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小ネタ箱

作者:羽田京
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東方
  【短編】幻想郷がソ連に蹂躙される話

 
前書き
・ハーメルンの活動報告で書いていた短編です。
・共産妖怪のひな形になっています。 

 
Урааааааа!!


 地響きのように、ウラー!と大声をあげて、地平線を埋め尽くすような数の兵士が突撃してくる。
 そろいの軍服を着こんだ彼らは、赤地に黄色の鎌と槌、星を象った旗を持っている。
 絶望的な状況でも、彼女は諦めない。
 なぜなら、ここは愛する我が子のような箱庭なのだから。
 その箱庭の名前は「幻想郷」。
 人と妖怪が暮らす楽園は、いままさに滅亡の危機に瀕していた。
 妖怪の賢者と呼ばれた彼女――八雲紫は、必死に抵抗を続けるのだった。





 レミリア・スカーレットは転生者である。
 彼女がもらった転生特典は5つ。
 頭脳チート、身体チート、王の財宝、カリスマEx、黄金律Ex。
 彼女の願いはただ一つ。


「幻想郷を赤く染め上げたい」


 彼女は、共産趣味者だった。
 手始めに国を作った。その名も、


「ソビエト社会主義幻想共和国連邦」


 略してソ連である。
 科学的で偉大な共産主義の教えのもと、人間と妖怪の全てが平等に暮らせる国を作りたかったのだ。
 あと、そうすれば、幻想郷も革命できると考えた。
 最初、たった100人ぽっちの村でしかなかったソ連は、500年の時を経た1990年には、人口15億2500万人を数える世界トップの超大国になっていた。


 彼女のしたことは簡単である。
 まず、魔女裁判などで迫害された人間や孤児などを引き取って国民にする。
 人間に友好的な妖怪や、忘れ去られて消えそうな妖怪を引き取る。
 史実ソ連の支配領域に重なる様に領土をぶんどる。
 カリスマチートにより、人間と妖怪を仲良く共存させる。
 頭脳チートや金運チートによって、常に内政チート状態。
 すると、あら不思議。
 笑っちゃうくらいの勢いで人口が増えていった。
 さらに、妖怪や混血児は寿命が長かったことも拍車をかけた。


 ソ連が、世界で唯一の妖怪の国であることは、誰もが知る常識である。
 国内では、人間と妖怪が共存しているとはいえ、周辺の人間諸国にとっては脅威だった。
 資本主義陣営や宗教勢力も、当然敵対した。
 周辺諸国は、対ソビエト包囲網を形成しており、ソ連は敵対国家にぐるりと囲まれている。
 それでも、大規模な戦争にならなかったのは、ソ連が圧倒的に強かったからである。
 この奇妙なにらみ合いを、人々は「冷戦」と呼んだ。
 

 実は、ソ連は、裏で人間国家や宗教勢力が敵対するように仕向けている。
 その理由は、ソ連への「恐れ」を、妖怪の糧とするためだった。
 文字通り、「地上の楽園」となっているソ連をそのまま紹介すれば、恐れなど吹っ飛んでしまうだろう。
 だからこそ、ソ連は外国との交流を禁止し、「閉鎖的で恐ろしい国」だと思わせるのだ。
 そのような裏事情など知らず、今日も世界は、ソ連を、妖怪を、恐れている。
 いつか世界が革命されてしまうのではないか、と恐怖するのだ。
 恐れを食べた妖怪は力を増し、強くなった妖怪をさらに恐れる。
 そんな、好循環が出来上がっていた。


「お姉さま、また妖怪の失踪事件が発生しました」


 扉を開けて、クレムリンの執務室に入ってきたのは、10歳ごろの容姿で、背中の羽に無数の宝石を下げた少女。
 500歳を超える吸血鬼、フランドール・スカーレットKGB・MVD長官である。


「はあ、またなの?私たちソ連に喧嘩を売るなんて、いったいどこの誰かしら?被害者が、無事に帰ってきているのだけは、不幸中の幸いね。記憶を失っているけれど」


 フランドールに答えるのは、ソ連のトップ、レミリア・スカーレット書記長である。
 妹のフランドールを猫可愛がりしている彼女は、妹の姿に目を綻ばせるも、すぐに、きりりとした表情を作った。


