鎧虫戦記-バグレイダース-
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第Σ章 地球編 监狱《ジアンユ》
第01話 投獄のセキレイ
前書き
どうも蛹です。
合計30話突入記念!
話のサイドストーリーとして書きたかったものです。
しかし、思った以上に伸びそうなので
これも章の一つとさせていただきました。
それでは第01話、始まります!!
ー中国 森の中ー
「雨さんって襲われた後もみんなが逃げた村にちょくちょく行ってるらしいね」
マリーは笑顔で歩きながら誰にというわけでもなく言った。
「もうみんなはホークアイの言う通り″鎧人″と分かってるみたいだし
そこの村のみんなとも仲良くしてるらしいしな」
アスラはマリーのつぶやきに、木を曲げながら応答した。
「村の子供の世話ってのも、半分本当だったんだな」
ホークアイもその会話に加わった。
「豪さんもいつかその村に行くみたいだけど大丈夫かな?」
マリーは少し前に離れた迅に訊いた。
「あぁ、きっとあの2人なら大丈夫だよ」
迅は軽く振り返りながら笑顔で言った。
バシッ!
「あイタッ」
迅の後頭部に木の枝が当たった。
それを見た全員は腹を抱えて笑った。
迅は後頭部を押さえたまま少し顔を赤くした。
「あ、豪さんといえば、小さい頃の記憶が抜けてるって聞いてびっくりしたね」
マリーはアスラに尋ねた。
「そうだな。しかも豪さんが″人為的に作られた鎧人″だったなんてな‥‥‥‥‥」
アスラはため息をついた。迅は木を腕でのかせながら言った。
「オレが落とした″種″は1個だけなのにおかしいと思っていたんだ」
バキッ!
迅は前にある木を折った。
「″種″を人為的に作れる奴がいたとは‥‥‥‥‥‥‥ウチみたいだな」
森の道なき道を進むために、リオさんは木を折りながら言った。
「だが、不完全だった」
ホークアイは木を曲げて通れるようにしたままつぶやいた。
「欠け欠けの記憶から思い出した位置に行っても何もなかったらしいしな。
一体作った奴はどこで何をしてるんだか‥‥‥‥‥‥‥」
全員は木の間から見える空を見上げた。
空はその悩みを打ち消してしまいそうなほど青く澄んでいた。
**********
「ふぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~ッ‥‥‥‥‥‥‥んん‥‥‥‥‥」
男は大きなあくびをした。
「やたらデケェあくびだな、旦那」
隣の部屋、いや部屋というより牢屋に近いのだが。
ヒゲの中年は男に声をかけた。
「名前がないってのはこういう時に大変だよな」
男は頭をかきながらヒゲ中年に言った。
「俺達には名前はないが、“番号名”があるだろ?」
「その“番号名”が嫌いだから困ってんだよ」
ヒゲ中年は小さく唸り声を上げた。
彼は隣の駄々をこねる子供への対応に悩まされていた。
「‥‥‥‥‥‥‥まぁ、そう言いなさんなよ。995号さん」
ヒゲ中年は仕方なくそれで会話を区切った。
「全員整れーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーつッ!!!!」
静かだった牢屋の中に看守の声が響き渡った。
995号は耳をほじりながら牢屋を出た。
「そんなデカい声で騒ぐなよ‥‥‥‥‥耳がイテェ」
こんな言葉を看守に言ったなら、一発入れられるところだが
彼らはスルーした。それどころか友達のような言い方で995号に言った。
「毎度の事だろうが995号。我慢しろ」
そして、出てきた100人余り全員に手錠を付けた。
「全員、移動開始ッ!!」
全員はゆっくりと食堂へ向かった。
ここはとある国の地下深くにある牢獄‥‥‥‥‥‥‥ではなく
捨て子や身寄りのない人たちを収容している施設である。
ここの構造は地下10階建てで、全フロアに平均1000人の投獄者がいる。
ここは″监狱《ジアンユ》″。意味は“牢獄”。
表向きは福祉団体として世界に名を広めている。
しかし、裏では収容した子供や大人に生体実験をしている鬼畜集団である。
紹介が遅れたが俺の名は995号。この名に満足はしていなかったが
それ以上でもそれ以下でもなかった。だが、ある日おれは名を手に入れる。
今回はその日について話そう。
数年前―――――――‥‥‥‥‥
ムシャムシャ ガツガツ
「あーっ、やっぱうめぇなぁ」
995号は食堂のメシにがっつきながら言った。
ガツッ!
