「まったく‥‥‥‥危ないじゃろ?」

″鎧虫″二体の上に立った男はそう言った。
それを見たカツコは急いでその男に駆け寄った。
男は″鎧虫″から跳び降りた。

「これだから心配なんじゃ――――――おわっ!?」
「あなたッ!!」


 ガバッ!!


カツコは男に思いっきり抱きついた。
三人は最初はただ呆然と眺めていたが
その男の顔を改めて見て、彼が何者かを思いだした。

「あッ!!カイエンッ!!」

彼はあの時セキレイたちを助けた老人、カイエンだった。
カツコは彼の顔をいじりながら言った。

「久しぶりねぇ。大丈夫だったの?」

カツコの問いにカイエンはあっさり答えた。

「そりゃあもう、今日はハチャメチャな一日じゃったよ」

返答を聞いたカツコは少しムッとした顔で言った。

「いつからおじーちゃん言葉になったのよ?」
「どうせワシはあと少しで400なんじゃし。老人まっしぐらじゃ」
「私は昔のワイルドなあなたが好きだったのに」
「今でもハードボイルドじゃが?」

そんな感じの会話がしばらく続いていたが、セキレイは少し心配だった。
あの巨大な虫、″鎧虫″がまた動き始めるのではないかと。

「大丈夫じゃよ」

セキレイの心情を察したかのようにカイエンは言った。

「焼き切られた傷は再生が遅い。それに核をやったからもう動けん」

カイエンの言う通り、傷は熱によるものか焦げていた。
腹の横側に見えるポコッと出た何個もある″増殖器官"は
全てさっきの一撃で真っ二つに断ち切られていた。

「よぅ、若者よ。また会ったな」

カイエンは軽く手を上げた。

「ね、ねぇ‥‥‥‥‥」

ハトはカイエンに質問を投げかけた。

「おばちゃんとおじいちゃんって“ふうふ”なの?」

それを聞いたカツコはカイエンの腕に抱きついて答えた。

「そうよ、私たちは夫婦なの♡」
「‥‥‥‥‥‥ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええッ!!?」

三人は目の前の二人を見ながら大声で叫んだ。



    **********



「夫婦かぁ‥‥‥‥‥‥」

セキレイはその言葉を反芻していた。

「やっぱこういう所でも居るんだな。そういう人たちが」

彼は二人を眺めながら言った。
二人は何かイチャイチャとしている。

「久しぶりに会った奥さんに“シワが増えた”はないでしょ!!
 こう見えても手入れはキチンとしてるんだからッ!!」
「すまんすまん‥‥‥でも、久しぶりに会えてうれしいのはホントじゃよ。
 綺麗な奥さんの顔にシワが増えていくのが嫌じゃな‥‥‥って思ってな」
「えっ?そ、そう?綺麗かしら。もーーーッ!
 綺麗だなんて言われたら、私恥ずかしいじゃない!!」
「またそう言う所も―――――――」

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥何かイチャイチャとしている。

「おばちゃん達は“らぶらぶ”なんだね」
「‥‥‥‥‥まぁ、そうだな」

ハトはその光景を見て何かを想像していた。
すぐに赤くなった。そして、首を振ってそれを吹き飛ばした。
彼女は、顔をセキレイの方向に向けて訊いた。

「セキレイお兄ちゃんは好きな人いるの?」

唐突な質問を理解するのに少し時間がかかった。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥~~~~~~~~ッッ!!?」

理解した。

「な、何で急にそ、そんなこと訊くんだよッ!?」

セキレイはつっかえながらも訊き返した。
ハトは小さい体をさらに小さくして答えた。

「私には‥‥‥‥‥いるから」

その答えにセキレイは驚きを隠せなかった。
老夫婦のイチャイチャで少し騒がしいはずのこの場が
静寂の中に包まれたように感じた。

「お、お兄ちゃんは‥‥‥‥どうなの、かなって‥‥‥思って‥‥‥‥‥」

ハトは顔を赤くしてセキレイの方をじっと見ていた。
仕方ないので、彼は正直に答えた。

「おれもいるよ」

それを聞いたハトは少し不安そうな顔になった。
セキレイは話を続けた。

「そいつとは、あった瞬間驚かされて、久しぶりに会ってみたら
 なんか前よりも可愛くなってて、子供で、泣き虫で、でも強くて
 おれは会った時から、何故かそいつに惹かれてたんだ」

ハトの表情が少しずつ喜びで満ちていっているように見えた。

「そいつはおれの事をとても大事に思ってくれた。
 おれがやられた時は、本気で悲しんでくれた。
 おれが死にそうな時は、本気で祈ってくれた。
 家族のいないおれを、いつも支えてくれていた。
 そんな奴だから‥‥‥‥‥‥‥‥かな」

