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鎧虫戦記-バグレイダース-

作者:
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第010話 苦渋のセンゴク

 
前書き
どうも蛹です。
今回も情報を提供します。
施設中枢部‥‥‥‥‥‥文字通り、施設の全てのシステムの中枢を担う中央管制室。
         職員の中でも、精鋭中の精鋭にしか入れない特別な部屋。
         電気系統、施設内温度、監視カメラ等、機械の管制を行う際に
         非常に熱がこもる為、冷房完備である(ちょっと寒い)。
         だが、こうしないと熱で全員丸焦げになってしまうのだ。
         最近、″PHIS(ファイズ)″という巨大演算装置が導入され
         今までかかっていた職員の負担が、かなり軽くなった。
         ちなみに、名称の意味は黄金比などを意味するΦ(ファイ)の複数形。
         転じて、“賢き者達”という意味である。      

ご存知かもしれませんが、Φ(ファイ)はギリシャ文字です。

それでは第10話、始まります!! 

 
薔薇(バラ)”―――――――――それは妖艶なる物。

棘の牢獄の中に舞うその花には触れてはならない。

何ゆえか?‥‥‥‥‥‥毒があるからである。


 ドゴッ!ドォンッ!ドゴォンッ!


「ほらほら、そんなんじゃ全然当たらないわよ~」

″鎧虫″たちは脚を振り下ろして、その花を散らそうとしていた。
しかし、彼女はその全てを紙一重で避け続けた。


 ドゴォォオンッ!!


「キャッ!んもう、危ないじゃないの!」

目の前に振り下ろされた脚をバックステップでかわしながら声を上げた。
体のサイズがまるで違うため、逃げ続けるには限界があった。
彼女の命を刈り取る時が″鎧虫″たちに近づきつつあった。

「いい加減にしないと‥‥‥‥‥‥怒るわよ?」

だがそれは、彼女が反撃しないことが前提の話である。



    **********



「おばちゃんがあんな狭い所で戦ってる‥‥‥‥‥」

ハトは戦況を眺めながらつぶやいた。

「昔から相手の攻撃を避ける天才じゃったからのぅ。
 スゴイじゃろ、ワシの奥さん♪」

カイエンが自慢げに言った。
ハトは目を輝かせてうなずいた。

「そう言えば、おばちゃんのアレは何なの?」

ハトは腕を変身して戦うカツコの出した棘を見ながら訊いた。
カイエンは袖をまくりながら言った。

「″侵略虫″は知っとるかのぅ?」
「うん」

ハトは軽くうなずいた。

「おじいちゃんもでしょ?」
「あぁ、そうじゃ。だが、彼女はワシとは少し違う」

カイエンは腕を変身させた。
段々と節が沢山ある変な形になっていた。
その隣から脚(?)が沢山生えているように見えた。

「ワシはそっちで言う“トビズムカデ”という種類の虫じゃ」
「む、ムカデ!?」

ハトは背筋に寒気がして両手で身体を抱えた。


※トビズムカデとは頭が赤く、胴体は黒く、脚の黄色い、道端でもよく見るムカデ。
 日本ではかなり大きいタイプで毒を持っている。
 (あまり細かく書く部分がなかったのでカットさせて頂きます)


「虫さんは嫌いじゃないけど、ムカデさんは怖いから苦手‥‥‥‥‥」
「全然それでええよ。ワシはそれには慣れっこじゃ」
「ごめんね、おじいちゃん‥‥‥‥‥あれ?」

うまく話をたぶらかされた事にハトは気付いた。

「話が変わってるよおじいちゃん!」

彼女は大声を上げた。

「すまんすまん。つまり、彼女はワシらとは違って
 虫ではないことを言いたかったんじゃ」

カイエンは腕を元に戻しながら言った。

「ワシはムカデじゃが、彼女は“薔薇(バラ)”なんじゃ。それも猛毒のな」
「バラ‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

ハトはその名前を頭の中で繰り返した。
前に本で読んだ、緑の茎にトゲを持つ、あの真紅の花の名前を。



    **********



「ギィイッ!!ギイィィィィッ!!」

素体型とはいえ″鎧虫″たちが中で散々暴れまわったのに
カツコが作った棘の牢獄は今だに崩れずにいた。

「無駄よ。私のバラはあなた達じゃ散らすことはできない」

彼女はそう言いながら、もう片方の袖を二の腕までまくった。
そして、漫画の中のキャラの様に両腕を広げた。

「さぁて、お仕置きの時間よ♪」


 バンッ!! シュルルルルルルッ!!


