鎧虫戦記-バグレイダース-
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第07話 逆襲のサバキ
前書き
どうも蛹です。
今回も情報を提供します。
こども部屋‥‥‥施設にいる0歳~15歳までの子供たちが収容されている部屋。
今の収容者の半分はここに入っていたことがある。
セキレイもその一人だった。
収容された子供たちは全員、実験のサンプルであり
現在の人数は100人程とかなり少ない。
実験成功後は経過を観察しやすくするために規則がやや厳しくなる。
収容の時点で手術を受けるので、全員変身能力を持っている。
不自由な世界の典型的な例ですね‥‥‥‥‥
それでは第07話、始まります!!
ガツッ! シュルル‥‥‥‥‥
セキレイは頭に巻かれた包帯を掴み、そのまま引っ張って外した。
「これじゃ邪魔でやりにくい」
彼の頭部に手術痕は残っておらず、髪も前より若干伸びていた。
これはカツコの能力によるものだろう。
「すごいわ‥‥‥‥ここまで再生が早いなんて」
カツコは驚嘆の声を上げた。
「ありがとな、おばさん。おれの頭の中のヤツを取ってくれて」
彼は事情を聞いていたようだ。
深々と彼女に向かって礼をした。
「お前舐めてんじゃねぇぞォ!」
一人の男が銃を構えた。
他の仲間がそれを止めさせるために声をかけた。
「やめろッ!ここで撃ったら危険だ!」
「うるせぇ!関係あるかッ!死ねェッ!!」
ドンッ!
火薬が炸裂した瞬間、彼の身に異常が起こった。
「うわぁああぁぁぁぁぁぁッ!?」
彼は発射の反作用によって後ろに飛ばされたのである。
無重力状態では、それが起こるのはごく自然のことである。
ドシャッ!
「あがッ!!」
彼はそのまま壁に激突し、のびてしまった。
カン カン カン カン!
弾丸は壁に跳弾して部屋中を縦横無尽に飛び回った。
そして、それはセキレイの頭を狙った。
「おっと」
パシッ
彼は頭に当たる寸前で弾丸を掴んだ。
弾丸はやや熱を帯びていたらしく、彼はあちッと言いながらそれを捨てた。
「さて、お前らはどうする?今ならお前らをいじめ放題だけど?
アンタらの身体は今、無重力になってんだからな」
セキレイの″超技術″、″重力無効″は
自身の半径100m以内の物体にかかる重力を
反重力を発生させて、無効化する補助系能力である。
さらに、範囲全てではなく、物に限定しての使用も可能で
それにより、軍人たちにかかる重力だけを無効化したのである。
フワフワ浮いているのは、反重力が重力より高くなったためである
その時の気圧とかどうとかの問題はわからないが
とりあえず、細かいことを考えずに使用できる安全な能力のようだ。
ちなみにセキレイはこの能力を《ゼログラ》と呼んでいる。
「おれらはデコピン一つでアンタらを壊滅できるが
アンタらはたった一回の反撃が命取りだ。さぁ、どうする?」
確かに、セキレイのデコピンを一人に当てれば
ピンボールの様に他の軍人を弾き飛ばしてしまうだろう。
これなら確かに壊滅は容易だ。
方や軍人たちは発砲すると速、さっきの二の舞になってしまう。
これなら有利さは間違いなくセキレイたちに傾いている。
「‥‥‥‥‥‥‥くっ」
軍人たち全員は動けなかった。
「だそうだ。おれ達はちゃちゃっと逃げようぜ」
そう言いながらセキレイはドアに向かった。
みんなもそれに続いて向かおうとしたが――――――
「なら!これでどうだッ!!」
軍人の一人はポケットからスイッチを取り出して、それを押した。
すると、肩に着けている機械からピコピコと電子音が鳴り始めた。
他の者たちもそれに続いてスイッチを押し始めた。
「爆弾だッ!これでお前に少なからずダメージを与えてやるッ!!」
セキレイはその光景を見て叫んだ。
「何やってんだお前らッ!そんなことしたら死ぬぞッ!?」
「我らは戦国博士に忠誠を誓った時からこのような最期を覚悟している!
それに、死など恐れるに足らんッ!!」
軍人たちの覚悟は固かった。
「‥‥‥‥‥‥クソッ、無理だッ!」
セキレイのスピードなら全員の爆弾をすぐに取り外せるかもしれないが
第一、彼らが身に着けたどれが爆弾かもわからないのでは外しようがない。
それに、分かっていても無理に外せば速、爆発する可能性もあった。
考える時間を機械は与えてくれなかった。
ただ忠実に死への時間の訪れを示し続けた。
「クソォッ!!」
セキレイはハトとカツコを両脇に抱えて走った。
ジョンは能力で床を泳ぎながら逃げていた。
ドアを開いた瞬間―――――――
ドゴォオォオオォォォォオオオォォォオオォォオォォォォンッッッ!!!!