セキレイはそう言うと、少し顔をそらした。

「そいつが、おれをどう思ってくれてるかは知らねぇ。
 だが、少なくともおれは、そいつの事が好きだな」

それを聞いたハトは、頬を赤く染めて笑顔になった。
セキレイも顔を戻して笑顔を見せた。



「俺が完全に置いてかれてるんですけど‥‥‥‥‥」

ジョンは全員に聞こえるようにつぶやいた。
全員はジョンの方に顔を向けた。

「ここが監獄内か、外に出たときならまだいいけどさ
 俺達は脱走中で今追われてるんだよ。
 逃げるかどうにかして安全なとこまで逃げないと――――――――」


 ドゴオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオンッ!!!


突如、轟音が鳴り響いた。壁を何かが壊したようだ。
そして、素体型″鎧虫″がまた這い出てきた。しかも今度は沢山。

「――――――――――こうなる」

ジョンは最後に付け加えた。

「ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッッ!!」

″鎧虫″たちは口々に叫び声を上げた。
セキレイたちはそれを後ろ目に全速力で走った。

「何でまたさっきみたいなデカ虫が追いかけて来てんだよッ!?」
「″鎧虫″よ!多分、戦国博士が外から捕獲したか自分で作ったのよ!
 それを、私たちを殺すために解き放っただけッ!!」

そう言うと、カツコは立ち止まって再び右の袖を二の腕までまくった。

「カツコ、ここはワシがやるからお前は逃げろ!」

カイエンは彼女の肩を掴んで前に出ながら言った。
しかし、それを腕を出して止めた。

「私‥‥‥‥‥‥守られてばっかじゃ嫌よ。
 お互い支え合ってこその夫婦でしょ?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」 

少しの間を置いて、カイエンは一歩下がった。

「仕方ないのぅ。じゃが、危なくなったら下がれよ」
「言われなくてもわかってるわよ」

カツコは笑顔を向けると、鎧虫の方に顔を戻してゆっくりと歩いて行った。
向こうから遅って来ている″鎧虫″たちとは、まるで対照的な動きだった。

「さぁ、かかって来なさいッ!」

カツコは″鎧虫″たちの前で仁王立ちした。

「ギッ!?ギィィィッ!!?」

すると、さっきまで血気盛んに攻めて来ていた″鎧虫″たちが
その脚を止めて動かなくなった。何かを警戒しているようだ。

「あら、気付いちゃった?私が危険って事」

カツコは少しずつ近寄って行った。
しかし″鎧虫″が離れて行くので結局、距離は縮まらなかった。

「これじゃあ話にならないわね」

そう言いながら右手を差し出した。
それを見た″鎧虫″たちはビクッと身を強がらせた。

 
 ブワァァァァァァッ!!


右手からツタのようなモノが明らかに
質量保存の法則を完全に無視して、這い出て来ていた。
しかも、それにはトゲまで付いており
あからさまに自らが危険な事を表していた。

「〔 棘の花園(ローズソーン) 〕」

イバラは″鎧虫″たちを完全に取り囲んだ。
沢山の″鎧虫″たちを入れ込んだ籠の様に
上下左右、脱出不可能な牢獄を彼女は作り出した。


「やっぱり衰えてないな‥‥‥‥‥‥ベルカは」

カイエンは、しまったと言いながらすぐに口を閉じた。
ハトは気になったので彼に訊いた。

「ベルカって、もしかしておばちゃんのお名前?」

彼はため息を一つ吐くと答えた。

「ワシも実は偽名じゃし、それは彼女も同じじゃ。
 彼女は一昔前には、″妖艶のベルカ″と呼ばれるほどの
 強くたくましく、そして美しい女性だったんじゃ」

カイエンは中で戦っているベルカの姿を眺めていた。
彼女は範囲の限られた空間の中を舞い踊っていた。

「やっぱり昔と変わらんのぅ」

彼は昔の姿と重ね合わせながらつぶやいた。 
 

 
後書き
なんと食堂のおばちゃんこと、カツコも偽名でした!
(カイエンの奥さんと言うあたりから気付いた人も多いかも)
″妖艶のベルカ″なんて、昔はどれだけ綺麗だったのでしょうか?
(あ、まぁ、もちろん、今もお綺麗ですが‥‥‥‥)

初の技名が出ました。ローズソーン、イバラの花園です。
(正しくはバラのトゲって意味の英語ですが)
次から技名にはこの〔 〕を使いますので、覚えておいてください。

ついに始まったカツコ、真の名をベルカの″舞踏会(たたかい)″。
腕を棘に変形するというのは、まさかもう一つの″超技術″?
果たして、彼女の能力とは一体何なのか!?

次回、第10話 苦渋のセンゴク お楽しみに! 
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