思い切り両手を地面に手の平から叩き付けた。
すると、そこから大量の棘が不規則にうごめきながら
″鎧虫″たちのいる方向へと伸び始めた。



彼女のような生物を地球では″植物人(ベジテイター)″と呼んでいる。
運動能力は他の″侵略虫″と比べれば高い方ではない。
代わりに強力な″超技術″を持っていることが多い。
植物の行えることは大体何でもできる。

一番の特徴は何といっても植物の生長である。
小さなエネルギーを巨大なものへと変える″増殖器官″によって
植物の生長スピードを圧倒的なものにしている。
よって、自身の身体よりもはるかに強大なツタや茎を
生やすことが出来るのである。



「ギイッ!?ギイィィィイイッ!?」

″鎧虫″たちは必死に抵抗したが、狭い牢獄の中ではそれも空しく
最終的に、素体型″鎧虫″11体は全て拘束されてしまった。

「さてと‥‥‥‥‥」

そうつぶやきながらカツコは両手を棘から切り離した。
そして、一体の″鎧虫″の頭のとなりに立った。
″鎧虫″は何とか抜けようとしているが、それは無駄のように見えた。

 チクッ

カツコは指先をトゲ状にして、″鎧虫″の柔らかい首の関節部分に突き刺した。

「ギイイイィィィィィィィイイイイッッ!!」


 ダンダンッ! バタバタバタッ!!


最後の抵抗なのか、″鎧虫″はバタバタと脚を動かしたりして暴れた。
しかし、少しずつ動きが鈍くなっていき、最終的に動かなくなった。

「‥‥‥‥‥おやすみなさい」

そう言いながらトゲ上の指をゆっくりと抜いた。
他のヤツらにも、さっきと同様の動きをして
全ての″鎧虫″を完全に制圧してしまった。



    **********



「ふー、疲れた」

カツコは床に座り込んだ。
そこにセキレイたちも走り寄った。

「おばちゃん」
「ん、何?」

セキレイは棘の牢獄を抜けて出てきたカツコに声をかけた。

「もしかして‥‥‥‥‥‥‥殺しちゃったの?」

ハトは少し泣きそうな顔で訊いた。
カツコはハトの顔を見て答えた。

「そんなことしないわよ、可哀想だもの。
 みんな私の毒で寝ちゃってるだけよ」

何となく矛盾した一言だった。
セキレイは微妙な顔をしていた。
視線の先の寝ている″鎧虫″を見ながら彼女に訊いた。

「毒って睡眠薬みたいなモンなのか?」
「えぇ、大体そんな感じよ」

カツコは人差し指を変形させて棘を伸ばした。
鋭くて、いかにも危なそうなトゲが無数に生えていた。

「私は地球では、″甲条薔薇(コウチョウバラ)″っていう種類らしいわ」



彼女の能力、″甲条薔薇《コウチョウバラ》″とは
206×年に福岡県 三井郡 大刀洗町 甲条で発見された突然変異種。
しかも個体数が他種より圧倒的に少なく、甲条市内に点在していて
絶滅危惧種に指定されていた(現在は日本と共に消滅)。

見た感じはごく普通の紅いバラで
その美しさに魅了された人間たちは、それを採取して持ち帰ったりしていた。
このバラの有害性に気付くまで、それは続けられたという。

美しいバラには毒がある、などとたまに言われるが
本来、毒を持つ種類のバラは存在しなかった。
だが今は違う。毒を持つバラがこの世に生まれてしまったのである。

毒は体内に入ると、血管内を巡って
その生物の中枢神経に到達、直接作用し
機能を少しずつ低下させていくというものである。
つまりは、もの凄く眠たくなってしまうのだ。

微量なら睡眠薬のようにほとんど無害だが
入りすぎれば心臓や脳の活動さえも停止し
まさに眠るように死を迎えることとなるのだ。
これにより、市内3724人が病院に運ばれ
内2061人が死亡したという。