「おい、てめぇ。新入りがゴチャゴチャ騒いでんじゃねぇぞ!?」
隣のいかにも札付きのワル的な男が995号の胸ぐらを掴んだ。
その時に995号はパンを床に落としてしまった。
「あぁ!おれのパンがぁ!!」
995号は掴まれた胸ぐらを外して、パンを拾おうとした。
グシャッ! グリグリッ
札付きのワル男は995号の落としたパンを踏みつけ
グリグリと足を捻った。パンはホコリまみれのグチャグチャになった。
「あぁん、どうした、拾わないのか?」
男は笑いながらホコリまみれのつぶれたパンを指で摘み上げた。
「ほらよ」
札付きのワル男は笑いながらホコリ+つぶれパンを955号に投げ渡した。
ポスッ ポトッ
グチャパンは995号に当たって再び床に落ちた。
「オイオイオイ、ちゃんと受け取れよ。ハハハハハハハハハハハ」
札付きのワル男は大声で笑い始めた。
彼の胸元には″802号″と削られた銅の金属板が輝いていた。
銅の金属板はここの中でもごく一部のある程度の権限のある者にのみ
与えられる特別なものである。
彼は文字通りの札付きのワル男なのだ。
995号は顔をうつむいたまま押し殺した声でつぶやいた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥謝れ」
995号は札付きのワル男の胸ぐらを掴み返して激怒した。
「これを作った食堂のおばちゃんに謝れッ!!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥はぁ!?」
札付きのワル男は995号の口から放たれた言葉に耳を疑った。
「おい、てめぇ。何でお前に喧嘩売ったのにおばちゃんに謝らなくちゃいけねぇんだ!!」
札付きのワル男はそれを余裕と受け取りキレた。
メキッ!
「うぐッ!?」
955号の右腕が獣のようになり、鉤爪が胸ぐらを力強く握っていた。
メキメキメキメキッ!
「謝れッ!!」
995号の目はもう人間の目ではなくなっていた。
彼の瞳は、獲物を殺す捕食者の目になっていた。
その胸元には銀の金属板が輝いていた。
「兄貴ッ!そいつ″新人類計画″の被検者っスよ!!」
いかにも手下風の男が995号を指さしたまま札付きのワル男に叫んだ。
札付きのワル男もそれに気づき、急に態度を変えた
「わ、わかった!謝ればいいんだろ!?謝れば!!」
995号はそれを聞いて、腕の力を緩めた。
札付きのワル男はそのまま床に倒れこんだ。
「ゲホゲホッ。クソッ、覚えてろよッ!!」
札付きのワル男は自分の食事のトレイを持って、足早に去って行った。
遠くで札付きのワル男は食堂のおばちゃんに軽く礼をしていた。
995号はそれを見て、音をたてながら椅子に座った。
「おれはああいうもったいねぇことをする奴が大ッ嫌いなんだ」
995号はすっかり機嫌を損ねていた。
彼は再び食事を口に入れ始めた。
ヒゲ中年は笑いながら言った。
「見ててスッキリしたぜ、旦那。えっと″995号″だったか?」
「おれは番号で名前を呼ばれるのは嫌いだ」
セキレイの言葉に中年男は肩をすくめた。
「そう言われても、これが俺たちの名前だからなぁ。あ、ちなみに俺は″725号″だ」
ヒゲ中年は自分の服の胸元にあるバッチを見せた。
確かに、そこには″725号″と刻まれた金属板があった。
「実験動物みたいで、おれは嫌いだ」
995号は口にサラダを押し込みながら言った。
「まぁまぁ、機嫌直せって旦那。ほら、リンゴジュースやるから」
中年ヒゲはコップを差し出した。
「お、ありがとな」
そう言って一気にリンゴジュースを飲み込むと
食事のトレイを持って入り口に向かい、995号は食堂を後にした。
**********
「ふぁぁぁ~~~~~~~~~~ッ‥‥‥‥‥暇だな」
995号は図書室のソファーの上で横になって目をつぶっていた。
「お兄ちゃんは何をしてるの?」
「‥‥‥‥‥‥ん、うおッ!?」
995号が目を開けると、そこにはしゃがみこんだ巨大な女の子がいた。
背が高いとかそういうレベルではなく、本当に巨大な女の子がいた。
「おわわわわわわッ!!」
ゴンッ!
「痛ってぇーーーッ!!」
995号が驚いてソファーごと倒れたのを見て女の子はくすくすと笑った。
「驚かせちゃった?ごめんね」
女の子はゆっくり立ち上がりながら言った。
995号はソファーから急いで立ち上がった。
この女の子は、目測4mはありそうだ。
無駄に全部のフロアの天井が高いのはこれが理由だったようだ。
「いや、急に目の前にいたからビビっただけで大丈夫だ。
それより、何でお前はそんなにデカいんだ?」
995号は身長が190cmの長身だが、彼は彼女を見上げて言った。
「博士がね‥‥‥‥‥実験のひけんしゃだって言ってたけど‥‥‥‥‥‥‥」
恥ずかしがり屋なのか、それとも大きいことが恥ずかしいのか
彼女は身体をもじもじさせながら言った。
「あのクソ博士‥‥‥‥‥こんな小っちゃい女の子にまで手ぇ出すとは」
995号は博士への悪口を吐き捨てた。
「私、お兄ちゃんより大きいけど?」
彼女は自分を指さして言った。
「ちげぇよ、これは年齢の話だ」
995号は軽くツッコんだ後に訊いた。
「何か少しでも覚えてないか?」
女の子は口元に指を当てて考え込んだ。そして、思い出したように言った。
「確か、″ぎがんってぃっく″って博士が言ってた気がする」
「″ギガンティック″?」
995号は首をかしげた。
「‥‥‥‥‥‥‥聞いたことねぇな。何だそりゃ?」
彼の問いに彼女は首を振った。、
「わかんない」
そう言って彼女は座り込んだ。そして、本を眺めながら言った。
「今から自由時間だから、図書室でお本でも読もうかなって思って
ここに来たの。お兄ちゃんはどうしてここに来たの?」
995号は再びソファーの上に寝転んだ。
「別に。何もすることがないからここで寝てんだよ」
彼女はそれを聞きながら、大きな指で本棚から一冊取り出した。
絵本を開いて彼女は995号に訊いた。
「そういえば、お兄ちゃんのお名前は何ていうの?」
セキレイは片手で顔を押さえてつぶやいた。
「‥‥‥‥‥‥ない。″995号″って記号があるだけだ」
「え、お名前ないの?私はあるよ」
ガバッ!