「あなたたちKGBでもわからないのね?」

「ダー(そうです)。目撃者が大勢いる中、こつ然と姿を消すそうです。おそらく、何らかの魔術によるものだと思われますが、痕跡が残されておらず、調査は難航しています」

「同士パチュリーは何て?」

「転移魔法とはまた違うようだと言っています。いま、現場を回って詳細な調査をされています」

「そう、ありがとう。苦労をかけるわね」


 苦笑しながら、ねぎらう。


「ニェット(いいえ)。そんなことはありませんわお姉さま。いまの仕事には、やりがいを感じています」



 ふわり、と笑いながら頼もしい言動をするフランドール。 
 フランも立派になったわね、と、レミリアは、訳もなく嬉しくなった。
 泣く子も黙るスパイ機関である国家保安委員会(KGB)と秘密警察を擁する内務省(MVD)の長官である。
 治安、諜報活動を一手にになっており、レミリアに次ぐ権力をもっている。
 少しでも彼女の機嫌を損ねれば、ルビヤンカの地下送りかシベリアに流刑にされるといわれ、恐れられていた。
 とはいえ、あまり粛清しすぎないように、レミリアは気を付けるようにしている。

 そのフランドールは、生まれたときから強力すぎる能力を持っていた。
 さらに、悪いことに狂気におかされてもいた。
 両親は、そんな彼女を殺そうとした。だから――


「もう、家を出て500年かしらね」


 ――家出した。フランドールを連れて。
 楽な旅路ではなかったが、妹とともに根気強く狂気を抑えようとした。
 旅の途中で仲間になった魔女パチュリー・ノーレッジの協力を得て、やっと日常生活を送れるようになったのだ。
 100年以上かかったが、嬉しそうに笑うフランをみて、彼女は幸せだった。


「あっという間でした。偉大なるソ連を建国してからは、もう無我夢中で」

「ふふふ、まさかここまで大きくなるとは思ってなかったけれどね」


 しみじみと昔話に花を咲かす。
 仕事の疲れが癒されるのを感じながら、自分の選択は間違っていなかったと再認識した。
 その最中、水を差すような言葉が耳に入ってきた。


「あと、世界革命までもうすぐですね!」

「あー、同士フラン?別に、私はいまのままで満足しているわ」

「お姉さまは優しすぎます。資本主義の豚どもや、資本主義に魂を売った修正主義者という悪魔どもを粛清し、革命を輸出することで、いまこそ万国のプロレタリアートの楽園を作るべきです!」


 思わず頭を抱えそうになった。
 あくまでも、共産趣味者だったレミリアは、共産主義に幻想を抱いていない。
 しかし、さすが史実で世界を二分した麻薬のような思想だけあって、共産主義に傾倒するものは多かった。
 このソ連という共産主義によって栄えた大国があるのだから、無理もない。
 無理もないが、妹が共産主義にここまで傾倒するとは、予想外だった。
 KGB・MVD長官として辣腕をふるう彼女は、過激派の元締めになってしまったのだ。
 事あるごとに過激な主張をするようになったフランドールを見て、レミリアは、ひっそりと涙を流した。





「最近、外からの妖怪が多いわね」


 博麗霊夢は、縁側でお茶を飲みながら、のんびりとしていた。


「ああ、『拉致だ』とか『国に返せ』とか言う連中ばっかりだよな」 


 つぶやきに答えたのは、とんがり帽子をかぶったいかにもな魔女、霧生魔理沙である。
 ここ最近、幻想郷に入ってくる妖怪が急増していた。
 外と内を隔てる博麗大結界の維持に関わる霊夢は、嫌な予感がしていた。


「外の国、えっと、なんだっけ」

「『ソビエト社会主義幻想共和国連邦』だってさ」

「そうそう。よくそんな舌をかみそうな名前を憶えているわね、魔理沙」

「里に行ったとき、外来人に聞いたんだ。なんでも、人妖が共存している珍しい国らしい」

「勝手に国民を浚って大丈夫なのかしら」

「だめだろ」


 人間と妖怪が暮らす楽園。
 それが、幻想郷であり、霊夢は、「楽園の素敵な巫女」の役割を担っている。
 すなわち、幻想郷を守ることが彼女の仕事といえた。
 幻想郷が危機に瀕しているような予感が、ずっとするのだ。
 突然増えた外の妖怪。これが原因かもしれない。


