ロード・オブ・白御前
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ビートライダーズ編
第1話 路上のビートライダーズ
計画都市、沢芽市。その街の各所で踊る若者たちはビートライダーズと呼ばれ、彼らビートライダーズの間で流行っているのが、インベスゲームである。このインベスゲームは、ダンスチームの踊るステージを賭けて行われる。つまり負けた側はダンスを披露する機会を減らしていくのだ。
その日も、ランキングトップのチームバロンと、チームレイドワイルドの間で、インベスゲームが行われていた。
軍配はチームバロンのリーダー、駆紋戒斗に上がった。
「失せろ、負け犬」
戒斗が鼻で笑い、レイドワイルドの初瀬が歯を食い縛って場を去ろうとした時だった。
「その解散、待ってくださる?」
場違いなほど雅やかな声が飛び込んだのは。
………
……
…
二人の少女が路地で踊っている。
片方はブレザーのジャケットを腰に巻き、ボタンを上から二つ外した、見事な黒髪の少女。
もう片方は、クリーム色のバレッタで髪を束ね、ブラウスの両袖を捲り上げた、白いハイソックスの少女。
少女らは全身をリズミカルに揺らし、くねらせ、腕を、足を右へ左へ。時に指でハートマークや写真のフレームを作って見せ、道行く者たちの足を留める。
ストリートダンサー。
文字通り少女たちは、道に咲いた踊り子だった。
その少女たちのダンスの音楽が、不意に、停まった。決して少なくはなかった観客がざわめく。
ラジカセを停めていたのは、赤と黒の衣装の男たち。――チームバロン。ビートライダーズのランキングでトップを独占している強豪ダンスチームだ。
「“ビートライダーズホットライン”で『路上のビートライダーズ』として紹介された奴らだな?」
少女たちは身を寄せ合う。その憐れを催す姿に構いもせず前に出たのは、チームバロンのリーダー、駆紋戒斗だ。
「プレイヤーズパスは持たない、チーム名もない、ただのママゴト。それを、物珍しさだけでビートライダーズを名乗って、ただですむと思うなよ」
戒斗が出したのは、ロックシードと呼ばれる錠前。インベスという小さな怪物を召喚し、戦わせるゲームに不可欠なアイテムだ。戒斗はそれを指に2個引っかけている。
2個のロックシードが開錠され、空中に開いたチャックから2体の小インベスが現れた。
やがて身を寄せ合っていた少女の内、片方が離れて鞄のほうへ行き、ロックシードを取り出して持って戻ってきた。
「巴、これ」
「……一つだけでも買っておこうって意見、正解だったわね。ごめん」
「今はいいのよ。それより本当にいいの?」
「学校に報告が行った時、わたしがやったことにしておいたほうが都合がいいでしょう? あなたは呉島のお嬢様で、わたしはただの一般人なんだから」
巴と呼ばれた少女は、戒斗の正面に立ち、ロックシードを開錠した。少女らの側からも小インベスが召喚された。
戒斗と巴は同時にロックシードを施錠した。
《 バトル・スタート 》
光の粒子のリングの中で行われるバトルは、第三者からしても決して快いものにはならなかった。
まず1対2で少女ら側が数で劣る。次に、百戦錬磨のチームバロンのリーダーと、ロックシードなど今日手にしたばかりの少女では、小インベスの操作が雲泥の差だった。
結果として、巴側が戒斗側に一方的に嬲られる形になっていた。
もうやめてやってくれ。少女側を応援していた人々が思い始めた頃。ついにバロン側の小インベスが少女側の小インベスを蹴散らした。
《 YOU WIN 》
光のリングが消えた。同時に巴の手からロックシードが飛び、戒斗がそれをキャッチした。
「――何を差し出せばよろしい? わたしたちはステージを持っていない。ロックシードもそれ一つきりよ」
「この街で二度と踊るな」
ざわっ。観客も、バロン側のチームメンバーさえも声を上げた。
「おい、戒斗。さすがにそれはマズイんじゃ」
「弱い奴に居場所なんてない。モグリがツルんでビートライダーズを名乗るくらいなら、ここで叩き潰したほうがマシだ。目障りなんだよ、お前ら」
少女らは最初のように身を寄せ合った。
やがて「はい」も「分かった」も言わず、少女らは道端の荷物を持ってその場を去った。
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