これを知った議会は花の焼却処分を始めようとしたが市がそれを拒否。
絶滅危惧種化を破棄したが、それにより市民のほぼ全員が反対運動を始めた。
やむを得ず、再び絶滅危惧種に指定し直された。

市内では、“甲条薔薇特別保護条例”という法が発令された。
これは、もしバラを見つけた場合は手で触れず、すぐに市役所等に連絡し
普通のバラだった場合はそのまま放置、″甲条薔薇(コウチョウバラ)″だった場合は
“植物管理センター”が回収するという条例である。

処理を誤らなければ安全な植物なので
甲条市ではガラスケース内でそれらを栽培。
安全に配慮した上で、甲条市が経営する大型植物園で展覧された。
これにより市内外、全国、果てには海外からも観光客が訪れた。
209×年のあの日に、日本が消滅するまで
甲条薔薇(コウチョウバラ)″は園内の大人気植物だったという。



「悲しいわ‥‥‥‥‥こんなに綺麗なのに」

カツコは指先にバラの花を咲かせた。
反らすように大きく花弁を広げた赤いバラだった。

「そんなことないよ。とっても素敵」

ハトはほんわかとバラを眺めながら言った。

「痛かったり、苦しかったりする毒だって沢山あるのに
 このバラさんはみんなが苦しまない毒を選んだの。
 同じ死でも辛くない方が‥‥‥‥‥‥私はいいかな」

彼女は花弁をつまみながらそう続けた。

「‥‥‥‥‥ふふっ、そうね。私もそう思う」

カツコもハトと同じように指に咲いたバラの花弁をつまんだ。

「‥‥‥痛みは確かに辛い」

セキレイはつぶやいた。

「でも、痛みは生きている証だ。その痛みを奪うのは
 命を奪うことに等しいんじゃないのか?」

彼は最近学んだ教訓を生かしてこう言った。
それに彼女たちはしばらく反論できずにいた。

「‥‥‥‥だったらセキレイちゃんは、痛みしかない手術を受けたかったの?」

その言葉にセキレイはギクッとした。

「あなたが″EVOL手術″を受けるとき、麻酔を受けたはずよ。
 その時の麻酔もきっと痛覚を麻痺させる、痛みを奪うでしょうね?」

彼は少しずつ体を小さくしていった。

「治すには薬だけではダメな場合がある。だから人間は手術の道を選んだ。
 その手術に置いて痛みは障害なの。生きる上での支障でしかないの。
 確かに、あなたが受けたのは人体の改造手術かもしれない。
 それでも、あなたはその時、平気で命を捨てたのよ」

 バタッ!!

彼はついに倒れた。

「‥‥‥‥‥‥おれが言えることじゃなかったな」

セキレイは顔を押さえたまま言った。

「何にせよ、毒は毒。薬に名を変えてもその恐ろしさは変わらない。
 大事なのは、それをいかに使うかよ。そうすればどんな毒でも薬になる」

カツコは指の変身を解いた。

「それに確かに痛みも大事よ?」

 ギュッ!

彼女は上半身だけを起こしたセキレイの右の頬をつねった。

「いででででででッ!何すんだよ!!」

セキレイは声を上げた。

「‥‥‥‥‥‥‥でないと生を実感できないものね?」

カツコは彼の頬から手を離しながらこう付け加えた。
代わりにハトの手がセキレイの左の頬に伸びた。

「やっぱり痛みは大事だね♪」

 きゅっ

ハトは彼の頬を軽くつまんだ。

「‥‥‥‥‥そーだな」

 きゅっ

セキレイはハトのやわらかい頬をつまみ返した。


 ザバザバザバザバザバザバッ!!