「その通りですわ」

「うおっ、びっくりした。突然出てくるなよな」

「何の用かしら、紫」


 突然、姿を現したのは、八雲紫。
 幻想郷の創始者にして管理者であり、神出鬼没の隙間妖怪である。


「最近、急増している外からの妖怪について――博麗大結界についてよ」

「誤作動しているわね」

「……なぜそう思うのかしら?」

「勘よ」


 にべもない答えに面をくらう紫だが、いつものこと、と流した。
 それに、この巫女の勧はよく当たるのだ。


「そうね。この問題は、私の愛する幻想郷の存亡の危機なのよ」

「そんなヤバイ話なのか!?」


 いきなり始まったスケールの大きい話に、魔理沙は驚く。
 そんな彼女に、やんわりと紫が言う。


「迷い込んだソ連人は、記憶を消したうえで、私の手で帰しているわ。だから、いまはまだ大丈夫」

「でも、いつか気づかれる日がくる。でしょう?」

「霊夢の言う通り。ソ連にバレたら――」


 ごくりと唾を飲んで、魔理沙が問いかける。


「――バレたら?」

「幻想郷は滅亡するわ」





「同志レミリア様。これが、調査結果です」


 拉致問題に関する会議が開かれた。
 パチュリーの報告者を、レミリアに渡すのは、十六夜咲夜だった。
 陸海軍人民委員――国防省長官のようなもの――のトップである。
 つまり、軍部の頂点であり、莫大な権力を握っている。
 どれほどレミリアが咲夜を信頼しているのか、端的に示していると言えよう。


 十六夜咲夜は、時を操る程度の能力を持っており、その力を恐れた両親に捨てられた孤児だった。
 彼女を救い上げたのは、レミリアであり、当初はメイドとして働くようになった。 
 やがて、その忠勤ぶりが評価され、ついには、ソ連の幹部にまでなったのである。
 彼女のサクセスストーリーは、ソ連国内でも人気があり、ちょっとした英雄扱いである。
 当人は、レミリアのメイドであることを誇りに思っており、いまだに常にメイド服を着ている変わり者でもあった。
 

「『幻想郷』ねえ。噂には聞いていたけれど」

「やっと尻尾をつかんだわ。たまたま、拉致の瞬間が監視カメラに映っていたお蔭ね」

「さすがは同志パチュリー。いい仕事をしてくれる」


 魔法省長官のパチュリー・ノーレッジが、誇らしげに言う。
 レミリアの褒め言葉に、ありがとう、とまんざらでもなさそうである。
 パチュリーは、レミリアとフランドールが旅を始めた当初からのつきあいであり、大親友である。
 それゆえ、レミリアが謎の拉致事件に心を痛めているのを察しており、早く解決しなければ、と意気込んでいた。


「KGBでは、潜在的な敵対勢力として幻想郷を監視しておりました。情報は全て筒抜けです」

「素晴らしいわ、同志フラン。情報は大切よね。軍部はどうなの?」

「軍部もご命令があれば、すぐさま50個師団ほど展開できます」


 ソ連は、欧州から極東にかけて、ユーラシア大陸の北部を占める広大な領土を持っている。
 それゆえ、広い領土を守るために、大量の軍隊を必要とした。
 防衛の主体となる陸軍はとくに充実しており、機械化狙撃師団――ソ連では歩兵師団を狙撃師団と呼ぶ――400個師団、装甲師団100個師団を持ってる。
 総数にして、1000万人を超える、まさに陸軍大国であった。
 軍のトップである咲夜は、50個師団つまり100万人程度を常時展開可能にしていたのである。


「さて、では幻想郷に対するアプローチを考えましょうか」


 レミリアが、会議の本題に入ることを告げる。


「すぐにでも侵攻し、解放するべきです。人と妖怪の共存共栄を謳いながら、妖怪と人は敵対しています。そのうえ、経済は資本主義という悪魔の思想のようです。存在自体が害悪の屑ですよ」