四人の後ろの世界が消滅した。
パラ‥‥‥‥パラパラ‥‥‥‥
崩れた天井の欠片が落ちて音を立てていた。
電気が衝撃で壊れたのか薄暗くなっており、土煙か何かで酷い空気だった。
「う‥‥‥‥うーーん‥‥‥‥‥‥」
ハトはうめき声を上げながらゆっくりと頭を上げた。
「よぉ、ゲホ、大丈夫か?」
セキレイはハトの方を向いて声をかけた。
彼女は身体にかかったチリを払った。
「ゲホゲホッ、うん、大丈夫」
カツコも意識を取り戻したらしく、ゆっくりと起き上った。
「ゴホゴホ、ひどい状態ね‥‥‥‥‥」
彼女は寝室だった部屋を見ながらつぶやいた。
そこは中が真っ暗でほとんど見えないが
あの威力の爆発の中心にいたのでは、誰一人生きてはいないだろう。
わずかに見える程度でも中が吹き飛んでいることがわかる。
「‥‥‥‥‥‥‥‥アイツに」
セキレイはつぶやいた。
「アイツにそれほどまで忠誠を尽くす価値があるのかッ!?」
彼は拳を握りしめていた。
カツコは大きくため息をついた。
「彼がいなければ、あなたはここにいなかったわ」
彼女はセキレイの方を向いて続けた。
「悔しいけど、戦国博士は今まで治せなかった病気の治療法を確立したり
多くの毒やウイルスに対する薬を開発したりしているの。
あなたもそのことは知ってるでしょ?」
彼女の言う通り、セキレイはそのことを知っていた。
「彼はあなたの“カゲロウ病”も治したんだから」
ー“カゲロウ病”とは――――――――
初期症状は軽い腹痛と食欲不振という程度で気付きにくい。
重症化すると食道の収縮によって食べ物を全く受け付けずに
先の栄養失調と相まって2、3日で息絶えてしまうという原因不明の奇病であった。
食道やその付近の器官を調べられたが、真実は謎のままだった。
後に、脳から特殊なホルモンを分泌させる菌が発見され
それが食道に直接作用し、退化させているということが結論付けられた。
“カゲロウ菌”を繊細な脳内から全滅させるための薬を合成した戦国博士は
世界中で感謝の言葉を投げかけられたという。
セキレイも重症患者の一人だったが、施設に保護されて治療後
驚異的なスピードで回復し、そのまま収容された。
「‥‥‥‥あぁ、それについては感謝してるよ」
セキレイは少し微笑んだ。彼は昔の思い出に浸っていた。
あの優しかった博士がここまで冷酷な男だったとは。
あの時のショックは今でも忘れてはいない。
「それでも、アイツの性格を知った上で
死んでも守りたい奴だとはおれは思わない」
彼は静かにそう言った。
「どう思おうが、俺たちの勝手だろ」
突然、後ろから声が聞こえてきた。しかも、ごく最近聞いた覚えがあった。
後ろにいた男は宙を舞い、セキレイたちの前に着地した。
「お、お前ッ!!」
彼はついさっきセキレイがロープでグルグル巻きにされていた男だった。
今まで男はただ座り込んで待っていたわけではなく
仕込んでいたナイフでロープを切り、彼らの後を追いかけたのだ。
「サバキッ!!」
全員の前に立ちふさがる男の名前をセキレイは叫んだ。
そこに立っていたのはあの憎たらしい男、サバキだった。
しかし、先程とは違い変身した状態で現れていた。
独特な模様の羽、鱗粉、毛、羽毛状の触覚、誰が見ても蛾である。
「俺の攻撃は喰らえば終わりだぜ」
ブワッ!
そう言って羽ばたくと鱗粉が舞った。全員は急いで口元を押さえた。
鱗粉で視界が非常に悪くなっていた。
「な、ここまで濃い鱗粉だとは」
セキレイはわずかに目を開いたまま言った。
彼は両手の翼を少し広げて大きく羽ばたかせた。
ビュオオッ!!
全員を覆っていた鱗粉は吹き飛んで、視界が大分開けた。
「極力喰らわない方がいいぜ?」
サバキは意味深な一言を発した。その理由はすぐに表れた。
「い、痛、手が痛い、お兄ちゃん」
ハトは手を押さえていた。素肌の部分が赤く炎症を起こしている。
他のみんなも各々不調を訴えていた。
「俺も手足が痛くなってきたぜ‥‥‥‥‥」
「彼の鱗粉が当たった部分が痛むわ‥‥‥‥まさか毒?」
カツコは痛みで少し辛そうな顔をしてつぶやいた。
サバキは誇らしげに鼻を鳴らすと叫んだ。
「ハッ、そうさッ!俺の″超技術″じゃなく俺自身の能力だ!!」
彼の能力は“大糸斑蛾《オオイトマダラガ》”である。
※現実にはおそらく存在しません。
207×年ー○月□日にアメリカのとある州で発見。
繭の時の模様と成虫の羽の模様が共にまだら模様ゆえに名付けられた。
幼虫が出す糸の耐久力が非常に高く、その地域では養蚕業が発達した。
それは、束ねれば鋼鉄ワイヤー並みの強度になるらしい。
成虫は全身の毛に毒があり、威嚇時は羽ばたいて鱗粉ごと散布する。
毒の毛は皮膚に触れると軽度のかぶれ、炎症を起こし
放っておくと皮膚が壊死し、挙句の果てには剥がれ落ちるという。
乱獲が進んだせいで207△年に絶滅危惧種に指定された。
だが乱獲は止まらず、ついに208×年に完全に絶滅した。
「何にせよ早く治療した方がいいぜ?」
サバキは顔を歪ませて言った。
「場合によっては一生モノの傷が残るからな」
パァァァァ!