ジョンが遠くから床を泳いで来た。
彼とカイエンは少しの間、偵察に行ったのである。
彼はその勢いのまま床から上がって、そのまま立ち上がった。

「何やってんだ?セキレイ、ハトちゃん」

二人は互いの頬をつまんだまま彼の方を向いていた。

「また一つ良い事を学んだんだよ」
「痛みは大事なんだよ~♪」
「‥‥‥‥‥‥‥‥はぁ」

二人の言葉にジョンは生返事しかできなかった。

「それより、あっちには監視はほとんどなかったぞ?」
「向こうにもじゃ」

突然、後ろからカイエンに声をかけられて三人はやや驚いた。
ジョンはすでに見えていたらしく、あまり反応しなかった。
そして、三人は後ろを振り返って彼の顔を見た。

「本来ならもっと多くの監視がいてもおかしくないんじゃが
 何故か向こうの方にはニ、三人ずつしかおらんかった」

カイエンは指で廊下の曲がり角を指した。
二、三人といったら通常の監視と同じ状態である。

「おれたちを逃がすつもりなのか?」
「さぁ?博士は私たちとは思考がまるで違うからねぇ」

カツコは首をすくめた。

「むしろ、何かないとおかしい。戦国はそういう男だ。
 最後まで何を考えているかわからんからそこは注意しておくように」 

カイエンは全員に呼びかけた。
全員はそれぞれ返事をした。

「とりあえず、今は先を急ごう」

その提案に賛成らしく、全員は立ち上がって歩き始めた。



    **********



 ー監視室 地下2階 中枢部ー

「彼らは今どこにいるんだい?」

戦国は室内の職員に質問した。

「現在、地下5階の階段を経由して、地下4階まで来ています」
「″PHIS(ファイズ)″の計算上はあと30分程でここの階に来ると予想されています」

デバイスの前に座っていた職員たちが答えた。
戦国はしばらく沈黙していた。

「‥‥‥‥‥‥‥‥多分その判定は覆るよ」

それを聞いた職員の一人は訊いた。

「戦国博士が作り上げた″PHIS(ファイズ)″に何か欠陥でも?」
「まぁ、所詮はリサイクル製品だからね‥‥‥‥‥ぼく特製の。
 欠陥というよりも、まだ性能が低いのさ。そこの所は後々手直ししていくよ」


 ズズズ‥‥‥


戦国はそう言いながらコーヒーを啜った。

「‥‥‥‥‥‥‥‥苦い」

そうつぶやくとミルクと砂糖を取り出して加えた。
置いていたスプーンでそれをゆっくりとかき混ぜた。
そして再びコーヒーを啜った。


 ズズズ‥‥‥


「‥‥‥‥‥‥‥‥やっぱり苦い」

彼は渋々コーヒーを飲み干すと
空のコップをコースターの上に置いた。
静かな部屋の中にカチリという音が響いた。

「こんな苦いコーヒーをわざわざ飲む人の気持ちが分からない‥‥‥‥‥‥‥」

彼はコップに付いた黒い液体の茶渋を眺めながらつぶやいた。
戦国は甘い物が好物なので、苦いコーヒーは苦手だという。

「コーヒーはもともと眠気覚ましですから
 無理して飲まなくてもいいのではないでしょうか?」

職員の一人が戦国にそう尋ねた。
戦国は机の中から棒付きのアメを取り出して口にくわえた。

「そんなことは前から知ってるけど
 やっぱり飲めたらカッコイイじゃないか。ハッハッハッ♪」


 カタカタカタカタカタカタカタ‥‥‥‥‥


戦国は頬杖を突いて笑いながら片手でパソコンを弄った。


 ヴンッ!


何もなかった空間に突然、映像が照らし出された。
そこには″新人類作成計画 資料名″と書かれており
その下に顔写真と名前だけが表示されていた。


 
 セキレイ  ハト  ボブ  レオナルド  アヴァン  


「この五人が″EVOL″作成の鍵なんですね」

職員の一人が五人の写真を見ながら言った。

「そうだよ。だから、彼らは死体でもいいから回収したいんだ。
 そのためにみんなには頑張ってもらいたいね。ハッハッハッ♪」

人を人として見ない男、戦国は
満面のどす黒い笑みを浮かべたながら言った。 
 

 
後書き
苦渋ってコーヒーにかよッ!!とツッコんで欲しいがためのタイトルでした。
戦国博士のキャラは未だ私でさえ掴めていませんが
こんな感じの何か抜けた感じの天才という設定で行くつもりです。

ついに姿を見せた戦国博士(意外と軽い男だった)。
彼が求める″EVOL″とは一体何なのか?
セキレイたちはこの施設を脱出することが出来るのか!

次回、第011話 灼炎のゼロ お楽しみに! 
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