「私も同志フランドール様のご意見に賛成です。国力はわが偉大なるソ連が圧倒しております。ご命令とあらば、すみやかに解放できると考えます」


 フランドールと咲夜は、過激な意見を出した。
 それに対し、パチュリーは、「別に侵略する必要はないんじゃない?」と言って反論した。


「別に侵略しなくても、外交で片が付くわよ。力の差がありすぎるのだから、こちらが一方的に注文できるわ」


 彼女は魔法省の長官だが、外務省の長官も兼任している。
 知性派の「動かない大図書館」の面目躍如だった。
 それゆえか、穏健派の代表になっている。

 その後も意見が噴出し、フランドール+咲夜VSパチュリーの構図で議論が進んだ。
 ある程度、選択肢が決まったところで、書記長のレミリアの決断を仰いだ。


「どちらの意見も一理ある。私が目指すのは、幻想郷を赤く染め上げることよ。そのためなら、手段は問わないわ。だから、まずは手間のかからない威圧外交をして、ダメだったら侵攻するとしましょう」


 この瞬間をもって、幻想郷の運命決まったのである。





 八雲紫は後悔していた。
 レミリア・スカーレットは、穏健派であり、こちらへの要求も軽いものだと考えていたのだ。
 ソ連からの要求は、ただ一つ。
 共産主義を広め、共産主義に基づいて幻想郷を管理すること、だった。
 とても受け入れられるような要求ではない。


 妖怪は人を襲い、人は妖怪を退治する
 

 この古き良き時代を現代に再現したのが幻想郷なのだ。
 独裁者が君臨し、強引に妖怪と人間を共存させるのではない。
 自然な形を残したかったのだ。
 だから、管理者である紫も、基本的には放任していたのだから。


「今この場で決めなさい。服従か死か。どちらでも構わないわよ」


 驚くべきことに、交渉の場にはレミリア自らが来ていた。
 両者とも組織の長だが、圧倒的に紫の立場の方が劣っていた。
 何とか幻想郷の「あるべき姿」を保とうと交渉したが、にべもない。
 すぐに決断しろと言われた紫も腹を決めた。


「降伏するわ」

「話の分かる妖怪でよかったわ。わざわざ私が赴いた甲斐があったわね」


 レミリアは、紫の降伏を快く受け止めた。
 転生したときの最初の願い――幻想郷を赤く染めることができる。
 この事実に彼女は有頂天だった。
 原作キャラに会いたいなあ、とミーハーな気分になりながら、帰国した。
 本当は幻想郷めぐりをしたかったが、一応敵地であるのと、仕事が立て込んでいて、泣く泣く断念したのである。


 博麗大結界の誤作動の問題は、まだ残っている。
 が、幻想郷側が、ソ連人を保護するように義務づけられた。
 これについては、紫も当然の要求だと考えており、早急に博麗大結界の正常化が求めれた。
 多少不本意な形でありながら、とりあえず幻想郷の未来は守られた。
 八雲紫はそう思って安堵していた――




 ――幻想郷に拉致されたソ連人が過激派に殺害されるまでは。





「莫迦な真似をしてくれたものね」


 いま、赤の広場には100万人の赤軍が待機している。
 これから、幻想郷へと侵攻するのだ。
 つい先ほど、レミリアが演説を終えたところだった。
 レミリア書記長自らが陣頭指揮をとっているとあって、士気は非常に高かった。


「同志が殺害されたのです。きっちり報復しましょう、お姉さま」


 傍らにはフランドールの姿がある。
 本来の仕事は部下に任せて、戦争に参加するつもりなのだ。
 パチュリー、咲夜も来たがったが、仕事があるため断念した。
 彼女たちが居るのは、大本営「紅魔館」である。
 すべてが赤く、ソ連を象徴する建物、とされていた。
 本当は、レミリアが趣味で原作を再現しただけだったりするが。
 

「そうね。幻想郷を赤く染め上げましょう」


 かくして、幻想郷は革命された。
 ソビエト社会主義幻想共和国連邦の一部となり、幻想郷自治区となったのである。
 新たな領土を手にしたソ連が、世界革命を実現するのか。
 それとも、一国社会主義を貫くのか。
 運命はレミリアのみが知っている。 
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