FAIRYTAIL転生伝 ~ 黒き魔王は妖精と共に ~
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第四話『名乗り出る男と連れて行かれる緋色の少女』
サイド:ジェラール
「そう簡単に逃げ出せると思ったか!!ガキどもがあ!!!」
ピシィ!
「ひっ、ひぃい!?」
神官がムチを地面に打ちつけすごむと、ショウがその脅しに震えて小さな悲鳴をあげた。
(最悪だ・・・)
穴を掘っている間は気づかれていなかったから油断していた。まさか脱走の当日に現場を押さえられることになるとは。
神官の一人が忌々しそうな顔で俺たちを睨みつけながら口を開く。
「一刻も早くRシステムを完成させなきゃならねえこの時に面倒掛けやがって!!」
見れば他の神官たちもその神官の言葉に同調するように忌々しそうにこちらを睨みつけている。どうやらだいぶご立腹らしい。
(まずいなこれは。やつらだいぶいきりたってやがる。下手したらこちらに死人がでるかもしれねえ)
これは考えすぎのように思われるかもしれないが実はそうでもない。実際神官が反抗気味な奴隷の懲罰に力を入れ過ぎて何人もの奴隷を死なせたことを俺は知っている。
だがそんな神官たちをリーダー格らしき神官がなだめるような仕草を見せる。
「まあ待て・・・。これ以上の建立の遅れはマズイ。本来なら全員懲罰房送りなんだがな」
そこでその神官は歪んだ笑みをはりつけながらこちらに視線をむける。その顔には教団としての義務を優先させるというよりもこの状況を楽しもうという感情が見えた。
なんだ?なにを言おうとしている?
「今回に限り一人だけとする」
「「「「「「「ッ!?」」」」」」」
「脱走の立案者は誰だ。懲罰房へはそいつ一人で行ってもらう。やさしいだろ?オレたちは。ひひひ・・・・・」
(なにが「やさしいだろ?」だこの下種野郎!!!)
男の狙いを理解し、思わず俺は怒りの眼差しをそいつにむける。
この楽園の塔において脱走とは反乱の次に重い罪。それを犯した者は原則全員が懲罰房送りとなる。それをたった一人の懲罰房送りですます。それが意味するのはたった一つの事実。この男は俺たちにこう言っているのだ。
『お前たちの仲間を売れ』と。
この男の狙いは俺たちに仲間を売らせてそれをきっかけで不和の種をうちこむこと。仲たがいをさせることだ。
本来ならこの男はそんなことをする必要がない。別にそんなことをしなくても俺たちは武器もなにも持っていないただの子供にすぎない。やつらがその気になれば簡単に叩き潰せる存在でしかない。
ならばなぜこの男はわざわざこんなことをするのか?
答えは簡単。この男は楽しんでいるのだ。仲間を売れと言われて苦悶の表情を浮かべる俺たちの様子を見て。仲間を売れば助かるんじゃないかという思いと闘っている俺たちの顔を見て。
ギリ・・・!
怒りで体が震えるのがわかる。俺体の感情を弄んで楽しんでいるこの男に対しての。そして、
この状況でなにもできない無力な自分に対しての怒りで・・・。
「さあ誰だ!?立案者は」
神官の男は急かすように俺たちに催促する。仲間を差し出せと。
俺はちらりとやつらのいう『立案者』であるショウの顔を盗み見る。
「・・・・(がくがくぶるぶる」
ショウは涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃに汚しながら体を震わせていた。
おそらく名乗り出ようにも恐怖で体が動かないのだろう。悔しさで顔を歪めていた。
(・・・仕方ないな)
ここで誰も名乗り出なかったら全員が懲罰房行きになってしまうかもしれない。なら俺が名乗り上げるべきだろう。
たとえ計画の立案をしたのはショウであってもそれを指揮したのは俺。なら俺が全ての責任を負うべきだ。
そう思い神官に俺が立案者だと名乗り出ようとしたそのとき、
「俺だよ」
(・・・え?)
俺の決意を邪魔するかのように聞こえてきた声にばっと振り向くと、そこには一人の男が神官たちを睨みつけるように立っていた。
他の仲間たちはは信じられないような顔でその男の顔を見つめていた。それもそうだろう。その男は計画の立案者ではない。それどころかこの計画に最後まで反対の意を示していた男だったのだから。
「俺がこの脱走計画を立案して指揮したんだ」
その男の名前はユウト・ベラトリックス。
俺がこの楽園の塔で初めてであった男にして、俺の親友の男だった。
サイド:ユウト
「俺がこの脱走計画を立案して指揮したんだ」
(なーにやってんだろうね俺は・・・)
自分の行動を省みて心の中で思わず苦笑する。
俺はこんな真似をするようなお人よしではなかったはずなのに。
(たぶんこいつらのせいだろうなあ)
そこで俺の後ろで間抜けな顔を晒しているであろう仲間たちの顔を思い出す。
この楽園の塔での生活はとても厳しくとても苦しいものだった。おそらく一人では乗り越えられなかっただろう。
当然だ。いくら中身が大人といえど体は子供。肉体的な苦痛は誤魔化すことはできなかった。
だが、こいつらが。仲間たちの助けがあったからこそ俺はこの最悪な生活にも耐えることができた。だから、
(今度は俺が助ける番なんだ!!)
神官の男は俺が名乗り出ると一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに居住まいを正すと今度は探るような目で俺のことを見てくる。
「ほう?お前が今回の主犯か?」
「ああ。わかったらさっさと連れてきな」
挑発するような俺の言葉に、だが男は無反応。今度は俺から視線をはずし、他の仲間たちの顔を一人ずる見ていき、そして、
「この女だな」
「!!!」
「なっ!?」
男が犯人だと判断だとしたのは俺ではなく、俺の後ろで震えていたエルザだった。
「つれてけ」
男が神官の一人にそう指示すると、その神官はエルザの首根っこを掴んで連れて行こうとする。
ま、
「待て!俺が立案者だと言ってるだろう!!そいつは関係ない!!」
だが神官の男はそんな俺の言葉に何の反応も示さない。
さらに抗議の声を荒げようとするが、それをエルザが遮る。
「わ・・・・私は・・・・大丈夫・・。ぜんぜん平気だから」
「な、なにを言ってるんだエルザ・・・?」
「ユウト言ってくれたでしょ?ぜんぜん怖くないんだよ」
そこでエルザは無理矢理顔に笑みを浮かべた。体を恐怖で震えさせたまま浮かべるその笑みは誰の目から見ても強がりにしか見えない笑みだった。俺たちを心配させない、ただそれだけの笑みに・・・。
「ま、待てエルザ!!」
「エルザーーー!!!」
「大人しくしろぉ!!!」
エルザを取り返そうとする俺とジェラールを神官たちは力ずくで抑え込む。それを振り払おうと暴れる俺たち二人をあざ笑うように神官たちのリーダー格の男はこちらを笑みを浮かべながら口を開く。
「貴様らは三日間飯抜きだ。まあ懲罰房よりはましか。あははははははははははははははは!!」
俺たちは笑いながら去っていく男たちと連れて行かれるエルザを黙って見ていくしかなかった。
「エルザああああああああああああああああああああああ!!!!」
後書き
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