鎧虫戦記-バグレイダース-
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第08話 昇天のサバキ
前書き
どうも蛹です。
今回も情報を提供します。
サバキ(802号)‥‥‥4年前に収容された青年。当時16歳。
身長187cm 体重81kg 髪:黒、オールバック
ある事件があって以来、性格が歪んでしまった。
だが、周りが言うほど悪くはなく子供受けもいいらしい。
昔からもの覚えは良い方で、蛾の能力を得てからは
必死に糸の練習をし、今では数秒あれば
相手を完全に拘束できるまでになっている。
甘い物が苦手なので、ケーキ等が食べられない。
カツコが作った“生地の甘さだけドーナツ”のみ
食べて人並みに美味しいと感じた(他の人にも大人気)
彼は何があって札付きのワルと化したのでしょうね‥‥‥‥?
それでは第08話、始まります!!
「さぁ、この状況をどうやって打破する?」
サバキは口元を大きく歪めながら叫んだ。
セキレイは糸から抜けるために必死にもがいていた。
「無駄だぜ、お前のパワーでも。糸の張力とテコの原理で
完全に拘束しているからな」
糸は周りの壁に張り付いたり、柱に引っかかったりしていて
セキレイが脱出することが出来ないようになっていた。
「やっぱダメか‥‥‥‥‥」
彼は息を切らしながらつぶやいた。
『″重力無効″は使っても、おれは抜けられないし
アイツは自分の足の裏にでも糸を付けてたら浮かないだろうな。
だが、まさか″超重堅鋼″まで効かないとは‥‥‥‥‥‥』
セキレイの″超技術″、″超重堅鋼″とは
全身を密度の非常に高い超硬質の物体で覆い
肉体の防御力を引き上げるという補助系能力である。
高密度ゆえに硬いが重く、通常は移動さえ困難なほどである。
しかし、セキレイは″重力無効《ゼログラ》″を併用することで
通常と同じ重さで動くことが出来るのである。
強烈な攻撃を受けたときは、体を重石にして
急停止することも可能。弱点も使いようなのである。
ちなみにセキレイはこの能力を《ヘビメタ》と呼んでいる。
「俺の"硬度無効"の前ではお前もダメなようだな!!」
「ゼ、ゼロハード!?(何だそれ、めっちゃカッコイイ‥‥‥‥)」
サバキの言葉をセキレイはオウム返しをしながら少し悔しがった。
何故コイツがこんなカッコイイ能力名なのかと。
サバキの″超技術″、"硬度無効"とは
物体の硬度をそのままに、部分的に硬度を無視して
接触することが出来る影響系能力である。
硬さを無視できるが具体的にどんな硬さまで
引き下がるのかは本人も知らないらしい。
この能力を使用すれば、ダイヤモンドであろうと何であろうと
彼の糸は食い込んでいき、最終的には切断することができるのである。
弱点は、彼が直接、または自ら出したもので間接的に触れなければ
能力が発動しないということである(あまり大した弱点はないのだが)
ギリギリギリギリギリギリッ
「ッッ‥‥‥‥クソッ」
さらに締め上げられているため
セキレイの身体は所々から出血を始めた。
流れ出た赤い血が白い糸を伝った。
「これで終わりか?セキレイ」
サバキが何か言ったような気がしたが、ほとんど聞こえなかった。
締め上げる力が強すぎて、今にも意識を失いそうだった。
「何で‥‥‥‥」
セキレイは口を開いた。
「何であの時にしなかったんだよ‥‥‥‥‥」
彼は思い出していた。ハトが撃たれた時の光景を。
その時の彼はとても弱そうで、今のような状況まで
追い込まれるとは全く想像できなかった。
だが、今は違う彼の目には謎の闘志が溢れて来ていた。
人はこうも簡単に変わることが出来るのだろうか?
