同じ姉妹
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第二章
第二章
「ここよ」
「ここよってその格好」
まず千恵が顔を顰めさせて彼女に声をかけた。
「何なのよ」
「何なのよっておかしい?」
「おかしいっていうかけばいっていうか」
「びっくりしたわよ」
続いて多恵も言うのだった。見ればさっきよりもさらにスカートの丈は短く胸元は開いていて肩も丸見えだった。完全に誘う時の服であった。
「だって合コンよ」
「だから気合入れたの?」
「そういうことよ」
平気な顔をして二人に答えるのだった。側を通る高校生や中学生が思わず振り向いてその視線を止めている。どれだけの効果があるかは彼等を見ればわかる。
「彼氏。ゲットするわよ」
「ゲットするのはいいけれど」
「やり過ぎなんじゃ」
「やり過ぎ位がいいのよ。あっ」
ここで突然今流行りの女性アーチストの新曲のメロディーが流れてきた。
「いいタイミングね。来たわね」
それは裕香奈の携帯の着信音であった。彼女はそれに気付くとすぐにそのやけに短いミニスカートのポケットから携帯を取り出した。それを耳元にやって話をはじめた。
「わかったわ。そこに行けばいいのね」
話はすぐに終わった。終わると携帯のスイッチを切ってホケットに戻してから二人に顔を戻した。それからまた答えたのであった。
「お店はね」
「何処なの?」
「そこよ」
左手で後ろにあるカラオケボックスを指差したのであった。
「そこの部屋を借り切ってね。やるわ」
「カラオケボックスね」
「そう、あそこ」
多恵の言葉に対して答えてきた。
「あそこは曲も機能も揃ってる機種だし食べ物も美味しいしお酒もいいし」
「随分詳しいわね」
「何度も行ってるからね」
つまり常連さんというわけだ。実に裕香奈らしい。
「わかってるのよ。部屋もいい部屋があるわよ」
「そうなの」
「合コンに合っている部屋がね。それじゃあ」
ここまで言うと再び二人を急かすのだった。
「行くわよ」
こうして裕香奈に引き摺られる形で二人は合コンに参加した。三人が通されたのはビルになっている店の五階だった。この店の一番上である。
「五階がね。一番いいのよ」
「一番なのね」
「そう、いい部屋があるのよ」
裕香奈は店のエレベーターの中で二人に説明していた。二人はこの店には入ったことがないのだ。元々二人してカラオケはあまり行かないしそれにここではあまり遊ばないからだ。この店があるのは知っていたが。
「その合コンに丁度いい部屋がね」
「そうなの」
「そういうこと。さて」
ここでその五階に到着したのだった。
「着いたわよ。行きましょう」
「ええ」
二人同時に頷く。その頷く動作も同じでやはり鏡合わせのようであった。裕香奈もそれを見たがここでは何も思うことなくエレベーターを出た。彼女にとっては合コンの方が大事だったのだ。
廊下を進み奥の一室に入る。するとそこには。
もう何人かいた。男女共にいる。既に結構飲み食いしたのか出来上がっている者もいる。裕香奈はそんな彼等を見てわざと口を尖らせて言うのだった。
「ちょっと、私達まだ来てないのね」
「御免御免」
女の子の中の一人が笑いながら彼女に言葉を返す。見れば服の色が違うだけで裕香奈とその服は殆ど変わりがないように見える。
「ちょっとね。色々あって」
「はじめちゃってたの?」
「そういうこと。ああ、男の子はちゃんと呼んできたから」
「それは見てわかるわ」
裕香奈は口を少し元に戻して述べた。
「それでもよ。まあいいわ」
「いいの」
「言う気がなくなったわ。言ってもはじまらないし」
「流石。物分かりがいいわね」
相手の女の子はこう言ってわらってみせる。何はともあれこれで話は終わった。裕香奈も多恵達も合コンに加わることになった。しかしだった。多恵は男の子達の中で一際背の高い一人に不意に目がいった。見れば彼は赤がかった髪を奇麗に左右に分けて少し彫があり明るい顔立ちをしていた。目が大きい。所謂ラテン的な顔であり完全に多恵のタイプの感じだった。
「こんなところでなんて」
「あれっ、多恵、千恵」
裕香奈はここで二人に声をかけた。多恵はそれを聞いて我に返ったがここでもう一つのことに気付いた。思い出したと言うべきだろうか。もう一人いるということに。
「どうしたの、席はあるわよ」
「あっ、そうね」
「わかってるわ」
ここでも多恵だけではなかった。千恵もであった。二人は裕香奈の言葉に応えたのだった。
「御免なさい。少し迷って」
「私も」
「もう、二人して何してるのよ」
そうは言いながらも声は笑っていた。仕方ないわね、と言外で述べているのがわかる。
「合コンは戦場よ。わかってるの」
「裕香奈、それは違うわよ」
向こうの女の子からまた声がかかる。何かその調子も裕香奈そっくりだった。こんな女の子はそうはいないと思っていたが何と意外なところにそっくりさんがいるのだった。
「違うの」
「修羅場よ」
本当にそっくりだった。中身まで。
「だから。気合入れなさいよ」
「わかってるわよ。だから二人にそれを言ってるのよ」
「その二人に?」
「ええ」
ここで多恵と千恵を手で指し示して皆に紹介する。
「紹介するわ。文学部の美人姉妹」
「双子ね」
「そうよ。常盤シスターズ」
共通の仇名も教えてきた。
「とびきりの美人連れてきてあげたわよ」
「でかしたっ」
向こうの女の子がそれを聞いて笑顔になる。暗さと光がコントラストで飾っている部屋の中で笑顔が見える。見れば向こうの他の女の子や男の子達も笑っていた。
「そんな美人を連れて来るなんて」
「しかも二人」
今度は他の面々も乗ってきた。結構ノリがいい感じだ。遊び慣れているようだ。
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