カツコは″治療光線″を照射した。
手にあった炎症が少しずつ治り始めた。
「治せなくは‥‥‥‥‥ないわね」
彼女の手に付いた毛がパラパラと落ちていった。
皮膚の細胞の再生によって軽く刺さった毛が抜けていったようだ。
「二人も治してあげるから早く来なさい!」
そう言いながらカツコは急いでこの場を離れた。
二人もそれを追いかけて行った。
「そう簡単に行かせるかよ!」
ブワッ!
サバキは大きく翅を羽ばたかせた。
再び毒の毛を含んだ鱗粉が全員の元へと襲いかかった。
「煙たいんだよッ!!」
ビュオオッ!
セキレイは再び翼を羽ばたかせた。
毒の鱗粉はさっきと同じように吹き飛んだ。
「‥‥‥‥‥もう無駄のようだな」
サバキはそれを見ながらつぶやいた。
そして、彼は羽ばたくのをやめた。
「おばさん、おれには″超重堅鋼《ヘビメタ》″があるから大丈夫だ」
ガキイィィィン!
セキレイの身体はすでに超硬質の物体に覆われた。
弾丸さえ弾くこの状態なら鱗粉など恐れるに足らないだろう。
「じゃあ頼むわね、セキレイちゃん!」
「負けないでね、お兄ちゃん!」
「油断はするなよ!」
それぞれがセキレイに声をかけた。
彼はそれにうなずいて応答した。
「だが、俺の攻撃が終わったわけじゃない」
サバキはそうつぶやいた。
そして両手を前に差し出した。
「絡まりな」
そう言うと、指先から糸を射出した。
糸がセキレイに絡まってセキレイは完全に固定された。
「い、糸!?蛾って糸が出せんのか!?」
本来は幼虫の時しか出せないが
“選択的発現”によって、糸を出す器官が手の中に発現している。
ちなみに、構造的には非常に細い管が
指の中に通っていて、そこから糸を射出する。
曲げたり、動かしたりする上での支障はほとんどないらしい。
「糸の強度はワイヤー並みに高いからな。
それを切るってのは、中々骨が折れるだろうぜ」
サバキは笑いながら言った。
しかし、セキレイは余裕の表情だった。
「このまま、おれをどうするつもりだ?」
彼はがんじがらめ状態のまま訊いた。
「お前は動く必要はない。残りの奴らを毒で弱らせた上で―――――」
「おれと一緒に殺す、か」
セキレイはサバキの言葉を遮るように言った。
サバキは少し不満そうな顔をした。
「だが、どうやって殺すんだ?」
セキレイは挑発的に訊いた。
「蛾の攻撃力はたかが知れてるし、毒もこの状態なら効かない。
そんなおれをお前がどうやって殺すんだよ?」
サバキはこの一言を聞いてキレ――――――はしなかったが
そこそこムカついたのだろうか、眉間にしわが寄っていた。
彼は何というか、意味深な表情をしていた。
「俺には攻撃力がないと?」
彼はセキレイに少しわざとらしい声で訊いた。
「そうさ、お前の攻撃力なんて―――――――――!!?」
セキレイは最後まで言うことが出来なかった。
何故なら、突然セキレイをがんじがらめにしていた糸が
彼の身体を締めつけ始めたからである。
「‥‥‥‥うッ‥‥‥‥ご‥‥‥‥がっ‥‥‥‥‥」
セキレイはこれ以上声を出すことが出来なかった。
締め付けられている為に声が出しにくくなっているからである。
彼の硬質化した身体を苦にせず、糸は身体に深くめり込んでいた。
『″超重堅鋼《ヘビメタ》″が封じられてるわけじゃない。
アイツは能力を使えなくする″超技術″ではないみたいだ。
だが、おれの身体にめり込んで全く動けない‥‥‥‥‥』
ピンと張った糸はセキレイの硬質化した皮膚に
まるで硬さがないかのようにめり込んでいた。
『一体何なんだコイツの能力は!?』
サバキの不敵な笑みの前でセキレイは心の中で叫んだ。
後書き
サバキは実は蛾の能力を持っていました。
毒の鱗粉から糸まで。蛾サマサマですねww
さらに謎の能力までも!確実にこれは″超技術″ですね。
一体彼はこの後どういう戦いを見せるのか!
セキレイが何とピンチに!サバキって意外と強いのか!?
彼らの戦いを絶対に見逃すなッ!!
次回 第08話 昇天のサバキ お楽しみに!
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