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ジューン=ブライド

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第四章


第四章

 その酒が問題であった。何とウイスキーをストレートでどんどん飲んでいる。まるで無理にでも酔おうとしている感じである。そのことが飲んでいる態度からもわかる。
「で、どうだったんですか」
「最悪よ」
 紗江子はウイスキーをあおりながら答えてきた。
「最悪ですか」
「そうよ。いたわ」
 憮然とした顔で言う。
「いたんですか」
「そうよ、しかもね」
 顔は憮然としたままだ。話はさらにとんでもないものになるのだった。
「相手が問題なのよ」
「相手がですか」
「そうよ。誰だと思う?」
「そうですね」
 彼はサワーを普通に飲んでいた。強い酒を飲まずに普通に酒を飲んでいた。それを見ていると彼が聞き役に回っているのがよくわかる。
「タチの悪いホステスとか裏にヤクザ屋さんがいる女の人とかでしょうか」
「そんなのだったらいいわよ」
 相変わらず憮然として言う。
「といいますと」
「世の中広いわよ」
 急にこう言ってきた。いきなりこんな言葉が出て明は少し戸惑いを覚えていた。
「何だと思う!?付き合ってた相手は」
「そんなのだったらいいんですよね」
「ええ」
 そう返してきた。
「わからないわよね、普通は」
「ええと」
 その言葉に首を傾げさせる。何かかなりやばそうなものを感じだしていた。
「未成年とか北朝鮮の工作員とか」
「それも充分過ぎる程危ないけれどね」
 特に後者は洒落にならない。実際に自衛隊の基地のある街でそんな話が結構あったりする。店にいた女が実は、という話なのである。
「とりあえず調べてみないとね」
「そうですね。協力しましょうか?」
「ああ、それはいいわ」
 紗江子はそれは断った。
「自分でするから」
「そうですか。それじゃあ」
「ええ、それにしても」
 紗江子はあらためて考える顔になった。冷静だったがそれでも覚悟というものは必要だった。それを意識するとどうにも怖いものも感じたのだ。
「鬼が出るか蛇が出るかですね」
「本当に工作員が出たらどうしますか?」
 明のこの言葉は冗談である。だが紗江子はそれに答えてきた。
「警察ね」
 冗談だが真顔で答える。
「通報しないと洒落にならないわよね」
「そうですよね。結構側にいるみたいですけれどね」
 自衛隊の街ではそうかも知れない。冗談では済まされない話である。
「やっぱり」
「そちらは。まあ慎重に行かれることですね」
「承知しているわ」
 こうして紗江子は今の彼氏についてさりげなく調べることにした。残念ながらその結果は彼女にとってあまりいいものではなかった。
 それがわかってからのことだった。また明と居酒屋で話をしていた。実はこの居酒屋は二人の話をする場所でもあるのだ。この日もそうだった。
「それでどうでした?」
 この日の明が飲んでいるのは白ワインだった。それを飲みながら刺身に天麩羅を楽しんでいる。和食と白ワインも案外合うものなのだ。
「結果は」
「聞きたい?」
 紗江子はウォッカをストレートで飲んでいた。食べるものは一応はサイコロステーキがあるが碌に食べずにウォッカばかり飲んでいたのであった。
「結果」
「勿論です」
 刺身を醤油につけて口の中に入れながら応える。ハマチの刺身である。
「その為にここにいますし」
「わかったわ。それじゃあ言うわね」
「はい」
「いたわ」
 紗江子は憮然として言ってきた。
「そうですか」
「しかもね」
 憮然とした顔で言葉を続ける。
「その浮気相手何だったと思う?」
「ヤクザ屋さんの情婦とか本当に工作員だったとか」
「そんな甘いものじゃなかったわ」
 こうも言う。明はそれを聞いて話が洒落にならない方向に進んでいるのを感じた。聞かずにはいられない。実際に話を聞いた。
「付き合う相手ってあれよ」
 紗江子はウォッカをまた口に入れてから言う。
「女ばかりとは限らないのよ」
「女ばかりって」
「何だと思う?」
「ええと」
 明は最初何のことかわからなかった。だが少し考えてから答えるのだった。
「若しかして、ですけれど」
 とんでもない結論が出て来た。強張った顔で述べる。
「男とか」
「図星よ」
 不機嫌さを二乗させてさらに苦虫を噛み潰した顔になって言った。
「両刀使いだったの」
「はあ」
 これは想定していなかった。だがあると言えばあるのだ。それを今わかった。聞いている話が何か嘘のようにさえ思える。というよりは嘘だと思いたかった。
「よりによってね。高校生の男の子と付き合ってたの」
「高校生とですか」
「かなり可愛い子だったけれどね。けれども男よ」
「そうだったんですか」
「言ったのよ、そいつ」
 憮然とした顔で述べる。
「女は君だけだって。よりによってもね」
「それでどうしました?」
 明は紗江子に問うた。問わずにはいられなかった。
 
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