それを聞いて995号は勢いよく起き上って彼女の方を向いた。
彼女はそれを見て少し驚いていた。
「な、なんていうんだ!?」
995号は彼女に早く名前を言うように催促した。
「私は″ハト″。鳩っていうのはここの外にいる
鳥っていうお空を飛ぶ生き物の仲間だって」
995号は自分の知らない単語を聞いて、さらに彼女の近くに寄った。
「そら?そらって何だ?」
彼の問いを聞いて彼女は驚いた。
「えぇ!お空を知らないの?お空って言うのはね
この天井のずーーーっと向こうにある水色の天井の事だよ!
しかも、お空は天井と違って触れないんだよ?」
995号はそれを聞いて、目をキラキラと子供のように輝かせていた。
「触れない‥‥‥‥‥‥水色の天井‥‥‥‥‥‥空‥‥‥‥か」
ハトは995号の前に鳥の図鑑を開いて置いた。
見開きをを見た995号の目はさらに輝いていた。
「これが‥‥‥‥‥‥‥鳥」
そこに印刷された大空を羽ばたく鳥たちは
おれ達が投獄される際に奪われたものを持っていた。
「“自由”に空を飛びまわってるな‥‥‥‥‥‥」
彼らは生まれついての“自由”だった。朝から晩まで監視されることなく
“自由”に生活していることが、この図鑑には書かれていた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥決めたぜ」
バタンッ!
995号は図鑑を勢いよく閉じた。
「おれはいつか“自由”を手に入れる!!」
再び本を開くと、ペラペラとめくっていき、不意に止めた。
そのページには″セキレイ″についての生態が書かれていた。
「ハト!これから、おれの名前は″セキレイ″だ!改めてよろしくな!!」
995号は彼女に手を差し出した。
ハトは差し出された手を大きな両手で優しく包んだ。
「よろしくね、セキレイお兄ちゃん♪」
二人は図書室で笑った。
これは″995号″が″セキレイ″と名乗り始めたときの話である。
**********
「あれからどのくらいたったかな‥‥‥‥‥」
セキレイは自由時間が終わったことにより
再び牢屋に入れられた。残りの全員も同じである。
「あいつ‥‥‥‥‥‥元気にしてっかな」
セキレイは彼女の顔を思い浮かべた。
「旦那、あんたここを逃げ出すんだって?やめといた方がいいぜ」
ヒゲ中年はセキレイに警告した。
「ここの警備はいくら俺たちが人間じゃないからって逃げられないように
対″鎧虫″専用の兵器が大量に設置されてんだからよ」
ヒゲ中年はここに入れられてからの友達だ。
そして、そのことはセキレイ自身も知っていた。
「博士はおれの性格がよく分かってる。おれはあんまり外の世界には興味がなかった。
あの時あいつに会ってなかったら、今もここを出る気すらなかっただろう」
セキレイはゆっくりと立ち上がった。
「だが、博士はミスを犯した。それはここに外の世界についての本を置いていたことだ。
おれは一度したいと思ったら、必ずしたがる奴だってことを博士は
完全には理解してなかったみたいだな」
ザワザワザワザワザワッ!!
セキレイの右脚に羽毛が生え、足首には鱗、爪先からは鋭い鉤爪が生えてきた。
その形質は、″鎧虫″の特徴とはかけ離れたものだった。
セキレイは鉄格子に猛烈なキックを打ち込んだ
ドゴォォォォォォォォォォォン!!!!
〖緊急警報、緊急警報、フロア10内の995号が脱獄しました――――――――〗
グニャグニャになった鉄格子の間からセキレイは牢屋を抜け出した。
「あ~~あ、やっぱ行っちまうのか‥‥‥‥‥‥‥頑張れよ旦那、いや‥‥‥‥セキレイ」
725号はセキレイを笑顔で見送った。
「今までありがとな、725号サン」
セキレイは背中で返事を返して、この場を後にした。
後書き
ついに脱獄を開始したセキレイ。
彼はどのようにしてこの牢獄を抜け出すのか?
新人類計画とは一体どのような内容なのか?
その被験者であるセキレイの能力とは?
謎だらけの第01話。
次回 第02話 隻眼のハト お楽しみに!
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