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
サバキは少しの沈黙の後につぶやいた。
「そんなの俺の勝手だろ」
彼の声はわずかながら震えて聞こえた。
それは恐怖ではなく、哀しみのように感じた。
「‥‥‥‥‥‥‥予定変更だ。今、殺す」
サバキはさらに強く糸を締め付けた。
ギリギリギリギリッ
「うぐッ!‥‥‥‥がァッ!」
セキレイは五体がバラバラになりそうなほど締め付けられ
意識が別世界へと飛びかけた。そのとき――――――
頑張って!!―――――――セキレイお兄ちゃんッ!!―――――――――――
暗闇の中からハトが呼んだ気がした。
もちろん、それは幻聴だった。彼女はジョンとカツコと逃げたのだから。
それでも‥‥‥‥‥彼は信じたかった。彼女が心の底から待っていることを。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁあああああッッッ!!!」
ブチッ! ブシュウッ! ブチチッ!
セキレイは両腕に力を込めた。
肉が裂けて血が噴き出しているが、構わなかった。
「なっ、テメェ血迷ったか!?」
否、セキレイは腕の筋肉を締め上げることで糸を固定し
逆に切れないようにしたのである。そうすることで
糸を手で持って引っ張っているのに等しい状態になったのだ。
「オラァッッ!!」
ブチブチィィッ!!
糸が千切れ、自由になった両腕をセキレイは横に広げた。
始めから持っていたはずのモノを取り戻すのが
これほど素晴らしいものなのだろうか。
きっと外に出れた時の爽快感はこれを遥かに上回るモノだろう。
そう、彼は予感していた。
「おれは‥‥‥‥‥“自由”を取り戻す!!」
ダンッ!!
セキレイは床が変形するほどの勢いで蹴った。
物凄いスピードでサバキの元へと近づいて行った。
「馬鹿がッ!」
ビンッ!
サバキはセキレイが突っ込んで来ている付近に数本、糸を張った。
「そのまま縦に真っ二つになっちまえ!!」
空中では方向を変えることはできない。
万事休すなのだろうか。
バサァッ!
否!彼は持っていた。羽ばたくための翼を。
それによって軌道を僅かながら逸らした。
「飛ぶ専用の翼じゃなくても、これくらいはできるんだよ!!」
ヒクイドリは翼が退化しているが
セキレイは"重力無効"を使用することで
体重をほぼゼロにし、羽ばたいた抵抗での移動を可能にしたのだった。
「チィッ、クソがッ!!」
ビンッ! ビンビンッ!
何度も仕掛けていた糸を張っているが無駄だった。
セキレイはコツを掴んだのか全ての罠を無理なく突破した。
そして、思いっきり拳を握りしめた。
「ドラアァァァアッ!!」
バキッ!
「ぐあっ!」
セキレイはサバキに向かってパンチを放った。
拳は腹に入り、彼はそのまま壁まで弾き飛ばされた。
強く打ち付けられたゆえに、壁にもたれてグッタリとしていた。
「‥‥‥‥‥‥サバキ、強ぇなアンタ」
変身を解いたセキレイは思わずつぶやいた。
「‥‥‥‥ハッ、お前に一泡吹かせることぐらいしか出来なかった俺が?」
サバキは笑いながらつぶやいた。
毒の鱗粉、糸の戦術、そして″超技術″。
彼は決して弱くはなかった。しかし、強くもなかった。
「はーーーぁあ、もう疲れた。セキレイ、さっさと俺を殺せよ」
サバキはため息まじりに言った。
彼の目にはその覚悟があった。
いや、むしろ死を望んでいるように見えた。
「‥‥‥‥‥死んでも良いことなんてない」
セキレイはこう返答した。
サバキはそれを聞いて鼻で笑った。
「でも悪いこともないぜ?死ってのはすなわち″無″だからな」
何故、サバキが死にたがっているのかがわからなかった。
奪われた“自由”を取り戻すために生き続けるセキレイ。
彼とサバキは、まるで反対の存在だった。
「俺を殺せ。でないと、またお前にしぶとく付きまとうぜ?」
それならそれでいい、そうセキレイは思った。
人の命を、人の“自由”を奪うことは、彼にはできなかった。
生とはすなわち自由、死とはすなわち‥‥‥‥‥その自由を失う時だった。
「‥‥‥‥‥‥ふざけんなよ、テメェ」
サバキの顔に青筋が立った。
足をふらつかせながらも立ち上がり、セキレイの胸ぐらを掴んだ。
「綺麗事が全部通るような世の中じゃねぇんだよッ!!
