同じ姉妹
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三章
第三章
「それにしてもさ」
「姉妹、双子とはいっても」
話は自然に二人についてのものになる。二人はその間に席に着いていた。
「本当にそっくりだよね」
「そうだよね。何か」
ここで話は二人がいつも言われている内容になる。二人にはもうわかっていたのであえて何も言わない。
「鏡に合わせたみたい」
「ええとどっちが?」
「多恵よ」
「千恵よ」
それぞれ名乗ったがそれでもだった。皆首を傾げるばかりだった。
「どっちがどっちなの?」
「声もそっくりだし」
二人は容姿や性格だけが似ているのではない。その声もそっくりなのだ。だからわからないのだ。声まで似ているともう耳で区別することもできなくなる。だからである。
そこまでわかりにくいからであった。ここでも誰もどっちがどっちなのかわからない。実は見分けがつくようにお互いで少し工夫をしているのがそれでもであった。誰も全く気付かない。
ところがここで。さっき多恵が見惚れた彼だけは違っていた。彼はにこりと笑って彼女に言ってきたのだった。
「多恵ちゃんだよね」
「えっ!?」
言われた多恵の方が驚いた。今の言葉には。
「どうしてわかったの?」
「わかるよ」
にこりと笑って多恵に告げてきた。それはハッタリではないのは多恵には感じ取られた。
「だってさ」
「ええ」
彼の言葉を聞く。聞かずにはいられなかった。
「その右手にあるやつだけれど」
「ああ、これね」
彼が指差したのは多恵の右手だった。実はそこにブレスレットをしていたのだ。赤いブレスレットを。それに対して千恵は左手に青いブレスレットだ。それが工夫だったのだ。
「それでわかったんだ」
「そうだったの」
話を聞いて心の中で鋭いと呟いた。
「それで気付いたのね」
「そうだよ。それでわかったんだ」
にこにこと笑いながら多恵に告げてきた。
「それでそっちが千恵ちゃんだよね」
「え、ええ」
何故か千恵は多恵と同じ顔だった。同じ顔になっているのが多恵にはわかった。同じ気持ちなのもわかっていたが言葉には出さない。それだけだ。
「そうよ」
「赤と青なんだ」
ブレスレットの色を指し示しての言葉だ。
「成程ね」
「よくわかったわね」
多恵が言った。これも他人にはわからないが。
「私達の違いに」
「もう間違えないよ」
「ブレスレットがなくても?」
「美人は見間違えないんだ」
冗談か本気かわからない言葉だった。しかし言われて悪い気はしない、そんな言葉だった。
「絶対にね」
「またそんなこと言って」
拒むつもりだった。しかしそれは苦笑いで止まった。それで止めたのだ。
「褒めたって何も出ないわよ」
「いいよ、別に」
彼は笑って言葉を返すのだった。
「だって本当のことだし」
「随分と口が上手いのね」
「そう言われたことはないけれど」
それは否定するのだった。
「正直者だって言われたことはあるけれど」
「言うわね。あまりそうは思えないけれど」
口ではこう言っても何故か悪い気はしなかった。それは口車に乗っているのではなく彼の印象がよかったからだ。軽口であったがそれでも気さくなものだった。だからよかったのだ。
「それでさ」
「ええ」
彼の言葉を聞く。自然と身体も顔も彼の方に行く。
「常盤さんだったよね」
「私の名前ね」
「そうだよ。名前、それでいいよね」
「ええ」
にこりと笑って彼の言葉に頷く。頷いたその顔が少女めいたものになっていた。その大人びた雰囲気から少女のものが出ていたのである。
「それでいいわ。苗字はね」
「名前は?」
「多恵っていうの」
そのままの流れで彼に告げた。
「覚えておいて。名前は多恵っていうのよ」
「そう、多恵ちゃんっていうんだ」
「いきなりちゃん付け?」
またクレームをつける。しかしその顔は笑っていた。
「随分と図々しいわね」
「図々しいかな」
「軽いって言ってもいいわね」
「これでも謙虚で重厚だって言われてるんだけれど」
「何処がよ」
笑ってそれを否定する。
「逆にしか見えないわよ」
「また随分と言うね」
「言われる方が問題よ」
口ではこう言うのだが。気分は悪くはなかった。むしろ楽しいものだった。その楽しさを漢字ながら食べ物と料理を探す。そこにまた彼が出て来た。
ページ上へ戻る