ロード・オブ・白御前
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ビートライダーズ編
第2話 YOU WIN
戒斗たちに待ったをかけたのは、1週間前に潰した二人の少女だった。
今日はどちらもブレザーをきちんと着ている。市内でも指折りの進学校の制服だ。しかもその制服にふさわしく、背筋、足並み、手の構え、何もかもが「優等生のお嬢様」らしい仕草だった。チームメイトや、レイドワイルドのメンバーの中にも数人、見惚れている者がいるほどだ。
「敗者が何をしに来た」
少女は見事な黒髪を払い、ポケットからロックシードを出して突きつけた。
「わたしたちが奪われたものを返してもらいに」
この街で踊る資格を返せ。この小娘たちは戒斗にそう宣戦布告しているのだ。
「あれでは懲りなかったわけか」
「生憎と懲りませんでしたわ。トップランカー気取りも今日で大概になさってもらいます」
「――、なるほど」
本来は生意気な気質らしい。それは戒斗の琴線を適切に逆撫でした。戒斗はロックシードを3個、コートの懐から出した。
「戒斗」
「戒斗さんっ」
ザックとペコがたしなめるが、今の戒斗の耳にはそよ風のごとしである。
「わたしたちが勝ったら、わたしたちはまたこの街で踊ります。いいですね?」
「いいだろう。――名乗れ。それともまだ名無しで通すか?」
少女たちは左右の互いを見合い、肯き合った。
「関口巴と」
「呉島碧沙です」
「「あなたを負かす人間の名前です。覚えておいてください」」
「戯言を」
巴がロックシードを開錠し、小インベスを呼び出した。
戒斗も3個のロックシードを同時に施錠し、3体の小インベスに号令を出した。
インベスのバトルは最初に戦った時と変わらない。巴が押されている。色をつけて少しマシと言える程度のレベルだ。
(気になる点があるとするなら、最初にインベスを召喚した裂け目をそのままにしていることくらいか。一つの裂け目から出現するインベスは1体。そんなことも知らない素人か)
やがて戒斗側の小インベスが巴側の小インベスを囲んで攻撃し、消滅させた。歓声と失望の声が同時に上がった。
戒斗は訝しんだ。いつもならここで「YOU WIN」の音声が入るはずだ。それが入らない。はっとした。
「お前、まさか!」
巴はあくまで雅やかに笑んで、ずっと背中に回していた左手を出した。その左手には、Dクラスのロックシードが2個、開錠された状態で指にかけられていた。
「最初から3対1だなんて誰も言っていません。数で劣るなら、同じ数を揃えればいいだけ。考えればすぐお分かりだったでしょうに――残念です」
最初から召喚された小インベスは1体ではなかった。1体目が出たチャックを閉じずにおいたのは、その後ろに隠れるように開けた二つのチャックを隠すためだったのだ。
残るチャックから2体の小インベスが現れ、巴が左手のロックシードを施錠するや、戒斗側の小インベスに襲いかかった。
まるで段取りが決まった武道の型のように、巴の小インベスは敵を屠った。
《 YOU WIN 》
勝ち鬨は少女たちの側に上がった。
駆紋戒斗は、負けたのだ。
「さて、わたしたちが勝ったわけですが。わたしたちは別にステージが欲しくてあなた方に挑んだわけではありません」
「前言撤回しろと――そういうことだろう?」
「はい」
「好きにしろ。お前らがどこで踊ろうが、俺に口を挟む権利はなくなった」
巴は碧沙と顔を合わせて笑った。なるべくしてなった結果を確かめたがゆえの笑み。嘲笑よりずっと腹立たしい。
「でもわたしたちはステージを持ちません。このステージは……そうですね、あなた方より先にここで踊ってらしたチームにでも返してあげてくださいな」
チームバロンより先――チーム鎧武。先日潰したばかりの烏合の衆。
「――ダンサーがステージで踊らないというのか」
「まさか。ただ、わたしたちはストリートダンサー」
「踊っているその場所が、わたしたちのステージです」
巴は、見事な黒髪を翻し、戒斗に背を向けた。もう一人の少女も、小さく笑って会釈し、巴に付いて行ってしまった。
「戒斗……」
ザックが案じる声も届かない。戒斗は強く強く拳を握り固め、憎むように地面を見下ろしていた。
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