分かってんのかテメェ!!あぁんッ!?」
そう言うと、掴んでいた手を離して再び壁にもたれかかった。
息を切らして、血を吐きながら腹を押さえていた。
「グフッ!‥‥‥‥ハァ、ハァ‥‥‥まぁ、いいさ」
そうつぶやくとサバキは何かを取り出した。
バサァッ‥‥‥‥
そして、軽く羽ばたいた。毒の鱗粉が霧のように濃く舞った。
「まだやる気か‥‥‥‥?」
「安心しろ、もうお前に危害を加えるつもりはねぇ
それに、そっちは風上だ」
彼の言うことは、どちらも本当だった。
僅かながらにセキレイの後ろから風が吹いていた。
この状態なら彼が毒の鱗粉の影響を受けることはないだろう。
「できたらお前に殺って欲しかったんだがな‥‥‥‥‥仕方ねぇ」
サバキは手の中のモノからピンを抜いた。
その瞬間にそれが何かをセキレイは理解した。
『あの形状‥‥‥‥‥‥手榴弾!?』
セキレイは急いでサバキの手からそれを取り上げようとした。
バキッ!!
「ぐはッ!?」
セキレイの腹にサバキの蹴りが入った。
彼はそのまま後ろに飛んで行った。
そこは丁度、吹き抜けのようになっていて
彼は手すりを壊して、そのまま落下を始めた。
先の戦いで体力を消耗しすぎて、多量のエネルギーを使う
″重力無効″はしばらくは使えそうになかった。
「サバキッッ!!」
セキレイは、サバキの方を見ながら叫んだ。
身体は少しずつ重力によって加速を始めていた。
彼は気のせいか、少し嬉しそうに見えた。
そして、少しだけ口を開いた。
お前の生き方を俺は否定しないぜ――――――――
サバキの唇がそう言ったように見えた。
「お前も!おれ達と一緒に自由を取り戻そうッ!!」
セキレイは手を伸ばし必死に叫んだ。
だが、サバキの決意が揺らぐことはなかった。
だが俺は、俺なりに“自由”を手に入れる――――――――
サバキの口がそう動くのを、セキレイは見ていた。
彼の目から涙が流れていた。
それは恐怖ではない。むしろ、歓喜によるものだった。
すぐに行くからな‥‥‥‥‥エリー‥‥‥‥――――――――――――
ドゴォオォォオオォオオォオオオオオオオォオォオォォォォォオオォオオォオ
オォオォオォオォオオォオォォオオオォオォオっォオォオォォォオオォォオオ
オオォオォォォオォォォオオオオォォオォォオオォォオンッッッ!!!!!!
その言葉を最後にサバキの姿は爆発の中に消えた。
「サバキィィィィイイイィィィィイイィィィィィィィィイイイッッ!!!」
落下しながら、セキレイは力の限り叫んだ。
**********
「何!?今の爆発は?」
カツコは後ろを振り返って言った。
二人も爆音のした方を向いた。
そこは丁度セキレイたちが戦っていた方向だった。
「セキレイお兄ちゃん‥‥‥‥大丈夫かな‥‥‥‥‥」
「心配いらないさ。彼はきっと戻って‥‥‥‥‥うおッ!?」
ジョンが上を見ながら驚いたので二人も上を向いた。
そこからは小さな影が落ちて来ていた。
少しずつ大きくなっていく影を見て、ハトは叫んだ。
「セキレイお兄ちゃんだ!!」
二人もその影の後ろ姿を見て、それがセキレイだと気が付いた。
ドゴオォォォォォォォォォオオオオオンッッ!!
セキレイは″超重堅鋼″を使って
全身を硬くしたまま、すごい勢いで着地した。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
彼はしばらく黙ったまま砕けた床を見ていた。
そして、意識を取り戻したかのようにゆっくりと顔を上げた。
「セキレイお兄ちゃんッ!!」
ガバッ!
ハトはセキレイに思いっきり抱きついた。
ジョンとカツコも彼らの元に駆け寄った。
「良かった‥‥‥‥‥お兄ちゃんが無事で‥‥‥‥‥‥」
ハトは泣きながらそう言った。
「サバキには勝ったんだな!?」
「さっきの爆発は一体何だったの!?」
ジョンやカツコが口々に質問を投げかけるが
セキレイの反応はあまりよくはなかった。
**********
セキレイはサバキとの戦いの内容をできる限り鮮明に伝えた。
ハトやジョンは少しうつむいてそれを聞いていた。
「‥‥‥‥そう、そんなことがあったのね‥‥‥‥‥‥」
カツコはそう一言つぶやいた。
「だがセキレイ。手榴弾は主に爆発よりも
その時に飛散した欠片で相手を殺傷するのが目的の武器だ。
だが、あの威力は地雷並のモノだったんだが―――――――」
「“粉塵爆発”よ」
ジョンの言葉を遮りカツコは言った。
「その“ふんじんばくはつ”っていうのは何なの?」
ハトはカツコに訊いた。
カツコはその問いにすぐに答えた。
「可燃性のチリや粉が舞った状態で火花が引火すると爆発するっていう現象よ。
しかも、その火の元が手榴弾だったなら威力は相当のものよ
この場合は、彼の鱗粉を引火させたようね。」
サバキが突然、毒の鱗粉を撒いた理由がこれで分かった。
だが、セキレイは表情を全く変えなかった。
「‥‥‥‥‥‥なぁ、おばちゃん」
セキレイはカツコに言った。
「‥‥‥‥何?セキレイちゃん」
彼は最初は口を閉じていた。
だが、覚悟したのか口を開いて訊いた。
「サバキには家族はいたのか?」
それを聞いたカツコは一瞬、目を逸らした。
しかし、すぐに目を戻して答えた。
「‥‥‥えぇ、いたわ。確か妹が一人
彼女は実験の途中で亡くなったけど‥‥‥‥‥」
セキレイは最後にサバキが言った一言を覚えていた。
すぐ行くからな‥‥‥‥‥エリー‥‥‥‥――――――――――――
あれは妹に対する一言だったのだ。
これで、サバキの行動の意味が完全に受け取れた。
「サバキは死んだ妹に会うために死を選んだのか‥‥‥‥‥」
“自由”は生きている間に持っているものではない。
死んで初めて“自由”を得ることが出来る者だっているのだ。
死ななければ得られない“自由”もあるのだ。
この不自由な監獄に入れられた時から、ここにいる全員が自由を失っている。
軍人たちも、サバキも、戦国博士の為に命を捧げているのではない。
みんな、自らの“自由”の為に命を落としたのである。
こんな理不尽なことがあるだろうか?
「おれは‥‥‥‥‥‥どうすれば“自由”になれるんだ?」
セキレイはただ一言、こうつぶやいた。
後書き
サバキは知っていました。ここを生きて出ることは絶対に不可能なことを。
だから、彼にとっては死ぬことが“自由”を得る唯一の方法でした。
しかし、自殺する勇気がなかった彼は何度もセキレイの前に現れました。
彼に殺されることが、サバキにとっての願望でした。
ですが、当のセキレイは相手の命を尊重していました。
それ故に、本気で戦い決着をつけることを決めたのでした。
そして、最後は自らの命を自ら断ってしまいました。
彼はセキレイに教えたかったのです。“自由”とは一体何かを‥‥‥‥
“自由”とはどのように得るものなのか?
それがわからなくなったセキレイ。
彼はそれを理解することはできるのか!
次回 第09話 妖艶のベルカ お楽しみに!
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